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第50話 闇の殻

病院に行くと、四宮は個室に移されていた 個室に向かいドアをノックすると、一生がドアを開けてくれた 「聡一郎は?」 康太が聞くと、一生は「起きてる」と、言い病室に入るように促した 康太は四宮の方へ歩み寄ると 四宮を殴った 「おめぇ、動く時は報告しろって言ったよな! 何故黙って親父の元に出向いた! オレを切り捨てて行くつもりだったのかよ!」 四宮は、ごめん…と、謝り……… 康太へ手を伸ばした 「康太を狂った刃にかけたくなかったんだ…ごめん… でも殺されかけたって…一生に聞きました…君が生きていて良かった…」 四宮は、号泣した 康太は四宮の背中を撫でた 「聡一郎、四宮興産を継げ! お前のパートナーに戸浪海里を着ける お前は四宮の会社を継げ それがお前をこの世に引き留めとく、お前に課す最大の使命だ!受け取れ聡一郎」 四宮は…康太…と、言い泣き崩れた 康太の選んだ人生なら…生きて…この世に踏み留まろう… 君が一緒にいてくれるなら… 康太は四宮が落ち着くまで抱き締めていた そして四宮から体を離すと、一条に 「良い子にしてたか?」と話しかけた 一条は不機嫌そうに唇を尖らせた 「康太はオレ様の面倒見ないし…」 いぢける… 康太は一条を、抱き締め頭を撫でた 「オレはもう少し忙しい でもおめぇには一生と伊織もいる 8月5日には白馬だ 少し我慢出来るな?」 一条は、頷いた 康太は一条の側を離れると、力哉の側に行った 「一生、安西力哉だ オレの秘書にする為拾って来た 力哉は、体1つでオレん所に来た だから、力哉に当座の服と下着を買ってきてくれ」 康太は分厚い封筒を榊原に渡した これは戸浪から渡された…あの分厚い封筒だった これは何かあった時の為に…お前が使いなさい…と どうせ戸浪に返しても受け取らないのだから……と渡されたお金だった 実際に返すと言っても、戸浪は一切受け取りはしなかった…お金だ 戸浪の会社で力哉を見た時に…手を取るなら連れて来ようと…考えて お金を持って来ていた 「身一つでって…何もねぇのかよ」 一生が聞いてくる 康太は「あぁ、総て処分する だから力哉を連れて行って下着とか服とか、必要なモノを買ってくれ オレは伊織か瑛兄か、母ちゃんの買ってきてくれる服着てっから… 服の買い方が解らねぇ… 選び方も解らねぇ… オレは戦力にはならねぇかんな 頼む一生、伊織と行ってくれ 一応力哉に似合うの頼むな!」と頼んだ 榊原が力哉を促し、一生と共に買い物に出ようとした時、一条も行くと言い出した 「オレ様を連れて行け! 康太の服を買いたい だからオレ様を連れて行け!」 と、言い出した 一生に頼む…と康太が言うと、一生は 「勝手に何処かへ行かねぇって約束すんなら連れてく」と一条に言った 一条は、解った…と言い一生に着いて行く事にした 病室を後にした一生は 「旦那…服を買いに行く前に…美容院に連れて行かねぇと… 似合う服すら解らねぇよ」 と、告げた 榊原は、力哉の顔を見る 力哉は前髪で顔が見えなかった… 「旦那…これじゃあ鬼太郎のチャンチャンコしか似合わねぇよ」 一生の、呟きに榊原は悪いと思いつつも…笑えた 「少し先にオレ様のスタイリストの美容院がある そこに連れてけ!オレ様が今電話する」 一条が電話すると、スタイリストは店にいて連れの髪を切ってくれないか…と頼むと了承してくれた 一条は、美容院に率先して行く 「力哉に似合う髪にしてくれ 失敗したら…もう此処へは来ない オレ様は、康太に会わす顔がなくなる…」 …………と、告げられると、 スタイリストは、失敗出来ねぇ…と内心焦った 髪を後ろは少し短く、そして前は顔が見えるように…切り込んだ アイドルを手掛けるスタイリスト自ら腕をふるい、カットする 出来映えは…見違える程、イケメンだった 戸浪海里を10歳位若返らせて… 大人しくした様な顔だった 一生は「若旦那の顔見てる見てぇ…ひょっとして…訳ありか…」と、榊原に聞いた 榊原は「詳しい話は瑛大さんも知りません 僕も知りません。」