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第23話 解離

康太は榊原の手を引き、寮の自室に戻っていた 康太の腕が榊原に巻き付き、キスをせがんだ 康太はワンピースの姿のまま、約束を守ってくれた 「ねっ…ねっ…康太、スカートを捲って見せて…」 康太は震える手で、スカートを捲った 康太のスカートの中は、先日見たまま…… パンティとガーターベルトだった 榊原は、ガーターベルトを外しパンティを 脱がすと、ガーターベルトを嵌めた スカートを下に下ろし、康太にねだる 「ねっ…康太、このままでスカートを捲って見せて…」 康太の指がスカートの裾を摘まむ じりじりと捲り上がるスカートを榊原は、楽しげに見ていた 康太の下半身は既に勃ち上がっていた ガーターベルトの間に康太の性器が聳え立っていた 女性のガーターベルトに、男の下半身 アンバランスさに、榊原は興奮した まるで少女を犯している気分になる…康太以外は要らないんだけど… 榊原は、わざとワンピースが濡れる様に康太を犯した 服を脱がさす、スカートの裾を捲って、結合した 服が汗で纏わりつき、禁忌を楽しむ化の様に、榊原はゆっくり康太を犯した この夜も、榊原は、康太を手離せず、気絶するまで康太を抱いた 絡み付く、康太の腕は榊原を離さなかった 朝早く、康太はベットを抜けると、一生の所へ向かった 痛む体を押し止め、康太は歩き出した 一生の部屋に行くと、楡崎の姿はなく一条が既に来ていた 「一生、話を」 一生は手の中の、ファイルを開いた 「今回は、部外者の介入で…… 俺の情報網ではダメだったから、隼人に頼んだ」 「探偵?」 「そう。隼人、言え」 一生は、一条にバトンタッチをすると、ベットに座った 「聡一郎は脅されている 東雲聖って奴の、言いなりだ 康太、コイツ知ってんのか?」 「東雲…聖????誰?…」 「調査によると、お前んちの兄の嫁の親族だそうだ」 「嫁…嫁ってオレの?」 「あんたには婿しかおらんでっしゃろ」 一生の素早い突っ込みが入る 「あぁ、恵兄の嫁だ」 「そう、それ! その嫁の兄は、大学受験の最中に妹が結婚するだとか…… 交際はダメだとかで家庭で揉めたから、そのせいで受験が失敗したと思ってるみたいなのだ…飛鳥井の家に逆恨みしてるのだ」 康太は恵兄の結婚式の日に、不機嫌そうな顔した男がいたのを思い出した 「でも、何でそいつに聡一郎は脅されてんだよ?」 「……康太、コイツも桜林の出なんだよ 俺等が1年の時、3年で…総一郎はそいつと恋人同士だったんだよ アイツ馬鹿でさ、本気で付き合って…捨てられた アイツが本気の恋をしなくなった原因の奴」 康太は思いを巡らせる 四宮が死にそうに苦しんでて、敵を取ってやる…って言った、あの恋の相手か……… 「そいつの狙いは、オレか?」 一生は答えない 一条も口をつぐんでいた 「聡一郎は、身を呈してオレを守ってんのか… なら行かなきゃな 終わらせてやんねぇとな!」 「意味、解って言ってんのかよ?」 一生は、康太が出て行く意味を知っているのかと……問い掛けた 「オレは聡一郎を犠牲にして、平穏な日々を送りてぇ訳じゃねぇ」 「それでもだ!」 一条が叫んだ 「お前が出ていったら…向こうの思う壺なのだ……」 一条は、泣いていた 「隼人、飛んで火に入る夏の虫だって、行かなきゃならないんだよ!」 「じゃあ、オレ様も行く」 一条は康太の手を取った 「俺も行く」 一生も手を取った 「オレ等は、四人いて四悪童だ 一人だって欠けたら、存続しない」 康太と一条と一生は、バレないように四宮の後を着けた 絶対に四宮に感じさせない様に距離を取り、変装をして後を着けた 四宮は、学園の近くの公園に呼び出されていた 四宮の目の前には…東雲聖が待ち構えていた 「遅いじゃんか…! ボクが来いと言ったら直ぐに来いよ!」 