60 / 84
第60話 反撃の夜①
8月8日に白馬に一条を連れて来て…5日
お盆に入り、飛鳥井の家族が…白馬にやって来た
清四郎の家族を引き連れて…白馬にやって来たのだ
飛鳥井の家族や榊原の家族が白馬に来た事を、まずは瑛太が一人で様子を見る為にやって来たのだった
別荘にやって来た瑛太の姿を見ると…康太は昔の様に、走って行って瑛太に飛び付いた
「瑛兄…瑛兄…」
甘えて抱き着く康太をそのままに、瑛太は悪友の元に行く
神野は、苦笑する
背筋を凍らせた顔はなりを潜め……
何処から見ても…甘えん坊の溺愛4男坊だった
「康太…隼人の状況は…どうなんだ?」
康太は首をふる
「多分…瑛兄でも怖がる…」
「ならば…私は会わない方が良いな…」
康太は……多分…と呟いた
「飛鳥井の家族が来てます…
伊織の家族も来てます
ホテルに顔を出しなさい」
康太は頷いた
瑛太の体から、ずり下りると…走って榊原の元に行った
「伊織、清四郎さんが来てる
ホテルに一旦顔を出しに行ったら……
全員を連れて来るかんな」
意外な言葉に…榊原は康太の顔を見た
「守っても…隼人は酷くなる…
皆の前に隼人を接触させる…ダメなら部屋に連れて行く」
一条の心の傷は深すぎて……康太は思案する
康太は一生に、皆を連れて来る…と伝えた
一生は、了承した
そして一緒に行く…と、言った
「瑛兄、母ちゃんに逢いに行くもんよー
清四郎さんや皆を…連れて来る…
じゃあ顔を出しに行くかんな」
康太は片手を上げ…瑛太の横を通り過ぎて行った
ホテルに行くと、ロビーに飛鳥井の家族と清四郎の家族が待ち受けていた
源右衛門に両親、蒼太に恵太夫妻と子供
怪我だらけの悠太の姿もあった
そして清四郎と妻と笙
飛鳥井玲香は康太の顔を見ると抱き締めた
「康太、隼人は…どんな状態なのじゃ…」
玲香が尋ねると…康太は表情を曇らせた
玲香…そうか…、と呟き榊原を抱き締めた
「伊織…お主には何時も辛い役回りばかりさせるな…」
康太の辛さを…榊原も背負う…
側にいれば…康太を支える榊原の負担を思いやる
そして一生も、抱き締めた
「一生、ご飯は食べておるか?」
榊原が作るので…と、一生は意外な言葉を放った
玲香は、器用な男だのぉ…と、榊原を優しく見詰めた
康太は清四郎の所へ行くと、
「清四郎さん!ようこそ白馬へ」と、迎え入れた
康太は笑った
その康太の体に…榊原の腕が巻き付く
榊原は、康太の後ろに立ち…康太の体に腕を巻き付け…至極自然な姿で立っていた
康太は飛鳥井の家族と、清四郎の家族に一条の事を話した
話して…逢いに来て…と頼んだ
玲香は、ならば全員…隼人を見舞おうぞ…と言った
それこそが…康太の願いだから…
康太は榊原の前に立ち…家族を見ていたが…
興味が…違う方へ向かって行った
ロビーの横にはレストランがあり…
ウェイトレスがデカいパフェを運んでいるのに…目が釘付けになっていた
康太は榊原の腕に手をかけ…見上げた
「伊織…オレはパフェが食いたいぞ!」
キラッキラの瞳が榊原に向けられる
榊原は…クラッ…となるのを押し止めた
ロビーの横にあるレストランは…誘惑が沢山だ
見上げ…食いたいと…ねだる
下から見上げる康太の可愛らしさに…悩殺されていた榊原は、清四郎に声をかけ
「父さん…康太にパフェを食べさせて下さい」 と頼んだ…
このままじゃ…部屋に運んで…しまいそうだから…
清四郎は…息子からのお願いに…
「じゃあレストランへ行きましょう」
と誘った
流石と、パフェは康太だけで
皆…好き勝手な物を注文した
暫くして康太の前には…デカいパフェが運ばれて来た
康太はパフェに食らい付いた
果物を食べ…生クリームに格闘する康太の頬に生クリームが着くと…榊原はペロンと、康太の頬を舐めた
目撃した悠太は…固まって…他の家族は笑って遣り過ごした
何たって康太の伴侶だから…半端な男じゃ務まらない
一頻りパフェに食らい付いた康太は、榊原に口を拭いてもらい水を飲んだ
そして不敵に康太は嗤った
「さてと…本題に入る!