と、こそっと一生に教えた 次に向かった場所は下着売り場 一生は力哉に「おめぇはどんな下着を所望なんだ?」と、問い質した 「どんなって…どう答えて良いか解らないよ…」 力哉が困った顔をする 一生は、力哉のズボンの中を覗いた 力哉はいきなりで…ぎゃぁぁぁ…と悲鳴を上げた 回りの人間が一生を変態扱いの目で見る 一生は、頭をボリボリ掻いた 「すまねぇ力哉 取り敢えず、トランクスかブリーフか教えろ 後、色とか見るしかねぇ」 力哉は悲しい位首を上下に頷いた 「ボクサーパンツで良い」 と、言う力哉をボクサーパンツのコーナーに連れていき、どれが良い?と、聞く 力哉は適当に選ぶと 一生は、最低でも10枚は買っとけ…と、言ったから10枚カートに入れ、次は靴下 靴下も10枚カートに入れ下着コーナーは後にした レジで榊原が清算する そして、近くのカジュアル服の店に行き カジュアルを数枚 ベーシックを数枚 そしてズボンも服に合わせて 榊原がレジで清算した 店を出ると一生が「康太の秘書をやるなら、スーツは欠かせねぇよな?」と、言い 近くのスーツを売ってる店へ 一応名前のあるスーツを、取り敢えず3着 力哉の体に合わせて選ぶ そして、直しで少し待ち…スーツを受け取ると… 凄い荷物になった 榊原は、康太に電話した 荷物が凄いから…これからタクシーを拾って帰ります…と告げた 康太は、ならオレも直ぐに帰宅る…と、言った 康太は四宮に帰宅する、告げた… そしてふと一条の言葉を思い出した 「聡一郎…お前、聖とより戻したのか? キスしてんの隼人に見られるぞ…」 ……と、問い質した 「今度話します…」 と四宮が言うから、康太は病室を後にした 病院の横のタクシー乗り場で空いたタクシーに乗り込み行き先を告げた そして瑛太に「今タクシーに乗った 今日はもう帰るから、心配すんな瑛兄」とメール送った 道は空いていて、思ったより早く自宅に到着した カードで料金を払い、家の中に入ると靴の数が足りなかった そこへひょこんと悠太が出て来たから、榊原の帰宅を問うと…まだだと言うから 外で待つことにした 暫くして…家の前にタクシーが止まる 榊原は支払いを済ませタクシーから降りると、康太が待ち受けていた 榊原は、トランクを開けてもらい荷物を下ろす かなりの量の荷物に、悠太も借りだし客間に運んだ そして、総てを運ぶとキッチンに行き…座った 「悠太、何か飲み物寄越せ」 康太が偉そうに言う 悠太は…4人分のコップを出すと…ジュースを入れ各々の前に置いた 悠太は…力哉の顔をじーっと見ていた 康太はそれに気が付き…止めた 「悠太、人の顔をマジマジ見るな!」 康太が注意すると…誰?と聞いてきた 「戸浪海里……じゃないよな。若すぎる」 悠太の言葉に力哉は幾つなのか…答えられなかった 戸浪海里は、30代後半から40代前半の様な顔をしていた 力哉は…幾つなんだ? 「力哉、お前…年幾つだ?」 康太が聞くと力哉は「25」と答えた 恵太と同い年か… 康太が納得していると、力哉は康太は幾つなのか…聞いてきた 「オレは18だ 伊織も一生も隼人も…皆同学年だ そして悠太は中3だ」 康太がそう言うと…力哉は嘘…と、驚いた 「どう見ても…悠太君は、お兄さんでしょう…? そして康太君は…中3位かと思いました…」 一生は大爆笑 床に転がり回り笑っていた 榊原は、笑いを堪えても堪えきれず肩が揺れていた 一条は飲んでたジュースを吹き出し… 悠太は…笑うと…殺される…と恐々で笑っていた 「この無駄にデカいのは、弟だ うちはオレ以外は…無駄にデカい そして暑苦しい!」 