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第63話 然り気無い日々

8月15日、夕方に白馬を立ち家族は横浜へ向け帰宅の徒に着いた 康太は瑛太の車に榊原と二人乗り込み、横浜に帰ってきた 一生は、力哉がレンタカーを借り牧場まで送って行った 蒼太は悠太を乗せ、恵太夫婦と子供は各々車に乗り 玲香の運転する車に清隆と源右衛門と、四宮は乗り 一条隼人は、社長の神野と小鳥遊の運転する車に乗り横浜に戻って来た 清四郎は家族を乗せ帰っていった 途中、ファミレスで夕飯を取り飛鳥井の自宅へ戻った 康太は車の中で…眠っていた 飛鳥井の家に着くと、康太は眠ったまま部屋に運ばれ 四宮と一条は、客間に戻った 榊原は、康太を抱き締め…眠った 榊原は、何だか…帰って来たって感じがして、飛鳥井の家が懐かしかった 朝…早くから目が醒めた康太は、榊原の腕の中で眠っていた 榊原の、匂いに包まれて眠る時のが一番好きだ もうこの腕がなくては生きていけない… 康太は榊原に接吻を落とした… 榊原は、そんな康太を抱き締めて 「また寝込みを襲う気ですか?」 と、康太の唇に深い接吻のお返しをした 「だって伊織の顔見たら…キスしたくなる 伊織がいるのが夢じゃないって確かめたくなる… 愛してるから…触りたくなる」 どうしてこうも…愛しいのか… 「朝から…誘ってます?」 「オレは何時でも誘ってるぜ 」 康太は笑って、飛鳥井康太しか吐かない台詞を吐いた 榊原は、康太を体の下に敷き 「ならば…ご期待に応えて…」 と、息もつかない深い接吻で康太を味わう事にした… 互いの体に触れば火が点る… 熱に魘され…互いを満たし合う為に… 康太は榊原の背に腕を回した 互いを貪り合い…バスルームで体を洗ってもらって…さっはりした後に康太は 「今日、オレは飛鳥井と戸浪に行くつもりだ 伊織は清家が煩いから学校へ行け」 「御一緒したいのは山々ですが…そろそろ戻らねば… 半殺しの目に合いそうですからね…気を付けて下さいね」 「おう!解ってる 」 ……………って一番解ってないのが康太なのだ… 榊原は、じとっ…とした目で康太を見詰めた 「あんだよ伊織…そんな恨みがましい目でオレを見んな…」 「僕は何時も君に心配ばかりかけられてますからね… 疑心暗鬼になるのは…仕方がないと思うんですが…」 康太は、タラー………っとなる 「力哉が帰って来たら行くから、一人じゃねぇかんな… それで目ぇ潰れ」 「ったく…君を愛し過ぎる僕の心配の種は尽きないみたいですね… でも僕は許すしか出来ない… 君を閉じ込めて僕しか見えない様に……出来る筈などないんですから…」 「伊織がしてぇなら、オレを閉じ込めろ お前以外を見るのが耐えられないなら…目を潰せ 歩みを止めたいなら足を折れ 永遠にオレを欲しいなら…その手で殺せ」 榊原は、康太の顔を凝視する… 「僕がそんな事…出来る筈などないでしょう 僕は飛鳥井康太を愛しているんですよ 飛鳥井康太の歩みを止める気はありません 君の髪の毛一筋たりともやりたくない…触らせたくない… 僕だけのモノにしたい… だけど…そうしたら、飛鳥井康太は飛鳥井康太ではなくなる… それはしたくはない 君の大切な一生、聡一郎、隼人との絆も然り 総てがあって君がいる だから僕は…君と生きていく… ですから心配は尽きないと覚悟をします」 康太は、総ての要因があって飛鳥井康太が出来ていると認めてくれる榊原の言葉が嬉しかった 康太は榊原の頭を抱き締めた 「オレが愛しているのは、昔も今も‥‥榊原伊織…ただ一人」 もぉ…どうしてこうも愛しい事をさらっと言って退けてしまうのか… 榊原は、康太の胸に顔を埋めた 「僕が…愛しているのは飛鳥井康太、君だけです…」 互いを抱き締め合い満足すると、二人は顔を見合わせて笑った キッチンに顔を出すと、悠太が制服に着替え食事をしていた 「悠太、また一回りデカくなってんじゃん」 康太は身体ではなく器が鍛えられてデカくなったと誉めた 「康兄、夏休み過ぎたら寮に戻るんですか? もうこのまま家で全員暮らしたら良いのに」 康太はそれには答えずに曖昧に笑った 「リフォームに入るかんな…住めねぇよな?