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第18話 最後のピース
残暑の厳しい9月最初の日曜日に、康太は榊原の家に招待を受けた
榊原は前回の事があったから渋ったが、康太が行って損はないぜ!
って言うから、康太を連れて自分の家に向かった
榊原の…と言うより榊清四郎の自宅は厳然と選び抜かれた…と言う感じの重鎮な佇まいの日本庭園のある家かと思ったら……
西洋の城と言っても過言ではない程の洋館だった
門から家までが遠い
ハイヤーに乗ってなきゃ絶対に迷子になる
「伊織んちすげぇんだな」
康太が興奮して言う
見慣れた家に感動はなかった
そんな事より
「康太…体はキツくない?
御免ね止めてあげれなくて…」
繋いだ手のひらに接吻を落とす
「ゃだって言っても聞いてくれないじゃん…何時も…」
恥ずかしそうに言う康太に
「康太の可愛い下のお口が僕を離さないのがいけないんですよ」
と、囁くと涙目で睨まれた
「そんな顔は逆効果だって教えたのに……」
康太はもう口を開かなかった
絶対喋んないもんね
車は榊原の家の玄関に着く
運転手が降りてドアを開けに来た
開けられたドアから康太は降り榊原に手を差し出した
「伊織、お前の伴侶はオレだ!
さぁオレをお前の家族に紹介しろ!」
あぁぁこの子のこう言う場面に後押ししてくれる……
心強さが愛して止まなかった
「ええ!僕の選んだ伴侶を家族に紹介します!
ずっと側に居て下さい康太」
「おう!さっさと行くぞ」
康太は誰よりも男前だった
榊原は康太の手を取り玄関の方へと進み、インターフォンのボタンを押した
見計らったように榊原の兄の笙が、「今開けるよ!」と言い現れドアを開けてくれた
「いらっしゃい!
良く来てくれたね」
榊原の家は…靴を脱がなくても良いお宅だった
康太は自分ちなら間違いなく叱られるな……
と…思った
「皆待ってるから!」
応接間に通される
そこは応接間と言うより、ホテルのスィートルームより豪華な部屋だった
応接間のソファーに榊清四郎が座っていた
榊原が見た事のない笑顔で
清四郎は康太を見ると立ち上がり頭を下げた
「良く来てくれました!
先日は本当にすみませんでした
許して下さい」
清四郎の横の妻と笙も頭を下げた
「私の家族を紹介します
妻の真矢と長男の、笙……そして貴方の横にいるのが、私の次男の伊織です
私の自慢の家族です」
伊織…と榊は息子に手を差し伸べた
榊原は父の手を取り横に並んだ
「これが私の家族です!
愛すべき家族です!
自慢すべき私の妻と息子達を見失う事なくて本当に良かった
私は此処にいてくれる家族を大切にします!」
榊は康太を見て語りかける
康太はそれを見て
「 合格! 」
と、叫んだ
「清四郎さん、合格だ」
康太は榊に向け親指を立ててニカッと笑った
康太が言うと清四郎は、嬉しそうな笑みを浮かべ康太に頭を下げた
「最後のピースを持って来て下ってありがとうございました!師匠」
「良く此処まで頑張ったな
貴方が諦めなかったから、手に入れられた清四郎さんの希望だ!」
二人の会話を理解出来なくて……皆唖然と見ていた
すると清四郎は、康太に歩み寄り肩を抱いた
榊原はこのクソジジイと言う視線を向けた
「真矢、笙、君達が逢いたがっていた、私の師匠、飛鳥井康太君だ」
えぇぇぇ~!!!
