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第49話 獅子身中の虫

トナミ海運の前に着くと、運転手がドアを開けてくれた それを見計らって社屋から社員が出て来た 「飛鳥井康太さん 良く来て下さいました ご案内いまします。」 迎えに来た男に案内され社屋に入る 役員専用のエレベーターに乗り込むと、最上階の部屋に通された 「この部屋で作業をして戴くようにと、社長から受けた賜っております。」 案内した男が椅子を引き出し康太を座らせる 目の前には…社長室並の机があった 「後、我が社のシステムプログラマーが同席致しますが、宜しいですか?」 「あぁ。構わない」 康太が答えると男は頭を下げ、そのシステムプログラマーを部屋に招き入れた システムプログラマーは………… にやけた嫌らしい目で… 康太を見詰め 手を差し出し 「システムプログラマーの梁井光希です」 と、握手を求めた 「オレは握手はしない主義なんで」と、言うと梁井は手を引っ込めた 「じゃあ君のお手並みを拝見ですね」 梁井は、こんなクソガキに自分の身を脅かす事なんて出来る筈がない! と、舐めていた 康太がPCを触ると梁井は、その集中力を欠くような事を仕掛けて来た 「ねぇ君の髪って綺麗だね」 康太が、触んじゃねぇ!と言うと、ニャ着いて、更に触手を伸ばした 康太はトイレに行く、と言い部屋を出た トイレに行くと個室に駆け込み、榊原に電話をした 榊原は電話に直ぐ出て、何かあったの?と、優しい声で康太に尋ねた 「伊織…来い!今すぐオレを助けろ…」 康太が言うと、何も言わず直ぐに行きます!と、電話を切った 康太は……あの蛇の様な執拗な目が嫌いだった… 何かを仕掛けて来そうな…不安があった 絶対に仕掛けてくる… 確証もあった でなきゃ、システムプログラマーがいて SYSTEMの分散化が出来ていないのは…おかしかったから… 何かあると…思った だったら…アイツは仕掛けてくる 部屋に戻ると梁井は長かったんだね…と康太に触ろうとした 康太はその手から避けた 「あんたはオレの邪魔をする為にいるのか?」 康太が問うと 梁井は、笑い飛ばした 「お前、年幾つなんだよ? 子供の真似事に駆り出されるこっちの身にもなれよ」 康太をバカにして鼻で笑う 「お前、社長のお手付きなんだろ? ったく社長も好きだからなぁ」 話にならないと部屋を出ようとした時 梁井は…康太の腕を掴んだ 「お前、幾らPCの事少しは詳しいからって、口を出すな!」 「トナミのセキュリティを甘く作って、テロの標的にするつもりだった? それとも機密情報の漏洩か…? 狙いはそっちだろ?」 図星を刺された梁井は…康太に詰め寄った 「ガキは黙って社長に脚を開いていれば良いんだよ」 梁井は康太が戸波の愛人だと思っていた 「オレは戸浪の愛人じゃねぇ!」 康太が言った所で…梁井は信じやしない 「まぁ黙らせるには…黙らせる遣り方がある…」 梁井は、康太に捻り寄り… 康太は…後退った… 何で最近、こんな爬虫類の男に追い詰められねぇといけねぇんだよ! 四宮朝霧も…蛇の様な目をしていた… 梁井は……ワニの様な獰猛な目で康太を追い詰めようとしていた これは……想定外… 何故…こんな奴がいる… 榊原は、康太からの電話を切ると直ぐに行こうと焦っていた その焦りに気が付いたのは、瑛太だった 「今の電話康太からですか?何だって?」 「直ぐに来て欲しい…と。 僕、これから行きます」 今にも飛んで行きそうな榊原を押し留め 瑛太は秘書の佐伯明日菜を着けると言った 「私が出ると遺恨が残る… 佐伯に総てを委託する 彼女と行きなさい!」 榊原は了承し、秘書の佐伯と共に行く事にした 佐伯の凄い運転に耐え、トナミ海運本社ビルに着くと 榊原は飛び出しそうな勢いだったが、留まらせ 佐伯が私が遣りますから…と、榊原を引き連れビルの中に入った 受け付けカウンターに行き、受け付け嬢に 飛鳥井康太の部屋に案内しなさい!