隼人は…殴る蹴るされた時のショックから抜け出せずにいる…
もう5日…ずっと恐怖の中にいる
誰かが来ると…恐がり…このままじゃ…
アイツは俳優には戻れなくなる…
オレはそれが怖い……
だから強硬にも出れない
思案していた…
でも、甘やかすだけじゃダメだかんな…
皆…隼人に逢ってくれ」
目の前の康太は…パフェに食らい付いていた甘い康太ではなかった
何かの戦略があって動いているのか伺えれるキツい瞳をしていた
もう康太の事だから…何故一条が襲われたのかは知っていて…
カタを取る算段をしているのだろう…
レストランを出た飛鳥井の両親と榊原の家族は一条を見舞う…
後は好き勝手に過ごせ…と玲香は言い放ち、その場を離れた
康太は風を切って、颯爽と歩く
その後ろには榊原が寄り添い…歩く
玲香は、その姿に涙した
康太の…オレは業が深い…と言う言葉の…意味が…母の心を貫く…
ならば…母は見届けようぞ…お前の選んだ道から決して目は離さない…と、心に誓う
別荘に着くと康太は…音を潜めた
静かに足音を立てず部屋へ入る
隼人のいるドアを開けると…力哉が一条を守っていた
「力哉、隼人は?」
力哉は首をふる
「隼人、今日は飛鳥井の家族と榊原の家族が、お前に逢いに遙々来てくれたぞ」
康太が言うと…一条は、驚愕の瞳を康太へ向けた
「部屋に来てもらう…お前は慣れないといけない…
部屋でお前を守るのは容易い
だがお前は俳優の仕事が天職…
他にはなれねぇ……
ならば…慣れるしかあるまい…」
康太はそう言うと、榊原に部屋へ通してくれ…と言い放った
榊原はドアを全開に開き、皆を招き入れた
一条は、康太にしがみつき震えた
「隼人、この人達はオレの家族だ
お前を傷付ける人間じゃねぇ…良く見ろ
お前の目で確かめろ…そして慣れろ
震えるだけじゃ…先には進めねぇ
自分を傷付ける人間と…守る人間を…お前の目で見て確かめろ」
康太の声に…一条は顔を上げた
もう…殴られた傷は薄くなっていたが…
その姿は痛々しかった
玲香は一条に近寄ると…優しく抱き締めた
「我も…怖いか…?」
玲香が声をかけると、一条は首をふった
優しい…母の胸に抱かれ…一条は泣いた
柔かな母の胸に一条は顔を埋めた
玲香は一条を抱き締め…頭を撫でた
我が子の様に…優しく包み込まれ…一条は震えを止めた
清四郎が一条に近寄ると、玲香は一条を離した
その場所を清四郎に譲る
清四郎が一条の頬に触れる
「私も…怖いか…?」
一条は首をふった
そして清四郎に抱き着いた
その様子を…北城真矢は見守っていた
……が、グラッと体が崩れた
榊原は、咄嗟に母親に腕を伸ばし…支えた
支え…ソファーに座らせた
「ありがとう…伊織…」
真矢が息子に声をかける
部屋の中は…暖かな空気に包まれていた
「隼人…立て…。
お前を守るのは容易い
だが…何時までもお前は…その中で…
眠っていてはいけない」
康太は一条に、厳しい言葉を投げ掛けた
一条の瞳に…厳しい康太の姿が写る
康太は一条に向けて、両手を広げた
「隼人…オレは敢えて鬼になる
獅子が我が子を千尋の谷へ突 き落とす様に…お前を現実に突き落とす
耐えろ…隼人。
耐えて…オレの場所まで…這い上がって来い」
一条は、震える足を…床に着けた
そして……ベットを降り…
崩れ落ちた…
一条は、一人で…立っていられなくなっていた
崩れ落ちた一条に、清四郎は手を差し伸べ様とする
その手を…榊原は、押し止めさせた
「立て…最初の一歩で崩れたら…
もうお前は一人では歩けない…
オレの隼人はそんな弱い男じゃねぇぞ!」
康太は窓辺に凭れて動かない
一条は、渾身の力を籠めて…立ち上がろうとするが…
体が着いていかなかった
康太は皮肉げに笑った
「そんなに力を入れてたら…
立てる訳がねぇ
歩き方も忘れたか…隼人…
此処まで来い隼人…オレの場所まで来い 」
一条は、深呼吸した
康太の腕に抱かれる為に…康太の場所まで…行く為に…
一条は、立ち上がり…ふらつきながらも…
康太の場所まで歩いて行き…康太にしがみついた
「隼人、明日の夜…お前の目の前で、オレはカタを、取りに行くつもりだ
お前は自分の目で…目届けろ…自分の生きている世界は、優しい人間ばかりじゃねぇ
ファンも然り…オレは見極めろと、言った筈だ
足を引っ張り引きずり下ろそうとする奴に
お前は尻尾を巻いて逃げままか?