康太は言い捨てた それを聞いた悠太は…康兄ぃ…とデカい体を縮めた 「力哉、やっぱその方が似合ってんじゃん お前と若旦那の姿は似てても器が違う お前はまだ化ける そのうち似て見える日もなくなる 前を向け、これからは!」 力哉は頷いた 「康兄、この方は誰なんですか? 紹介して戴けませんか?」 悠太は低姿勢で兄にお願いする 「安西力哉だ 今日からオレの秘書になる為に、この家で修行する まずは悠太、お前は力哉に実践的な管理能力を徹底的に叩き込んででくれ!」 康太が言うと悠太は力哉に頭を下げ 「力哉さん、飛鳥井悠太です 宜しくお願いします!」 と挨拶した そこへ、珍しく母親と父親と瑛太と蒼太と恵太が帰ってきて、応接間に来なさい…と召集がかかった 康太は力哉を連れ、応接間に行った 力哉を榊原の横に座らせる 康太の横は一条が譲らないから…一生はその横に座った 「康太、さぁ紹介しなさい 家族全員揃えてやったわよ!」 玲香が、逃がさないわよ!と迫力で迫って来る 康太は力哉の腕を掴み立ち上がらせると 「安西力哉だ オレの秘書にする為拾って来た」と紹介した 力哉は「安西力哉です!宜しくお願いします。」…と頭を下げた 家族は力哉の顔を見て…… どうしても戸浪海里を彷彿させる姿に血統を感じ取り…戸惑いを感じていた 「この顔を見れば想像は着くと想うが、皆の想像は間違っちゃいねぇよ 力哉は戸浪光星の愛人の子だ 戸浪宗玄が今は亡き息子の愛人の子を引き取り戸浪の専務に据えた 力哉は飼い殺しにされて…会社に刃を向けた 死刑執行される日を待ってた みすみす死なすのは惜しいからな、オレが戸浪力哉を殺し…連れて来た 安西力哉だ。オレの秘書にする!」 康太があんまりにも詳しく知っているから…力哉は驚いた 「戸浪海里に聞かれたのですか?」と、思わず聞いた程に…詳しかったのだ 康太はいいや、聞いてねぇ!聞く必要がねぇかんな…と笑った 「オレはトナミ海運でお前の顔写真を見た時、果てしない闇を感じた だから今日、お前を視た それで総て理解した お前がオレの手を取らなかったら…息の根を止めてやろうと思った それがお前の望みだったんだろ? 誰かに裁かれるのを…待ってたんだろ だからオレは拾った 捨てる命を拾った 良い顔になったな、それがお前か?」 康太は力哉の顔を見て、子供の様な顔して笑った 家族は言葉がなかった… 自分の息の根を止めてくれる人間を待っていたなんて…辛すぎるから… 「力哉はもう、オレにも戸浪にも刃を向けねぇ オレが力哉を再生して使う 暫く悠太に管理の仕事を叩き込ませたら… 瑛兄に預けるから、佐伯の下で使えるようにしてくれねぇか? 住む場所も、当分は此処で住まわせる 飛鳥井に慣れたら、力哉が望むようにしてやるつもりだ! 飛鳥井に残るなら残れば良いし、出るならば住む場所は探してやるつもりだ 給料にあった部屋を探して住まわせる 力哉が生きていく手助けをする そして…何時か…本当の幸せを感じさせてやりてぇんだ」 康太が言い終わると…家族はしーんと押し黙っていた 飛鳥井玲香は 「じゃあ当分は此処で暮らしなさい 所で幾つなの?」 と聞いた 今度は力哉自ら「25です」と、答えた 玲香も…恵太と同い年か…と、呟く 力哉は…年より老けて見えた パッと見…戸浪海里と、同じ位に… 「力哉はこれから変わる 変わらねぇとな力哉」 力哉は…はい。と頷いた 「伊織、一生、今日力哉と買い物に行った時…違和感を感じなかったか?」 康太が問うと、一生は…感じた。と答えた 「何が必要か解らねぇし サイズも考えず商品を入れようとするし… 自販機でジュースを買う時に… これは何なんですか…と、聞かれた時は… たまげたわ」 「力哉は小学校に入る前に母親を亡くしてんだよ 戸浪光星は、力哉を名ばかりに引き取りマンションに住まわせた 生活に必要な服や日常品は戸浪海里が、定期的に与え 日頃の食事は高校までお手伝いが作りに来ていた お膳立てされた場所で育ち、愛情を掛けられずに育った 力哉は何も知らねぇ子供と同じだ 常識的な事が解らねぇんだよ これを育てたとは言わねぇ 頭は良いのによぉ…」 康太の言葉を聞いていた玲香は、じゃあ飛鳥井の家で覚えれば良い…と、言った 「飛鳥井は厳しからのぉ! うちで育って行けば良いのじゃ! 