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第62話 反撃の夜③
その夜、康太は半袖の白いYシャツに黒いズボンを履いた姿をしていた
榊原も同じく半袖の白いYシャツに黒いズボンを履いて軽い正装をしていた
ただ…同じ様に服を着ても…榊原はビシッと折り目正しく…
康太はだらしなくダラッと着ているから…同じには見えないのだが…
一生と四宮と一条も、それぞれ軽い正装で身を包み…待機していた
飛鳥井の家族の為に用意された部屋の応接間に招き入れる事となった
応接間のソファーに座り、康太は相手を待つ
約束の7時を回る頃、ホテルの部屋はノックされた
一生が、ドアを開け招き入れた
招き入れた客を、四宮が席に案内する
榊原が、飲み物と御絞りを全員の前に置いた
康太は相手を足を組み…その様子を伺っていた
康太の横には…怪我をした一条隼人が座っていた
臆する事なく毅然とした姿で座る姿は…
怪我をする前より強く生命力に溢れていた
四宮に指示されて康太の前のソファーに座ったのは…
相賀和成
柘植恭二
木瀬真人
篁椎堂
の四人だった
そして一条隼人、所属事務所社長の神野晟雅
マネジャーの小鳥遊智、そして一条隼人本人
榊清四郎に息子の笙
榊原伊織に飛鳥井康太
緑川一生 四宮聡一郎も同席して
話し合いは始まった
相賀和成は、榊清四郎に言われるままに来たが…
話がイマイチ解らなかった
「清四郎、私には話が見えて来ないのだ…
詳しく話してくれないか…?」
相賀和成が清四郎に声をかける
この場所にいる人間にも…共通点が見えて来ないのだ
清四郎は、ならば自己紹介しながら話そう
と、話をし、一人ずつ自己紹介を始めた
そして一通り終わると…何故、一条隼人の学友が同席しているのか…と、疑問を投げつけた
事務所の人間が仕出かした始末なら…
事務所同士の話し合いにすれば良い筈…
康太は慇懃無礼な態度で、相賀和成を呼び捨てにした
「相賀和成、お前が一条隼人を潰せと指示をしたのか?答えろ」
何故…見るからに子供に、その様な口を聞かれなければいけないのか…
相賀和成には理解出来なかった
相賀和成は、康太を射抜いた
その瞳を反らす事なく康太が射抜く…
揺るぎない瞳に魅入られたら…魂まで抜き取られそうな感覚に陥る
「私はオーガ芸能事務所の社長、相賀和成
君の名前を拝借しても宜しいかな…」
相賀和成は、康太に名前を聞いた
康太の唇が吊り上がる
「オレの名は、飛鳥井康太 」
康太は名前を名乗った
飛鳥井…と、言う名は珍しい
大手建築会社トップの社長の名前と同じ…と気が付く
「その君が何故、この場に同席しているのか…尋ねても宜しいですか?」
相賀和成は、康太の引かない瞳に勝てる気がしなかった…
ならば…尋ねて…納得の行く答を導き出してもらうしかない…
「一条隼人は、オレの子も同然の人間だ
我が子を傷付けられて、黙っている親はいねぇと想うが…違うか?」
康太は一条隼人の親と…言う……
パッと見…一条隼人より子供の顔をしているのに…親も同然と言い放つのか…
「一条隼人は、オレの宝!
飛鳥井の家は…オレの宝を命を懸けて守る
榊原の家も然り
お前が隼人を陥れる指示をしていたのなら…お前ごと潰す 」
康太は、宣言をした
飛鳥井の家を敵に回したら…企業のCMは皆無に等しい
榊原を敵に回したら…この業界で生きていくのは…皆無に等しい
どちらに転んでも…先は断たれたも同然
「ならばお答え致しましょう飛鳥井康太
私は一条隼人を潰せとは指示はしてはおりません…
ですが、事務所の人間が仕出かした事ならば…社長の私が責任を取るのが…然り。」
相賀和成は、康太に頭を下げ、潔く切られる覚悟を述べた
「お前の瞳を見てたら、んな事は解ってる
ならば、どう決着を着ける…?
