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第59話 修復②

次の日の昼…瑛太が力哉を白馬に差し向けてくれた 隼人のいる部屋に入ってきた、力哉の姿を見て、神野は…驚いた こんな事があるだなんて… 奇跡に近い…現実を目の当たりにした 力哉の器は…隼人と同じだったから… 「隼人…力哉が来てくれた。 力哉なら、怖くはないよな」 康太が聞くと、一条は頷いた 「力哉、隼人を頼む…」 力哉の顔付きは…また変わった 佐伯に絞られ教育された姿が伺えれた 「僕は貴方の為にいる。 心配せず、行ってきて下さい」 力哉は康太に…そう声をかけた 康太は頷き…側を離れた 応接間に行くと、一生と聡一郎が待っていた 康太は不敵に嗤い、二人に近寄った 神野と小鳥遊は…3人の顔付きが変わるのを …その目で目撃する事となる 「一生、仕掛けるぞ!」 魅入られたら…魂まで凍り付きそうな笑みに …神野の背筋に冷たいものが流れた 一生は康太にタブレットを渡した 康太はソファーに座り足を組んだ その横には榊原が影の様に控えて…決して前には出ない…二人のカタチが…そこにあった 康太は神野に核心に迫った言葉を投げ掛けた 「神野、隼人は月9の仕事が入っていたんだろ?」 康太の目が…神野を射抜く 神野のは…公表すらしていない情報を… 何故知っているのか…驚いた 「隼人はこの怪我だ…仕事を降りるしかねぇよな… 隼人は嵌められたんだよ… アイツは、芸能歴だけは長げぇ癖に、足の引っ張り合いをする芸能界の汚さを知らねぇかんな…」 と、康太は神野に現実を突き付けた 「ほら、見てみろよ! 次の月9の配役候補を!」 康太は神野にタブレットを渡した タブレットを受け取った神野は驚愕の瞳を康太に向けた 「何故…此処まで詳細の配役を?」 神野が問い質す 「この脚本は伊織が手掛けているからだよ 伊織の作品だかんな 伊織がいち早く知る事になる」 神野は康太の横の榊原に…君は誰なんですか …と声をかけた だが榊原は一言も言葉を発しない 「伊織は、脚本家 幸田飛鳥 榊清四郎を父に持ち、北城真矢を母に、九条笙を兄に持つ 役者にはなれなんたが、誰よりも役者を使うのが上手い脚本家になった いずれ、力哉に伊織の仕事のサポートをさせる気だ」 康太の言葉に…神野晟雅は…本当に言葉を失った 神野は小鳥遊に、お前は知っていたのか…と聞いた 「脚本家は、初耳ですが…伊織君のご両親と家族は知っています…」 小鳥遊がごちる 康太はそれを無視して話を続けた 「この月9の配役の名前は…隼人を襲った奴に間違いはないだろ…」 神野はタブレットを凝視した 「確かに…間違いはない…」 神野が答えると…康太は鼻で笑った 「コイツは一条を蹴落とし…主役になりたかった… 隼人は…そう言う芸能界の汚さを知らなかった… オレは追々教えていくつもりだったんだが… 先手を打たれちまったら…反撃に出るしかねぇよな、一生 」 一生は、普段とは違った顔をしていた 「あぁ!俺等に刃を向けるなら… 俺等はそれを討つ!それだけだ。」 「僕達に…逆らう怖さを思い知れば良い… 況してや…康太の宝を傷つけられて… 黙ってたら…四悪童の名折れ! やらずにおくか」 その美しい顔からは想像も出来ない、思いを四宮聡一郎も吐き出した そして…やっと榊原は重い口を開いた 「どの道、僕は一条隼人以外の俳優で、それを作成する事に了承はしていません 脚本すらなくて…どうする気なんですかね…」 と、自嘲した 康太は一生のノートPCを、神野に見せた… ノートPCの中には…物凄い量の情報が入っていた その情報に…神野は目を奪われた 「敵を倒したいなら…より多くの情報量が要る 証拠と情報量、それが揃って…初めてオレ等は動く 今度はトドメを刺す! オレはトドメはあまり刺さねぇが… 今回は二度と芸能界で生きて行けなくしてやんよ オレ等に向けた刃なら、キッチリとカタを取る! それが飛鳥井の教え!」 