康太の秘書として、生きて行けばよい 康太はこの先も…秘書を持たぬと我は思っていた 秘書を無理矢理着けても、気に入らなかったら…使わないのが康太だからのぉ… その康太が秘書と言うなら…育てねばならぬな、この飛鳥井で!」 飛鳥井玲香は、受け入れてくれたのだ 飛鳥井で育てようと…認めてくれた 「力哉、大学は何処を出たんだい?」 瑛太が聞いてくると、康太が「東京大学、経済学部」と、答えた 家族全員が、すげぇーと感嘆する 「だから言ったやん、頭は良いのによぉ…って」 なる程…と家族は納得する 「戸浪は、力哉の頭を飾っておいた 飾って使わねぇなら、欲しいと思った 隼人、おめぇなら力哉の果てしない闇が解るな?」 一条は、涙を浮かべた目で康太を見詰めると…解る…と、呟いた 「オレの側に置く 依存はねぇな!仲良くしろ隼人」 一条は、頷いた 「父ちゃん、母ちゃん、じぃちゃんに兄ちゃん達、オレの我が儘ばかり押し付けて申し訳ねぇ どうか力哉を受け入れて下さい」 康太は深々と頭を下げた 瑛太は……やはり甘く…康太に頭を上げなさい。と言った 「瑛兄…ありがとう。皆、ありがとう。」 康太が礼を言うと、玲香は 「さてと、夕飯にせねばな! 蒼太と恵太は夕飯どうするの? 此処で食べるなら出前取るとしようぞ!」 と、夕飯の算段に入った 「母ちゃん、出前なら、オレは來來軒のラーメン定食が良い。餃子も付けてお願い」 康太が言うと、悠太が來來軒のメニューを持って来て一生に渡した 一生と一条と榊原は、康太を挟んでメニューを見ていた 間近に榊原の顔があるから…康太は榊原の頬にチュッとしてしまい…家族は新婚にあてられた 目撃した力哉は、固まった 康太は大爆笑 蒼太が「んとに、君は伊織君が好きですね」と、半ば呆れ気味に呟いた 康太は榊原の首に腕を巻き付け 「オレのだかんな!」と、所有権の発動をした それを見ていた一生が、康太を殴った 「ただでさぇ暑ちぃんだよ! 暑ちぃ事は部屋に戻ってやれ!」 「一生、飛鳥井に喧嘩売ってる? うちは皆暑ちぃんだよ…むさ苦しいのしかいねぇかんな!」 一生は、ケラケラ笑う康太の口を押さえた 「お前はもう喋るな!」 怒る一生を無視して、康太は立ち上がった 「伊織、着替えて来ようぜ スーツ着てラーメンはキツい 一生、隼人と力哉、どっちの面倒見る?」 「お前ら夫婦の部屋に力哉は、キツい オレが力哉と隼人を見る お前は旦那と熱々で着替えて来やがれ!。」 不貞腐れて言う一生に、康太は笑って応接間を後にする瞬間隼人を呼んだ 「隼人、来い!」と、呼ばれ隼人は嬉しそうに康太に着いていった 残された一生は、力哉を連れて客間に行き、着替えるように促す だが…どの服を着て良いのか迷い… 何時もは、どうやって着るのか聞くと…メイドが着替えを一式置いて行ってくれます…と答えた 一生は、頭を抱えつつ買った服の中から、夜でも良さそうなのを身繕い渡した そして自分の着替えを済ませ、力哉を見ると… 服もモタモタと…覚束無くて一条を見ている様だった 着替えれるまで気長に待ち、応接間に向かった時、応接間には着替えを済ませた康太が座っていた 蒼太と恵太は家に帰り、瑛太は応接間に家族と座っていた 「力哉、おめぇ、ラーメン食えるか?」 康太が聞くと、力哉は頷いた 玲香は、出前を頼み、来るまでの間にビールとつまみを持ってきた 力哉の前にもグラスを置く 康太達はジュースで乾杯をする ラーメンが届き、各々配る ラーメンと餃子とご飯を前に置いた瞬間 康太はガツガツ食い始めた その豪快さに…思わず箸を止めると 康太が「見てねぇで食え!」