聖は、指輪を着けた指で四宮を殴った 四宮の口から鮮血が流れていた だが……四宮は抵抗はしなかった 「何時になったら、飛鳥井康太に逢わせてくれるんだ?総一郎?」 四宮は血を拭い、聖を睨んだ 「お前には逢わせる気はない!」 「何時まで、そんな強気でいられるのかな?」 聖は胸ポケットから写真を取り出すと、四宮に投げ付けた 四宮のあられもない姿が写真にはあった 「この写真を学園中に巻くぞ!」 「好きにすれば良い…」 四宮は強気で歯向かっていた 「今更だ……聖さん もう僕たちには構わないでくれ」 「くそっ!クズの癖に生意気な! お前の様なクズ、相手にしてやってんだ、感謝しろ」 聖はそう言い、四宮を殴ろうとした その手を、康太は掴んだ 康太は東雲聖を冷ややかな目でみた 「クズ野郎はお前の方だ」 聖の腕を捻り上げた 「やっと出て来た……飛鳥井康太!」 聖が、待ってました!と、ばかりに康太を見た 「オレに何の用なんだよ」 「お前の家族のせいでボクの人生は狂った責任を取れよ! ろくでなしの四悪童!」 「オレに言うのは筋違いだ」 「お前と同い年のバカな妹が、どんだけ家庭を壊したか……… あの妹のせいで、ボクがどれだけ苦しんだか…!」 「そんな戯れ言オレに言うより、お前の家族に言えよ 今後一切聡一郎に近付くな! 近付けば黙っちゃいねぇぜ!」 「はっ…どいつも、こいつも…役に立たない! 役に立たないクズは死ねよいっそ!」 聖はサバイバルナイフを取り出すと、康太に見せ付け威嚇した 楽しそうにナイフをちらつかせ威嚇する 康太は刺されてやるつもりだった… それでこの狂気が終るなら… 誰も傷付けたくなかった… こんな事を、恵太に…可奈子に…教える必要なんて…ないから… 飛鳥井の家の事で、他の奴を巻き込みたくなかった 狂った凶器の切っ先が康太を捉えた 聖は笑って、愉快に笑って康太を刺しに行った ナイフは、躊躇う事なく、康太を目掛けて襲って来る…  ドスッ! 刺される衝撃に、襲われた が、康太は痛みはなかった …康太の視界には一条の背中があった… 一条が康太の盾になって立ちはだかっていたのだった 「隼人…隼人!」 ナイフは一条隼人の胸に突き刺さっていた 何故… 何故…隼人… 一条が傷付いて良い筈がない… 康太は、流れ出る一条の血の熱さに…青褪める なくしたくない… なくしちゃならない… 自分のミスだ… 隼人の絶対な信頼を甘く見た 隼人を刷り込んだのは自分だ… 康太は一条を抱き締め泣き叫んだ 一生は慌てて、救急車を呼んだ ついでに警察も…… 四宮は聖を羽交い締めにして、押さえていた 一条は必死な康太に微笑んだ 「康太のバカ…ナイフの前に出るなって、お前が言ったのだ……」 「隼人…喋るな」 康太は瑛太に叩き込まれた救急処置で 一条のナイフを抜けないように、自分の服を破きナイフを固定した 脱けたら出血死だ… 「痛いのだ……康太…」 「ナイフを固定してる!喋るな隼人」 一生は、時間を計っていた 四宮は聖を羽交い締めにするしか出来ない自分が情けなかった 「総一郎!今後、なにかあったら、すぐ話せ」 康太は四宮を責めない…… 何時だってそうだ…… 康太は絶対に……四宮を責めたりはしない 「康太…救急車が、来た」 康太は茫然自失の聖に 「オレは必ず仇は必ず取る! もし隼人が死んだら… お前の命は、きっちりオレがもらう! 首を洗って待ってろ!」 