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第28話 capacity

3年に進級して1ヶ月以上が過ぎた 一生が消えて1ヶ月以上… 一生はまだ戻って来なかった 四宮が戻って来ても、一生はこの場所に戻っては来なかった ゴールデンウィーク中に一生が戻って来たら…と想い、寮に残り待った でも戻らず… 榊原は康太の体を好き放題抱いた 何だか…最近の榊原の愛撫はじじぃ並の執拗さがある… 体が怠い… 眠いし… このままでは眠りに堕ちそうで……… 康太は立ち上がった 康太はクラスの自分の机で突っ伏してたが、本当に眠りそうで起き上がった そう言えば、悠太が中等部で執行部部長をしてるんだったっけ…と、思い出した 飛鳥井の家は秀才が多い 兄弟は康太以外は皆、歴代の執行部部長をしていた 康太は執行部に目は付けられても、執行部には縁のない人間だった 「中等部の橋を渡る!」 康太は、そう言い教室を出て行った 一条と四宮が後を着いて行く 中等部へ行くには中等部への橋を渡らねばならない その橋を渡って弟の飛鳥井悠太の場所に行く 橋を渡って少し歩くと、見慣れた顔ぶれが対峙していた 飛鳥井悠太率いる中等部執行部と、榊原伊織率いる高等部執行部 榊原の方が背が高いが、悠太も中学にしては高い方だ 悠太は容姿は飛鳥井瑛太にそっくりなのだから… 「我らも対策を取らなかった訳ではない!」 悠太が言うと、榊原は嗤った 「笑止!今回の暴動を我等か知らぬと思ったか?愚かな…」 謂れ、悠太は押し黙った 優劣は一目瞭然だった はて…困ったな…と、思案してたら、廊下から地響きを立てて、こっちに向かってくる人間がいた 「康太!康太じゃねぇかよ! 落第して来たのか? よしよし!お前なら何時でも歓迎だ!」 爆走してくる人間は中等部、科学担当教諭 佐野春彦と、言う 佐野は康太を見付けると飛び付き、ぐりぐり頭を撫でた 「彦ちゃん……どうしてオレがいんのが解ったんだよ」 されるがままの康太が問い掛けた 「お前が今、中等部の橋を渡って来たって情報が入ったから来た! お前の来た理由は悠太か?」 流石良く解ってらっしゃる 桜林学園の情報屋と威名の着く、科学教師 「彦ちゃん、中等部は今どうなっちまったんだよ?」 単刀直入に問い掛けた この教師は誰よりも情報通だ 学園の総ての情報がこの教師の手にあると言っても過言ではない 康太が聞くと、佐野は表情を翳らせた 「中等部は、今統制が取れてない 無法地帯だな…あれは! 何時暴動が起きてもおかしくない状況だ お前らの時代にはお前ら四悪童がいた 押さえる人間は強固で榊原の徹底した管理 の下にあったとしても 四悪童が上手くガス抜きさせていた バランスと供給は取れてたんだよ だが今は統制だけ締め付けて、生徒は暴動した 榊原が出て来のはその所為だ。」 「悠太じゃ荷が重いのか?」 「違う!器に合った仕事をしてない 許容範囲を、超えてるんだよ」 康太は、うむぅ~と考え込んだ 何やら騒がしいなと、悠太と榊原が騒ぎの方を見ると康太がいた 康太が中等部一、気難しいと謳われる教師に可愛がられてぐりぐりされていた 「何故君が此処にいるんですか!」 榊原の怒気が上がった 怒りを身に纏い、語気を強める まともに榊原の怒気を受けたら、普通は身を竦めるのに、康太は知らん顔 「オレが何処に行こうが、お前等執行部には関係ねぇ」 康太が榊原を挑発した 「還りなさい!」 「オレは弟に逢いに来たんだよ お前等執行部に、とやかく謂われる筋合いはない!」 家に来る時の甘い二人ではない 職務を全うする鬼の執行部部長と、四悪童の飛鳥井康太だった 康太は榊原を無視すると、悠太に向き直った 「悠太、お前は自分を見失ってる! 周りが見えてない 無闇に歩けば足場を無くす 器に合った仕事をしろ! 背伸びをして周りを巻き込むな!」 悠太は兄を睨んだ 四悪童の兄に口を出されたくない 執行部に入った事のない人に言われたくない……そんな気持ちが心を占める 「貴方には関係ない!」 康太が怒りを纏い唸った 「てめぇ、誰に口聞いてんだよ!」 康太はデカい弟の…脛を蹴り飛ばした! 悠太の後ろに控えていた中等部の執行部役員が、康太に殴りかかろうとした その拳を掴んだ者が言い放つ 「飛鳥井康太に刃を向ける奴は、我ら四悪童に敵なす者と見做す! それでもこの拳は引き下げねぇか!」 拳を掴んだ人間は 緑川一生…その人だった 康太を護るように描かれる逆トライアングルが出来る 四悪童が、勢揃いした瞬間だった その迫力に、中等部執行部は萎縮した 「悠太、兄に刃を向けんじゃねぇ!」 一生が吠えた 「康太を敵に回すなら、お前でも…容赦はしねぇ!」 