と告げた 「私は飛鳥井瑛太の秘書の佐伯明日菜 そして彼は飛鳥井康太の伴侶 今すぐ飛鳥井康太の部屋に案内しなさい!」 佐伯が告げると受け付け嬢は慌てて、康太を案内した男を呼んだ そしてその男が康太の部屋まで案内した 部屋の前に行くと、この部屋です。と言いドアを開けようとするが… ドアには施錠がしてあった… 「あれ…何故…?」 佐伯は冷たい目で、早く開けろ!とプレッシャーをかけた 男はパニックになっていた 仕方なく佐伯は榊原に振り向くと 「このドアを蹴破れ!」 と指図した 榊原はドアを物凄い勢いで 蹴破った バタァァァーン と、けたたましい音を立ててドアは蹴破られた 飛び込もうとする榊原を遮り 佐伯は証拠の写真を撮った そして、康太さんの所へ行きなさい!と指図した 榊原は物凄い勢いで、康太の上の男を投げ飛ばした 康太は顔を背け震っていた 佐伯は、投げ飛ばされた男を捕まえた 「この男の身柄を確保しなさい!」と指図した 騒ぎを聞き付け、隣の社長室から戸浪が飛び出して来た そして、一部始終を目にし唖然となった 榊原は、床に押し倒された康太に手を伸ばした 康太は震えて目を閉じていたから…… その手が誰だか解らなかった 「康太…康太…助けに来たよ」 声をかけると…やっと康太は目を開き 泣き出した その鳴き声は悲痛に吐き出され 昨夜の身を呈して乗り込んだ時と違って 想定外の事なのだと…戸浪は知った 恋人の腕の中で泣く康太は幼く見えた 「戸浪社長、私、飛鳥井瑛太の秘書の佐伯明日菜と申します 今日は康太さんは使い物にはなりません 引き上げます!宜しいですか?」 戸浪は佐伯の言い分を飲むしかなかった 「康太さんは恋人に助けを求めました それに副社長は気付いたので…私を差し向けられました …その真意は解りますね?」 戸浪は黙って頷いた 「それと、あの男、拘束して部屋に閉じ込めて下さい」 戸浪は警備員に、部屋に閉じ込めなさい!と指示を出した 「戸浪社長、お部屋を貸して下さい この様な康太さんをお連れ出来ません 少し落ち着かせねば…」 戸浪は社長室に連れて来て下さい! と、社長室のドアを開けた 社長室のソファーに榊原は康太を膝の上に抱き締めて座った 座って抱き締めているのに…康太は震え、怯えていた 佐伯は、少し二人だけにさせてあげて下さい と言い、戸浪を部屋から連れ出した 二人きりになった榊原は、康太にキスをした 「康太…もう僕がいるからね…」 康太の瞳が榊原を写す その瞳は涙で揺れていた 「伊織…気持ちが悪かった…」 「どこ触られた?」 「無理矢理…キスして来て…服の上から触られた…」 「僕が、あんな奴の感触なんて忘れさせてあげます」 伊織以外には触られたくないのだ… と、康太は泣いた 榊原は、根気よく康太を慰めキスを送った 「伊織、ごめん…」 康太は榊原の指を握り、謝った 「僕は君の側にいます だから…もう泣かないで… あっそうだ!聡一郎が目を醒ましましたよ」 榊原の言葉に康太は顔をあげた 早く逢いたい… でも自分は戸浪と約束したのだ… 捨てて行ける筈などないのだ 請け負った仕事を投げ出して良いとは教えられていない 飛鳥井の名折れになる 康太は涙を拭うと…立ち上がった 「もう大丈夫?」 「あぁ…もう大丈夫だかんな…」 「僕は側にいます」 康太は嬉しそうに笑った 「伊織、佐伯と若旦那を呼んで」 康太が言うと榊原は立ち上がり、社長室のドアを開けた ドアの直ぐ近くに戸浪と、佐伯は立っていた 「どうぞ!」 榊原が言うと、2人は社長室へ入ってきた 「康太君…本当に…」 戸浪が言うのを康太は遮った 「佐伯、何もなかった! 瑛兄にはそう報告しろ!解ったな?」 