とお節介を焼く 力哉は一条と、同じ様にモソモソ食べ始めた 飛鳥井の両親と瑛太と源右衛門は、盛り上がって飲んでいた その時、飛鳥井の玄関のチャイムが鳴った 来客は…戸浪海里と戸浪宗玄 応接間を片付け、そこに通す 戸浪親子が応接間に通されると…力哉がいた 何時の頃からか…前髪で顔がよく見えない容姿だったのに…今は顔を出していた 身綺麗に整えられた顔は…やはり…戸浪海里に似ている…と宗玄は実感した 戸浪宗玄は、康太の前に土下座した 「わしは本当に罪を作りました 力哉の荷物の処分をしに行きました 荷物は何もなく…力哉の母親の写真しかありませんでした。」 戸浪宗玄は、力哉の心の闇を…思い知らされた 「座れよ。若旦那、座らせろ 力哉はこんな姿を見たい訳じゃねぇ」 康太が言うと、戸浪は祖父を座らせた 戸浪海里は、テーブルの上に力哉の思い出の所持品を置いた それは小さな段ボール一個分の……力哉の総てだった そして戸浪海里は、康太に戸浪力哉の香典です…と分厚い封筒を置いた 「戸浪力哉は、死にました 私共が死なせてしまいました それに対する想いを包んで参りました このお金は祖父、戸浪宗玄の悔恨の想いです。お納めください」 戸浪海里は、深々と頭を下げた 「では、力哉の再生の為に受け取っとく  力哉は当面飛鳥井で育てる そしてオレの秘書にする 若旦那、オレの秘書の顔を見てくれ 今の顔を忘れないでくれ 力哉は化ける この先は多分、顔は変わる そしたら…もう、あんたには似てねぇツラになる だから、この顔を忘れないでくれ」 戸浪海里は、力哉の顔をその瞳に焼き付けた そして胸ポケットから…力哉の戸籍を出した 「戸浪の戸籍から抜き、安西の姓に戻しました これで力哉は名実共に、安西力哉です 御確かめください」 康太は戸籍に目を通すと、力哉に渡した 「お前の望みだ これでお前はオレのモノになった オレの果てを見届けろ力哉 お前の果ては若旦那が見届けてくれる」 力哉は初めて正面から…戸浪海里を見た 「今まで…ありがとうございました。」 と、力哉は深々と頭を下げた 顔を上げた力哉は笑っていた 康太を見詰めて…やっと言えた…と、笑った 戸浪海里も、宗玄も、力哉を見ていなかった事を思い知らされた一瞬だった 「じぃちゃん、友が来て飲まずに帰したら男が廃るぜ!」 康太は祖父の源右衛門に親指を立ててニカッと笑った 玲香は、デリバリーを頼みお酒を運んだ 悠太はせっせと手伝いする 康太は手伝わないから…何故なんだろ?と力哉が見ていた それに気付いた康太が「オレが触ると割れるんだよ…」と、意味の解らない事を言った 一生が「康太が食器を触ると割れる この子供はやる事が半端ない だから飛鳥井では康太に遣らせない暗黙のルールがある」と、補足した 康太は一生の耳元に顔を近付けると小さな声で 「一生、力哉に手を出すなよ」 釘を刺す 一生は「範囲に入ってねぇから安心しろ! オレは隼人の二乗を、私生活に持ち込む勇気はねぇ… しかも…あの人に似た顔は…もう良い」 一生は、まだ胸の傷が癒えてないと伝える… 「一生、辛いなら…牧場に帰るか?」 客間に力哉を寝かすなら…一生とは共に生活する事になるからだ‥‥ 「嫌…白馬に行く 明日、明後日は俺も戸浪に着いていこう 仕上げだかんな 旦那に…力哉と隼人は大変だから連れてくか…?」 「力哉は、悠太に預ける 隼人は白馬の前は仕事だ 伊織はどうする?戸浪に行くか?」 「僕が行っても手伝えませんが…君と共に行きたいです」 榊原は、康太を見詰めて言う 康太は榊原を見詰めたまま 「一緒に来て、仕事すると良い 家に残しても瑛兄ん所行くなら、最初から着いてこいよ」 と、最高の誘い文句を投げ掛けた 「君となら何処まででもお供します」と、榊原は康太の手を取りキスした それを見ていた一条も康太に抱き着き頬にキスした その後一生にチュッ そして力哉にチュッ 力哉はフリーズした 康太は爆笑して、榊原は力哉を介抱して 一生は、おめぇ等大概にしろ!