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第42話 邀撃②

康太は、声援の響き渡るスタジアムを後にすべく歩き出した 榊原の横に行き 「瑛兄に、姿を見せる約束したから、帰る!」と告げた 榊原は、「僕も一緒に行きます」と言うのを押し止めた 榊原は執行部の部長として、生徒会長を支える仕事がある 「瑛兄は、仕事中だ!一人で行く」 「じゃあ飛鳥井の家で待ってます」 榊原は、康太に着いて行きたかった でもこの大きな波に飲まれた生徒を、帰宅させないといけない使命がある 康太は頷き、スッと闇に消えた 康太に着いて出てきた、一生も四宮も一条も 瑛太はまだ仕事だから一人で行く…と、言い 一人でスタジアムの外に出た スタジアムの前にタクシーを呼び、飛鳥井建設まで行く タクシーの中に座っているだけで、痛みに襲われる 脂汗が出て、意識が霞む 「お客さん、飛鳥井建設に着きましたよ」 運転手に呼ばれて康太は、目を開けた カードで支払い、会社に入っていく 守衛室に顔を出すと、警備員が 「副社長は、まだいらっしゃいますよ」と言った 康太はエレベーターに乗った ふらふらと、副社長室のドアをノックする 中から瑛太が姿を現し、康太を凝視した 康太の顔色は悪く…殴られたような怪我もしていた 「康太…」 触ろうとする瑛太の腕をかわし、康太は瑛太を見た 「ただいま、瑛兄 約束通り、生きて瑛兄に顔を見せに来た!」 「康太、部屋にはいりなさい!」 康太を副社長室に入るように促した ………が、康太は壁に凭れて動かない 「康太…?」 脇腹を押さえるようにして、康太は立っていた 明らかに様子がおかしかった 瑛太は康太を強引に抱き上げ、部屋に入った 「うっ…」 と、唸る康太に何があったのか問い掛けた 苦しむ康太をソファーの上にそっと下ろし、寝さかせた 「ドジった……… バイクが脇腹を直撃して……… ここに来て力尽きた……」 本当は…顔を見せたら…帰るつもりだった… と、康太は告げた 「康太…」 瑛太は言葉が出なかった 「瑛兄に顔を見せたから、帰る 伊織が待ってるから、帰る」 康太は言い切った 瑛太は困った 榊原の所へ帰るより前に… どうみても病院だろうから… 瑛太は携帯を取り出すと、榊原に電話を入れた 「伊織ですか? ちょっと飛鳥井建設まで来てくれないませんか?」 瑛太が言うと、榊原は何かを感じ取り何も聞かず 「直ぐに逝きます!」と、返答した 下の守衛室に『榊原伊織と言う青年が来るから、丁重に通しなさい』 と、指示をしてソファーの前に跪いた 「康太…伊織君に来てもらうから、それで良いか?」 そう言うと、康太は泣きそうな顔をした 「ごめん瑛兄… オレは何時も瑛兄の仕事の邪魔をする…」 泣きそうな康太の頭を撫でた 痛みを耐えた康太の髪は汗で濡れていた 「康太はちゃんと、兄に顔を見せに来てくれた 約束を守った弟を、邪魔だなんて思わない 痛いか…?もうじき伊織が来るからな」 瑛太はこんな姿になっても、約束を守った弟がいとおしかった 暫くして、榊原が一生や四宮と一条を引き連れてやって来た 「瑛太さん…康太は?」 ソファーに寝かせた弟を指差すと、榊原は康太の前に膝をついた 「康太…何処が痛いの?」 榊原が死にそうな顔になる 「伊織…康太を病院に運びたいんだが…… 君の所へ帰るって聞かないから 一緒に病院に、行ってくれるないか?」 榊原は、頷いた 瑛太は救急車を呼んだ 暫くして救急車は到着し、瑛太は榊原を救急車に乗せた 一生と四宮と一条は、瑛太の車で救急車の後を追った 救急車は市内で一番大きな総合病院に向かって走った 総合病院に到着すると、康太は運び込まれ 榊原は、前の長椅子に座った 後から駆け付けた瑛太が榊原の姿を見て近寄った 榊原の握り締めた手が白くなる程… 祈っていた 手術室の「手術中」のライトが点灯され 手術に入ると、瑛太に説明があった… 榊原は、何が起こったのか…解らなかった 榊原の横に一生が座った 「康太の上に城之内のバイクが直撃したんだな…… やっぱしダメージ受けてたんかよ! 言わねぇからな康太は! 自分の痛みは隠し通す!」 