と、言い捨てた 康太達が救急車に乗り込んだ後 警察が来て、東雲聖は連行された 康太は救急外来の手術室の前の椅子に座っていた 連絡を受け一条のマネージャーの小鳥遊が、病院に駆け付けると康太は立ち上がって……深々と頭を下げた 「康太さん…頭は下げないで下さいます」 「オレに油断があったから、隼人は刺された」 康太は唇を噛んだ 完全に康太のミスだった…… 康太は悔やんでいた…… 「隼人さんは身を呈して、貴方を護った… 隼人さんの意志です…貴方が悪い訳ではないのです…」 康太は首をふった 一条は、康太の盾になり護った 自分が刺されて終わりにしてやろう…と、思わなければ一条は刺されたりしなかった 一条の血の熱さが…手から離れない 「報道規制をかけました この事件は表沙汰には出来ません 隼人さんは過労で倒れた事にしていただいてます」 だから…康太は気を病まないで…と小鳥遊は慰めた 手術室のランプが消え…… 中から医者が現れると、小鳥遊と康太は医者に駆け寄った 「先生!隼人は!」 康太が医者に掴みかかった 「命に別状はない! 応急措置が的確だったのと、刺された場所が内臓を避けていたのが救いだな 傷が回復したら普段の生活に戻って良い!」 医者は血だらけの康太へ話しかけた 「坊主、お前が処置したのか?」 医者は康太に問い掛けた 康太は頷いた 「適切な処置だった! ナイフを抜かなかったから、出血も大したことがなかった」 抜いていたら出血は半端なかっただろう…… 「ナイフが擦れないように固定したのも、危険から回避できた要因の1つだな 何処で覚えたよ?」 「うちは建築屋だから、事故はつきもんなんだよ だから、子供の時から叩き込まれて来た」 康太がそう言うと 医者は笑って「ラッキーだったな!」といい康太の肩を叩いた 医者が行くと…康太はその場にへたりこんだ 一生と、四宮が康太の側に行き康太を起こした 「康太…僕のせいで…隼人を…」 康太を支える四宮の指は震えていた 「総一郎…隠し事は一切すんな オレはお前の犠牲の上に成り立つ平穏な日々なんざ要らねぇんだよ!覚えとけ!」 四宮は康太に抱き着いて泣いた 「あの男が、康太の事探ってるって気が付いたと同時に呼び出された あの男は、僕の顔を見るなり、飛鳥井康太に逢わせろと言って来たんだ…」 「逢わせりゃあ良かったんだ…」 四宮は首をふった 「逢わせたら、康太をなくすかも…って思ったら…出来なかった…」 あの男の異常さは四宮は身をもって解っていたから…… 大学受験に失敗して、狂気に磨きがかかった そんな狂気を孕んだ目をした男が、康太に逢いたいと言っても…… 四宮は逢わせる事が出来なかった 呼び出されるたびに殴られた 鬱憤ばらしの様に殴られても、四宮は聖に、康太を逢わせなかった 四宮は四宮なりに、康太を守りたかったのだ そんな気持ちは康太には痛い程解っている 解っていて…言うしかないのだ 四宮聡一郎と、言う男は誰よりも、何よりも、康太を優先にして動く人間だから… 康太の為なら四宮は、嫌いな相手でも寝る 保健室の一件が、そうだ 保健室貸切の為、四宮は保健医と寝た サドと有名な変態と… それを解っているから、康太は敢えて言うのだ 「聡一郎、オレはお前を犠牲にして、自分を護りたくない… オレ等は何の為にいるんだ? オレ等は何の為の四悪童なんだ? 足りない部分を補う為にオレ等は協力しあって生きて来たんじゃねぇのかよ! お前じゃぁ太刀打ち出来なくても、オレ等が集まれば…出来る 出来るまでやる…そうして来たんじゃねぇのかよ聡一郎?」 