オレは随分その3人を、追い込んでおいた
お前の言葉を聞かせろ」
「この3人は、事務所を解雇します
人を陥れて掴んだ地位など通用はしない事を何故知らなんだのか…悔やまれてならん
だが芸能界の暗黙のルールを破った奴等に救う手はない…
況してや私の監督不行き届きは否めない…
わしは事務所を畳むしか他はあるまいて…」
相賀和成の言葉に、康太は
「相賀和成…お前はまた終わりはしない…
此処で断たれるおつもりか…
ならば残念だな
お前は…この後に…名を残す役者を育てる
だからその3人を切れ…
人を陥れて掴んだ地位など蜃気楼より儚い夢だ…」
康太の言葉に…相賀和成は、畏れを感じる…
未来を見えてるかのように…言葉を探る…
飛鳥井康太に……
「私は…まだ終わりませんか…?」
相賀和成は問い掛けた
「まだ終わらねぇ…
オレの目には…お前はまだ終わっちゃぁいねぇ…走るしかねぇな
だけど、人を見極めて育てねぇと…
同じ過ちを繰り返す…
コイツらはあんたが作った罪だ…
身が立つようにして送り出してやれ!
お前が引導を渡すまでもなく…
もう役者には戻れねぇ…
オレがトドメを刺した…
もう役者としての明日はねぇ…」
……………それはどう言う事ですか?
と、相賀和成は、康太に問い質した
「オレの仲間は人を操り情報を操る…
情報は…時には凶器になる…
そして俳優ごときを消すには…容易い事だ……と、言う事だ…
その3人は身を持って知ったんじゃねぇか…
噂には尾びれが着く
尾びれが着き背びれが着き…
ドデカい怪物を産み出して自分に返ってくる…それが情報だ」
相賀和成は、3人の顔を見た…
3人の顔は…生気を失い…後悔の色に彩られていた
「相賀…オレは木瀬真人をもらう!
神野、お前は篁椎堂をもらえ
柘植恭二…お前は進む道はない!」
康太は言い捨てた
「柘植恭二、お前は常に人を蹴落として生きて来すぎている…
お前の頭の中は…勝つか負けるか…それだけだ
その為なら人をも陥れる
今回の主犯はお前だ…お前は落ちろ…落ちて這い上がるしか…道はねぇ」
柘植は青褪めた……
まさに…康太の独壇場だった
「木瀬真人は、飛鳥井建設の九頭竜遼一に預ける
お前は芸能の道より、作るが天性
篁椎堂は、飼っとけば化ける
何時か…時が満ちたら…表舞台に出せ
それまでは…人間性を叩き込め
回り道を敢えてしろ、その回り道は、将来のお前の礎になる!3年は泣け。
そしたら、お前は化ける。
お前はまた23だ、3年泣いても26…男として艶が出る」
柘植恭二…は肩を落としていた
「相賀、お前が作った罪だ
柘植恭二を甘やかして育てた…お前の罪だ
甘やかすと…誉めるは違うぞ
待ってれば掴めた栄光も…毟り取っては掴めんぞ…」
飛鳥井康太の放った言葉に……
誰も言葉を失った
康太は的確に真実を見極め…言葉に繋げた
そんな中…柘植恭二は、康太の足元に土下座をした
「私の指針を…示してくれませんか…?」
今にも死にそうな顔をして…康太にすがった
「だから、這い上がれ…と、言った筈だ
お前は裏方に回れ
相賀の元で人を育てろ
お前のなれなかった無念を…次に育てろ
間違った道を行くならば…お前は撤して守れるマネジャーになれる筈だ…
お前は自分の手で進むべき道を断った…
お前は業が深い…
だがその業は人を育てるには向いている…
相賀、柘植恭二の道を作れ
そしたら、柘植が名を残す次を育てる」
柘植恭二は、頷いた
その顔には憑き物が取れて…安堵した様子が伺えれた
「これが、一条隼人に刃を剥いた報い
オレはキッチリとカタは、取る
だが…今日のこの場に現れた3人は、憑き物が落ちていた…仕方がないから…
オレの見た道を教えた…
オレの眼は見間違えや偽りは写さない…
まぁ信じるかは…己次第だがな…
これで手を打って良いか?
神野晟雅、異存はないな…」
康太は神野に問い質した
「貴方の目に映る果てが、嘘偽りが混ざる筈はない…
貴方の果てを見る目は…捉えたのでしょう?