鋭い瞳が悠太を捉えて貫いた 一生を後ろに引っ込め、康太は悠太の前に出た 「悠太、執行部は、お前一人でやってる訳じゃねぇ 役割分担があんだよ 一人で出来ねぇ事なら、皆で協力すんだよ お前の為に無謀にもオレを殴りに来る奴もいる まぁオレを殴ったら、明日はねぇがな!」 悠太は兄に抱き着いた 「ごめん康兄…俺焦ってた 前が見えなかった 統制がとれない苛立ちで…自分を見失っていました…」 自分よりデカイ弟に抱き着かれていたが、 康太は慣れたモノで悠太の頭を撫でていた 「悠太、お前はお前の学校を作って行け 執行部に入れなかったオレが偉そうな事言えねぇが… お前を守ろうとする奴がいる限り、お前は背を向けるな!」 悠太は頷いた 康太は中等部執行部役員に声をかける 「学園は生徒の為にあるんだよ! それを忘れてるから暴動が起きる!それを忘れるな!」 中等部執行部役員は、康太の重い言葉を胸に刻み付けた 「悠太、胸を張れ!」 悠太は康太から離れた胸を張った 「彦ちゃん、一生も戻って来たかんな! 高等部に戻るわ 今度ビーカーの珈琲飲みに行く」 康太が片手を上げて去って行った 科学教師は嬉しそうに手を降り消えていった 辺りは静まり返った やる気がなくなった榊原は…ったく…と肩を竦めた 「とんだ邪魔が入りましたね アレが四悪童の描く奇跡です 君達にはアレはいません 締め付けてしまったら暴動がおきます」 「やっぱり康兄はすげぇな 中等部にも人気は絶大だ 悔しいが、俺の時代には康兄はいない… でも俺は俺の遣り方で頑張るんで、今回は引いて下さい」 悠太は頭を下げた 「言われなくても引きます もう大丈夫の顔だし」 榊原は苦笑する 高等部執行部は、橋を渡って帰って行った 高等部への道すがら、康太は一生に抱き着いた 抱き着かれたら歩けない…と一生が言うと 背中によじ登った 結局おんぶされ…一生の頬に擦り寄った 緑川一生は、背中に康太を張り付け、高等部に帰ってきた 一条も四宮も嬉しそうだった その光景を榊原は、少し後ろから見ていた あの絆は絶対の形になっている 誰も割り込んではならない 途中で寮の総監と出くわした 「おっ、緑川、帰ってきたな! 飛鳥井…背中にいたのか…」 と、驚かれた 四悪童を見かけると、何処からか声がかかる 清家は四悪童を見かけると、やはり近寄り 「緑川、拾い食いして長期入院してたんだってな もう大丈夫なのか?」 と声をかけた 「清家さん、それって誰から聞きました?」 清家は、後ろのこなきじじぃを指差す 「ほほぅ俺がいない間にそんな面白い理由を流行らせてたんですね!あんたは!」 背中から康太が落とされた 「清家、ダメだってばぁ…」 怒りの一生を見て康太は後ずさった 一条も後ずさる 康太は走って逃げた 一条も着いて行く 追いかける一生 その後を着いて四宮も走った 彼等は、今日もその場所にいて 賑やかに騒いでいた 高等部執行部役員が去った後も、悠太は動けずにいた 康太は執行部に入ってなくても、伝説を作っていた 中等部で彼の伝説は語り継がれていた 先日の桜林祭も…中等部の生徒は橋を渡って見に行っていた 飛鳥井康太が、そこに現れるだけで場の空気は一変する 先頭で風を切って歩く兄… 彼が立ち止まると、壁が出来る 兄を護る壁が出来る 逆トライアングル… 壁の内側に兄は何時もいる 榊原率いる執行部も同じだ 榊原は何時も先頭を歩く 先陣を切って歩く榊原はその場にいるだけで、人々が平伏す 持って生まれた資質 姿は瑛太に似通っているのに…悠太には何もない… それを僻んでいた訳ではないが… 康太は良く悠太に、お前の上はオレで良かったな 優秀な兄と比べられた日には針のムシロだぜ…… なんて言うけど、充分悠太も針のムシロなのだ… 「俺等は俺等の遣り方がある 皆力を貸してくれ…」 悠太は悠太でカリスマ性は秘めている まだそれに気付いていないだけ… 中等部執行部は悠太と、円陣を組んだ 寮へ帰る帰り道 康太は入り口で立ち止まっていた 「お帰り!一生」 康太が笑って言った 一生は帰って来たと実感した 「ただいま……勝手をしてすまなかった」 一条が一生に飛び付いた 結局、一条は一生に逢いに行けなかった 「一生、お帰りなのだ!」 頬に擦り擦り 「落ち着いたのか?目処は立ったのか?」 「食事が終わったら隼人んとこで話すよ」 と、言い笑った その夜、一条の部屋で四悪童が集まった 一生は皆に頭を下げた 戸浪の会社から経済アナリストを回してもらい、経営の建て直しを図る 「緑川農園から、牧場に名称も変更して 母は経営から引いてもらった 少しずつ形になって来ているから、学校に戻って来た」 康太は何も言わなかった この日、話に花を咲かせた康太は、榊原の待つ部屋には帰らなかった…

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