康太が言うと、佐伯は「はい!」と同意した 「若旦那、座ってくれ!話がある」 康太が促すと、戸浪は座った 「若旦那、あんたは獅子身中の虫を飼ってる…」 戸浪は…えっ…? と、驚いた 「内臓を知らねぇ間に食い破られ… 気付いた時には…もう手遅れだ……」 「康太君…解るように話してくれないか…?」 「若旦那、どうしてあんたの会社はプログラマーがいて オレの様なハッカーに簡単に破られたのか…考えなかったのか?」 戸浪は…あっ…と、言葉に詰まった 「梁井は、オレに仕事をさせたくなかった 注意力を散漫にさせる為に… オレの髪に触ったり…セクハラをして来た それでも無視してたら、オレを社長の愛人だと決め付け… 黙らす方法で押し倒された 体を嬲り犯す気だった… 何故…そこまでSYSTEMを触らせたくないか…考えてみろよ 梁井は、末端だ もっと腹の中に、あんたは獅子身中の虫を飼ってんだよ…」 戸波の顔が青褪めて行く… 「早く手を打たねぇと機密情報の漏洩は、免れねぇ…トナミ海運は失墜する! 確実にだ!」 「康太君…どうしたら…虫を退治出来る…?」 「オレに聞いて、どうすんだよ…」 「君だから聞きたい!教えてくれ」 「…すまねぇ 今は無理だわ…吐きそうに気持ち悪い…」 康太はレイプされかけたのだ… そんな康太に今、助言は酷な話なのである 「若旦那…オレは態勢を建て直す ……少し時間をくれ」 「会社の隣のホテルに部屋を取ろう…そこで休んで下さい そのスーツも汚れてしまいましたね…見繕います ホテルに差し入れさせましょう」 「若旦那、午後6時まで休む 今日のトナミ海運は残業はなしだ 社員全員帰らせろ 話はそれからだ 佐伯、瑛兄にはオレが電話を入れる お前は何も言うな!」 佐伯は、康太の言う事に頷いた 「では、ご一緒に参りましょう」 戸浪は秘書を先に行かせ、康太と共にホテルに出向いた 康太を部屋に案内すると、会社に戻っていった 部屋に入り、康太は携帯を取り出した 「瑛兄…オレ」 康太の声を聞くと…瑛太は安心したが何があったんだ…と、聞いてきた 康太は「何もなかった…」と、瑛太に伝えた 「何もなかった瑛兄。 それで終わらせてくれ…」 「お前が…そう言うなら私は何も言わない」 康太の頑固さは、飛鳥井源右衛門譲りだから… 「佐伯に送らせ会社に戻りなさい 私は待っている」 瑛太が言うが、康太はそれは無理だと言った 「オレは帰らねぇ 一度引き受けた仕事を投げ出すな!と教えられて来たオレが…仕事を投げ出して戻ったら、飛鳥井の名折れ 違うか?瑛兄」 「康太…無茶をするな…兄は…それだけが…気がかりだ」 「大丈夫だ。解ってる でも闘う前に…少し休む」 お前が…帰るまで…兄は…待ってるから…と、伝えると…瑛太は電話を切った 康太は電話を切ると榊原に抱き着いた 「康太…お風呂に入りましょう 康太の言う場所総て洗ってあげます キスしてあげます…から…」 榊原は、康太の体を隅々まで洗うと、ベッドに運び…キスの雨を降らせた より強い刺激を与えないと… 潔癖症の康太は…立ち直れない… 康太の穴を指と舌で柔らかく解し… ベットに凭れかかった榊原を跨ぐように受け入れた 腰を揺する康太の性器が震えて…先走りで濡れていた 「康太…もう…僕の感触しかしない?」 腰を揺すりながら…康太に尋ねる 康太は頷き、榊原の首に腕を回した 今朝まで交わって…疲れた体が限界を告げる 白濁を吐き出すと…康太は意識を手離した 榊原は、気を失った康太をバスルームに連れて行き、処理をしてベットに入った 6時まではまだある 榊原は、康太を抱き締めて…眠りに落ちた 目が醒めた時、康太はもう普通だった フロントから5時頃電話が入り、2人分の服と軽いランチが差し入れられた ホテルの従業員は、バスロープ姿の榊原と、全裸の康太の姿を見ても顔色1つ変えず接客をした 康太と榊原の着替えは、クリーニングが済み次第、飛鳥井の家に届けられる手筈までしてあった 康太もバスロープに袖を通すと、軽くランチを取った そして用意された服に着替え部屋を後にする 下のロビーに行くと、戸浪海里が出迎えに来ていた 康太は、戸浪海里を見付けると不敵に嗤った 「社員は帰したか?」 