康太がその台詞を吐くと… 神野が「瑛太もその台詞を良く吐いてた…」と、呟いた 康太は「当たり前だ!オレは飛鳥井瑛太に育てられたのだからな…」と、笑った 「でもオレは瑛兄とは違う 瑛兄は策士 オレの策士は緑川一生 そして戦略の四宮聡一郎 オレは適材適所見極めて…勝機を詠む」 神野は、ほほう…と感心していた 「オレ等は四悪童…瑛兄とは違う 瑛兄と同じポジションは…我が伴侶、榊原伊織 鬼の執行部部長だ」 神野は…納得していた 厳しすぎる程自分を律したかのように… 想いも欲望も…総て服の下に隠して… ストイックに振る舞う仕種は…飛鳥井瑛太の高校時代の姿に酷似していたから… 康太は神野に真摯な瞳を向ける 「神野晟雅…オレは兄とは違うぞ オレは動き出したら…止まらない 止めてくれ…と、頼まれても…止まりはしない!それだけ…覚えとけ」 と、康太は言い捨てた その後を一生が補足する 「康太の言葉は嘘やハッタリではない! 完遂するまで…決して動きを止めない それが飛鳥井康太だからだ! オレ等は共にあろうと動く 飛鳥井康太を止めれるのは…この世で2人 それ以外の人間の言葉など… 耳も貸しはしない もう康太は動き始めている…もう遅い…」 一生の目は…彼方を見据え…微動だにしなかった 「柘植恭二 木瀬真人 篁椎堂 3名は同じ目に合わせてやる…」 神野は「どうやってだ…? 下手したら…君達が…警察に捕まる事になる…」と忠告した そんな事になったら友に合わす顔はなくなる‥‥ 「オレが手を出さずとも…陥れる策はある! 四宮聡一郎は、情報を操る…人も操る… 蜘蛛の糸を張り巡らす様に…人を陥れるのに…オレ等は表だって動かない オレはトドメを刺しに動くだけだ…」 康太の唇の端が吊り上がる 「もう始まってんだよ! 布石は打ってある… もう動き始めてんだよ 内から崩すと…後は脆い… 待ってれば良いだけだ…」 言い捨てると…後は興味をなくしたかのように、康太は自分の仕事を始めた 久々にPCを探る康太は、物凄い集中力だった かなりの長い時間…黙々と各々が作業をしていた ある程度…見通しを立てると…康太は立ち上がり窓を開けた 遥か夜空を見上げ…何かを探るように… 空を見ていた 一陣の風が…康太の上を吹き抜けて行くと、康太は嗤った 「一生、聡一郎…伊織! 勝機が見えた…何かが今動いた…」 名を呼ばれた3人は、その言葉を聞き作業を止めた 一生は、伸びをした 聡一郎は、首をコキコキならしていた 榊原は、立ち上がり腕を開く その胸に康太が飛び込んで抱き着いた 「伊織…腹減った…」 榊原は「昨日買ってきた材料で食事を作って来ます 手伝って下さい」と、小鳥遊に声をかけた そして康太を抱き上げると一生の膝の上に乗せた 「聡一郎、手伝いなさい」 榊原は、一生は使い物にならないのを知っていた 榊原は小鳥遊と聡一郎を連れて、食事を作りに行った 康太は一生に抱き着き…ゴロゴロと懐いていた 「一生、明日の昼…厩舎に行くもんよー オレも明日の昼は付き合う」 一生が康太の頭を撫でた 「隼人は力哉に任せるから…絶対に! 厩舎に一緒に行くかんな!」 