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第24話 覚醒
康太は榊原から、離れると背筋を正して立ち上がった
その顔は穏やかで、何時もの康太だった
「今日は本当にすみませんでした」
と、家族や清四郎や笙に頭を下げた
そしてそのまま、その部屋を立ち去った
榊原は康太を見送った
四悪童には、四悪童の絆がある
自分がそれに介入すべきではない……
支えを欲しているなら、何時でも手を差し伸べる
でも今は…その時ではない
一条の意識が回復するように祈るだけだった……
康太は病室に一人で戻ってきた
その顔は何時もの康太に戻っていて、さすが榊原と……胸を撫で下ろした
「旦那は何処へ置いてきた?」
一人で帰って来た康太に聞いた程だった
「隼人の意識が戻るまでは、誰の手も要らねぇ」
康太は言い切った
「あのよー康太…隼人さ…」
一生は何だか言い難そうだ…
康太は一条に何かあったのかと、一生の胸ぐらを掴んだ
「こらこら!慌てるな」
康太はムスッと拗ねた
「あのよー…隼人、寝てるわ
……イビキがすげぇ」
「嘘…」
「マジで!」
康太は頭に来て、一条の額にデコピンした
………ったく!
この子は心配をかけまくる
隼人が死んだら、自分も一緒に逝ってやろうとしたのに…
「やっぱ、キスしてやんよ!聡一郎、写真!」
「おぉっ面白ぇな俺もやってやる」
「じゃあ僕も!」
三人はほくそえんだ
目が醒めたら楽しみだ
四宮が写真を構えるのを確認して、康太は一条に接吻した
舌を入れて絡めると、無意識の一条も舌を絡める
ムッ…こいつ慣れてやがる
パシャ とフラッシュが光と康太は唇を離した
次は、一生
一生は、意識不明になったら、明日は我が身やん…
と、脅えながらも一条に接吻した
中々、美味しい唇だが、一条に手を出したら保護者が怖いから止める
四宮も一条にキスする
何かエロい
レズのようなキスに一生は、シャッターを切る手に力を込めた
目が醒めたら…楽しみだ
何はともあれ、一条が、死ななくて良かった
翌朝、一条は目を醒ました
傷は確実に一条を抉って刺さったから、軽くはないが命に別状はなかった
「お前ぇはよぉ、ナイフの前に今後一切出て来るな!」
康太は怒った
「でも、オレ様が死んだら一緒に逝ってくれるって言ったのだ
オレ様は愛されてて嬉しいのだ」
こいつ!…聞いてやがったのか……
「お前、起きてたのかよ」
まさか…と、想い聞いてみる
「麻酔で体は眠っていたのだ
だが意識は起きてて……康太の苦しくなるような怒鳴り声は、聞こえてたのだ
オレ様は、愛されてるのだ……
康太が一緒に逝ってくれるなら、オレ様は淋しくなんかない…って、嬉しかったのだ」
康太は一条の頭を撫でた
「オレの総てをかけてお前を守ってやるって約束したかんな
お前を一人にはさせない!絶対にだ!」
康太…と一条は泣き出した
一人にはしないけど、心配させたお仕置きはしねぇーとな!
康太は四宮に撮らせた写真をパネルにして、一条に渡した
「隼人、オレを心配させた自覚はあんだよな?」
一条は、うんうん!と頷いた
「ほれ!やんよ!心して見ろ!」
康太は裏向けたパネルを一条に渡した
一条は、恐る恐る、パネルを見た
「えっ!」
やられた…
手の中のパネルは、四宮とのレズ写真(一生談)
一条は口をパクパク……声が出なかった
二枚目は、一生の肉食キス
食べられそうな……接吻だった
三枚目を捲る手が震える
もう見たくない…
捲ると…康太とのキス
康太はカメラ目線で舌を絡めて…何だかエッチぃ……
「隼人、お仕置きだ!