母ちゃん…」 康太は目の前で食事をしている玲香に質問を投げ掛ける 「リフォームは、もう入っておるわ 上からして行く まずは屋上を子供の遊び場になるようにフェンスを着ける 3階を康太夫婦と家族の部屋にする 瑛太は飛鳥井の総代となり1階に移り住む 義父様は駐車場に茶室のある部屋を造り移り住むと同時に瑛太は飛鳥井の総代になり義父様の部屋を譲り受ける 2階には一生、聡一郎、隼人の部屋と悠太の部屋 1階は、私達夫婦の部屋を縮小して、客間とキッチンを広めに作っる計画じゃ それまでは寮に戻るしかない って事で悠太も2ヶ月寮に入れ」 玲香はさらっと言ってのけた 悠太は、寮は嫌だからマンションに移ると言い張った 玲香は、マンションなんて与えたら巨乳好きのお前は連れ込んで大変な事になるわい!と、怒った 康太は笑いが止まらなくて…転げ回った 食事に来た、聡一郎と隼人が驚く位に… 「伊織、康太は何で大爆笑なんですか?」 と、四宮が聞くと、榊原は説明した すると四宮と一条も大爆笑で…収拾がつかない位に、キッチンに笑い声が響いた 康太は力哉が戻って来たから出掛ける事にした 午前中に木瀬真人を呼び出し、戸浪の新社屋の建設に携わっている遼一の所へ顔を出した すると棟梁と遼一は、目も合わせず…仕事をしていた …………一発即発 九頭竜遼一と、棟梁の本間元三との間に…亀裂が走っていた 康太は思案する… 此処で布石を打っておかないと…亀裂が破裂に繋がる 亀裂は修復出来るが、破裂は壊すしかない 見極めないと…取り返しがつかなくなる… 康太は九頭竜遼一と棟梁の本間元三を呼んだ 「お前達、頭に立っている人間がいがみ合っていたら…現場の空気は悪くなる 悪い空気で作る建築物は…陰気を呼ぶ お前達は建築に携わっていて…何故己を律せない… 認める事が出来ないのなら現場には必要がない…こう言う場合、要らぬ方を排除する」 康太が言うと、本間元三は確実に九頭竜遼一の方を排除すると思い…顔がにやけていた 「棟梁と言う立場も解らん愚か者! お前は今、この瞬間から、現場から立ち去れ」 康太は、棟梁の本間元三に言葉を投げ捨てた 本間元三は己が切られるとは夢にも思わなかった… 「儂を切ると言うのか!飛鳥井の若造が!」 本間が唸った 康太は臆することなく本間を睨んだ 「現場の気も解らぬ愚か者は飛鳥井には不用 会社に戻って社長にでも談判しろ! オレの言葉は飛鳥井源右衛門の言葉 軽くはないぞ本間元三 お前が軽く見るなら、お前の明日はない さぁ消えろ! お前は不要だ。 さっさと文句でも言いに行け 明日からこの現場には来るな! オレの期待を踏みにじった人間に果てはない」 ここに来て……やっと本間元三は己の立場を解ってきた そこへ九頭竜が割り込み…止めた 「康太…棟梁を切るな… 棟梁を、切ったら示しがつかん… 切るなら俺を切れ…」 九頭竜は、己を切って…棟梁を残せ…と言う それが現場の為になると…遼一は踏んだのだ 「遼一、オレの言葉は飛鳥井源右衛門の言葉 オレは適材適所見抜いて配置する…だが失敗だ これはオレの失敗だ  だから、棟梁を切る 現場を束ねられない人間に棟梁を語る資格などない!」 康太は毅然と言い放った 「本間元三、お前は棟梁と言う名に胡座を掻いているだけの木偶の坊だ。 