「康太…」 「お前はさ、頭で考え過ぎんだよ」 このままだと、四宮は姿を消してしまうだろう 四宮聡一郎と言う男は、この世に引き留める箍が外れると、消えてしまう 「聡一郎、消えんなよ! これで終わりじゃねぇ 隼人を見守らなきゃなんねぇ! オレもカタを取らねぇとな…」 「何する気だ…康太」 「オレは、オレ等を傷付ける奴は、相手が身内でも容赦はしねぇ!」 康太の怒りは収まらない 「聡一郎、オレの人生の見届け人になるって、お前は言ったよな? だったら目ぇ反らしてんじゃねぇよ!」 「康太…」 四宮聡一郎の、留まる理由 目を離したら、置いてきぼりになる 「やるぜ、オレは!」 四宮は康太の言葉を噛み締め頷いた 我等四悪童は共に在る 共に在る事しか望んではいないのだから‥‥ 飛鳥井の家に、東雲聖の一件が飛び込んできたのは、一条隼人が刺されて一時間後だった 東雲の家に警察が来て、事件の全容を知る事となる 東雲夫妻は慌てて、飛鳥井家に出向き頭を下げた 自分の息子の狙った相手が飛鳥井康太とは… 頭を下げても許されない… 飛鳥井の家族は唖然とした 何故…こんな馬鹿げた事件になる… 想像も着かなかった 飛鳥井恵太は戸惑っていた 可奈子の、兄である聖が、二人の事を良くは思ってないのはしっていた 何かにつけて嫌味を言う聖を、恵太も嫌っていたから… だが、恵太は、康太の心配より、東雲夫妻の心痛と、妻の精神状態の心配をした 刺されたのが康太でないなら、心配する必要はない…かの様に… 可奈子は、兄のしでかした事に、この先どうなるのか…不安だった 可奈子は兄が嫌いだった どっちにしろ、もう東雲の家は自分には関係ないのだ… 東雲の兄のしでかした事なら、親が責任を取れば良い… 私には恵太がいるから…可奈子は恵太の手を握った この場所で笑ってれば…それで良い… 飛鳥井玲香は、康太の心中を推し量ると、胸が張り裂けそうだった 蒼太も、弟が如何に一条隼人を始めとする友を…… …大切にしていたか、知っていたから… 状況が解らぬ不安に瑛太は康太の元へと行く事に決めた 「病院に行きます」 瑛太が言うと、全員が押し黙り、車に乗った 東雲の両親も飛鳥井の車の後ろに着いて病院に向かった… 病院につくと一条隼人の病室を教えてもらい向かった 病室のドアをノックすると、緑川一生がドアを開けた 「隼人の容態はどうなんですか? 康太はどうしてますか?」 瑛太は問い掛けた 一生は無言で康太の方へ顔を向けた 康太は血だらけで破けた服を着て…… 一条のベットにしがみついていた 康太は微動だに動かない 「康太…」 瑛太が声をかけると、康太は顔を上げた その瞳は怒りに燃え、キツい眼差しだった 「何しに来た! 」 康太が吠えた まるで手負いの狼の様に、康太は怒りを露わにしていた 東雲の両親は一条のベットの後へ近寄ると土下座をした 「帰れ! お前等に頭を下げられても、隼人の傷は治らない!」 冷たい目で、東雲夫妻を一瞥した 「出て行け! てめぇの息子の管理も出来ねぇ奴に頭を下げられたら、隼人が可哀想だ!」 康太の言い分に恵太が止めた 「康太!口が過ぎる」 康太はまるで親の敵の様な瞳で恵太を見た 「笑わせる! 犯罪者の身内に優しい言葉をかけれる程、オレは優しくねぇんだよ!」 康太は恵太の前まで行って挑発した 「てめぇの家族のしでかした事だろうが! てめぇの顔なんざ今は見たくもねぇ!」 恵太は康太を殴った 殴られた康太は、壁に打ち付けられ、口からは赤い鮮血が流れた 「オレはおめぇ等より、隼人が大事だ! 隼人が死んだら、きっちりお前もカタを取りに逝く!覚えとけ!」 康太は唇の血を拭い、笑った 康太のその姿に恵太は拳を上げた その手を、瑛太が掴んだ 「恵太…お前に康太を殴る資格があるのですか? 