瑛太はバイクに直撃されてのに、痛みを押して…… 顔を見せる約束を果たした弟の想いを馳せた 榊原は、康太の様子に気付けなかった自分が口惜しかった 瑛太は飛鳥井の家族を呼び出した 手術は、2時間にも及んだ 手術室のライトが消えた時、家族は息を飲んだ 執刀医が姿を現すと家族に説明を始めた 「右肋骨をポッキリ2本折れてて それが内蔵に突き刺さっていて 時間がかかりました! でも命に別状はありません それと、これは、入院中は…禁止なので」 と、康太の体内のピアスが瑛太に渡された 瑛太はそれをハンカチで包むと、榊原に渡した 榊原は、無言でそれを受け取りポケットにしまった 病室に運ばれた康太は眠って、口には酸素がはめられていた 榊原は、康太の手を握ると顔を押し当てた 飛鳥井の家族は、榊原と一生達に任せて帰って行った 「旦那…」 一生は声すらかけられないでいた 一条は、泣きっぱなしで 四宮は、康太をなくす恐怖に震えた 榊原と一生と四宮と一条は、康太のベットの周りを囲む様に黙って座っていた 康太は暗闇の中にいた だけど…手を握ってくれる 暖かい温もりを感じていた 榊原の手だと、直ぐに解った 康太は榊原の手の温もりを感じて 側に行かなければ…と願い続けた 神様…オレから伊織を取り上げないで下さい 伊織しかいない… こんなに愛せる男は… もう目の前に現れない もう…見てるだけで満足なんて出来ない 見てるだけで…幸せだった時には もう戻れません… 神様…オレから、伊織を取り上げないで下さい 神様… 康太は魘されるたびに、力強い手に握られ 励まされるのを感じていた 伊織… 伊織… 伊織… 意識が霞む… 霞む意識の先に…榊原が見える 伊織… 握り返す手の暖かさ 掴まえた 愛するオレの男を 康太が目を醒ますと、ベッドに凭れ掛かって榊原は眠っていた 握られた手に温もりが伝わる ずっと存在を感じていた 康太はもう一方の手を伸ばし、榊原の髪を撫でた 愛する男の髪を撫でれる幸せ 榊原は、髪を撫でられる感覚に目を醒ました 目の前に…康太の手が、榊原の髪を撫でていた 榊原は飛び起き、康太を見た 窶れた榊原の姿に、どれだけ心配をかけたかを知る 「伊織…ごめん」 榊原は「康太」…と、名前を呼ぼうとしても声が出ず涙が溢れた 榊原の目から溢れる涙を…康太は拭った 「伊織…怒ってる?」 「怒ってなどいません だけど‥‥君を亡くしてしまいそうな恐怖に‥‥ 僕は覚悟を決めた程です‥‥ 君が生きていてくれて本当に良かった…」 愛しい男を悲しませた… 「伊織…すまねぇ 生きて顔を見せる約束だったから…」 「康太は約束を守っただけです でも具合が悪かったら…言ってください! 絶対に‥‥一人で行かないで下さい…」 康太は頷いた 「約束する! 次は絶対に言うから…許してくれ…」 「だから、怒ってなんかいませんよ」 榊原は、康太の頭を撫でた 「ずっと…伊織の手の温もりを感じていた 愛する伊織の側に帰らなきゃ…って思った お前のいない場所では…生きられない」 榊原の口が康太…と、呼ぶ 「直ぐに退院すっから、待ってろ!」 康太の言い分に榊原は、笑った 「ゆっくり治せば良いんですよ 僕が看病します!側にいます!」 康太は笑った そして康太の足元に寝ている一生を蹴り飛ばした 蹴り飛ばされた一生は 「蹴んじゃねぇ!」…と、怒っていたが 康太の「狸寝入りしてんじゃねぇぞ!」 の言葉に、ケッと吐き捨てた 「肋骨を2本も折っても平気で歩く おめぇがいけねぇんだろうが!」 一生は激怒した 「想定外だったかんな 痛みで正常な判断すら出来なかった… でもお前等に…心配かけたくなかってってのもあんだよ」 「後で知るより、よっぽど良い! 解りやがれ康太!」 康太は何も答えず酸素マスクをパカッと掴むとと 「邪魔だなコレ…めちゃくそ喋りずれーな」と言い…… 顔から酸素マスクを取り外した 一生は「おい‥‥大丈夫なのかよ?」と心配したが、康太は清々とした顔で笑って 「オレは門倉の実力を甘く見すぎていたんだよ それが総ての敗因であり、オレの失態だ! 文句は言えねぇ 今回は勝機が掴めなかったんだよ でも、失敗は出来なかったかんな…無理して動くしかなかった」 とんでもない事を謂い‥‥ 一生は、唖然となった 康太は常に勝機を詠む 風を詠み、星を詠み、勝機を呼び込み、勝利に導く 今回は勝機が詠めなかった…と、言うのか? なのに動いたと言うのか…? 