次やりやがったら犯してやるからよぉ!」
一条はふるふる首をふった
一条の怪我は後数センチ……ナイフがズレてたら心臓を一突きで……
即死だったらしい
この現実だけでも腹立たしい
康太は一条の病室に泊まり込んで、学校も寮へも戻らなかった
一条が退院する日まで、一緒にいる
一条が退院するまで3週間
康太は片時も離れず側にいた
一条の退院の前日の晩
康太は一条を一生と四宮に頼み出掛けた
今日はもう戻らないから…と、言いおいた康太は覚悟を決めていた
三人は何も言わなかった
一条の側を離れて行く先が、デートの筈がないから…
病人の外に出たら、榊原が待っていた
「遅かったか?」
康太が聞くと、榊原は微笑んだ
「いいえ。そんなに待ってません
それに僕は君の呼び出しなら、僕は何年だって何万年だって待つ事が出来ます」
康太は榊原の手を握った
「オレが、暴走しないように舵を取っておいてくれ!」
次の瞬間には……康太はすり抜けて前を歩く
昨日、明日の晩、飛鳥井の家に行くから着いて来てくれねぇか…と、電話があった
榊原は、あのままで終わらないだろうと想っていた
だから自分を呼んでくれて本当に嬉しく想っていた
「さぁ行きますよ」
榊原は待たせておいたタクシーに乗り込み康太を呼んだ
タクシーの中で康太は榊原の手を強く‥‥強く握り締めていた
康太が飛鳥井家に着くと、家族勢揃いしていた
勿論、恵太も可奈子もいた
康太は部屋に上がると、中央のソファーに座った
そのソファーのその席は康太の特等席だった
その場所は、康太のいない時でも誰も座らない、康太の特等席だった
康太が座るだけで、部屋が明るく感じるのは気のせいばかりではない
「康太、隼人くんの具合はどうなんだ?」
瑛太が聞くと、康太は膝を組み嗤った
「オレが此処にいんだから、死んじゃぁいねぇって事だろ?」
「良かったですね……」
瑛太は胸を撫で下ろした
「所で、東雲可奈子
お前、自分の兄が今どうなってるか知ってるのか?」
名指しで喚ばれて、可奈子は驚いた
自分と同い年の義弟…彼は偉く男前の恋人を持っていた
誰もが彼を愛する
光の中にいるのが相応しい
可奈子は何も言わなかった
「無視かよ……
まぁ恵太の人形だもんな…仕方ねぇか」
恵太は怒らない
この弟は、策略がなければ動かない
動いていると言う事は、何か考えがあるのだ…
前回は動揺して、康太の挑発に乗った…
「オレはアイツを殺人未遂で、ぶち込んでやろうと想っている」
可奈子は、康太を驚異の瞳で見た…
「だからお前は知っておく必要があるんじゃねぇのか?
他人じゃねぇお前の兄だろ?」
「あんな馬鹿…兄じゃない!」
可奈子は怒鳴った
「じゃあ、お前は賢いのか?」
可奈子は康太を睨んだ
「お前は自分の事ばかり考えて、親や兄弟の事考えてねぇじゃねぇか
お前が作ったんだよ狂った兄貴を……
お前、嫁に来たから東雲の家は関係ねぇーって顔してっけど
お前も血が繋がってんだぜ?
お前も犯罪者の血が流れてんだよ」
可奈子は図星を刺されて立ち上がろうとした
その可奈子を恵太が止めた
「恵太さん…」
信じられないとばかりの目を向けた
「康太の話はまだ終わってない
途中で退席は失礼だろ?」
「私は身重なのよ!
こんな話は聞く必要ないでしょ?
東雲の兄の事は東雲の親がする」
「まだ入籍してねぇんだから、てめぇも東雲だぜ?
飛鳥井には飛鳥井のルールがある!
それが出来ねぇなら、お前帰れよ!
そんなガキが子供を産んでも、聖の二の舞だ!」
康太の言いたい事が見えてくる
「お前の兄貴はな、土下座してオレに謝りに来たぜ?
次に顔を見せたら殺す!って言ったのに、毎日謝りに来る
命懸けの謝罪だ
だけど、お前は何なんだよ?
クズはお前ぇの方だ!」
康太が言うと可奈子は興奮して言い返した
「ホモの癖に偉そうに言うんじゃないわよ!