今度康太に手を挙げるなら、私がお前を殴ります!」 「瑛兄…」 恵太は力なく項垂れた 「東雲さん お帰り願えますか?」 瑛太は悔やんでいた…… 東雲夫妻が、そこにいるからと言って 一緒に入って来るべきではなかった 「貴方方が幾ら土下座しても、贖罪にはならなりません! 私は兄として康太がカタを取りに行くなら、止めたりはしません! 何故なら、康太にとって一条隼人は命と同等の存在なのだからです 命を傷つけられたら…誰だって怒る… 違いますか?恵太…」 瑛太の言葉は重い 「飛鳥井家の皆様 東雲家の皆様 オレは隼人が死んだら、東雲聖を殺します! 命には命でもって贖う‥‥でなければ刺された隼人が浮かばれねぇじゃねぇか!」 康太は言い捨てた 「オレは飛鳥井を棄てる ………榊原も棄てる」 榊原を棄てて康太は生きては行けないから… …康太には何も残らない… 飛鳥玲香が、口を開こうとする …が、遮る様に康太は言葉を続けた 「オレはこの世の総てを棄てる……… オレがしてやれるのは、隼人と同じ場所に立ってやるだけだ!」 康太が言うと、一生と四宮も康太に並んで立った 自分達も、一条と共にあると言わんばかりに… その場にいた全員が言葉を無くした 康太は一条隼人が死んだら、自分も死ぬと宣言したのだ そして…それに一生も四宮も賛同した 命懸けの覚悟 血だらけの手を握り締め、康太は立つ その体は小さいのに…覚悟は誰も止める事は出来ない… 「だが、その前にやる事がある 東雲さん、あんたには言いたい事がある」 康太は土下座する夫妻に近付いた 「あんたの息子は笑いながらオレに刃物を向けたよ あんた達は聖の姿を見ていなかったから、奴は暴走した 受験に落ちたアイツを、あんた達は真綿に包んで、壊したんだよ 自分達の罪は重い 此処に土下座に来る暇に、自分の息子の所へ行け! お前が作った罪だ 親なら背負え あんたは自分の子供を背負う覚悟がねぇんだよ 世間体だけ、気にして体裁だけ繕う 何故自分の息子が刃物を向けたか、それが解らなかったら、アイツはまたやる 今度オレに刃物を向けたら、キッチリとカタは取る!次はねぇ!」 東雲夫妻は脅えた様に康太を見た 「一生オレの前に顔を出すな! あんた達も……皆還れ!」 康太は背を向けた 康太はわざと恵太を挑発して怒らせたのだ 総てを棄てる覚悟で…恵太に引け目を抱かせない為に… 死に行く息子を…弟を…憐れむ事のないように… 康太を育てたのは、飛鳥井源右衛門 そして曲がらない様にと守って来たのは瑛太と蒼太だと、言っても過言ではない 曲がらず、真っ直ぐに、愛して、育てた 愛おしい弟…… 「康太…」 瑛太は康太を抱き締めた 「お前をそう言う風に育てたのは僕達だ……お前が逝くなら僕も逝ってあげる 手のかかる弟を見張る人間がいないとダメでしょ?」 蒼太も康太を抱き締めた 瑛太は東雲夫妻に帰宅を促した ついでに恵太と可奈子も…… 「康太は飛鳥井の人間だ 今後もそれは変わらない! 私達は康太を護ると決めている‥‥ 今康太にとって命よりも大切な存在の命が脅かされている‥‥ 恵太、東雲のご家族と共に帰って下さい! そして康太の前に姿を現すのは控えて下さい」 瑛太に言われ、東雲夫妻は帰宅した 恵太は何も言えず、病室を後にした 飛鳥井の家の人間だけになった病室に、重苦しい空気が流れた 悠太は康太に抱き着いた 兄の小さい体を抱き締めた… 静まり返った病室にノックの音が鳴り響いた 一生は、ドアを開けに向かった そしてドアの向こうに立つ人間に安堵の息を漏らした 病室に訪ねて来たのは、榊原伊織と、榊原清四郎、榊原笙、親子だった 一生が、康太をこの世に引き留める材料に呼んだ、最終兵器だった 榊原は、病室に入ると康太に声をかけた 「康太…康太…… 何があったんですか?」 