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第43話 休息①
回診の時に、酸素を取ってる康太に【久遠】とネーム入りの白衣を来た医者は苦笑した
「勝手に酸素を取るんじゃねぇよ怪我人」
「だって、着けてる方が苦しんだもんよー」
「‥‥‥お前等は‥‥本当に傷が耐えねぇな‥‥」
久遠は呆れて呟いた
そんな事はおかまいなしで康太は
「先生、オレは何時此処を出られるんだ?」
と医者の顔を見るなり、退院の算段を始めた
「お前は肋骨を内蔵に突き刺していたからな、内臓破裂寸前だった!
内蔵はデリケートな臓器だ
お前みたいに落ち着きがない患者は余計傷を悪化させる傾向があるから退院はまだまだだ!
よくあの傷で歩けたと、感心した
それが傷をより深くするのを解っててやったんだろうから自業自得と謂う言葉はお前の為にある言葉だと想え
内臓の傷が塞がるのに最低でも1週間はかかる!
2週間は入院は必要だ!」
医者は断言した
「じゃあ10日で手を打ってくれよ!
オレは根性で治すかんな!」
康太の言葉に医者は、治れば手を打ってやる!と、宣言した
ただし、無理だと想うけどな……と嗤って言った
康太は点滴を打ち、眠りについた
一条は仕事に行き、一生と四宮は病院内のテラスに行った
榊原は、清家に電話をかけた
電話に出た清家は、何故生徒会室に来ない!と怒った
榊原は「当面、そちらには顔を出せない」と告げた
清家に何故!と、理由を問われ
榊原は康太の怪我を話した
入院中は動きたくない!と、清家に告げた
清家はまさか入院する程の怪我を押して…
あれをやり遂げたのか…と、言葉を失った
清家は了承して電話を切った
電話を切ると、生徒会長の兵藤貴史に、榊原が出られない事を告げた
「会長、榊原は当分会議には出ません!」
と、言った清家の言葉に兵藤は
「理由は!」と問い詰めた
「飛鳥井康太が入院してるそうです」
兵藤も言葉を失った
誰も昨夜の康太の姿を見ていた
毅然と立ち向かう姿を…
兵藤は「病院に向かう」と、告げ立ち上がった
それを押し留め、座らせた
「今どの病院か、聞きます故にお待ちください」
清家は榊原に電話をし
康太の入院している病院を聞いた
兵藤が病院に行くと聞かないから、教えて下さい!と言うと
榊原は総合病院の名前と病室の番号を教えた
清家はメモをして立ち上がり
兵藤に「会長、病院が解りました!お供致します」と頭を下げた
生徒会から数名、執行部から数名
病院に向かう事にして、解散した
兵藤達は、康太の病院に向かった
少し眠っていた康太は目を醒まし、榊原を探した
それに気が付いた榊原が
「どうしたの?」と、康太に話しかけた
「伊織がいないのは嫌だ…」
榊原は、笑って康太の頭を撫でた
「何処にも行きませんよ
康太の側が僕の居場所ですから…」
康太は榊原の指を握り締めた
「康太、清家が兵藤を連れて此処へ来ます」
榊原が言うと、康太は驚いた顔をして見上げた
「僕は康太が退院するまで、此処を動きません
すると、執行部に出れないので…
清家に言ったんです…
そしたら、兵藤か出てきたのです…」
生徒会や執行部は、夏休みに後に始まる合同祭の準備で忙しい時期だった…
が、今回の事で停滞してしまって…
挽回せねばならないのに…康太の怪我で……
榊原は迷うことなく、当然康太を取った
暫くするとドアがノックされた
榊原がドアを開けると、兵藤が立っていた
榊原は、兵藤を招き入れた
後に清家が続き、生徒会と執行部のメンバーが数人入った
後はドアの前で待機だった
康太はベットを少し起こしてもらい起きていた
上半身は裸で包帯が巻き付けてあり、腕には点滴が刺さっていた
兵藤は、榊原に事の詳細を求めた
康太に聞くと辛そうだから…
「康太は、城之内のバイクでスタジアムに入って来てグランドに飛んだで落下する時
バイクをまともに食らい、肋骨を2本……
内臓に突き刺して、緊急手術になったんです」
兵藤は、驚いた
あの場所にいた時にはもう痛めていたとは…
気付けなかった自分に腹が立つ
「榊原、お前が病院に?」
榊原は、首をふった
「康太は瑛太さんに逢いに言ったんです…
こんな体で瑛太さんの場所に行った」
嘘…肋骨を2本も刺したまま飛鳥井瑛太に逢いに行ったとは…
そして飛鳥井瑛太は、榊原を呼び出した
電話を受けて、慌ててスタジアムを去る榊原を兵藤は見ていた
「康太、あんまし無茶すんな」
兵藤の言葉に康太は笑った
「当分は大人しくしてるさ」
兵藤は、康太にキツい眼差しを送った
「俺は出るな!と、言ったよな?」
「降りかかる火の粉は払うさ」
怪我をしてても減らず口な康太だった
「貴史、笑え!
