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第57話 折れた翼
瑛太はやっと冷静になり現状を飲み込み始めた
「そうでしたか…
神野は…父の会社を継いだんですか…
私が神野に連絡を入れましょう
そしてお前を病院まで送っていく
それとも……こんな兄は………嫌ですか…」
気弱な発言をする瑛太は…昨夜のショックからまだ完全には立ち直れないでいた
康太は瑛太の首に腕を巻き付け抱き着いた
「オレは瑛兄が大好きだって言わなかったか?
オレは瑛兄が昔も今も大好きだ。
瑛兄の為ならオレは喜んで…命を懸ける…」
康太は瑛太の頬に接吻した
「飛鳥井の家に…お前がいない…って考えただけで…血迷った…
お前が伊織君と幸せそうに笑っているのを…兄は近くで…見守りたい…」
「オレは瑛兄に愛されてる
だが…同じ位…オレも瑛兄を愛してる…
同じ器を求めてしまう位に……
オレは伊織を求めた
だか…オレはもう伊織以外のモノにはならねぇ
伊織だけのモノだ。」
瑛太は…微笑んだ
「それで良い!
お前の伴侶は榊原伊織!
私は二人を見守ると決めた
お前が生きて行けるなら…
私も生きていこう
生きてこの目で…お前の果てを見届ける
お前を支える防波堤に私はなろう…」
瑛太は…康太の頬に接吻を落とした
「神野に電話を入れます
そしたら病院に送ります」
瑛太は…携帯を取り出し…悪友に電話を入れた
瑛太は、用件を喋り…最後に
「康太に変な事はしてませんよね?」と確認した
すると悪友は
「お前の溺愛4男坊は、綺麗になったな
見てビックリした
これを見たら…紛い物は色褪せるな…
御悔やみ言った方が良いか?」と、返され絶句した
「もう君は喋らなくて良い
隼人は飛鳥井の人間も同然
当面はうちで預かる!依存はないな?」
瑛太は、悪友の口を押し止めた
総てお見通しでは……分が悪い
神野晟雅は、総て了承して飛鳥井康太に預ける…と、言った
電話を切ると、瑛太は康太を抱き上げた
「瑛兄…このまま…地下に行く気かよぉ~」
康太が言っても…瑛太は康太を下には下ろさなかった
副社長室のドアを開けると…社長である父親が出ていた
秘書が呼びに行ったのだ…
「瑛太…そのまま地下に行くのか?」
父が聞くと…「いけませんか?」と、睨まれた
父は呆れ康太に「気を付けてな」と、手をふった
康太は嬉しそうに…父親に手をふった
そんな父を無視して瑛太はずんずん歩いて行った
瑛太は、康太を病院まで送った
病室には傷付いた…一条隼人が眠っていた
側で榊原が一条を守っていた
愛する康太の宝を守るかのように…
病室には小鳥遊も、……神野晟雅もいた
病院に入った瑛太は驚いた
高校時代の面影をそのままに…年を重ねた…悪友がいた
「よぉ瑛太!やはりお前は溺愛4男坊を連れて来たか…」
神野が瑛太を揶揄する
瑛太は眉を顰めた…
神野は、康太に向き直り
「一条は、直ぐに白馬に連れて行けます!
