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第64話 大切な人①

飛鳥井建設に行くと…康太の役員の部屋を作った…と力哉は言った 「僕が佐伯に秘書として文句なし!の太鼓判をもらった日に作ってもらいました」 と、力哉はさらっと述べた 受け付け嬢に「秘書に働け…ってお尻を叩かれたよ…」と嘆くと 受け付け嬢は、笑って手をふってくれた 力哉が副社長室の隣の部屋に入っていく 「力哉…ここ瑛兄の部屋の横…」 文句を言うと… 「さぁ書類に判を押して作成しなさい! 源右衛門はもう仕事しないと宣言しましたよ 貴方がやらなきゃいけない仕事は片付けなさい 学校が始まったらPCにデーターを送るので寮で片付けて下さいね」 容赦のない言葉が返ってくる 康太はせっせと仕事を終わらせようと書類を開く ドアがノックされても…力哉は仕事中です…冷たく対応する ……多分…瑛太は…淋しく部屋に戻るしかない… 馬関係の仕事は、源右衛門が片付けていた だが秘書も出来た事だし…康太に譲ったのは …言うまでもない PCから榊原に、仕事を片付けなければ自宅に戻れないかも……力哉が帰してくれそうもない… とボヤいて…仕事を片付ける事にした 馬主の仕事は結構…雑務が多い 「力哉、帰りに車を買いに行こう 車は必需品だ! そろそろマンションを用意するか?」 康太は力哉に話し掛ける 「車は要りますね 貴方や友人を乗せて用が行えるように必要性を感じます …が、マンションは…まだ一人になりたくない…飛鳥井にいたいです」 力哉は、言葉を選びながら話をする 「ならば、飛鳥井にいれば良い もう力哉は家族も同前だかんな!」 康太は笑った それからは物凄い集中力で仕事を片付けて行った 昼食を軽く取り、ある程度雑務を片付けて 午後3時頃、仕事を終えた 「瑛兄の、所へ行ってくるかんな 帰れるように支度しとくもんよー」 康太は部屋を出ると副社長室のドアをノックした 部屋の中から瑛太が出て来て、康太を招き入れた 「瑛兄、力哉に車を買いに行く 母ちゃんの許可は貰ってる」 「ならば、ディーラーに選りすぐりモノを選ばせよう お前も役員に名を連ねる人間だ 下手な車では飛鳥井の名折れ」 「……瑛兄、普通の車を買いに行く そもそも、瑛兄は忙しくて家に帰って来れない位じゃねぇか 無理されるならもう二度と出社しねぇかんな!!」 ………瑛太には言葉がなかった 「康太…兄を苛めるな…」 瑛太が康太を抱き締める 「お盆前は泊まり込み…だと佐伯に聞いた そんなに忙しいならオレに構うな 瑛兄は、何時もそうだ どれだけ忙しくてもオレを優先する… それで後で家にも帰れない位忙しくなるなら…オレは構われなくて良い」 キツい康太の言葉に…瑛太は戸惑う 「オレは時間を作って出社する… それが瑛兄の負担になるなら、見えない部屋に変えてもらう 考えてもみろよ瑛兄 オレの姿を見つけると仕事にならねぇなら…この先どうすんだよ… オレは母ちゃんに言って見えねぇ部屋に変わるかんな さてと、オレはもう帰る」 瑛太は康太を離さなかった…痛い位抱き締め …康太の肩に顔を埋めた 「逃げるなら…殺してしまう…」 それこそが瑛太の本音だった… 「瑛兄…」 康太は瑛太の背中に手を回した 「オレが瑛兄から逃げるなんて永遠にない… 瑛兄…瑛兄が仕事をためると …佐伯から嫌味の嵐だ 彼氏と別れるのも…瑛兄の所為になってんだぜ……」 瑛太は康太の肩から顔を上げた 「それ…本当か……? あの性格を棚にあげ…私の所為になってるのか…」 唖然と呟く 「オレは瑛兄が大好きだ…と言わなかったか?」 康太…と力なく呟き…瑛太は康太を抱く手を緩めた 「自分の仕事を優先にな…瑛兄!」 「それは無理だ!