康太が問うと戸浪は「はい。警備員がトイレまで確認致しました」と告げた 康太は…なら良い と、軽快に歩く 「獅子身中の虫は、炙り出されるのが定番 炙り出してやんよ」 やんちゃ坊主みたいな顔して笑う 康太の後ろに控えた榊原は、康太の影の様に寄り添い…決して目立つ事なく、康太に寄り添う その姿は一対で…完璧な伴侶だった 「さてと 伊織、一生を呼べ!」 「では、僕は聡一郎に着いているとしましょう 戸浪さん、僕を病院まで送り変わりに緑川一生を乗せて康太の所へ連れてきて下さい」 康太は微笑み、榊原を見送った 榊原は、戸浪の秘書が送って行き 一生を乗せて帰って来る為に…帰路に着いた 戸浪が…良いんですか? と問い掛けた 康太は戸浪に 「適材適所、見誤ると取り返しはつかない オレのサポートは緑川一生が努める!」 と、気持ちを切り替えている康太が言い放った 康太は、戸波の社長室でPCを開き…キーボードー操作した 暫くすると、緑川一生がやって来て無言で康太の横に座った そして用意されたPCを操作して、準備を立ち上げる 「康太、俺の方は準備は万端」 「なら、オレの行く後に…特定しろ」 一生は、了解と…キーボードを叩いた 戸浪は声がかけられなかった 作業は…夜9時になっても終わらず… 康太のポケットの携帯が鳴ると、康太は戸浪に放った 「一生、罠を仕掛けろ 火炙りの刑にしねぇとな やっぱ虫は昔っから火炙りが定番だかんな!」 康太がそう言うと一生は、だな!と同意した 「トナミ海運は近々北欧ルートの発表をする…それで釣るかんな」 一生は、おう!と、康太に着いて行く 戸浪は寸分違わず息が合ってないと…出来ない連鎖だと感心した 康太の適材適所…が良く解る 甘い子供の顔に騙されそうだが… 飛鳥井康太は敵にしたら…強敵になる 「康太、特定出来た!」 一生が康太にPCの画面を見せる 「若旦那…お前、腹心中の腹心に内臓を食い破られそうじゃねぇか よくもまぁ…信頼してんなこんな奴を」 康太は、お前の目で見ろ!と指示を出した 康太の言葉にPCの画面を見ると…専務の顔が写し出されていた 「間違いなく…彼が?」 戸浪が聞くと、康太は眉を顰めた 「それはどう言う意味だ! オレが信じられねぇなら、作業は此処までだ! 腸食い破られれば良い!」 康太は不快感を露にした 戸浪は、すみませんでした…と深々と頭を下げた 「彼は…私の…腹違いの弟…です」 戸浪が説明するのを康太は止めた 「こいつが誰かなんてオレには関係ねぇ! こいつはトナミ海運に仇成す輩な以上は成敗する もう止まらねぇんだよ! 動き出したオレを止たいなら、命をかけろ!」 康太が立ち上がり宣言する 見ていた一生は捕捉する 「戸浪さん、誰も動き出した康太を止められない 康太を止められるのはこの世で2人 貴方が命を懸けたって止まりはしません」 戸浪海里は押し黙った 「若旦那、仇成すモノは切れ! 身内ならお前の手で撃ち取ってやれ それが……切る側の努め!」 康太の言葉に…戸浪は苦渋の表情を浮かべた 「担ぎ出された御輿に乗る奴も…罪は罪 あんたのやってるのは、飼い殺しだ 切って、叩き出せ! そして…その影で糸引く楽しい奴は、明日、解る さてと、一生帰るぞ! やっと聡一郎に逢える」 康太が謂うと一生は康太の身を案じて 「康太、おめぇは大丈夫なんかよ? 旦那が血相変えて消えた 何かあったんだろ?」 