朝、目が醒めたら、康太はいなかった 何処へ行ったのか安否を心配してたら、一生からの電話だった 康太は榊原が呼び掛けても応えなかった 康太の姿は壮絶だった… 何をして来たら、こんなに血だらけになるのか……… 康太は飛鳥井の兄弟に抱かれて、無表情だった その康太を兄弟から離し、榊原は強く抱き締めた 嗅ぎなれた榊原の体臭に包まれ…… 康太は泣いていた… 声も出さずに泣いていた 見ている全員が胸が傷む様な、悲しい涙が落ちた 榊原笙は、久々の友人の対面がこんな形だなんて…と、躊躇していた 清四郎は康太の涙に、ノックアウトを食らい動けなかった 「伊織…オレは隼人が、死んだら…お前を棄てる…」 魘された様に言葉にする康太の背中を、榊原は優しく撫でた 賢い康太の男は、その言葉で総てを推し量る 「僕のいない世界では、君は生きられないでしょ?……死ぬ気ですか?」 榊原は問い掛けた でも……康太は応えなかった 康太の覚悟を知った 「じゃあ僕も一緒に逝きます 君を亡くして…… 僕は生きられないのだから、逝くしかないじゃないですか」 康太は榊原の背に縋り着いた 傷ついた康太に清四郎は、優しく声をかけた 「康太君……君が血だらけだって伊織が言ってたから、来るまでに服を買ってきたんです 伊織に手伝って貰って着替えなさい」 康太に声をかけて、飛鳥井の家族に深々と頭を下げた 榊清四郎が、康太の為に駆け付けて来た 飛鳥井家の人間は、康太が認められたのだと知った 清四郎は康太を着替えさせないといけないし 病室で長々といると良くないと…… 一旦、康太を連れて病室を出る様に言った 一生と、四宮が病室に残り、様子を見るから、康太を着替えさせてくれと、榊原に頼んだのだ 病院に無理を言って、借りた部屋で、榊原は椅子に座らせた康太の血のついた手を拭いた 破れた服を脱がすと、血糊と、それ以外の紅い跡が散らばっていた 榊原は康太の血糊を綺麗に拭うと、清四郎の買って来た服を着せた 釦を留める、その手付きは手慣れていて、普段から康太の世話を焼いてるのを伺える 蒼太は、そんな二人を見ていた そして目の前の悪友を見る 「伊織くんとお前って似てないな… 最初に逢った時気付かなかったよ」 蒼太がそう言うと、笙は笑った 「僕は母親似で、あれは父親似」 「言われて見れば…」 蒼太は両親と話す清四郎を見る その出で立ちは、榊原伊織に酷似していた 「本当は飛鳥井家の方々とは違った機会に場を設ける予定だった 伊織が選んだのが康太くんで良かった」 「康太を繋ぎ留めるのは、榊原伊織しかいない…か さっき一生君が廊下で電話してるのを聞いた…」 「伊織を引き留めているのも、康太くんしかいない…出会うべくして出逢ったのかもな…」 二人はもう何も言わなかった 清四郎は康太の両親とやっと話せて感激していた 康太の母親は榊のファンだと聞かされたていたから、期待を裏切りたくない 「こんな場所でなかったら感激なんだけど…」 と、言う玲香に 「今度、席を設けます」と言われ感激していた 康太は榊原に抱き着いた 榊原の首に腕を巻き付け、抱き着いた 榊原を抱く指が白む程、康太は榊原を掻き抱いた 愛した男は、命をすら投げ出してくれると言う 康太が逝くなら一緒に逝くと言ってくれる こんなに愛する男はもう現れない 伊織…お前がいなくなったら…オレも逝くから…

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