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第25話 贖罪

東雲聖は、苛ついてた ズッシリと重くのし掛かるプレッシャー 親の期待が重い… 妹の可奈子が、17なのに結婚すると言い出してからは…… 母親は狂ったように可奈子を責めた 世間体を取り繕うだけの為に…… 両親は可奈子を責め…… 世間に自慢したいがために…… 聖に過大な期待をかけた 責めた分だけ、聖に期待をかける… 高校3年の夏、愛する男と別れた 勉強の邪魔になるからと、断ち切るために、わざと酷く傷付け別れた 全てを捨てて挑んだ受験なのに…失敗した 希望の大学に落ちると、母親は優しく慰めた まるで真綿に包んで、じりじり締め上げる様に、監視をしを始めた 可奈子への不満を全て、自分にぶつける 受験に失敗して、気晴らしに歩いた繁華街で、別れた男、四宮聡一郎を見かけた 彼は幸せそうに笑っていた その中に見覚えのある奴がいた 妹の結婚式に出ていた、飛鳥井恵太の弟、飛鳥井康太 飛鳥井の家が悪い あんな年端もいかない妹を嫁にした 妹は身勝手だ 口煩い母親を嫌い 世間体ばかり気にしている両親を嫌い 母親の言いなりの兄である自分を嫌い ……馬鹿にした瞳をしていた 家族と言っても名ばかりで…… 他人よりも遠い存在に想えた 東雲聖には友人と呼べる人間がいなかった 孤独で狭い世界に押し込められた あまり幸せそうにしてたから、四宮を呼び出した 飛鳥井康太を呼び出せ………と。 この底のない世界から出るには、飛鳥井を消すしかない 自分が犯罪者になれば、可奈子も幸せな日々なんて送れない 知らん顔なんてさせるか 追い詰められた聖は、四宮を殴り、脅し続けた もう……後には引けない 引き返す道なんてない 四宮を殴っていると……目の前に飛鳥井康太が、現れた 何と言う神の与えてくれた偶然 聖はこれでやっと終わらせれると、康太にナイフを突き付けた 終焉は己の命で終わらせられる なのに… なのに… 自分の命を投げ出して 身を呈して 飛鳥井康太は守られた 顔色をなくして倒れる人間を抱き 叫ぶ…飛鳥井康太 自分は罪もない人間に刃を向けたのだ…… 四宮が羽交い締めにしていなかったら、聖は自分を殺しただろう 警察に連行されされれば時間稼ぎが出来る… 緑川一生のとっさの判断だった もっとも康太に 「オレは必ず敵は取る! もし隼人が死んだら、お前の命はきっちりオレがもらう! 首を洗って待ってろ!」 なんて言われたら、自分を殺すことさえ出来ない…… 小鳥遊は報道規制をかける為に、事件すら揉み消した 翌日には聖は釈放された 警察には窶れ果てた両親が来てくれた 両親は聖を見ると抱き付いて泣いた 両親は一条隼人の病室に土下座をしに行ったが、追い返された と、言った でも、聖のした事は消えないんだから、これから先も何度も頭を下げに行くから… っと、両親は言った 聖の罪を自分達も背負うから……と両親は聖に告げた 土下座しても許されない事をしたけど、謝罪に行かねば… と、親に一条隼人の病院を教えてもらい向かった どうして…あんなに追い詰められていたのか… 当時の自分が解らない… でも自分の罪は償わなければ… 聖は朝早くから、夜面会時間終了まで 病室の前で、康太を待った 顔を見れば土下座して 現れない時は勉強した 1週間通い続けた 入院中は毎日来る予定でいた 退院したら、寮まで謝りに行く 許される筈などない でも、自分のしでかした事だから…謝罪する それしか出来ないから… 2週間目にベンチの横に飛鳥井康太が、座った 「お前、何で毎日土下座しに来るんだ?」 真摯な瞳で射抜かれた 「僕は許されるとは思っていません ……でも謝罪させて下さい」 聖は土下座しょうとして康太に制された 「動くな!オレは今話をしてんだから、動くんじゃねぇ!」 聖は話した 今までの事を…… 苦しかった日々を 親の事、妹の事を そして勉強の為に、別れた四宮の事を…… 康太は何も言わず黙って聞いていた 「もう、聡一郎を開放してやれ」 聖は深々と頭を下げた 「愛していました…なのに傷付けた 彼がこの先、幸せな恋愛が出来るように祈らせて下さい」 「お前の器は詰まりすぎて爆発するしかなかった… 後悔先に立たずってのを立証しちまったって訳か」 「はい‥‥僕は‥何故あんなに追い詰められていたのか‥‥解りません‥‥」 「東雲聖、お前に宿題を出してやんよ 来週、オレはお前んちに行く そん時宿題の答えを聞かせろ」 「宿題…?」 「おう!オレは隼人の側を離れねぇから お前はこれから、聡一郎と一緒にオレの指定した場所に行け 聡一郎に謝るなら本人に謝れ! だが、傷付けんなよ! アイツを傷付ける奴は絶対に許さねぇ!」 「解っています! ボクはもう二度と四宮を傷付けません 誓います!」 「じゃあ、来週な! お前んちに行くから、ちゃんともてなせ」 そう言うと康太は病室に入って行った 暫くすると、病室から四宮が、出て来た 「さぁ行きましょうか」 普通に話しかける四宮に、聖は頭を下げた 「時間がないので、歩きながらで良いですか?」 