と確認の言葉を投げ掛けた 一生には嘘は通用しない… 康太は観念して話した 「トナミにワニみたいな…爬虫類の男がいて…オレを犯そうとした 未遂だが…吐きそうで建て直すのに、伊織が必要だった」 一生はそうか…と、言い何も言わなかった 「帰るなら、お送りします」 「あぁ!明日の朝、今日と同じ時間に迎えに来い 仕上げが出来る セキュリティはそれからだ 白馬はそれを見届けて出発するかんな!」 康太の言葉に戸浪は頷いた 総てが一段落すると…日付が変わる手前になっていた… 病院の榊原は、瑛太に家に連れて帰る様に頼んでおいた 病院の四宮には、聖に頼んで付き添ってもらった 康太は、戸浪に送られ…自宅に送られる車の中で眠っていた 一生の膝で倒れるように眠り… 一生は、それを守るように…抱いた 「康太君…眠ってしまいましたね…」 戸浪が声をかけると、一生は寝てるんじゃねぇ、気を失ってんだ…と言った 「康太は…全神経使って仕事する だから終わると気絶する PCは、康太の武器だかんな」 2人の結び付きも深い 戸浪の車が、飛鳥井の家の前に停まると、飛鳥井瑛太が待ちわびていた ドアを開け、康太を一生から受け取ると、その手に抱く そして一生が降りるのを待ち、戸浪に頭を下げた 康太を抱き上げたまま移動しょうとすると、康太が目を醒ました 「瑛兄、ただいま!」 康太の腕が瑛太に巻き付く 「お帰り…部屋に送ろう」 「一生、お前も来い 雑魚寝するもんよー」 一生は、まぢかよ…とボヤきつつも康太に着いて行った 瑛太は康太の部屋のドアをノックした 中から出て来た榊原に康太を渡した 「瑛兄、お休み」 瑛太は康太の頭を撫でて…自室へと帰って行った 「今日は一生も入れて雑魚寝するかんな!」 と、康太が言うと榊原は…えっ?と聞き直した 「ダメ…?」 「ダメじゃないけど…隼人がいる」 ………! 最近忙しくて一条を忘れていた… 「じゃあ、客間に布団敷いて 皆で雑魚寝するか……」 康太が言うと、一条が康太めがけて飛んできた 榊原は危うく康太を落とすところだった 康太を下ろすと、一条は康太に抱き着いた 「隼人…淋しかったのか…」 康太が言うと、一条は首をブンブンふって頷いた 「聡一郎の所には行ったのか?」 「行った!でも聖とキスしてたから、中に入るの止めた」 ……爆弾発言ですよぉ隼人ぉ 康太は一生を見た 「俺はアイツと、入れ違いだ!」 榊原を見ると、榊原も首をふった 「彼は僕と入れ違いです」 「…聖かぁ…でも良いか アイツが生きていれば良い」 皆は納得して…頷いた 客間に布団を敷いて、4人で雑魚寝した 一生は一条に抱き着いて 一条は康太に抱き着いて 康太は榊原に抱き着いて  榊原は康太に抱き締めて 眠りに…落ちた 四宮聡一郎は、8月3日には退院出来ると朝食を食べている時に告げられた 康太は…なら8月3日迄には、総てを片付けないと…と思案した 「瑛兄、俺は8月の5日に白馬に行くわ それで良いか?」 康太が瑛太に問うと、瑛太は 「お前の好きにしないさい… 言い出したら、お前は動かない なら戸浪の仕事を完遂するまで遣りなさい 私は最大限のフォローをしてやろう」と言った 康太は箸を食わえ笑った 「一生、聡一郎を頼む 中々行けねぇけど…永久の別れじゃね 退院したら逢える」 康太が言うと、一生は 「んな事は、聡一郎が一番解ってる…! お前は無茶をすんじゃねぇ! それだけ約束しろ!」と、康太に迫った 「もう無茶する様な出来事はねぇよ 後は詰めてくだけだかんな!」 康太は楽しそうだった 勝機の先を読んでいるかのように… 「伊織…お前は今日は自分の仕事を片付けろ 病院には一生が行く 無理はすんな…とオレに何時も言うなら お前が一番無理をすんな…! 夜中に仕事するなら、昼にオレの部屋でやれ」 榊原は、何も言えなかった… 「じゃあ…何かあったら、呼んで下さい 駆け付けます!」 