絶対に無理だ……」 康太は…瑛兄…と呟いた 「オレは瑛兄の、体が心配だ 無理をして欲しくはない それだけは解ってくれ…」 「康太に関しては…譲りたくない だけど康太が心配をするのなら…気を付けよう」 康太は微笑んだ そして戸浪に行った時の話をした 「今日、戸浪の現場に行った 案の定、本間元三と九頭竜遼一は仲違いして一触即発だったから、棟梁の方を切るぞ…って脅して来た でとまぁ丸く収まる所に行ったから…良いモノが建つと思う 」 目を輝かせて話す康太を愛しげに見た 「さてと、母ちゃんが待ってる だから帰るな瑛兄 」 瑛太は…母も行くのか…?と問い質した 「だから、母ちゃんの許可が出たって言ったもんよー 遅くなると怖いから慌ててる… 怒られたら…瑛兄の所為だかんな! 」 藪蛇だぁ…と瑛太は呟く だが母が相手では分が悪い 康太は瑛太をチョイチョイと呼ぶ 康太の目線まで折り畳んで近付いた瑛太にすりすりする そして耳元で「明日は昼を一緒に食うもんよー!」と約束をして瑛太から離れる 康太は片手を上げて副社長室を後にした ドアの外には佐伯が睨んでいて、康太はドアから覗き込み 「瑛兄、佐伯が睨んでいてる…」と言い置いて完全にドアを閉めた 部屋に戻ると力哉が遅い!とご立腹だった 「玲香さんが地下の駐車場にお待ちです。急いで下さい。」 康太は力哉に急かされ地下の駐車場に向かった 玲香は、康太と力哉を乗せると、行きつけのディーラーの所へ力哉の車を見に行った 康太の他に榊原、一生、聡一郎、隼人が乗ることも考慮して少しデカめの車を買い 納車は一週間後…となった 玲香は「康太、伊織に電話して今何処か聞くとよい!迎えに行くとしょうぞ!」 と嬉しい事を言ってくれたから、康太は榊原に電話を入れた 榊原はまだ学校で、迎えに行くから…って言うと、ならもう帰ります…と告げた 学校の校門の前で玲香は車を停めた 力哉は、助手席に移り榊原を待つとドアがノックされた ドアをノックして榊原が車に乗り込んだ 「お帰り伊織、行き違いじゃなくて良かったもんよー」 康太が嬉しそうに話し掛ける…が、榊原は何だか疲れてた顔をしていた 少し……顔色も悪い……康太の手が榊原に伸びる… 「何か…有ったのか?」 榊原は、頬に伸びた康太の手を取り笑った 「何もありませんよ。」 榊原は、平静を装うかのように…笑った 玲香は、車を走らせた 家に着き、車を降りると、康太は榊原と部屋に戻り、着替えに行った 「伊織、何か有ったのか?」 体調が悪いのなら…言って欲しかった… 明かに…榊原は、辛そうにしていた 榊原の些細な変化に…康太は泣きたくなってしまう 榊原は、康太に抱き着き… 倒れた 康太はドアを開けると、叫んだ 「誰か来てくれ!伊織が倒れた!」 康太は榊原の体にしがみつき…泣いていた 伊織が死んだらオレも死ぬ…と…泣きながら叫んだ 玲香は、慌てて救急車を呼んだ 救急隊員が処置をしょうとしても康太は榊原から離れず… 飛鳥井玲香は、離したら死ぬから、このまま処置をしろ!と救急隊員に迫った 救急隊員は、仕方なく康太を引っ付けたまま処置をした 病院に運ばれて診察する時は… 四宮が康太を離し…でも手は握り締めたまま ……泣き続けた 緊急オペになった時も…康太は榊原の手を握り締めて…祈っていた 診察の結果、過労で弱った体で熱中症と盲腸炎になり倒れたと診断された 榊原は、限界を越えて…康太を支え続けていたのだ… 康太は榊原の服を握り締めたまま…泣いていた 夏休み入る前から…榊原に負担ばかりかけていた…寝込みも襲った どうして…伊織の変化に気が付かなかった? 