四宮はさっさと歩いて行ってしまう 聖は四宮を追いかけ、話をした 「康太が判断して僕を貴方と歩かせた時点で、貴方はもう僕に危害は加えないと判断してのです だったら、もう良いです 後は隼人に謝れば良いです」 本当にすまなかった…と、聖は頭を下げた 病室の一条はジュースを飲んで四宮を待ってたが、中々戻って来ないから何処へ行ったのか康太に聞いた 「聡一郎はお使いに行かせた」 康太はさらっと言った 「お使い…何処へ行ったのだ?」と 一条は問い掛けた 「東雲聖を飛鳥井建設に連れて行って貰った」 一条は、飲んでいたジュースを康太へ吹き出した ジュースを被った康太は怒っていた 「犯されてぇのかよ?」 と、康太が言い捨てると 一条はふるふる首をふった 「康太…隼人を虐めるな」 一生が、康太を拭きながら助け船を出してくれた 「そうか! オレはバイじゃねぇかんな犯すのは無理か! なら一生頼む!」 「お!任せとけ!」 一生の笑顔が怖い 怯えた一条は捨て置いて、康太は今回の目的を告げた 「隼人…聡一郎の記憶の恋人が悪者のままじゃ、新しい本気の恋なんて出来やしねぇじゃんかよぉ ちゃんと終わらせてやらねぇとな…」 「やっと…終わらせられるのか?」 「あぁ…やっと終われる……長かったな……」 飛鳥井建設に電話を入れた 康太を可愛がってくれた九頭竜遼一と言う、蒼太と変わらない年の職人がいる その人に聖を預ける事にした そこで聖は働くと言う事を覚えたさせるつもりだった 閉じ込められた狭い場所から、未知の場所を見せて視界を広げる 聖………おめぇの世界は狭すぎる…… 狭まった視野の先を知る必要がおめぇにはある お前の知らない世界は沢山ある…… それを知らねぇと先へは逝けねぇぜ? 一条の病室に戻って来た四宮は、清々しく笑っていた やっと……抜け出せれた顔をして笑っていた 宿題の答えを聞く、約束の日 康太は飛鳥井の家へ行き、可奈子を揺さぶり 聖の家へ瑛太に乗せてもらい向かう 東雲聖の自宅に着くと、康太はベンツを下りた 瑛太も榊原も車から下りた 康太は玄関の呼び鈴を押した 直ぐにドアは開かれ、日に焼けた聖が立っていた 「宿題の答え聞きに来たぜ」 聖は人数分スリッパを出すと、どうぞ!と応接間に通した 康太は応接間に入るとソファーに座った 瑛太も榊原、康太の横に座った 「答えを聞かせろ!」 「康太さん、ボクは今はもう空になりました 遼一さんは雑用もマトモに出来ねぇのかって殴るんです 直ぐ蹴るし……初めて他人に殴られました 怒られるばかりで、ボクは使えない奴でしたが、今日はちゃんと出来たなって誉めてもらいました」 「そうか、良かったな」 「今日の最終日に遼一さんは、ボクにラーメンを奢ってくれました 頑張ればお前は出来るんだからなって頭を撫でてくれました」 聖は嬉し泣きをしていた 初めて人に殴られて、貶められた…… その後に誉めてもらってのが嬉しいみたいだ 「次は此処だ!行ってこい」 聖はテーブルの上の紙を取った  「緑川農園?」 「そこへ泊まり込みで行って来い! これは飛鳥井建設のバイト代だ これを旅費にして行って来い そこで1週間 泊まり込んで働いて来い」 聖は頷いた 「帰って来たら太秦でエキストラしてらっしゃい 帰りに飛鳥井の家に送ってもらうように頼んだから、飛鳥井の家へ来い!」 「会わす顔ないけど…」 可奈子の事を言ってるのだろう… 「全ては飛鳥井の家へ来たら解る 良い答えが出来たから、お前にはご褒美をやるよ 支度して外に出て来い!外で待ってる」 康太は外へと出て行った 「飛鳥井建設の屋上に行く 瑛兄はどうする?」 「一緒に行きます」 康太は最後まで見届けてくれる、瑛太に頭を下げた 聖が出て来て、聖を助手席に座らせ、康太と榊原は後部座席に座った 飛鳥井建設のビルは回りに突き抜けて大きな建物がない場所に建っていた 竣工当初は珍しい10階建てのビルは、海沿いに建っていた 飛鳥井建設のビルに到着すると、話は通っていて屋上まで警備員に案内されて上がった ビルの下は闇に包まれ、何も見えなかった 康太はビルの真ん中に立つと、海の方を向いた かなり長い時間、暗闇の中、何も言わず立っていた 夜が少し白むと、それは突然始まった 暗闇を裂いて海が割れる 輝かしい光が…… 暗闇を切り裂いて…… 上がって来た 康太は朝陽に指を指した 「セイ、お前は今日、この時間に生まれ変わった お前の生まれ変わった日の、この朝陽の紅さを忘れるな!」 朝陽に照らされる康太は神々しかった 康太の指の先に登る朝陽を、聖は一生忘れないように見詰めた 朝陽が…こんなに紅いって、生まれてはじめて知った 朝陽がこんなに目にしみるって…… 生まれて初めて知った…… 聖は涙しながら…… 朝陽を見詰めていた この日の朝陽は一生忘れられないものになった 瞼の裏に…… 胸の奥に…… 刻み込まれた赤だった

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