榊原の言うことに康太は「もうねぇから、呼ばねえもんよー」と笑った 時間が来て……戸浪海里が自ら迎えに来た 康太は、昨日とは違うスーツに身を包んで飛鳥井の家を出た 車に乗り込むと、康太は戸浪に「楽しみだな」と答えた 戸浪は…何がですか?と問い質した 「昨日、オレは言わなかったか? 朝になったら…引っ掛かっているのがいる…と! 朝は警備室に寄る 警備員にPCで指示を出した!多分…いる」 康太はそれっきり口を継ぐんだ 会社に着くと、飛鳥井康太が戸浪海里を引き連れ出社する姿に、社員は息を飲んだ 戸浪の前を歩く康太は…スーツのズボンのポケットに手を突っ込んで歩いていた だけど…存在感はあり… 社員は目にするなり、康太に頭を下げ挨拶をした 警備室に顔を出すと康太は嗤って 「ネズミが2匹、捕まった?」と、顔を出すなり聞いた 警備員は、康太の姿を見ると頭を下げ 「指示通り、捕まえました!」と職務の完遂を告げた 「戸浪海里、見ろ! お前の弟を担ぎ出して刃を向けた、トナミ海運の常務と、副社長だ! お前は腹ん中に、こんな回虫を飼ってたんだよ」 戸浪は…こんな身内から刃を向けられるとは…と、激怒した 「若旦那、会議室にお前の弟と、その2人を連れて行け 役者は全員揃ってこそ意味がある だから、戸浪宗玄も呼べ! 総ての狂元は、アイツにある」 戸浪は康太に言われた通り、秘書に指示した そして祖父には…自らを告げ、会社に呼んだ 康太は会議室の一番中央の椅子で、全員が揃うのを待っていた その席は…戸浪宗玄の席で、今は戸浪海里が座る席 戸浪は敢えてその席に飛鳥井康太を座らせた 会議室に戸浪の弟が呼ばれ席に着く 康太はその弟に…見果てぬ闇を感じていた 自らを…切られる策しか取れなかった…弟を哀れに思った 会議室に、戸浪宗玄が現れ、飛鳥井康太の姿を見ると…総てを理解した 戸浪宗玄が来ると、康太は戸浪に「始めろ」と合図を出した 「前会長、こちらにいる人間は… 戸浪を引き継ぐ時に貴方が私の為に用意してくれた人間 私はこの人間に、腸を喰われる所でした」 戸浪海里が怒気を含ませ祖父に迫った 「力哉………何故…何故だ 何故海里に刃を向けた!」 宗玄は…腹違いとは言え、兄弟の海里を助けて行くと思っていた 宗玄は、信じられない顔をして…戸浪の継弟を見ていた 力哉と、呼ばれた戸浪海里の継弟は 海里に良く似た容姿を持ち…宗玄を睨み付けていた 康太はそれだけで…力哉の苦悩が理解出来た 「戸浪宗玄、総てはお前の罪だ お前は孫の海里を玉座に据える為に、総ての感情を無視した。 お前は罪を作って海里に引き継いだ それが総ての狂元だ!」 康太は言い切った! 「副社長は、お前の年の離れた弟で 専務はお前の息子が他所で作った子供で 常務はお前の妻の弟だ 3人は…陽の当たらない場所で、戸浪海里のサポートをするのに疲れていた だから、副社長が外資系の運輸会社に取り込まれ、副社長が専務と常務を引き込んだ」 康太の総てが見てきたかの様な言葉に…戸浪海里は何も言えなかった 宗玄は、己を悔やみ 副社長は、観念して…総てを話した 常務はそれに賛同して荷担したと認めた 戸浪海里はその場で、3人の戒告処分を通達した 3人を部屋から出そうとした時、康太は戸浪力哉を呼びつけた 「そいつは、オレの側に呼べ! 後はお前らの好きにしろ」……と。 戸浪力哉は、康太の側に来ると…康太の瞳を見詰めた 「戸波の姓を捨てろ! それは、この先のお前には不要だ」 「こんな姓…僕には最初から不要だった 君が僕を死刑台に送ってくれて…ありがとう」 力哉は、康太に頭を下げた 「オレと一緒に来い! お前の先はまだ長い 此処で終わらねぇんだよ力哉 お前の先は、オレが用意してやんよ 来るか? その変わり、オレに刃を向けたら次の瞬間お前は確実にオレの伴侶と仲間に息を止められる それだけ忘れなかったら、拾ってお前の道を作ってやる!