と、怒鳴り 一条は康太に抱き着いた それを飛鳥井の家族と戸浪親子が見守り… 静かなに夜は更けていった 早々に引き上げた康太達は、客間に行き雑魚寝の準備をした 榊原は康太を抱き 康太は力哉を抱き 力哉は戸惑い 一条は力哉を抱いた そんな一条を一生が抱き 4人は…静かに眠りに落ちて行った 朝方…力哉は目を醒ました 暖かい温もりの包まれて眠るのは 心地好かった 力哉は康太に抱かれ 背中からは一条に抱かれていた 人の肌の暖かさが… こんなに優しいとは… 力哉は知らなかった 力哉は泣いていた 涙が止まらなかった 康太の腕が優しく背中を擦る 一条の腕が強く力哉を抱き締める 力哉を纏う 暗い闇の殻がパリパリ音を立てて 崩れる 力哉が必死で装った 闇の殻が 崩れ落ちると 目の前が…明るくなった 「目を開けろ力哉 お前は安西力哉だ お前の道の前にはオレがいる 目を開けたら お前の世界は違ってる お前の世界だ お前の生きる世界だ さぁ目を開けろ力哉」 物心着く頃から母と二人だった 母は何時も笑っていた 華奢な人で体躯は弱かったのに‥‥ 母さん頑張るからね!と力哉を護る為に無理をして‥‥ 来月は小学校に入学……と、言う時に 母親は還らぬ人となった… 誰も出席しない葬儀の場に 父親がいた 父親は「今日からお前は戸浪力哉だ」 と、告げた 家族と暮らせるかと思ったら… マンションに一人住まわされた お手伝いが食事を作りに来る 季節ごとに…服は義理の兄が用意する なに不自由ない生活が用意してあった そして雁字搦めの生活が始まった 父親が死んだ時 力哉は18だった…家を出ようとすれば出られる年だった でも出なかった 飼い慣らされた人間が外で生きる術など見出だせなかった 謂われるままに有名大学に進み 卒業すると道は決まっていた 祖父は義兄を、もり立てろと…戸浪での席を用意した 総てが決められた…影の道 何時しか力哉は髪で顔を隠した そして暗い闇の殻で 全身を覆った 何度も塗りか固めた強固な闇の殻を 力哉は生きていく為に纏った そして………何時か 自分を裁いてくれる人を夢見た 死刑執行して貰える日を 夢見て過ごした やっと‥‥裁かれる日が来て‥‥‥ 総てが終わる事を願った 苦しい闇の中からやっと解放されるのを待った その瞬間に…力哉は安堵した これでやっと… 解放される…と。 だが、子供の様な顔した康太が 力哉を自由にしてやる ………と、言った その手を取れと… 力哉は康太の手を取った… その瞳は輝いて 明日を見ていたから… 着いて行きたくなった 命なんて要らないのに… 側にいたかった 力哉の闇の殻を割ったのは 康太だった 殻から出た力哉は… 康太の温もりを知った 隼人の同化した闇を嗅ぎ取った 目の前が明るかった 光に満ち溢れた目の前の世界に 力哉は目を顰めた 眩しい… 眩しくて…目が開けられない… そう言うと 目は慣れる… お前が見ようとすれば 目はそれを受け入れる… と、康太の声がした 力哉は目を開け 康太を捉えた 「安西力哉。お前が生まれ変わった朝だ ‥‥‥‥生まれてくれて、ありがとう力哉」 康太が抱き締めてくれた 力哉の生まれた日は 限りなく眩しい 光と暖かな温もりに満ち溢れていた 力哉の顔は…幼くなっていた 康太はその頬にキスをした 一条も力哉を抱き締めてキスを贈る 榊原は、何も言わず抱き締め 一生は、力哉を力一杯抱き締めた それぞれが贈る力哉の誕生の喜びだった 朝、食卓に着くと、玲香が「あれ?」と言う顔をした 父も食卓に現れた瑛太も…力哉の顔を見て あれ?と、思った 榊原は、それに気が付き 「力哉の顔が変わりましか? 昨夜、康太は力哉顔は変わると言った通り総てがリセットされ力哉は生まれ変わったのです 力哉はこれから変わります それが飛鳥井康太がもたらす奇跡のマジックなんです。」 