お前は鉄火面の電子頭脳じゃねぇ
この先もお前は人間臭い奴にならないと、人は着いては来ねぇ
人間、兵藤貴史になれ
オレはそれを見ていたいんだ!」
「俺は別に感情など邪魔だと思ったが…
お前がそれを阻むのなら、俺はそれを受け入れる
それがこの先の俺の指針になる
お前が用意した場所だ!
目を離すんじゃねぇぞ!」
康太は兵藤に拳を見せた
すると兵藤は、その拳に拳を合わせ、嗤った
清家が康太に声をかけようとした時、ドアがノックされた
榊原は、清家出て…と言った
清家はドアを開けに向かった
病室の前に控える生徒の壁に瑛太は驚きドアをノックした
すると中も凄かった
そして目の前に兵藤貴史が、立っていて
瑛太を見ると頭を下げた
「貴史君、久し振りだね」
瑛太が声をかける
康太が瑛太に声をかけると、清家はその人が飛鳥井瑛太だと知った
生徒会室にある写真より、大人になった姿に清家は息を飲んだ
「瑛兄…」
名前を呼ばれ瑛太は康太の側に行く
そして「康太の兄の、飛鳥井瑛太です!」と頭を下げた
生徒会役員は目の前に伝説の執行部部長を目にして感激して、一斉に頭を下げた
瑛太は康太に「気分はどうだ?」と尋ねた
すると康太は
「医者に10日で退院させろ!
と言ったら
出来るもんならやってみろ!
みたいに言われたから10日で退院してやるつもり」と、可愛く笑った
瑛太は………何と言って良いか解らず榊原を見た
「仕方がないです
それが康太です
今朝も邪魔だって酸素を勝手に捨てましたし…」
榊原の言葉に、そう言やぁ酸素は…
してたのに…と、がっくし肩を落とした
「なんかアヒルみてぇで邪魔なんだもんよー」
これなら本当に10日で退院して来そうで、瑛太は笑った
「何が欲しいのはあるか?」瑛太が聞くと
「今CMでやってるやん、森の熊達が大きな釜で煮込んで作った、森の熊印のロイヤルミルクティー」……と、康太は言った
瑛太は笑って「じゃあ秘書に言って買わせて来よう!明日持ってくるから」
と、康太の額にキスを落とし帰って行った
瑛太が帰ると、康太は兵藤を見て
「貴史、今回はオレの失態だ
お前は気にするな
今回…オレは勝機も詠めてねぇのに動いた
生徒を閉じ込めておいて長引かせたら…
些細な事から暴動が起きる…
そうしたら清家では荷が重い…
だから、焦って突っ走った
勝機を手中に納めてないのに動いたオレの失態だ!お前は気にするな」
と、サラッと言った
「康太…おめぇ…ったくよう!」
兵藤が唸った
康太は風を読み星を詠み、勝機を呼び寄せる
それが今回は詠めてなかった事に驚き隠せなかった
「後、3日で桜林は夏休みに入る
今年は水泳大会が中止になった分、桜林祭は盛大にやると決定された
だから、早く治せ!」
兵藤は、生徒会長の顔で康太に言った
康太は「おう!10日待ってろ!」と返した
「肋骨を2本も内臓に突き刺して…
後10日で退院してやる…
なんて無茶すぎる!」
言われ、康太は笑った
「良い子して当分寝てろ!
榊原、ソレが退院するまで休んで構わない
お前はソレを見張ってろ!」
兵藤も、そう言い笑った
「では、我等生徒会と執行部は帰るとするか!