さぁ決めろ」 康太の差し出す手を、力哉は取った 「お前は未来に繋げた! これからは好きに生きろ」 力哉は、涙した 今まで愛人の子として、海里の後ろに隠れて生きて行け…と、束縛されていた だけど目の前の子供は…好きに生きろ…と 道を作ってくれた 「ありがとう…」 力哉は、言葉を絞って康太に伝えた 「若旦那、お前に刃を向けた戸浪力哉は、死んだ コイツは別人だ オレがもらう。異存はねぇな?」 戸浪は、康太に頭を下げ 「総て、貴方の望むままに。」と感謝の意を告げた 「貴方は妹の子供ばかりか…義弟も拾って下さるのか? 戸浪の姓は捨てても、力哉…お前は私の弟だ それは忘れるな」 力哉は信じられない瞳を海里に向けた 「若旦、今日は捕り物で終わりだ セキュリティは、明日と明後日で総て完遂する オレはコイツを飛鳥井に連れていく」 「御意!では飛鳥井建設に私も出向きます」 康太は笑って答えなかった 康太は宗玄の横を通ると… お前は罪ばかり作った…償いの人生しかお前には残されてねぇぞ。…………と呟いて…去っていった 戸浪海里が秘書に運転させ、助手席に座った 康太と力哉は、後部座席に座った 康太は力哉の名を聞いた 「力哉…お前の今の名は? 飛鳥井の者に紹介してやる」 今の名は…と、康太は言った 戸浪の姓を捨てろ…と、言った康太ならではの…聞き方だった 「安西…力哉」 力哉は、母親の名を名乗った 「安西力哉か… 良い響きだ ならばお前はその器になれば良い」 飛鳥井建設に着くまで…もう口を開くことはなかった… 康太は飛鳥井建設に、戸浪海里に送ってもらいやって来た 送るだけかと思ったら、戸浪も車を降りて来たから、共に行くのを理解した 秘書に車を地下の駐車場に回して待機 と、告げると康太と共に飛鳥井建設の中へ入って行った 飛鳥井建設の受け付け嬢に 「戸浪海里さんをお連れした。 副社長にアポなしだけど聞いてもらえるかな?」と笑って問い掛けた 「康太さんのアポなしは毎度ですから お待ちください」 受け付け嬢は、笑って瑛太に連絡を入れた 瑛太からは…お通しするように…と返事があり、康太はエレベーターに乗った 副社長室のドアをノックすると… 瑛太がドアを開け、全員を中へ招き入れた そして部屋の中には………… 康太の愛する男が…ソファーから立ち上がり、康太を待っていた 「伊織!」 康太は榊原に飛び付いた 「何でいんだよぉ伊織」 至極自然に抱かれる腕に、二人の関係の密度が解る 「康太、お客様?」 榊原が聞くと、康太は榊原から体を離した 「瑛兄、戸浪海里さんだ そしてこちらが安西力哉君だ」 瑛太が2人に顔を向けた 戸浪海里は、何度も顔を合わせて知っていたが… もう一人の人間は…始めてだった 戸浪海里に酷似した容姿に…何となく…理解する 「さてと、まずは座ろ」 康太は副社長室の座り心地の良いソファーに座った その横に榊原が座り、瑛太はその向かい側に2人を座らせた そして瑛太は一人がけ用のソファーに座る 瑛太が座ると、戸浪は瑛太に頭を下げた 「若旦那、瑛兄は何も知らない!」 えっ?……戸浪は驚愕の瞳で康太を見た 「瑛兄は、飛鳥井建設の人間である前に、オレの兄だ 知れば弟の味方をする。だから知る必要はない。 飛鳥井は戸浪と…これからも共にある それで兄は了承してくれた だから、下げる頭はねぇんだよ」 共にある…道を康太は選択した 瑛太は敢えてそれを了承した 飛鳥井建設の為に。 瑛太は何も言わなかった 「唯…オレは瑛兄の悲願は達成してやりてぇ その布石を打つ為に、オレは動いてんだよ!」 康太は不敵に嗤い、脚を組んだ 「康太君その悲願を聞かせてくれないか? 共にあるなら…聞かせて欲しい」 戸浪は康太が動くなら全面的にサポートを約束するつもりだった 「四宮興産率いる北欧ルートをトナミ海運が共同で強化した暁には… 北欧の上質な材木を安定供給出来るようにして欲しい 瑛兄の目指すビルやマンションに、人の安らぎとなる憩いの居住空間を造る…手助けをする それが瑛兄の悲願でありオレの望みだ!」 