と、告げた 康太の側で見てきた榊原だからこそ言える言葉だった 「力哉、お前、今日秘書として初出勤しろ 戸浪にオレと行くもんよー 伊織と一生と、力哉位乗れねぇかなぁ?」 康太がそう言うと……一条が泣きそうな顔になった… 「隼人、お前今日休みか…?」 一条は頷いた 康太は…あちゃぁー…と、目を覆った 悠太を見ると…こっちにふるな…と手を振り 康太は思案する 「乗れなかったらバスで行くしかねぇな」 康太は笑った 瑛太が口を開こうとすると、康太は遮った 「オレの用だから…瑛兄は気にするな…」…と。 康太は食事を終えたら立ち上がった 「力哉にスーツを着せておいてくれ」 ……と、一生に頼んで着替えに向かった 康太の部屋に行くと、一条が康太に服を買っといた!と袋を手渡した 中を見ると…スーツだった 「何でスーツ?」 康太が聞くと 「そのスーツはオレ様がプロデュースしたスーツなのだ 康太をイメージして手掛けた奴だ それとこれは昨日、買ってきた ピアスのお礼!」 康太は嬉しそうに笑った 「ありがとうな、隼人 それよりお前は何を着て行く気なんだ?」 康太が聞くと、榊原がクローゼットから、白のスーツを康太に渡した 「これを着て行くのか? 来い、着せてやるからよぉ~」 一条が服を脱いで康太の前に立つと、康太は服を着せ始めた でも自分よりデカいから、ネクタイとかは榊原が、結び上着を着せた 榊原は、康太が一条の着せ替えをしている間にスーツに着替え、その後に康太を着せ替えさせた 一条のくれたスーツに…袖を通した 康太をイメージしたと言うだけあって… 康太の為にあるような、スーツだった 3人は着替えが済むと応接間に向かった 応接間のソファーには、昨日作ったスーツに身を包んだ力哉がいた 流石、似合ってるのを頼むとお願いした甲斐はあった だが一生は怒っていた 「康太…力哉はネクタイも結べねぇ… スーツのネクタイは…聞いて驚け…ゴムだ 小学生とかがしてる…あれだ… ネクタイの結び方から教えねぇとダメだわ…」 相当…てこずったみたいだ… 康太は追々教えて行くから、焦るな…と一生を宥めた トナミ海運からのお迎えの時間が来て、康太達は外に出向いて待っていた 乗れない奴が出たらタクシーを呼び行くつもりだった 戸浪からのお向かえば…前回乗ったリムジンとかではなく、戸浪の秘書が直々に迎えに来てくれた しかも秘書の愛車のステップワゴンを爽快に走らせてのお迎えだった 軽く5人は乗れて…バスで行く心配はなくなった 多分…瑛太が旧友にお願いしたのだろう…予測はついた 何処までも…康太には甘い…瑛太だった トナミ海運のビルの前で車を下りると、戸浪海里が出迎えに来た 康太の後ろに控える力哉は…顔や雰囲気が変わっていた… 「康太さん…予定を狂わせてしまったので…人数が増えるのは…予測していました お手間を取らせてすみませんでした」 と、頭を下げた 康太は「今日と明日、それで完遂する それでトナミ海運は生まれ変わる」 と、康太はビルを見上げて言った 「若旦那、トナミ海運は青の龍神のシンボルマークを使え! 四宮はイルカを使う!」 そして康太は本社ビルの中心を指差し 「ガラス張りに統一させ空を取り入れられよ 龍の上昇気流に乗りたいなら…外観も変えろ そして新しい空気を取り入れて社内に流す 工事は飛鳥井建設が格安にやってやんよ!」 と、ウィンクをして笑った 「それでは、瑛太さんに頼んでおきましょう 外観のプロデュースは康太君が?」 「オレが運気を詠む! だから心配すんな」 「それではこちらへ」 戸浪海里が、康太達を案内する 社員は固唾を飲んで…頭を下げた 康太と一緒に…今をときめく俳優、一条隼人が、歩いているのだから… そして…安西力哉が胸を張り歩く その容姿は…別人の様だった

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