康太が言うと一生は 「お前の行く所…例え地獄の果てだってお供するに決まってんじゃん」と、康太を抱き締めた 康太は…ならば良い…と一生の胸に顔を埋めた 一条は…またこの夜も…魘されて飛び起きていた この日の康太は…一条を黙って抱き締めただけで…慰めるのは…止めていた 現実を教えるべきか…守って忘れさせるべきか…康太は迷っていた 次の日の朝…一生と聡一郎がやって来た この日は康太は…ホテルへは行かなかった… 昼まで…思案して… 昼になったら…榊原と一生と厩舎に向かった 聡一郎は、何かを感ずいたのか…一条を見ていると…別荘に残った 飛鳥井の厩舎へと歩いて行く すると…目の前から…ゆったりとした白いワンピースに身を包み… 黒い…長い髪を腰まで伸ばし… 白い日傘をさした女性が…前から歩いて来た… 一生は立ち止まり…時間を止めた… 女性は…一生の顔を見ると…微笑んだ 愛情の籠った…深い愛情が…滲み出ていた 「一生…」 女性は一生の名前を呼んだ 一生は…言葉にならない声で……亜沙美さん…と呟いた 妊娠4ヶ月の亜沙美のお腹は…少しふっくらしていた 来年…子供を産み…康太が…引き取る 亜沙美は、一生の側へ行き、一生の手を取った 「一生…愛してます 私は…貴方を命を懸けて愛した… なのに…貴方に辛い十字架を背負わせる私を許して下さい……」 亜沙美は、頭を下げた 一生は、その体を優しく抱き締めた 「俺も…貴女を愛しています 出来ることなら…亜沙美さんと… 結婚したかった… 叶わないなら…死のうと思った… でも…俺には友がいた…死ねないのなら…… 貴女の子供を…人生を懸けて守る… それしか俺には許されていない…」 一生は…静かに泣いていた 「私は戸浪でしか生きられない女 一生と、同じ空間では生きられない それを解っていても…一生に惹かれて罪を作った…私を許して…」 「貴女が悪い訳じゃない…… 貴女を愛した…俺も同罪 最後に…貴女に逢えれて良かった… 最後に貴女を抱き締めれて良かった…」 一生は想いを断つかの様に…亜沙美から離れた そして亜沙美から離れると…背を向けた 「俺が背を向けている間に…行って下さい 戸浪さんに…ありがとうございました…と お伝えて下さい… 一目…貴女に逢えて…自分の気持ちを整理出来ました……ありがとう… そして…さよなら……。 俺は…貴女に出逢えれて…最高に幸せでした どうか…貴女は…幸せになって下さい 他は俺が総て引き受けます…」 一生の背中は震えていた 亜沙美は…一生の背中に触れ… 「私も…最高に幸せでした 政略結婚で、愛のない結婚生活を送る私に… 貴方は…愛を与えてくれた… 私は…その愛だけで…生きていきます 本当にありがとう…愛してました…」 一生の背中に触れた手を離し… 亜沙美は…歩き出した… 脇の道から…バタン…と車のドアの閉まる音がした 亜沙美を乗せた車が走り出した 戸浪は康太に会釈をして…通り過ぎて行った 「一生…」 康太が声をかけると…一生は康太に抱き着いた 「お前の時間は…ハワイでオレが死刑宣告した日から…止まったままだ… 終わらせてやりたかった… お前の時間を…動かしてやりたかった…」 震える一生に…康太が亜沙美を呼んだ訳を話す 「ありがとう…康太… 俺に…あの人に…さよなら…を言わせてくれて…本当にありがとう」 震える一生の体を…榊原も優しく抱き締める 「進め…一生…今は辛くても…進め 時間は…止められない… お前の想いも…何時か…想い出になれる… その日まで…歩みを止めるな…」 カチカチ…カチ…一生の止まったままの… 時間が時を刻む… 錆び着くには……まだ早い 時を止めるには…若造過ぎる… 一生は、康太と榊原から体を離すと… 清々しく……笑った

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