康太は兄の目を見据えて宣言した 戸浪は笑みを浮かべ納得した 飛鳥井の手掛けるビルやマンションには、憩いの空間が多い それは人が安らぎを求めているのを知っているから… それを造る そう言う細かい着眼点があるからこそ… 飛鳥井の手掛ける建築物には人気が集まるのだろう… 「四宮聡一郎君と共に、君の願いを叶える礎に私はなりましょう!」 戸浪海里は約束した 今後も共にある選択をしてくれた康太の為に… その様子を見届けてから、瑛太は口を開いた 「康太…彼は?」 瑛太の瞳の先には力哉がいた 「安西力哉…だ オレがもらった オレの仕事のサポートをさせるつもりだ 当分飛鳥井の家に住まわせる!」 康太は力哉を紹介した その時、戸浪も口を開こうとした…が、康太に遮られた 「若旦那、コイツの住居の荷物やマンションは、総て処分してくれ 力哉には不要だ だが、力哉の思い出は飛鳥井の家に届けてくれ それ以外は何も要らねぇ それがオレに着いてきた力哉の想いだ」 戸浪は、康太の器のデカさに目頭を押さえた 「力哉、お前はオレがもらった おめぇはオレん所で好きに生きれば良い 飛鳥井の家に住んで悠太に管理能力を叩き込まれて来い そしたらオレの秘書になれ そして自分の住む場所は自分で探して、好きな場所に住め」 力哉は頷いた 「瑛兄、オレの秘書にすんからよぉ 若旦那、そのうちオレの秘書を戸浪に見せに行く!」 康太は楽しそうに笑って、戸浪に手を差し出した 戸浪は康太の手を握り、力哉を頼みます…と言った 「力哉、目の前にいるのが飛鳥井建設社長で、オレの兄貴の飛鳥井瑛太 オレは5人兄弟の4番目 瑛兄は一番上の兄貴になる そのうちオレの兄弟には逢える そしてオレの横にいるのは榊原伊織、オレの伴侶だ!」 康太に紹介され、榊原は会釈した 「さてと、帰るわ瑛兄 オレは聡一郎に逢いに行く その前に、力哉の服を買わねぇとな 力哉の買い物に出ねぇとならねぇし 取り敢えず、聡一郎の所に行くかんな 夜は家にいるから、心配すんな瑛兄」 康太が立ち上がると榊原も立ち上がった そして…ふと、何故此処に榊原がいたのか…聞いた 「瑛兄、何で伊織がいんだよ」 康太が聞くと瑛太は、連れてきた…と答えた 「伊織は、心配で仕事も手が着かないみたいだから、会社にいれば康太から電話があればすぐ解る…と、連れて来たのです」 瑛太の言葉に…康太は気になる事を聞いた 「隼人は?置いて来たのかよ…」 「隼人君は、一生君が連れて行くと言ったので病院まで連れて行きましたよ」 忘れたら…拗ねて泣く そんな可愛そうな事はしたくなかった 送って行こうか…と、言う瑛太と戸浪を置いて、康太は副社長室から出た 「伊織、病院に行く んで、一生に力哉の服を頼むわ オレは自分で服も買った事ねぇかんな 戦力にはならんわ 伊織も着いて行ってくれ」 榊原は、解ってますよ…と言い、康太の横を歩いた 受け付け嬢に手を上げ、挨拶をしてビルの外に出ると、康太は深呼吸した 「力哉、お前は総てから解き放たれた どうするお前は? 一応秘書にするとは、言ったがお前はお前の好きな道を行け!」 力哉に康太は選ばせたかった… そして自分の足で歩かせたかった 「僕は君と行きます 僕に自由をくれた君といたい でも僕は飾りだったから…何も出来ない。」 「オレは飾りはいらねぇかんな! 戦力に叩き込む 来いよ、力哉! オレと生きろ オレがお前を自由に生かしてやんよ」 康太は笑って歩き出す 風を切って歩く康太の後ろに…榊原は控え 力哉はその2人に、寄り添い生きていこうと決意した

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