康太、治ったら生徒会室に顔を出せ!」
康太は「おう!」と片手を上げた
それを振り切るように、兵藤は病室を出て行った
入院中、起きれない康太は榊原にご飯を食べさせてもらっていた
スプーンで…
啜るだけで、終わる食事に康太は不満だった
じぃー……っと、榊原に恨みがましい目を向ける
スプーンを口に食わえ…榊原を見た
その姿に榊原は、悩殺される
怪我さえしてなきゃ、押し倒している
榊原は、夕飯のトレーを廊下の棚に返した
「伊織、お腹減った…」
榊原の背中にタラーっと冷や汗が流れた
今……食事を終えたばかりなのに……
榊原は、一生に助けを求めた
仕方ないから、一生は出てやる
「康太、脇腹縫った人間は………」
言葉が続かない……
じぃー…っと見られると…困る
食い物の恨みって怖いし…
一生は、四宮を見た
四宮は、こっちにフルな!と手をふって慌てた
「入院中は我慢せぇ…」
「なら一生、伊織をお風呂に入れて、着替えさせて来るもんよー!」
「康太…」
「伊織を少し休まさせてくれ
オレはもう大丈夫だし、聡一郎も隼人もいる
だから、頼む!
そしてオレにプリンを買って来やがれ!」
康太は、一生の手を握った
その手は発熱して熱かった
それで康太の意図を知る
一生は、榊原に
「一度着替えて、風呂に入りに行こうぜ!
瑛兄さんが病院の傍のホテルの部屋を取ってくれたからなら
ホテルからなら病院に近いし、時間はかからねぇから行こうぜ」と誘うが…榊原は首をふった
「康太から離れたくない」…と。
康太は榊原に
「伊織……このままじゃお前がベットの住人になっちまう
一生で不満ならオレが連れて行く!」と言い捨てた
…………本当にやりかねないのが康太だ
榊原は、ため息をついた
「お風呂に入って、着替えて来いよ
ずっとオレに着いてて、伊織が倒れちまう」
更に康太に言われたら…断れない
榊原はプリンを買って来ますから…と言い、病室を一生と出て行った
榊原が出て行って、康太は息を大きく吐き出した
四宮にベットを下げてもらい目を閉じる姿は辛そうだ
四宮は康太の額に手をあて、発熱しているのに気が付いて慌てた
康太は寝てれば治るから…
と言うのを無視して、四宮はナースコールを押した
暫くして看護師がやって来て、状況を説明すると体温計を康太の脇に差し込み
脈を計かり、ピピッと体温計が鳴ると、脇から取りだし見た
看護師の顔が変わる
かなり発熱してるのを診とると
「先生を御呼びしますから待ってて下さい」と、医者を呼びに行った
慌てて駆け付けた医者は、康太の側に来るなり「お前は無理し過ぎ!」と怒った
そして点滴を取り換え、康太に注射を打った
「ちゃんと寝ていろ!
10日で治したいなら、無理はするな!
気力で治る傷じゃないのは一番解ってる筈だ!」
医者の痛い一撃に…康太は黙って頷いた
「ナースセンターまで氷枕を取りに来てください」と、言い病室を後にした
医者が言う通り…暫くすると…康太は眠りに落ちた
康太は何時も見ていた…
何も言わす…
黙って…榊原を見ていた
廊下を通る時に、榊原の横を擦れ違うと…良い薫りが伝わる…
その薫りを嗅ぐだけで…幸せな気持ちになれた
榊原が、可愛い男の子の肩に手をかける
校庭の片隅で見つけた時…
何で…その相手が自分じゃないのか…
涙が止まらなかった…
好きで…
好きで…大好きな榊原…伊織
横を通ると…冷たい瞳を向ける
相手にされないのは…知っている…
だけど…好きなのだから…見てしまう
瑛太の着ていた夏の桜林の制服を
榊原は、ストイックに着る
白いYシャツに、袖に青いラインの入った制服が、逞しい体に包まれてる姿を見るたびに…
近寄りたくて…
触りたくて…
側に行けない現実…
君に好かれるなら…
君の触る机になりたい
君の触れる…黒板になりたい