「康太は私の人生の師だ
私は彼から沢山の事を学び、勇気をもらった
私の話を聞いてくれるか?」
清四郎の言葉に皆が頷く
ソファーに座る直前、榊原は康太を奪回して座ったのは言うまでもなかった
清四郎は家族を見渡し、口を開いた
「私は役を演じるのに必死で、家族を蔑ろにしてしまった
気付いた時には…もうお前達との溝は埋められなかった
私は焦れていたのだ……
何もかも上手く行かない事に焦れていた……
そんな時に康太を紹介され……
私は殴ってしまった…
謝りたいと思っていた…
ずっと謝らねば…と思っていたが……
私には勇気が出なかった
そんな時、京都に康太が現れたのです…
今謝らねば…と時間を作ってもらい会食したその時私は康太の懐の深さを知り……
師匠になってもらっいました!」
清四郎は言葉を選んで話した
「私は師匠に家族を再生したいと訴えました…
師匠は私に見届けてやるから、諦めんなと励ましてくれた…
時には殴られたけど、殴られなかったら私は動けなかった
叱咤激励してくれ、励まし続けてくれたから……
私は家族に向き合えた
真矢、笙、伊織、今まですまなかった
そして今までの分も私は君達に償いたい
一緒に過ごしたい
私を見捨てないでいてくれて、ありがとう……」
清四郎は深々と頭を下げた
笙はそんな父を見て目頭を押さえた
父親の、そんな気持ちは考えてもいなかった
暴君として、何をやっても諦めて、本当の父を見ていなかったのだ
あぁ…また父さんは…
諦めて全てを押さえようとした
それを変えたのは、まだ17歳の少年だった
彼は…榊原のバラバラになった家族のピースを繋ぎ合わせ再生した
信じれない事を17歳の少年が平然とやってのけたのだ
でも伊織を変えた彼なら出来るだろう
彼だから出来たのだろう
笙は康太に頭を下げた
「康太君が、父さんの心の師匠なんですか………
君がバラバラになった家族の絆を繋ぎ合わせてくれた
最後のピースは伊織だったんですね
君は完璧な榊原の家を再生してくれました
ありがとう…そしてこれからも宜しく」
母親は清四郎に抱き付いて泣いていた
笙も溢れる涙を止められずにいた
榊原はそんな家族を見ていた
ずっと求めて来た、家族の絆…
それを築き上げてくれたのは恋人だった
「伊織、これがお前んちだ。
来て損はなかっただろ?」
康太がニカッと笑った
「君は何時から父さんの心の師匠なったんですか…僕は知りませんでしたよ」
「一条隼人の撮影現場に1週間位行くって言ったやんか
それ京都の撮影所だったんだよ
その日に逢って話をして…師匠になってと言われてなった
まぁ旨いもんに釣られたってのもある
清四郎さんは珍しいもん食わしてくれたからな……」
ああぁっ
この子は知らない人や、怪しい大人には着いていっては行けません!!って言ったのに…
榊原は心のなかで叫んだ………
心に嵐が吹き荒れていた
そんな伊織の心中を聞いたみたいなタイミングで
「だって伊織の父ちゃんだから、知らなくもないし、怪しくもないじゃん!」
と榊原を見てニカッと笑った
榊原は、こんな場所に思わぬ伏兵がいたとは!と、臍を噛んだ!
「伊織の父ちゃんじゃなかったら行かなかった
伊織の家族じゃなかったら、師匠にもならなかった
伊織に笑ってて欲しいから…」
最後まで言わせずに榊原は康太を抱き締めた
「愛してます!
愛してる…!
君が恋人で本当に良かった…」
康太を抱き締めた口吻けした
「ちょっ…伊織…」
康太の頭を抱え舌を差し込む
深い接吻に康太の思考は停止した……
清四郎は師匠に合格をもらい家族と抱き合い感激を分かち合っていた
いち速く気付いたのは笙だった
「あらら…本当に伊織は嫉妬深い」
康太を抱き締め濃厚な接吻を家族に見せ付け、所有権の主張だなんて子供じみた独占欲に……
清四郎と真矢は、あらあら…と微笑みながら、その光景を目にした
「伊織…」
清四郎の呼び掛けに榊原はやっと濃厚な接吻を止めた
「伊織のバカっ!」
康太は榊原の足を思い切り踏んだ
「痛たいですっ!」
腕の中からスルリと抜けてソファーに座った
「清四郎さん、家族写真撮らなきゃ!
用意してある?」
清四郎は「別室にスタンバイしてるから、何時でも OKです」と康太に応えた
応接間にカメラマンを入れ、家族写真を一枚撮った後
清四郎は記念だから康太も入りなさい!と、強引に家族写真の中に誘った
康太はオレは良いよ…と断ったが……
笙の君も家族じゃないですか!の言葉に康太は観念して入った
「良いですか?笑って!」
パシャ
この日撮られた家族写真は、後日
榊清四郎が出演した『達子の部屋』で披露して公表した
榊 清四郎と妻と息子三人が写った微笑ましい一枚だった
……………が、後で大騒ぎになる
榊 清四朗は、騒ぎになるのを承知で騒ぎのネタをバラ巻き……
既成事実で乗り切ろう!
なんてやはり親子かよ…って戦略で爆弾を投下したのだった
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