ならば、私は異存はない。
篁椎堂は、私がもらう!」
神野は異存はない…と、申した
康太は相賀を見た
相賀和成も康太に頭を下げた
「総ては私の罪
なのに走れと申すなら、私は貴方の敷いた軌道を曲げる事なく走る
それしか許される道はないのなら…
私は命を懸けて柘植恭二を裏方の人間に育てます」
康太は子供の様なあどけない顔をして笑った
「総ては丸く収まるのなら…それに越した事はねぇ
隼人お前も異存はねぇな!
お前の目に…償って消えた役者の顔を刻め
そしてお前は進め!頂点まで駆け上がれ」
一条は「解った…」と言い総てを見届けた
「神野、事務所を探しているのだろ?
ならばオレが見立ててやろう…
何時かお前の所から稀代の役者を産み出す場所を探してやろう」
康太は神野を真摯な瞳で見詰め言い放った
「そして柘植恭二、お前は少し修行して来い
お前は下に落ちた事がねぇ
お盆過ぎたら横浜に帰る
そしたら清四郎さん柘植恭二を連れて来て下さい
戸浪に放り込む
人を育てる器に鍛える、目で耳で肌で想い知り学びとれ!
そしてそこへ逝くまでは…耐えろ…耐えて…這い上がれ…それがお前の贖罪だ」
柘植恭二は、康太の顔から目を反らす事なく…言葉を受け止めていた…
「相賀和成も、それで異存はねぇな?」
「最初に貴方を見た時から…勝てる気はしなかった…
そんな私に…異存などある筈はありません…」
「相賀和成、人は締めると反発し、緩めると我が儘になる…
甘やかし才能以上の所に据えればを…
人は天下を盗ったと錯覚する…
まさに…お前は柘植恭二にそれをしたんだ
柘植恭二は、ある意味被害者だから…道を用意した
本来ならば…道は作らねぇ
オレに刃を向ければ…命はねぇ…覚えとけ」
相賀和成は、ガックリ肩を落とした
そして…悔いるように頭を下げた
「木瀬真人、お前はオレがもらった
異存はねぇな?オレと来い」
木瀬真人は、はい!と康太に頭を下げた
「清四郎さん、もう終わった
オレは遺恨は残さねぇ
神野も残すな
相賀と神野は、案外気が合う筈だ…
清四郎さん、盃を交わせば血は交じわう
さぁ飲め!そこの3人も飲め!
進む道は違えど…お前らは繋がっている
さぁ飯を食いに別荘にもどるもんよー
相賀と神野、飛鳥井源右衛門を継ぐ者を引き摺り出したんだ、飯を食わせろ!
お前等の奢りで食う飲む…そしたら、明日へ繋がる何かを残せ…」
清四郎は、立ち上がり相賀の側に行った
相賀は清四郎に「彼が飛鳥井源右衛門を継ぐ者なのか…」と問い質した
芸能界でも縁起を担ぐ時、飛鳥井源右衛門の助言を求める人間は少なくない
「ええ!彼は飛鳥井源右衛門を継いだ者」
と、相賀に答えた
ならば…真贋の見る果ては確か…
相賀は、康太に深々と頭を下げた
立ち上がった康太の腕が榊原に回る
榊原はそんな康太を抱き止めた
「伊織、オレはパフェが食いてぇ!」
果てを見るのは疲れる…
糖分が欲しくなるのだ……体が欲するのだ…
榊原は父親を見た
清四郎は、息子の瞳を見て頷いた
「康太、レストランに行きましょう
好きなのを頼んで良いですよ
一生、聡一郎、隼人も行きますよ」
清四郎は、一生達に声をかける
「相賀、康太は疲れてます
レストランに先に行きます!良いですね?神野も行きますよ!
そこの3人も来なさい」
清四郎は、レストランに移動を促す
榊原は、康太を支える様に腰に手を回す
康太は、力強い榊原の腕に安心して歩みだした
清四郎は、相賀に「あの2人は対の存在」と教えた
相賀は、成る程と納得をした
康太の前にパフェが置かれると、物凄い勢いで食べ始めた
一生は、康太のパフェのクリームを食べ
自分のプリンサンデーのプリンを入れた
そして一条の口に果物を放り込む
自分は珈琲しか飲まないのに珈琲とプリンサンデーを注文する
「一生、オレは飛鳥井の家族と横浜に帰る
お前はどうする?