そんな人間など飛鳥井では要らぬ」 本間元三は、康太の言葉に…ボロボロ自信も威厳も崩れ落ちた… 「本間、顔を上げろ! お前の作った建物は光輝いているか、己の目でみろ! 」 康太の言葉に…本間は顔を上げた ケチを着けてばかりの工事は捗らず…己を知る事となる 本間元三は、康太の前に土下座した 「棟梁の名は返上する だけど儂はガキの頃からコレで食って来た! 光輝く建物に絶対にする! 儂の総てをこの建物に籠める… だから儂は動きたくない! 飛鳥井源右衛門の言葉は絶対だ… だが此処で…この現場を去ったら…儂は自分を許せなくなる 」 康太は本間元三の前に屈むと、立ち上がらせた 「本間、オレはお前と遼一は好敵手になれると踏んだ お前達がいがみ合うは仕方ない 器が同じものだから、認めたくないのだ…お前は。 だが認めて互いを引き出し合うのも、お前達の宿命 だから犬猿の仲のお前達を一緒にした それにはお前の棟梁と言うプライドをへし折るしかなかった…許せ本間」 本間元三は、康太の顔を見た 穏やかで優しい瞳に…本間の心は決意を決める 「本間、お前は士気を上げろ! 現場の士気を下げるな! それは棟梁の努め! 遼一、お前は人を束ねろ! お前は人を束ねる天武の才がある。 お前等は、二人揃ってこそ強靭な力を発揮出来る それがオレの果てを見る目が導き出した…明日だ。 決して違えるな!解ったな? 」 本間元三と九頭竜遼一は、康太の言葉を胸に刻み込み…決意を決めた 遼一は、康太の横に立つ…美しい男性に目を遣った… その視線に気付いた康太は本間元三と、九頭竜遼一に紹介した 「遼一、お前に人を預ける 木瀬真人だ 飛鳥井に新しい風を吹き込む建築家だ。 お前の懐に入れて育ててくれ 即戦力で使える…頼めるか?」 康太は木瀬を遼一に引き合わせた そして遼一の胸ぐらを掴むと耳元で 「決して食うなよ! お前のストライクど真ん中なのは解る。 だが…手を出せば最後…木瀬はお前の伴侶に収まる… 聖の様に引き際は良くねぇんだよ 食い散らかすお前の明日は…木瀬真人が握る事となるぞ」 釘を刺しとく。 まぁ…遅かれ早かれ九頭竜遼一の伴侶は… 康太は遼一を離すと、木瀬に向き直った 「お前の表現の場は建築物に変わった… 来月から大学へ行け 建築の勉強に入り 何時か九頭竜遼一の作り出す最高傑作の絵図を引け!解ったな木瀬 」 木瀬は頷き、遼一に「宜しくお願いします」と頭を下げた 康太は現場を離れる事にした 本間元三の肩を叩き歩き出す すると康太に力哉が近寄り、様になった秘書として 「戸浪海里さんにアポを取りました 柘植恭二は、相賀和成さんが連れて駐車場で待っておられます」 力哉が康太に告げた 康太は頷き、力哉を従えて駐車場へ向かった 駐車場には、相賀の車が停まっていた 康太の姿を見つけると、相賀は車から出て来た その後ろのドアから柘植恭二が降りた もう牙を向いた狂気は何処にもなく…穏やかな顔だった 「柘植、お前は人を見ろ 眠った才能の前を読める人間になれ その修行にはこのトナミ海運は最適の場所 此処で半年我慢して目を磨け そうすればお前の目の前に、運命と出逢いは有る筈だ。」 柘植恭二は、康太の言葉に頷き一礼した 康太は歩き出した トナミ海運の中に入って行く すると、力哉が受け付け嬢に  「アポは取ってあります。飛鳥井康太が来たとお伝え下さい」と、毅然と喋った もう力哉の顔は戸浪海里のコピーではない 自分の意思を持った、安西力哉になっていた 受け付け嬢が電話で確かめると 「お通しして」の声がかかり、受け付け嬢は「どうぞ」と、頭を下げた トナミ海運の社長室のドアを力哉がノックする すると中から戸浪海里がドアを開けた 力哉は、戸浪の顔を見ると一礼して、康太と相賀、柘植を部屋の中に入れた。 