何故! 何故そんな無謀な事をするのか…一生は悩んだ 「夏休みに入る前に、カタを着けたかった 夏休みはお前の牧場に行く予定だった だからこそお前を白馬にある飛鳥井の厩舎に連れて行きたかった 今オレが育てさせてる馬をお前に見せたかった だから、夏休みに持ち込みたくねぇ焦りもあった」 「それで、こんな怪我して… 肋骨を2本折ってんだぞ! 運が悪けりゃ死んでんだぞ! 解ってんのか!康太!」 「それでもだ! やらなきゃならなかった 何時狙われるか解らねぇ中に何時まで置いておけるんだよ? 不満は暴動に変わるぞ? そしたら清家では荷が重い」 「今後一切無茶しねぇって約束しろ!」 「形だけの約束で良ければ……してやんよ」 康太がそう言うと、一生は 「おめぇはそう言う奴だよ!」と怒り出した 「一生、オレは伊織を残して死なねぇ! この愛する男はオレのもんだ! 手離す気も離れる気もねぇ! オレは必ず伊織の所へ帰る! それがオレの生きてる証だ!」 康太の榊原への執着を見せ付ける 「オレは死んでも離さねぇ! だから死ぬ時は一緒に逝く!」 一生は片道切符の、康太の榊原への執着を想い知る 「おめぇは、そいつの手を離すな! そして無茶すんな!」 一生はやけくそに言い放った 康太は笑って…榊原に接吻した 「酸素があると出来ねぇからよ」の、台詞に一生は大爆笑した 康太の声に四宮は、目を醒ました 目を開けた瞬間…榊原との接吻… 四宮は、目を開けて後悔した そして康太の榊原への執着を見せ付けられ… 「おめぇも狸寝入りしてんじゃねぇよ聡一郎!」 名前を呼ばれ、顔を上げた 「脇腹…縫いましたよね?」 四宮は、思わず聞いた 康太は…それは知らん!と、言い捨てた 目が醒めたら此処にいた だから、その前は知らん…と。 四宮は、康太が生きていてくれれば… それだけで生きていけると泣いた 康太は横で伏せている一条の頭を撫でた 「隼人、なくしてねぇから目を開けろ」 康太が言うと、一条は顔を上げた 「隼人、泣くな 探偵なんだろ? 仕事に差し支える」 泣き腫らした目は、酷い惨状になっていた 「一生、隼人の目を冷やしてやってくれ」 言われて見ると…あらら、こりゃ大変だわ と、病室から出て氷をもらいに行った 「伊織…電話、瑛兄に電話する」 康太が言うと、榊原は康太の電話を渡した コール一回で、瑛太は電話に出た 「伊織か?康太に何があったんですか…」 まさか康太本人からの電話だとは瑛太は思っていなかった この兄にも心配をかけた 「瑛兄…」 康太が喋ると、瑛太は涙声で直ぐにそっちに行きます!と、電話を切った 暫くすると、飛鳥井の家族が病室に来た 康太は勝手に酸素を取って、ベットを少し上げて起きていた 源右衛門は、わしより先に行くな!と怒り 父 清隆は、康太の頭を頻りに撫で 母 玲香は、生きていてくれるだけで良い…と、涙した 蒼太は、何も言わす康太を撫で 恵太は、それを見守った 悠太は、スタジアムにいた康太はちゃんとした足取りで立っていた… ちゃんとケリを着けた姿を見ていた なのにあの時既に怪我を追っていたのか?と今更ながらに凄い兄に目眩を覚えていた 元気そうな康太の姿を目の当たりにして、家族全員生きていてくれて良かった…その想いだけだった 康太は瑛太に腕を伸ばした 榊原は、その席を瑛太に譲った 瑛太の首に抱き着き、康太は謝った ごめん…と、何度も謝り その眦から涙が伝うのを…家族は始めて見たかも知れない… 康太は泣かないから… 「お前が生きていてくれるだけで、兄は生きて逝けるのです‥‥」 瑛太は家族には見せない弱音を吐く この2人の兄弟の絆には、誰も割り入る隙はないのを、家族は改めて知る 「伊織の所へ帰ってこれて、良かったな」 康太の腕を外しベットに寝かせ、瑛太が言う する本当に嬉しそうに康太は笑った 「オレは死んでも伊織の元へ帰る! 命尽きても、伊織はオレのもんだかんな!」 康太の宣言に瑛太は康太の頭を撫でた 調子がやっと戻ってる康太に安心した 仕事のある瑛太は家族を引き連れて帰って行った

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