オレの隼人は…そんな弱ぇえ男じゃねぇだろ?
闘え…決して負けんじゃねぇ…目を反らすな!」
一条は、厳しい友であり…母親の様な…深い愛に…頷いた
「康太が…崩れたオレ様を繋ぎ合わせてくれる…
オレ様は…崩れる前より強くなる…
強くなるから…」
康太を掴む手が震えていた
「隼人…オレは厳しい鬼だ…許せ」
一条は首をふった
「康太は…オレ様の総てだ…友であり…オレ様を守ってくれる…母親だ…
オレ様は…ぬるま湯の中が…楽だったから…甘えていたのだ…」
「隼人…目を反らすな!
目を反らしたら…お前の敗けだ
人を見極めて…お前は上がって行け
お前はオレの宝だ
それは今も昔も変わらねぇ
オレはお前を拾った時から、お前の総てになった
母であり、友であり…その総てになり、オレはお前を支える
だが甘やかすと…護るは違う…
腕に抱き締めて守っていたら…
お前は自分で立てなくなる…
オレはそれは望んじゃいねぇ…解るな?」
一条は何度も頷いた
「ならば…慣れて来い…!
瑛兄の膝の上にでも乗って、ご飯を食べて来い」
康太は一条を、離すと、キッチンにいる瑛太の場所に行けと…指図を出した
ヨロヨロと歩く一条の足取りは…
一人で立とうと…必死だった
やっとの事でキッチンに行くと、瑛太が座っていた
一条は瑛太目掛けて…走って行き…抱き着いた
「瑛太ぁ、ご飯を食べさせて欲しいのだ」
一条が言うと、瑛太は「怖くないのですか?」と、尋ねた
まさか…怯えている一条が来るとは…
瑛太は思っていなかったから…驚いた
「康太に…馴れる為に…抱き着いて来いと言われたのだ…オレ様は…まだ怖い…
だけど歩みを止めたら…康太に怒られる…」
瑛太は一条を膝に乗せ、昼食を食べさせてやる
神野はその慣れた手付きに…飛鳥井を上げて一条隼人を育ててくれている姿が伺えれた
飛鳥井康太の宝物…と、四宮は言った
多分…一条はそう認識されて、飛鳥井の家で過ごしているのだ
与えられなかった愛を…飛鳥井の総てで
守られている
ならば…こちらも動くしかあるまい
神野は瑛太に向き直った
「飛鳥井瑛太に頼みがある。」
と、神野は瑛太を真摯に射抜いて言葉にした
瑛太は笑って…少し待て…と言った
「康太が寄越したのならご飯を食べさせないと…拗ねられる
康太に拗ねられるのは…本望ではない
少し待て…」
瑛太は、子供に食べさせる様に…口に運び食事をさせていた
一条がもう良い…と言うと、ジュースを飲ませた
「何だ話って?」
膝から一条を、離す気はないみたいだ
「うちの事務所は都内を離れる
お前んちの近くに事務所を構える
建ててくれ!」
神野晟雅は、サラッと建ててくれ…と言った
「お前…今、凄くサラッと言ったな…」
瑛太は苦笑する
「隼人は横浜ばかり行って…都内には来ない
寮に入ってるなら仕方がないが…
大学には寮はないからな…近くに住まわせるなら…事務所を移す」
「隼人はうちに住み着いてるからな…」
一条が瑛太の顔を見て「ダメか…」と悲しい顔をした
「隼人はもう、うちの子みたいなもんだろ?」
瑛太の瞳が優しく光る
「近いうちに土地を見に来ると良い…」
瑛太が言うと、神野は頷いた
一条の様子を見に来た、康太が瑛太の首に…するっと腕を巻き付ける
そして瑛太の頬にすりすりする
「康太…お前もご飯が食べたいのか?」
瑛太が笑いながら問い掛ける
「嫌…瑛兄に少し甘えただけ 」
康太は笑い、瑛太から離れた
「神野、そろそろ頃合いだ!