直ぐに立ちますか?」
と問い掛けた
康太は首をふった
「隼人が目を醒ましたら…動かす
眠ったまま…動かすと、パニクるだろうから…少し待つ」
康太は一条の側に向かった
「隼人…白馬に行くぞ
お前の行きたがっていた白馬に、お前を連れて行く
だから目を醒ませ…」
康太が耳元で話しかけると…
一条は目を開け…康太に抱き着いた
康太が一条を胸に抱く
康太に甘える一条隼人を……神野晟雅は初めて目にした
ある時から…一条隼人は変わった
豹変した一条隼人を変えてのは「飛鳥井康太」だと…小鳥遊に聞いた
神野は、懐かしい名前を聞き…想いを馳せた
悪友である瑛太の家に遊びに行くと…
康太が瑛太の元へ走って抱き着く様は…瑛太の学友は全員知っている
飛鳥井康太は、飛鳥井瑛太の溺愛4男坊と…認識されていた
瑛太の危うい感情と…
胸に押し止めた兄として生きていく覚悟を…
学友は感じ取っていた…
神野が父親から受け継いだ事務所は、潰れる寸前だった…
潰れるなら仕方がないと、諦めていたら…
一条隼人が化けて…今やトップの事務所と肩を並べる大所帯になった
小鳥遊から…飛鳥井康太の話を聞くたび…
一度逢わねば…と思っていた
色々と知っていくと…瑛太の溺愛4男坊には、伴侶がいることを…解った
昨夜車に乗せた時に…完全なる対の存在である事を知った
瑛太の心中を思いやったが…
病院に表れた瑛太は……
康太と榊原に優しい瞳を送っていた
それで…弟が幸せならば…
兄として二人を見守る決意をしたと…思い知った
目の前の一条は…子供の様な顔で…康太に甘えていた
「康太…オレ様は…プリンが食べたいのだ」
康太は、一条の我が儘を笑って許していた
「ならば、伊織が買ってきてくれる
でもな隼人、白馬ですんげぇ旨いプリンがあんから、それを食おうな」
康太が撫でると、一条はまるで猫の様に康太に擦り寄った
榊原が塗り薬を塗ると…榊原に甘えた
その様は…まるで親子…だった
母がいて…父がいて…そして隼人がいる
当然の光景として…そこにあった
「隼人…歩けるか?
オレがデカかったらお前を抱っこして行けるけど…
お前はオレよりデカいかんな
抱っこしたら…オレは潰れる」
一条は、伸長 180はある
康太は………かかとを少し上げて…
160そこそこ…。
見上げないと…一条とは話せないのだ…
榊原も然り
一生も聡一郎も…
一条、一生、聡一郎、榊原 彼等は会話する時、目線は常に同じ高さで会話する
が……康太が加わると…目線は下に…なる
康太の回りは…デカい奴ばかりだった
康太の言葉に…一条は、笑った
「康太が潰れたら…オレ様が抱っこして行くのだ!」
と、病人なのに…康太至上主義が炸裂した
「歩くの辛いなら…車椅子に乗るか?」
康太がそう言うと、
「伊織の肩を借りれば歩ける
二人で伊織に抱き着き歩こう康太」
一条は、笑って言った
小鳥遊は、震えて話も出来なかった…
壊れた一条を……修正するのは…血を分けた肉親ではなく…
やはり飛鳥井康太なのだ…と、実感した
この絆は…誰も引き裂く事は出来ない
「瑛兄、オレは白馬に行く!
隼人のカタを、取る時は必ず兄の元に行く」
康太が瑛太を見る
瑛太は康太に近寄り…抱き締めた
「兄に…お前の生きてる顔を見せてくれ
それだけで…兄は…安心できるのだから…」
…と、心の澱を少し吐き出した
榊原は、瑛太は康太の兄として…生き続ける決意を垣間見た
康太の兄として…生きていく強固な決意を…
「オレは必ず瑛兄の所へ顔を出す
何時もそうして来た
これからもそれは変わらねぇ!」
康太はニカッと笑った
「ならば良い
無茶だけはするな……良いな?」
少し釘も刺しとく
肋骨を2本折る子だから…
康太は頷いた
瑛太は康太を離すと…榊原も抱き締めた
「伊織、康太と共に在ってくれ」
何があっても康太と共に…
それが瑛太の望みだと…心から知る
妬く必要などなかったのだ…
康太を溺愛しまくっていても…瑛太は兄の領域は出ない…
そう決め生きて来ているのだから…
榊原は、瑛太の瞳を見て…頷いた
瑛太は榊原を離すと、神野に向き直った
「車の用意は出来てるのか?」
「あぁ、駐車場にキャンピングカーを用意した
隼人はそこに寝かせる
一度に運べるのはその車しかないんでね」
神野は肩を竦めた
「ならば、連れて行け!
