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第38話 弟
朝起きると…一条の寝相が凄くて、身体中が痛かった
どんな夢を見てるんだよ!!
……ったく、もう!
ベットを見ると一生はいなかった
既に起きてて、康太の部屋のソファーに座っていた
「一生、おはよ!」
康太が言うと、一生は何時もの様に片手を上げ、よっ!と挨拶した
「寝れなかったのか?」
「嫌…ずっと起きてた」
康太はそっか…と言い起きた
榊原と一条も起こし、キッチンに向かった
食卓には悠太が朝飯を食べていた
康太は席に着くと、一生と榊原がご飯をよそったりおかずを渡した
皆揃うと「いただきます!」と食べ始めた
悠太は康太の顔を見ていた
「ぁんだよ?悠太」
箸の止まった弟に声をかける
「康兄は、どうして火の粉の中に飛び込む?
他に道を探さない…?」
疑問に思っている言葉を投げつけた
「オレは目の前が崖だって逝くと決めた道は逝く!
他の道は用意しねぇ!
飛んで火に入る夏の虫でも、オレは逝く
それがオレだから!
オレは自分の道を曲げるなら死を選ぶ!」
壮絶な言葉が返ってくるとは想像もしていなかった…
そんな悠太に一生は、吠えた
「それが飛鳥井康太だ!
だから俺等はそれに続く
康太の行く所へ、俺等は共に逝く
飛鳥井康太はそれに値する男だからだ!
弟のお前がとやかく言うな!」
悠太に引導を渡すかの如く、言葉を投げ掛けた
悠太は一生を睨み、一歩も引かない姿勢だった
「康兄は何時も危ない橋を渡る
今回も伊織くんがいたのに、康兄は怪我をして還ってきた…何故だ!」
一生は、悠太の言葉を遮った
「悠太、康太は誰にも止められねぇ!
それは榊原でも無理だ
飛鳥井康太が動く時それは誰でおろうと
止められねぇ
だから俺等は共にあろうと、一緒に動く
飛鳥井康太には己の命すら、捧げる覚悟は出来ている!」
解っている…
そんな事は解っている
それでも…
それでも…傷つかないで欲しいと願うのは…
間違いなのか……?
一生は悠太を揺さぶり、火に油を注ごうとしていた
「悠太おめぇは、康太を解ってねぇ
康太を安全な場所に置いて
総てのモノから守ってやるのが……
総てだと思ってやがる
康太を自分のテリトリーに置いて監視したいんだよな…?
それじゃあ康太の真意が見えて来ねぇんだよ!
康太はお前には扱えない」
「怪我をさせない方法もあるのに…何故言える!」
「康太を止められねぇのに、どんな方法もねぇんだよ
どうしても…康太を止められるとしたら…
この世で2人
飛鳥井瑛太と、榊原伊織のみ!
命を賭して止めるなら………
アイツは止まる
だが…それは康太の本意じゃねぇ
苦しめるしかねぇんだよ
だから、2人は康太を止めねぇ
お前じゃ康太は止められねぇ
てめぇの命も賭けず、康太が止まると思ったか!!」
悠太の顔色がなくなるのを、飛鳥井玲香は見ていた
「俺は言ったぜ悠太!
康太に刃を向けたなら、弟のお前でもキッチリと、カタは取る!とな」
もう…悠太は何も言わなかった
食卓には静けさが襲った
「悠太…康太は康太の道を逝く
お前の介入する余地はない
お前はお前の道を行きなさい
康太に執着する暇に足を掬われると言わなんだか?」
飛鳥井玲香は、悠太をたしなめた
悠太は言葉なく母を見上げた
「康太の進む道を止めるのは…この母が許さぬ
嫌ならお前も寮に入れば良い
寮に入れば、この家で康太に逢うこともない」
玲香は知っていた
悠太の兄弟を越えた想いを…
悠太に、母親のキツい一撃が食らわされる
「俺は何故、何時も危ない道を行くのか?
何故、安全な道をもう一本用意しないのか…
何故…誰も止めない?
何故、康兄が傷付く?
俺が康兄の道を止めれる筈なんかないの知っている
だが側にいるなら、怪我をさせんな!
そして俺はこの家を出て行かない!」
玲香は悠太の頭を叩いた
「当たり前じゃ
お主の本心を一生が引き摺り出そうとしたから、我は乗っただけの事よ」
飛鳥井玲香は高笑いした
「一生、悠太は度が過ぎる程、康太が大好きなのじゃ
だけど、悠太には康太は止められない
それは…悠太が子供だからとかじゃなく
器が違うのじゃ
康太はお爺様に似てる
悠太は父親似
持ってる器が違うのじゃ
悠太はまだそれには気が付いてはおらぬ…」
飛鳥井玲香の言葉を受け、一生は笑い飛ばした
「悠太、飛鳥井康太は誰も止められねぇ
だから俺等は康太と共に逝く
榊原だってそうだ
康太を止められねぇから、この家で康太を待ってんじゃねぇかよ
本当なら行かせたくはない筈だ…
当たり前だろ?
榊原は、康太の為なら死ねるんだぜ?
なのに逝かせるのは、康太の歩みを止める存在にはなりたくないからだ!
康太は絶対に逃げ道は作らねぇ
死ぬと解ってる場所でも…逃げずに逝く
だから俺等は康太に続く
命をも共にする
俺は逃げ道ばかり用意するはズルい馬鹿は嫌いだ
悠太、本当の道は一本しかねぇんだよ
真実を見極めろ
お前には資質がある
だから、俺はお前の本心を見てやったんだ
だから、康太は動かなかった
康太には解っていたからだ」
悠太は一生に真摯な瞳を向けた
「康兄が伊織君のモノじゃなかったら…」
一生が悠太を、止めた
「男なら吐き出すな!」
一生の叱責が飛ぶ…
悠太が一生を見た
この男には総てがお見通しか…
悠太は康太が嫌いなんじゃない…
愛しすぎてるのだ…
愛してるから…危険な目に合わせる榊原が、許せなかった…
恋人を守らない…榊原を認めたくなかった…
危ない場所に行く…
康太を…何処にも行かせたくはないのだ…
悠太は押し黙った
康太は、そんな大きな体をした弟だが弟には変わりない
変わらぬ愛を悠太に与えた
康太は、悠太に笑顔を向けた
この弟に…してやれる事を残そう…と、決意した
「悠太。お前に置き土産をしてやんよ
来年高等部に上がるお前に、俺は1つ、残してやる
それがオレの姿だ
お前はその目で見ろ!」
何をやるのか…解らない
でもこの兄は…言った事は必ずやる
目が離せない
それが、兄 飛鳥井康太だった
そして悠太は、康太の弟だった…
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