仕上げに行く
明日の夜、東京にオレを乗せていけ
隼人も連れていく
自分の目でカタを取る所を見届けさせる 」
えっ…?
神野は言葉にならなかった…
震えていた…一条に…それが出来るのか…
解らなかった…
康太は…神野に静かに話し掛けた
「隼人を甘やかして守るだけでは…
隼人はダメになる
もう…役者として…
生きて行けなくなる…
それは隼人は望まねぇ
ならばカタは自分で取らせるしかねぇ
荒療治と言われようが…オレはやる
どっち道…もうオレは止まらねぇ…
オレを止めるなら…役者の一条隼人は死ぬ」
役者の一条隼人は死ぬ…
ならば…飲むしかないのだ…
神野は康太に頭を下げ…お願いします
…と、頼んだ
瑛太は一条を横の椅子に座らせると立ち上がった
「行くのか…?」
瑛太は問い掛けた
瑛太の問いに、康太は微笑んだ
「オレは動く…」
瑛太は康太を抱き締めた
「ならば逝け……兄は待っている」
康太は背伸びをして瑛太に腕を伸ばす
瑛太は…そんな康太を抱き上げた
康太の腕が瑛太の頚に巻き付く
「瑛兄…」
康太は………瑛太の耳に… …囁いた
瑛太は笑顔で…康太を抱き締めた
『瑛兄、大好き』
オレは貴方の弟でいよう…
オレは…貴方が大好きです
高校の制服を着る貴方の…側に行きたかった
貴方は大人で…
オレは子供で…
側にいられないのが…悲しかった
特別な存在になりたかった
だけど……中等部の入学式の日
生まれて初めて恋をした
その日から…兄は…兄になった…
もう兄の特別にはなれない…
だが…今も…兄は…
大切な…兄に…変わりはないのだ…
愛する兄 飛鳥井瑛太の
弟で…いたいと…思う
康太は、一条と部屋に戻った…
部屋には談笑の声が響き渡っていた
康太は一条をベットに休ませると、榊原の側に行った
榊原の腕が康太を引き寄せる
清四郎は、康太に問い掛けた
「康太…隼人に暴行を働いた役者は誰なんですか?」
「知ってどうするんです?」
「私は…長い間…芸能界で生きて来た
越えてはならないルールはある筈
そのルールを違えたら…制裁は免れない
私はそんな卑怯な人間は許さない…許したくない!」
清四郎は、興奮して話をしていた
許せないのだ…許したくはないのだ
「清四郎さん…柘植恭二 木瀬真人 篁椎堂って役者知ってます?