倒れる直前まで… 異変に気が付けなかった 伴侶の異変に気が付けないなんて… 神様……どうか オレから伊織を奪わないで下さい 伊織を失ったら… 生きては行けません… そしたら… 直ぐに死のう… 伊織のいない世界には… 一秒たりとも 息をしていたくないから… 伊織… 伊織… オレは恋人失格か… 康太は…見ていて痛々しかった 四宮は耐えられずに…一生に連絡を取った 電話口で榊原が倒れた事を聞いた一生は…… …四宮に、康太に電話を変わってくれ…と懇願した 康太は、四宮から電話を渡され話そうとしたが……何も言えず 嗚咽だけ…一生に届いた 少しして…康太が一生に想いを伝えた 「一生…オレは………っ…恋人の…異変にも……気付けなかった…恋人…失格だ…」 吐き出された想いは強い… 自分を責めて…康太は…壊れる 康太は電話を四宮へ返した そして榊原のベットに突っ伏した 誰も……… そんな康太に言葉を掛けられなかった… 瑛太が病院に駆け付けても…康太は榊原の側で突っ伏したままだった 四宮は、力哉に一生を呼びに行ってくれと頼もうとしたら… 「一生は、呼ぶなれ 一生は牧場で忙しい…絶対に呼ぶな…」 ………と、康太に言われ、呼びにも行けなかった 康太は病室の皆に帰れ…と、言い放った 康太の想いが解るから…家族は引き上げた 四宮も一旦…帰って一生に連絡を取ろうと病室を後にした でも……榊原に、何かあれば… 康太は生きてはいない… その想いが強く…… 本当は…康太を一人にはしたくなかった だが自分を責める康太を…… かける言葉すら見付からなかった… 夜中…榊原の病室のドアが開いた 病室に入って来たのは… 緑川一生だった…… 「康太、旦那は死ぬような病気じゃねぇ お前がそんな事してたら、お前が倒れてしまう…」 一生は、康太に近寄り体を起こさせた 康太は泣いてはいなかった…… だが…思い詰めた瞳で…一生を見ていた 「恋人失格…って言ったって…別れられるのか?旦那と? 康太は旦那のいない世界で生きられるのか?」 康太は首をふった 「なくしたら…死んでしまう… でも側にいて…無理をして伊織を壊すなら…オレは距離を置こうと思う…」 どの道…オレの想いは人を縛る…と、康太は自嘲気味に笑った 「伊織は、寮に戻るけど…オレは戻らない… 逢えないのは…死にたくなるけど……伊織が無理するよりは…良い…オレはそれで良い 」 康太は榊原の手を握り締め…頬を刷り寄せた 「康太…旦那はそんな事望まない! 」 一生は、叫んだ 「一生…望んでなくても…壊すよりは良い…違うか? オレが心配かけすぎて伊織が倒れた…… オレは気付かなかった 伊織に無理ばかりさせて、それで恋人だって言えるのか…? 負担になりたくない… 伊織の負担になるなら… オレは自分を殺したくなる…」 康太は…涙を流していた 決意の瞳から…止めどなく涙は流れた 「伊織がこの世からいなくなったら…後を追う 伊織のいない世界には生きていられない… 思い知った… それと同時に…オレは伊織に負担をかける…でもオレは歩みを止めれねぇ… ならば距離を置くしか…伊織を守る術はねぇ…少し距離を置く オレは寮に戻らねぇ…それしか…ねぇ 」 康太の指が…榊原を撫でる 「一生…帰ってくれ…伊織と二人きりにさせてくれ…」 康太に言われ…一生は、病室の外に出た 病室の外には…瑛太と四宮と、一条と悠太がいた… 康太は…榊原のベットに突っ伏した その髪を……撫でる指に… 康太は飛び起きた 榊原は、康太の頬に手を伸ばし 「僕は絶対に、康太と距離なんて置きません… 距離を置いたら……押し掛けて行きます 逃げるなら…息の根を止めます… 僕だけのモノにならないなら…君の息の根を止めます だから…僕から離れないで…」 榊原は、一生との会話を聞いていた… 聞いていて……離れないと…宣言した 「伊織…オレが無理させたから…心配かけたから…」 康太の瞳からは止めどなく涙が溢れて流れた 榊原は、その涙を掌で拭った 「康太…離れるなんて言わないで… 距離を置くなんて言わないで… 康太が逃げるなら…僕は康太の息の根を止めます 見えない間に…康太を獲られたら…想像するだけで…僕は狂う… それなら…康太を永遠に僕だけのモノにする…。