君に目を向けてもらえる花になりたい
そんな冷たい瞳を向けられる飛鳥井康太には…
オレはなりたくない
康太の眦から、涙が零れる…
四宮は、拭っても止まらない涙に…
榊原を呼んだ…
お風呂に入って、着替えたから戻っている最中です
と、聞き胸を撫で下ろした
暫くして、榊原が病室に戻って来た
康太の側に行くと…康太は泣いていた
声も出さず、眠った康太は涙を流し続けていた
榊原は康太の耳元で声をかけ、頭を撫でた
眦に接吻を落とす
手を握ってやると、涙は…止まった
一生は…最近見なかったのに……
城之内が来た時に、話をしたから…記憶が元に戻ってんだよ…と言った
「康太は絶対に涙は見せない
瑛太さんには泣き付いても、家族や俺達には涙は見せない
その康太が耐えきれず泣いた時があった…
校庭の片隅でお前が誰かの髪を触ってる姿を見た時…
オレは飛鳥井康太にはなりたくなかった…って涙を流してた
多分…その時に…記憶が飛んでんだよ」
榊原は、言葉をなくした…
「でも、それはお前が悪いんじゃない
誰も悪くねぇ!聡一郎、医者呼んだか?」
一生は康太の発熱を知っていた
知っていたから、榊原がこれ以上心配しないように…連れ出したのに…
「はい!発熱してたから、呼びました」
四宮は、榊原が出て行ってからの事を話した
「だからだよ!夢を見てんだよ康太は…」
一生は、榊原をソファーに座らせた
「康太は寝てる!
お前も少し寝ろ!
でないとお前が倒れる!
それは康太の望みではない
昼間は俺達が見るから昼間寝る…とかしてかねぇと倒れるぞ」
榊原をソファーに寝かせ、毛布をかけた
そして枕元のライトだけ灯し、電気を消した
榊原が寝てすぐ、榊原の携帯がバイブで震えた
一生は、携帯を取ると電話に出た
「もしもし…伊織は寝てます
用件を伺います」
と一生が言うと、電話の相手は
「君は誰ですか?
何故伊織の電話に出るんですか?」
と、警戒し威嚇するように話し出した
「俺は緑川一生です
康太が入院してて、榊原は寝ずに看病をしてました
今、少し寝させてます
だから俺が出ました…ご容赦を」
一生は、電話の相手に言った
電話の相手は
「榊原清四郎です!一生君ですか?」
と、名乗った
榊原は、自分の父親にも康太の怪我は言ってなかったのだ…
「康太君が怪我って…入院しているなんて…知りませんでした…」
清四郎は夏休みになったら、康太と榊原を誘って家族旅行に行こうと思い…
電話を入れてきたのだから…
康太が怪我して入院しているなんて…
一生の言葉に…榊清四郎は頭をハンマーで殴られた位の衝撃を受けた
康太をなくしたら…アレは死んでしまう…
恐怖が襲う…
「あの、一生君、 私は…伊織から聞いてないので…詳しく聞かせて下さい」
清四郎は一生に頼んだ
一生は、病室を出ると事の経緯を清四郎に話し、入院している病院の名前を告げた
清四郎は慌てて妻に、電話をかけた
伊織がこのままじゃ…死んでしまう…
と清四郎は泣いた
妻は笙と連絡を取り、笙に康太の入院を告げた
笙も言葉を失った
家族は皆、榊原の本気と執着を知っていたから……
康太に何かあったら…考えるだけで…怖い…
清四郎は、妻と笙と合流して病院に向かった
面会の時間は終わっていたが……
笙の知り合いの医者に頼み、何とか病院に入れてもらった
病院に着いたよ…と、一生に電話を入れると
一生が迎えに来てくれ
病室に行くまでに、詳細を話してくれた
病室に入ると…榊原は起きていた
一生は「あれ程寝ろと言ったのに…」と怒った
清四郎は息子に手を伸ばし、抱き締めた
愛する康太の身に…何かあれば、この子も生きてはいなかったのだろう
榊原の決意の瞳に、清四郎は…抱き締めるしか出来なかった
「伊織…眠らないと…
君が倒れたら誰が康太君の看病をするんだい?