あんたみたいなホモに言われたくもないわ!」
康太を揶揄した
だが康太は動じなかった
「だから?
オレは自分を恥じてねぇ
家族もオレを恥じてはいねぇ!」
飛鳥井玲香は堪えきれなくなり口を挟んだ
本来、康太の事に口を挟むべきはないのは解っていたが……我慢がならなかった
「康太は飛鳥井の誇り!
我は恥じねばならぬ子供は一人も産んではおらぬ!
康太を侮辱するのは、飛鳥井を侮辱するのと同じじゃ!
我等は許したのじゃ!
康太の伴侶は伊織だと許したのじゃ!
それを侮辱するのは、我に喧嘩を売っているも同然!
売られた喧嘩なら我は買うしかない!」
飛鳥井玲香は怒りに身を任せ口を挟んだ
可奈子は、そんな激しい義母は知らなかった
「東雲の家族は、変わりつつあるぜ?
東雲の親が毎日オレに謝りに来る
二人は息子に歩み寄ると言ってた
あの二人にも二度と顔を見せるな!と、言ったのに、息子を思って謝罪に来る
あんたは飛鳥井の家で他人みたいな顔して……何をしても半端なんだよお前は!」
康太は可奈子を捨てておけないのだ
親になるなら、飛鳥井の母を知れ…
このままで出産しても、不完全な親にもなれやしない
「そんなんじゃ東雲の家族からも置いてきぼりだ」
康太は立ち上がると、榊原に手を差し出した
「オレの伴侶は男だが、オレは恥じちゃぁいねぇ!
オレは撰んだんだ!
自分の人生の果てを共に生きる人間を!
オレの手を取れ伊織!」
榊原は、康太の手を取ると、掌に接吻を捧げた
「お前は子供を産むんだろ?
だったら母親になれよ」
今のままじゃ人形だぜ…と
可奈子を見て康太は笑った
可奈子は叶わないと思った
この男には叶わない…多分飛鳥井の家族全員そう思っている……
「帰るわ!」
と、言うと、家族は康太を玄関まで送っていった
応接間には、恵太と可奈子だけが残された
恵太は目で弟を追いつつ口にした
「あの弟は何時も命懸けで真剣に生きている
だけど間違った事は言わない
前回はアイツの罠に嵌まったけど、アイツは戦略がないと動かない
可奈子、母になるなら、今のままじゃダメだ。自分でも解るな?」
可奈子は何も言わなかった
溢れる涙が止まらなかった
東雲の親も兄も大嫌いだった
結局可奈子は家族を見ていなかったのだ
逃げていたのだ…
玄関で靴を履く康太に、瑛太は声をかけた
「本当にお前はお節介焼きですね……」
康太の意図が解りすぎて、瑛太はボヤいた
「お節介焼きは、母ちゃんの専売特許だかんな!
あの人の息子だから仕方がねぇもんよー」
と、康太はニカッと笑った
「泊まってかないのか?」
瑛太の問いかけに康太は
「オレにはまだやる事があんだよ」と返した
怪我をした隼人の側を、康太は一時も離れなかった
その康太が、飛鳥井の家に来た
それだけでも驚異だが、まだやる事がある…と言う
それは…デートや甘い時間でないのは一目瞭然だった
「なら、私も同行しょう」
瑛太は言った
兄として康太と共に行こう…と
何もかもお見通しで同行すると言った兄に、康太は不敵に微笑んだ
「瑛兄の方こそ、お節介焼きじゃんか…」
瑛太が大切な一部を切り捨て、飛鳥井の為に……弟の為に生きる姿を見て来た
康太の防波堤になって、この男は生きて来た
誰よりも飛鳥井の家族を愛しているのは、飛鳥井瑛太、本人だ。
「お前が飛鳥井を守るなら、私はお前の防波堤になろう」
瑛太は全身全霊かけて、弟を守る決意をする
康太は走る車の中で、静かに瞳を閉じていて
榊原は、何も言わず康太の側にいた
車は…愛する人達の再生の奇跡を辿り…走る
総ては、飛鳥井恵太の幸せの為に…
康太は見返りを求めず動く
それが飛鳥井康太だから…
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