そしてドアを静かに閉めると、康太の横に座った 康太は戸浪に「時間を割かせて悪かった」と、頭を下げた 「今日は飛鳥井康太…として戸浪海里さんに頼みがあります」と、戸浪に切り出した 「君からの頼みなら、何を押し退けても優先させて戴くよ だから気にしなくて良い しかし…飛鳥井康太の手にかかると…こんなにも人は変わるのかい? 本当に化けた。 力哉、それがお前の姿なのかい?」 戸波は、力哉を愛しいげな目で力哉を見ていた その瞳に気が付き………力哉は笑った 本当に嬉しげに幸せそうに…力哉は笑った 戸波は、嬉しさを胸に押し込み 「用件を伺います」と、姿勢を正した 「オレの横にいるのは、芸能事務所オーガの社長、相賀和成 そしてその横にいるのは、柘植恭二…役者だった男だ この柘植を預かって欲しい 使える男だから、どの部署でも使える この男に世界を見せたい 流通と世界を知らせたい 半年したら相賀和成の事務所でマネージャーの職に着く 半年間預かってもらえないだろうか? 相賀和成の人脈は…政界財界、留まる所を知らない。 知り合っておいて損はない男だ。頼めるか?」 戸浪は、ならば何故飛鳥井でなく、うちなのか…を問い質してきた 「飛鳥井は建築。 オレが見せたいのは…建築ではない 流通と世界を見せたいのだ 人が流れて行く様に物流の世界の変動は激しい その動きは芸能界に通じる。 モノを見極めるには物流から だからお願いしたいのだ」 戸波は納得する 「ならばこれより半年間。 と、言うか上半期分預かろう 来年の3月末尾まで預かって育てよう それで異存はないか?」 康太は戸浪海里の言葉に微笑んだ 「ありがとう若旦那 無理を言ってすまねぇ だが若旦那、この出逢いは必然で、なるべくしてなるものにオレは手を加えただけだ」 康太の言葉に戸波は首を傾げた 「若旦那、北欧ルートに手こずってるなら、相賀に一席儲けてもらえば良い 丁度手頃な大臣と名の着く学友がいるかんな。 相賀は知り合っていて損はない 相賀もトナミ海運の戸浪海里は知り合っておいて損はねぇ だから出逢いは必然的で…って答えたんだ。」 康太は笑った 戸波は納得した すると相賀和成が「私の知り合いの大臣と名の着く学友で宜しければ、一席儲けます 康太君にはお世話になってるので それが望みであれば、私は骨を折るのを惜しみは致しません ご都合の宜しい日をお教え戴ければ一席儲けます」 相賀和成は、戸浪海里に名刺を渡した 「若旦那、人は縁を結わえて縁に繋げる 人は何処かで交わり広がる それを生かすも自分なら、殺すも自分 オレの力が要るのなら、遠慮は無用 相賀和成、戸浪海里はオレの大切な人間だ お前も知っていて損はない 時代の最先端を掴むのは物流なのだから、刺激しあって高みに昇れ…」 戸浪は康太に礼をした 「ならば、オレは帰るかんな」 康太が立ち上がろうとすると、戸浪が「軽くランチでも如何ですか?」と、声をかけた ランチの言葉に康太は笑顔になる ……が、力哉がそれを脚下した 「仕事を停滞させていてランチが食べれるなんて思わないで下さい さぁ飛鳥井に帰りますよ! 貴方には作らなきゃいけない書類がある」 と、秘書の顔で康太を急かした 「若旦那、うちの秘書は厳しい鬼だ ランチはまたと言う事で…」 と、康太は頭を下げた 戸浪は笑って残念ですね…と、引き下がった 「若旦那、飛鳥井の精鋭が新社屋に魂を込めて作るから、楽しみにしてろよ さっき気合いを入れ直しといたから、このまま、完成まで走ってくれる筈だ あの二人の作る建物には魂が籠る 観たものを掴んで離さねぇ魅力的な建物になる また見に来るから、その時ランチをしましょう」 康太の笑顔に、も笑っていた 康太は秘書を連れて帰って行った

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