この3人は…隼人をサンドバックみたいに殴った」
名前を聞いて唖然となる
この3人の所属事務所『オーガ芸能事務所』は芸能界でかなりの影響力を持つ事務所だった
その事務所が今…売り出しているのが、この3人の俳優だった
榊清四郎の錦芸能事務所は、オーガより上で
オーガ芸能事務所の相賀和成と榊清四郎は学友で昵懇の仲だった
清四郎はつい最近相賀と逢い
『今力を入れているんだよ…』と聞いたばかりだった
清四郎は「嘘…?」と呟いた
「信じないのなら…信じなくて良い
オレは信実を話しているだけだ!」
…と、康太は嗤った
清四郎は「君が何の戦略もなく動かないのは知っている
信じられないが…それが現実だと…解っているよ…」と康太に言う
「清四郎さん、聞かなくて良い事もある
況してや清四郎さんはオーガの社長とは昵懇の仲
見て見ぬふりをしろ!」
清四郎は、首をふった
「オレの動きを止めるなら、貴方でも排除する…」
清四郎は……康太…と、泣きそうになった
笙は、康太に
「許せない想いは一緒だよ…康太…
僕だって腹が立って仕方がない」
と、父の気持ちを代弁した
「笙さん…、解りました。全て話します」
康太は降参したかの様に話をした
「一条隼人は、来クールの月9の仕事が入っていた…
その仕事が欲しい柘植恭二 木瀬真人 篁椎堂が、隼人を暴行して
裸の写真を撮って…二度と仕事出来なくしょうとした
実際…隼人は、恐怖で…仕事を復帰できるか…解らねぇ…
その3人の所には月9の仕事が行ったらしいぜ
オレは、絶対にカタは取る!絶対にだ!」
清四郎は言葉を失った…
笙は…芸能界が汚いと言っても…そこまでするのか…と、信じられなかった
「オレはあらゆるコネを駆使して、隼人の暴行されている映像を手に入れた
裁判になっても立証出来る
しかし…隼人はツイてる…
撮影所の駐車場まで行かれたらアウトだったが、途中のビルに防犯カメラを見付けた
そこは窃盗や暴行が多いとかで…
ある議員が事件の抑止になる様につけてたんだよ
まぁ手に入れるには苦労したけど…これでやっと反撃に出れる」
康太は不敵に嗤った
清四郎は、康太君!と、駆け寄った
「私は、その指示が相賀がしたのか知りたい
私は…アイツの友として…道を違えているのなら…説得したい」
言えば…清四郎は引かない
厄介な事態になるのは想定していた
だが…勝機は手中にある
運命が…軌道に乗った今…役者が歯車に加わるのは必然なのかも知れない…
「ならば行って確めてみれば良い!
だが…証拠は弁護士に渡し、裁判を起こすだけになっている
それでも、確かめに行くのか…?」
清四郎は頷いた
決意が伺えれた
「清四郎さん…オレは何処にいても人を動かせる
動かすのは人だけに非ず
噂も情報も駆使して追い込む…
それが我等四悪童の本領
現実は…貴方にとって過酷かも知れない…
なのに…何故…貴方は知ろうとする?
知らなくて良い事もある。」
清四郎を思って…康太が呟く
「隼人と同じ世界で生きる人間として、信実を知らずにいる事は出来ない
隼人は康太の宝…我が心の師匠の宝が傷つけられて…許せる筈などない
卑怯に掴んだ主役など、蜃気楼より儚いと教える責任は、同じ役者として私にはある」
役者 榊清四郎 の言葉だった
「だから、康太…話し合いには、私も加えて欲しい
隼人は、康太の宝…私に取っても…大切な子だ
傷つけられて許せる筈などない…今から東京に行って話し合いましょう」
殴りたい位…… 頑固は血筋か…
榊原も言い出したら…引かない
この父にして…伊織あり…なのだ
「清四郎さん、今夜は絶対に動かない
勝機は明日の夜現れる
それまでオレは動かない」
康太は清四郎に、明日の夜しか動かない事を告げると…清四郎は了承した
「ならば、場を設ける
