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第54話 礎
康太は家に帰ると、源右衛門の部屋を訪ねた
源右衛門の部屋の座布団に座って康太は目を閉じていた
源右衛門は、そんな康太から何かを感じていた
「康太…お前は何をわしに頼みに来たのだ?
お前がわしに頼む時は自分の事ではない
友の為…家族の為…
今日は何をわしに頼む気なんじゃ?」
「纏まった金を動かしたい」
康太は源右衛門の目を見て、直入に言葉を放った
「何に使う?」
「瑛太の元妻を家から解き放ち瑛太に返したい
母ちゃんは反対するだろうが…オレは瑛兄に京香を与える」
「だがあの家は救えんぞ!
もう既に火の車じゃ…後は灰になるだけじゃ」
「あの家は…捨てさせる
認知症の母親を特養ホームに入れる
父親は長くはねぇ…京香に看取らせる
だから、特養ホームに入れる金が欲しい」
「お前は京香を拾ったのか?
玲香が怒り狂って許さんぞ!それでもか?」
「それでも…だ!
母ちゃんには泣いてもらう
瑛兄の妻は京香だ!
母ちゃんがとやかく言う問題ではない
それでも許さないと言うなら…
オレは瑛兄に飛鳥井を捨てさせる」
「お前のいない場所で瑛太は生きられはせんぞ。ならばお前はどうする?」
「じぃちゃん…オレは京香の子供をもらう
それは母にも瑛兄にも内緒だ
教えねぇ……
それがペナルティーだ
総てスッキリしたら、京香を連れてくる
母ちゃんが怒り狂っても…だ!」
「お前が連れてくるのか?」
「オレが京香を連れて帰る
誰が反対しょうとも…だ
それは違えねぇ」
「何故だ康太?
お前は一生の子をもらう
伊織君の母上も子供をやると言った
なのに何故…京香の子までもらう…」
「これはオレの我が儘だ
許してくれ…じぃちゃん
京香の子供は…オレに次代の真贋として生まれる
オレが育てるのは定めだ!
だが…生まれて来る確率は低かった…それは京香が迷っていたからだ…。
今日…この目で確めた
オレは産ませる。
そして…オレが育てる
それがオレの定め!
全部で4人の子供の親になる
オレは育てるぜ!
反対されても…だ。
オレはこの家を出ても生きていける
伊織がいるなら生きてける」
「康太…」
「在るべき場所に戻す!
それもオレの使命
京香は、瑛太の側にいるべき存在
喩え反対されても…だ。
オレは総てを背負って飛鳥井を捨てなければいけない日が来たら…じぃちゃんすまねぇ堪えてくれ」
「わしを捨てて行くか?康太」
「それが飛鳥井でのオレの使命だ。
オレはオレの目で見た飛鳥井の明日の布石を打つ石になろうと思う」
「ならば、わしは飛鳥井康太を守る
お前に飛鳥井は捨てさせない、
決して…飛鳥井を捨てさせない
わしの命に変えても…わしはお前を守る
お前が4人の親になるなら…わしは4人の曾祖父になるしかない!
お前は覚悟を決めたのだな…
ならばわしは動こう。
耄碌するにはまだ早い」
飛鳥井源右衛門は立ち上がった
「真壁には何時行く?」
「明日」
「ならば弁護士を手配しょう。
特養ホームの目処は立っているのか?」
康太は首をふった
「ならばわしが探そう。知り合いに声を掛けよう…」
「有り難う御座います」
康太は額が擦れる位…頭を下げた
「康太、顔を上げよ
わしはお前の目を信じている
お前の果てを詠む目は確かだ。
わしはお前を命に変えても守ってやる」
源右衛門は稀代の真贋の眼を持つ康太に
「康太…お前の目に飛鳥井はどう写る?
お前の目に飛鳥井の明日は…どう写る?」と問い質した
「オレの目は果てを詠む
オレはそれを信じて軌道修正をする
京香は、消せない存在だ
消すならオレは消えるしかない
飛鳥井瑛太を支える人間は京香だけだ
他はない!