飛鳥井の協力が要るのなら…協力は惜しまん
隼人は康太の宝
飛鳥井は康太の宝を家を上げて守る!
康太の伴侶の伊織も…そうしてくれる
だから…遠慮は無用だ!」
神野は頷き、瑛太の肩を叩いた
康太はベットから一条を立ち上がらせた
榊原が一条の体を支える
一条と康太は顔を見合わせ…榊原に抱き着いた
「康太…これでは歩けませんよ…?」
完全に体の自由が失われた状態になった
康太は笑って榊原から離れた
「隼人、伊織は妻が抱き着いたのに拒んだぞ」
……と、一条にごちる
隼人は「倦怠期か…?夜の生活が手抜きになって来たら…気を付けないといけないのだ…」
と、隼人が真剣な顔で答えた
康太は…じーっと榊原の顔を見詰めた
「僕を困らせて喜んでますか?」
「お前を愛し過ぎるが故のオレの我が儘だ…許せ 」
白馬に出掛ける朝に康太の体を酷使した時に…
榊原が康太に言った言葉のお返しだった
「許しますよ!さぁ気の済むまで抱き着いて下さい」
榊原は、やけくそに言った
康太は一頻り一条と共にスリスリして、離れた
怖がる一条をリラックスさせる為に、わざと榊原に抱き着いたのだ
多分…一条は、誰かに触られると…フラッシュバックする
ならば、榊原と康太には慣らしておく必要があった…
「伊織の胸の中は…安心できる
オレ様は、二人に抱き締められて眠るのが大好きだ」
一条が…淋しい想いを吐き出すかの様に言う
「白馬に行ったら挟んで寝てあげます
さぁ隼人、一生と聡一郎が待ってます
行きますよ…少しずつ歩きなさい
僕が支えてますから…怖がらないで…」
榊原が言うと…一条は頷いた
小鳥遊が前を歩いてドアを開ける
病院を出て…駐車場に行くまで…一条の体は…強ばっていた
車に康太が先に乗り込み、一条に手を差し出した
一条は康太の手を取り…車に乗り込んだ
その後に榊原が乗り込み、一条は康太の膝の上で眠った
「瑛兄、力哉を白馬に来させてくれ」
「解った…行かせよう
康太…何かあったら連絡しなさい!」
瑛太が康太に言葉をかけると、康太は頷いた
「動く前には…顔を見せる」
康太はニカッと笑い親指を立てた
車の助手席に神野も乗り込み、小鳥遊は運転席に乗り込んだ
「では、行きます!」
声と共にエンジンをかける
走り出す車の中で…康太は瑛太に手を上げた
一条は、康太の膝にしがみついて…目を閉じていた…
「隼人…目を開けろ…ずっとお前は何も見ずに過ごすか気か?
お前の器に沢山のモノを詰めたのに…また空にする気か?」
一条は顔を上げた
「見たくは…ないのだ…」
「オレもお前の目には写らねぇのか?」
「康太…」
「怖いなら人は見なくて良い
景色を見ろ…」
一条は、恐る恐る外に目を向けた
見慣れた景色なのに…全く知らない場所みたいに写っていた
「街にはな隼人、顔があんだよ
ビルを造った人の想いもあんだよ
全部一緒じゃねぇ
見てみろ?」
康太が言うと、一条はずっとビルを眺めていた
ずっと走っていくと…町並みがなくなり
山が見える…
遠くに畑が見える…
「隼人、山が見えて来た
山も夏の顔をしてんだぞ
冬は…辺り一面真っ白だ
今は夏だから…緑に覆われて
生命力を感じねぇか?
オレ等の生まれる前から…山はそこにあんだよ
じぃちゃんも若い頃…この山を見て白馬に向かった…
そして今、オレ等は、その山を見ながら…
白馬を目指している…
不思議だろ」
康太は笑っていた
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