篠崎に頼んどくから残るか?」
康太がスプーンを食わえながら、一生に問い掛けた
「康太と一緒に帰る」
康太は…そうか。と言い続きを食べ始めた
「さてと。糖分も吸収したし、帰るか」
康太が立ち上がると全員椅子から立ち上がった
清四郎と相賀と神野は、ホテルに料理を頼みに行っていて、康太と合流して別荘に戻った
心配して待っていた瑛太は、康太の姿を見るなり抱き締めた
「瑛兄、離してくれ
紹介せねばならねぇ奴がいる 」
康太は木瀬を呼び寄せると、
「木瀬真人だ!
九頭竜遼一に預けようと思っている人間だ
真人は元々建築の畑にいた人間だ
即戦力になる筈だ
行く行くは自分で設計したビルを建てる
だから育ててくれ」
康太は木瀬を紹介した
「木瀬真人…?神奈工にいた木瀬真人?」
瑛太は名前に覚えがあったみたいだった…
「そう!その、木瀬真人
建築に携わるが天性だから、使えばモノになる…
今は自分の道を違えている…
だから軌道修正すれば天性の才を発揮する筈だ
横浜に持って帰る
オレが遼一に頼むから、少し此処へ置いとく」
瑛太は、木瀬真人に向き直ると
「飛鳥井建設、副社長の飛鳥井瑛太です」
と、自己紹介した
木瀬真人は、瑛太に深々と頭を下げた
康太は、部屋の奥へ走っていく
「母ちゃん、神野と相賀が奢ってくれた
飯、食うもんよー!宴会やるもんよー」
と、玲香に飛び付いた
「ほほう。奢りとな。義父様、飲めますわね」
玲香の瞳が光る
「玲香、今夜も上手く飲めるな」
清隆は、妻と父親との息の合ったコンビネーションにはお手上げだった
清隆は、康太を持ち上げ避難した
「父ちゃん、久し振りだもんよー」
家に戻っていても中々父には逢えないから、康太が嫌味を言う
「康太…父を苛めるな」
康太は笑って父の頬にキスをした
そして腕からすり抜けると榊原の側に走って行った
その夜の宴会で、神野晟雅は相賀和成と盃を交わした
康太が盃を交わせば血は交じる…
みたいな事を言ったから…
互いを知る切っ掛けになればと…盃を交わした
すると案外気が合った
相賀は、若造の癖に…と避けて…神野晟雅の何も見てはいなかったのだと…
今更ながらに気が付いた
神野は偉ぶったジジィ…と、避けて来たが……そうではないと知った
話して知らねば…何も解らないと…改めて気付かせてくれた
榊清四郎も交え…酒を飲む…
飛鳥井瑛太も交え…酒を飲んだ
飛鳥井の人間は無条件に受け入れる
それは、その場に飛鳥井康太がいる限り…
何かの戦略があり…未来に繋がる布石に繋がるからだ…
こうして…人は人脈を拡げ、見識を新にする
その夜も…夜更けまで…飲みあかし…
暫しの休息をとった…
8月14日の夜、康太は横浜に帰る事を皆に告げた
「明日、横浜に家族と共に帰る
貴史が煩いんだよ
早く戻って学校に来い…って
だから、明日横浜に帰るもんよー」
康太が言うと、一生が桜林祭があんだよな…と、大変なイベントを口にした
「何か…忙しかったぁ…
夏休み前に肋骨折って…何だか駆け足で来すぎた
横浜に帰ったら少し休むもんよー」
康太が言うと、四宮が
「僕も入院してましたからね…」と半分以上過ぎた夏休みを思い言う
一条は「夏休み…ずっと布団に抱き付いてた…」と、ショックを隠せなかった…
一生は、横浜に帰ったら牧場に帰る…と告げた
四宮の事で帰れずにいたのだ…
「新学期まで…牧場で過ごす…手伝わないとな
スタッフの教育もあるし、帰るわ」
と、一生が言う
「ならば力哉に牧場まで送らせる
レンタカーで牧場まで送ってもらえ
お前を送り届けたら力哉は帰ってくる様に言う」
康太は一歩も引かない口調で言った
一生は、お手上げのポーズをして
「なら、送ってって、帰りも迎えに来て」
と、要望した
康太は笑って「了解 」と、告げた
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