蒼太は…オレと同じだ。
アイツの恋人は…同じ性を持つ…子は無理だ
恵太の子は…女しか産まれねぇ…
しかも‥‥恵太の家庭は破綻しているも同然の状態だ‥‥次の子は望めねぇ
京香は、家に戻せば、後一人子供を産む
今度は瑛太の分身を生む
もらう子供は真贋の眼を持ってる
次代の真贋を継がせる為に育てる
オレの子は瑛太の分身を助けて行く
それがオレの見た果てだ
悠太の子は…まだ詠めねぇ…」
「ならば…わしは動こう!
京香の生活費はわしが動かす
まだそれ位動かせる
出産費用も用意しとこう…
京香の父親が末期の癌なら…病院も探しておこう
京香は、そこで父を看取った後に産むしかないな…手配しょう」
「じぃちゃん…歯車が嵌まった
もう…止まらねぇぜ
明日…真壁へ行く前に…オレは母に逢う」
「わしにも解る…運命の歯車が回りだした
これは必然であり…運命だったんだな…
明日は…わしも行く!
わしは命を掛けよう…飛鳥井の未来永劫の為に……この命を礎に…覚悟を決めたわい」
康太は源右衛門との話し合いをした後
客間に行き、一生や四宮と一条に
「明日の白馬は、オレ抜きで向かってくれ
オレは少し遅れる」と、宣言した
一生は、真壁へ行くのを承知で遅れる見通しを立てていた
動き出した康太は直ぐには止まらないから…
「お前と一緒に行く!
数日遅れても別にかまやしねぇよ」
と、一生は言った
本当は一番行きたいのに…
康太は謝って…部屋を後にした
部屋を出たら…涙が溢れだした…
気持ちが追い付いて来ないのだ…
ふと支えてくれる暖かい腕に包まれる
見上げると…榊原が康太を抱き締めていた
「康太…何かあったんですか…」
伊織…康太は榊原に抱き着こうとして…倒れた
地面に崩れ落ちる体を抱き上げると…榊原は歩き出した
康太の部屋を開け、ベットに寝かせた
榊原は、部屋の鍵を閉め…ベットに座った
康太の髪を掻き上げると…額にキスを落とした
こんな小さくて華奢なのに…
その内に秘める生命力の強さに…
人は康太から目が離せなくなるのだ…
康太を撫でていると、康太は目を開けた
目の前に…愛する男が優しい瞳で見ていた
康太は手を伸ばし…榊原の頬に手をあてた
「伊織…ごめんな
京香に抱き着かれた時…
お前に教えとくべきだったと後悔した… 」
康太が言うと、榊原は頬の康太の手の上に自分の手を重ね…
「妬けました
嫉妬で…飛び出して行って
康太から彼女を引き離してしまいたかった…
一生に止められなかったら…出てました
康太は…瑛太さんの奥さんと仲が良いんですね」
「京香は、女にしとくのは惜しい位の男前だ
瑛兄は昔…桜林に恋人がいた…
だが飛鳥井を継ぐから…その男と別れた
その男は…オレに似ていたと、京香は言った
京香は、そんな瑛兄の魂ごと愛して尽くした女だ
アレ以外は伴侶にはなれねぇ
京香は魂が綺麗なんだよ
そして…我が子よりオレを愛す二人なんだよ…オレは京香を元に戻してぇ…飛鳥井の母が泣いても…だ
反対されたら……オレは飛鳥井を出る…」
瑛太が康太を溺愛しているのは…見ていれば解るか
康太に似た恋人…
それも榊原になら理解は出来る…
榊原本人が…康太に似ているだけで…
紛い物を抱いていたから…
一歩間違えれば…瑛太は康太を……
そんな危うい気持ちを押さえ付け…
兄として生きる道を選んだのた…あの男は…
榊原の胸が痛んだ
キリキリ締め付けられる様な痛みを…押さえて…飛鳥井瑛太は出来ていたのだ…
康太の幸せの為なら…榊原を認めて…
一緒に愛す…なんて事は…強靭な精神力でも
…狂いたくなる程…辛い
「僕は康太と未来永劫…共にあります
僕の伴侶は、飛鳥井康太、君だけです
僕の欲しい人間は今も昔も君だけ
君がいるなら他は要りません。」
「オレも伊織しか要らねぇ…」
榊原は、康太に軽くキスを落とした
「康太は疲れてる…だから甘えさせてあげます
ずっと抱いててあげるから…眠りましょう…僕の胸の中で眠りなさい」
優しく包まれるように抱かれ…安らぎが康太を襲う
甘えて榊原の胸に擦り寄り目を閉じた…
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