隼人の所属事務所の社長、神野晟雅
マネジャーの小鳥遊。
康太は一条隼人、本人も出すつもりなら…
参加させましょう
そして、向こうは…柘植恭二 木瀬真人 篁椎堂の3人と、社長の相賀和成で、良いね、康太」
清四郎の言葉に、康太は頷いた
事が大きくなって逝く
勝機は我が手中にある、これは変わりのない事実なれば‥‥組み込むしかあるまい
康太は思案して
「ならば隼人の体を考えて…話し合いは此処でしましょう」と提案した
目立つ人間が一同に揃うならば‥‥人の口に戸は立てられはしないのだ‥‥
「そして清四郎さん、その話し合いの場には、月9の脚本家、幸田飛鳥も参加させる!良いな」
「何故…脚本家など…」
「その脚本家は、一条隼人でなくば脚本は書かないと知らしめる必要があるからだよ、清四郎さん
なぁ、伊織、そうなんだろ?」
康太の言葉に…清四郎は…どういう事ですか???…と言う顔になった
どうやら榊原は…話してないみたいで…
榊原は、康太‥‥と言い康太を睨んだ
だが康太はお構いなしで続けた
「今度の月9の脚本家の、幸田飛鳥は伊織なんだよ」
康太が告げると…清四郎も真矢も笙も…えぇぇっ…と、驚いた
笙は…「幸田飛鳥が伊織だったんですか…」と驚き…
真矢は…「役者にはなれなかった…って…引っ掛かっていたら…これですか…」…と呟いた
清四郎は…「脚本家とは…何故…私が掴めなかったのか…」と首を傾げる
「清四郎さん、伊織は前はフリーでやってた
今は飛鳥井の全面サポートで矢面には悠太が立っている…
だから清四郎さん、情報は操作されて知らなかったのも仕方がねぇ事だ
悠太はそう言う男だから」
康太の言葉に、清四郎は納得した
「ならば…明日…」
呟く…榊清四郎の瞳に…強い決意を感じた
「清四郎さん…やはり伊織は貴方の息子だ
殴りたくなる位…頑固は血筋か…」
康太は清四郎に問い掛け…笑った
榊原の唇が康太の頭に落とされる…
すると、笑いながら笙が話しかけて来た
「伊織の頑固は父譲り
筋金が巻き付き強固な頑固の似た者親子なんですよ…」と爆笑した
榊原は、「兄さん…」と、少し嫌な顔
「お前が隠し事するからだろ」
脚本家の話を知らなかった事への報復
康太は笑いながら笙に言った
「許せ…笙
お前ら家族に知らせるのが遅くなったのは、伴侶であるオレの落ち度
あまり伊織を苛めるな
伊織はオレを愛するのに忙しい…
その分フォローは伴侶の努め
仕方ないから…さっきどさくさに紛れ話をしたのだがな…」……と、康太はしれっと言った
笙は、お手上げポーズをした
「そう言う所…蒼太に似てる…」
思わず…笙が呟く
「オレは、兄、瑛太と蒼太に育てられた様なもんだからな…」
康太は笑い飛ばした
「オレの人格や教えは兄、瑛太から…
知識と戦略は…兄、蒼太から…オレは叩き込まれて…オレになっている
そして…生まれたばかりの子供のオレを育てたのは飛鳥井源右衛門、祖父だ
それが飛鳥井の教え、仕方あるまい」
康太は簡単に言ってのけた
「真贋を持って生まれたら…
親の側では育たない
そんなオレに愛を注ぎ続けたのは…兄、瑛太
修行が辛いと泣いた日は…兄の胸の中で泣きながら寝た
お腹が空いたと泣いたら、兄、蒼太が食べさせてくれた
瑛太と蒼太にオレは育てられたのだ…
蒼太はオレが心配だと…出掛けないから、友人のお前は飛鳥井に良く来ただろ
総てを引き換えにして…オレは育てられたのだ…あの兄達に…」
笙は、出掛けられない…の言葉に…そんな意味があったとは…知らなかった
今更ながらに知る…真実だった…
飛鳥井の両親は静かに康太を見守っていた
康太は榊原に抱き着いた
「伊織…腹へった」
榊原は康太を抱き締め
「何が食べたいの?」と、優しく問い掛けた
「何でも良い!