さぁ…眠りなさい伊織…」
「父さん…」
榊原をソファーに寝かせ毛布をかけた
母親の北城真矢は、榊原の頭を撫でた
そして綺麗に笑い
「言うことを聞きなさい!」と目を閉じさせた
母に頭を撫でられるのは…子供の頃以来だ…
榊原は、目を閉じた…
榊原の父も母も兄も…榊原の為に来た
康太が取り戻してくれた家族の暖かさに榊原は包まれて…
眠りに落ちた…
清四郎は息子が眠りに堕ちると、康太のベットの横に立った
康太の姿は想像以上に痛々しかった
腕には点滴が刺さり、体は包帯に巻かれ
眠っていた
清四郎は、康太の髪を掻き上げた
顔には殴られた様な痣もある
こんなに…身を呈しても、康太は歩みを止めない
だから榊原は共にあろうと…するのだろう
「一生君、君も眠りなさい
朝まで私が康太君を見守るよ
君達のの大切な康太は、私は見守っているから…君も眠りなさい
君は…伊織以上に疲れた顔をしているよ
こんな顔みたら康太が心配します……さぁ君も眠りなさい」
清四郎が言うと、笙が一生に付き添いブランケットをかけてやった
この男も…体をはって…身を呈して生きている
暫しの安息を与えてやりたかった
「君も眠らないとね」
一生は、笙を見た
優しげな目で笙は、一生を見ていた
笙は、一生の目を閉じてやると…頭を撫でてやった
さぁ…眠れ
戦士にも休息は必要だ…と、一生の耳に囁く…
一生の疲れた体が休息を求め…
眠りに…堕ちた
康太は夜が明ける前に、目を醒ました
ソファーを見ると、榊原と一生は寝ていた
寝てくれて良かった…
ずっと康太の横で手を握って…榊原は寝ていない
風呂も着替えもせず、着きっきりだった
体を壊さないか…心配だった
目を醒ました康太に気が付いた清四郎は
康太に「君もまだ眠りなさい」と声をかけた
康太の口が、清四郎さん…と呼ぶ
清四郎は康太に微笑み、さぁ眠りなさい…
と優しく撫でた
君達に安らかな眠りを…
私達が守るから…眠りなさい…と
朝、康太が目を醒ますと、榊清四郎は横にいた
康太は夢じゃなかったんだな…と笑った
昨夜の熱も引いていた
康太は榊原の姿を探した
清四郎は息子に目で合図をして、入れ替わった
榊原が横に来ると、康太は腕を伸ばし抱き着いた
「康太…どうしたの?」
康太は何も言わなかった
榊原は、康太の気がすむまで抱き付かせてやった
康太の鼻に、榊原の匂いがする
側で嗅ぎたくて、触りたくて…
願った…榊原の匂いに包まれる
そんな康太に一生は声をかけた
「康太、夢じゃねぇから起きやがれ!
そいつはお前んだ!目を醒ませ!」
一生の声かけに康太は笑い…榊原に接吻して
体を離した
「意識が伊織の近くに行く前に戻ってた…
つい確かめたくなっちまった……」
と、体を離して…康太は呟いた
一生は大きくため息をついた
「やっぱり…そうか
昨日も寝ながら泣いてたし…
城之内との会話で…片想いの時に戻ってんだなと…思った」
一生が言うと、康太は悲しげに笑った
「オレは…飛鳥井康太にはなりたくなかった…」
康太の言葉に榊原は…胸が痛む…
そう言うと、一生が康太の頭を叩いた
「昔に引き戻されてんじゃねぇよ!」
一生が言うと、康太は笑った
「オレは繊細な少年なんだよ!」
康太が言うと、一生は病室にあったパイプ椅子を持とうとして榊原に止められた
「何が洗剤じゃ!」
一生は毒づいた
「あれもオレだ、一生…」
一生は何も言わずに康太を見た
「伊織に冷たい瞳で見られる飛鳥井康太には
オレはなりたくなかった…
オレ以外なら目を向けてくれるなら…
それになりたかった…
その気持ちを忘れて、今はねぇのに気が付いた…」
「じゃあ…もう忘れんなよ」
「あぁ、忘れねぇよ!」
康太は笑った
その笑みには辛さも悲しさも乗り越え重ねられた強さがあった
康太は榊原を見上げ「眠れたか?」と聞いた
「眠りましたよ
康太のプリン買って来ましたよ
後で出しましょう」
榊原は、優しい笑みで康太を包んだ
そんな榊原と康太を清四郎と妻と笙は、見守って行こうと思った…
この先もずっと…
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