そしたら夜は花火をやるもんよー
隼人も起こして花火をやる」
康太が楽しそうに答えると、榊原は父に
「父さん、康太に何か食べさせて下さい。
飛鳥井の方々も一緒に全員で食べましょう
そしたら、夜は花火です
楽しみましょう
母さんは体調がすぐれないなら無理はならないで下さいね」
と、言葉をかけた
康太は真矢に優しい視線を投げ掛けた
凄く嬉しそうに…感謝を込めて
そして…榊原にすりすり…なつく
「康太…僕の理性は風前の灯火…あまり刺激すると…此処で服を脱がしますよ」
榊原に言われ…康太は慌てて榊原から離れ逃れようとした……
が、榊原の腕に絡め取られた
弟の際どい発言に…笙は執着の狂気を垣間見る
「伊織…此処ではするな…」
笙は訴える…黙ってたら本当に脱がしそうだから…
「兄さん…しませんよ
そんな勿体無い事…」
榊原はしれっと言い放った
笙は爆笑した…まさか堅物の弟が…
こんな台詞を吐くとは…まさに奇跡
弟を生身の男として笙は見た…
愛に生きてる弟を…この先も見守っていきたかった
その夜、一番デカい和室にテーブルを並べ
ホテルから料理を運び込み、宴会さながらの盛り上がり…となった
まぁ…飛鳥井の人間は人が集えば盃を交えるのが好きだから…日々宴会に突入するのだが…
一条は、玲香に構われ…母親に甘える様になついていた
一生は、清四郎に気に入られ…なつかれていた
四宮は、力哉と楽しそうに話をし
蒼太は…笙と話していた
蒼太の恋人が幾人変わっても…
変わらなく側にいてくれる友がいた…
それが榊原笙…その人だった
悠太は…康太の横で傷だらけの顔で不貞腐れていた
康太は笑いながら
「門倉を行かせたが…間に合わなかったのか?」と問い掛けた
この兄には何もかもお見通しなのだ…と悠太は不貞腐れた
康太はタブレットに佐野春彦から
「悠太が倉持に拉致られた」との一報を受けた
が、動けなかったから城ノ内に連絡を取り、門倉を動かした
頭角を著した門倉は、悠太の居場所を導きだし…救ってくれた
門倉本人から電話で「貴方の弟は俺がこの先も守って、貴方の望みを完遂させる」
と、言われた
康太は悠太の顎に手をやり、唇の横の傷を舐めた
「康兄…俺の目は醒めました…
だから子供の時の様に舐めるのは…止めてください」
「我慢して耐えたご褒美だ!」と、ペロンと悠太の傷を舐めた
「悠太、お前は自由に生きろ
だけど…見極めないと、落とし穴は何処にあるか解らないぞ」
「康兄が俺の壁になっていてくれるのは解る
いなくても康兄の存在は見えてくるからな…今回は…本当にそれが解った…」
康太はデカい弟の頭を撫でた
「一生が言うにはオレはお前には甘いらしい」
康太が苦笑する
「康兄、花火やろ!
俺は線香花火やりたい」
「お前は体の割りに…小さい花火が好きなんだよな…」
悠太は、笑う兄を見ていた…
俺が好きなのは…昔も今も…
………………………………………………。
瑛太は、神野と酒を交わしていた
「瑛太…お前は…強いな…」
神野の言葉に瑛太は苦笑した
「強くはないさ…唯…無くしたくないモノがあるから…生きているだけさ」
瑛太の言葉は…まるで康太を無くしたくないから…生きている…みたいに聞こえた
「そうか…
俺も親父が残したこの事務所を…無くしたくないから、生きている
運命かな…瑛太
親父が残してくれた一条隼人を、お前んちの弟が再生してトップに名を馳せる役者にしてくれた…。」
瑛太は、何も言わず笑った
瑛太の瞳には…康太しか写らない…
その瞳の前を…神野は昔から知っている
知っているから…
聞いてみる…
そんな、瞳でみるなら何故…
「何故…自分のにしなかった……」
…と、神野はボソッと呟いた
瑛太は、苦笑して胸の中の想いを吐露する
「私の欲は深い…自分のにしたならば…
外には出さない…他は見せない…
見せたくない…それを生きているとは…言わない
だから、見守る事にした…
形は違えど想いは1つ…ならば…それで良い…」
髪の毛一筋だって…やりたくはないのだ…
縛って…束縛して…誰かを写す…
その瞳を潰したくなる…
束縛して…何時か…康太を殺す…
その想いの強さに…瑛太は恐怖を抱いた
欲望のまま自分のモノにするのは容易い
だが…その先にある…執着の狂気を押さえる自信はなかった…
自分以外の人間に笑いかけるのも許せない…
それが例え…親でも…許せない…狂気を
日々押さえるには……重くなり過ぎた…
ならば…兄として…未来永劫…康太を見続けて行く道を…選んだ
神野は…そうか…と、言い黙った
兄として…耐え抜く決意をして……
修羅の道を…この男は自ら歩む…
神野は瑛太に酒を注いだ
「瑛太…今度田代と脇田と佐野を呼んで飲もうぜ
佐野は桜林の教師してんだせ!
良くお前の溺愛4男坊の話をされる」
「必ず時間を作る
でも田代とは戸浪絡みで良く逢うのだがな…」
「9月になったら、土地を見に行く
その時に、お前んちに呼んで飲もうぜ」
瑛太は、あぁ。と了承した
ともだちにシェアしよう!