頼むから…僕と生きて…」 康太は榊原の頬を触る指に…自分の指を重ねた 「伊織が死んだら…オレは後を追う 伊織のいない世界には生きていられない でとオレは動きを止められない…心配させない保証もない…だから……」 康太は絶えきれず突っ伏した 嗚咽が漏れる…康太を、榊原は抱き締めたかった 「康太…抱き締めさせて…康太…僕の腕の中においで… もう泣かなくて良いから…僕の所へおいで…本当なら起きて君を抱き締めたいけど…」 榊原はベットに寝たまま、両手を開いた…康太を抱き締める為に… 康太はその腕の中に顔を埋めた 「康太…心配させた…ごめんね」 康太は首をふった… 「伊織…頼むから…辛い時は…辛いって言って 無理しないで…オレを置いて行くな…」 泣きじゃくる康太を、榊原は頭を撫で慰める 「辛くなんかなかったんですが… 今日の暑さが…少し堪えました… 僕が康太を置いて行く筈などありません もし…僕の余命が少ししかないと宣言されたら、君を殺して僕は死にます 腕に赤い糸をぐるぐる巻きに巻いて… 来世もその次も…何度生まれ変わろうとも…離れないように…します」 康太は、伊織…と榊原にしがみついた 本当はベットから起き上がって康太を抱き締めたかったのだが…体がまだ動かなかった 「伊織…本当に…失ってしまうかと…怖かった…」 「康太…僕は生きてます…ごめん…眠ってしまうかも知れません… 康太が距離を置くなんて言うから… 慌てて目を醒ましたけど… 意識が遠くなりそうです」 本当ならまだ目覚めない…って医者も言ってたのだ 康太は榊原の口に接吻を落とすと…眠れ…と、言った 「伊織…眠れ… オレがずっと側にいるから…眠れ… 愛してる伊織 伊織だけを愛してる だからずっと側にいるから…眠れ…」 康太は榊原の頬を撫でた 榊原は、その手にすりよるように眠りに落ちた… 榊原が眠りに落ちると康太は廊下に出た 廊下には案の定、瑛太と一生、四宮、一条と悠太が用意された椅子に座っていた 「康太…どうしたんだよ」 康太を見付けた一生が、康太に駆け寄った 「一生、牧場に行ってたのに… 戻して悪かったな…力哉に送らせよう」 康太が言うと、一生は首をふった 「旦那が治らねぇうちは、帰らねぇ」 康太は、一生…と、名前を呼んだ 「瑛兄は、帰って眠れ 瑛兄まで倒れたら…オレは…」 康太が瑛太の心配をする 瑛太は康太を抱き寄せた 「解ってるよ…もう少ししたら帰る だけど康太…兄はお前の体も心配している 眠れる時に眠りなさい。解ってるね」 康太は頷いた 一頻り瑛太は康太を抱き締め 撫でて…落ち着いているのを確かめて…帰る事にした 「一生達は一旦家に帰りますか? 後、榊原のご両親には連絡を入れておいた 康太が落ち着いたら…来ると仰った…」 康太は瑛太に、ありがとう…と告げ抱き着いた でも直ぐに…もう大丈夫だからと体を離した 「オレは大丈夫だ。伊織の側にいる」 康太は言い切った 「一生…清家にはお前が知らせておいてくれないか…?」 頼む…と康太は一生に頭を下げた そして、病室に帰って戻って行った 病室に戻った康太は榊原の手を握り締めた 愛しい男だ… 無くしたら…生きていけない程に… 大切で… 愛しくて… 泣きたくなる程… 愛している… 「伊織…愛している…」 耳元で囁く… 「伊織が死んだら…オレも死ぬから…」 吐露されるのは…康太の本心だった 「だから…息が止まる瞬間まで一緒にして…」 榊原の髪を撫でる サラサラの髪を撫でるのが大好きだ 「もう…伊織の匂いのない部屋では眠れない」 康太は榊原の髪にキスした 「伊織の匂いに包まれてしか…眠れない…」 康太は榊原の胸にすりよった 「伊織が…オレの元を離れるなら…オレは確実に…伊織の息の根を止める…」 榊原の匂いを胸一杯に嗅ぐ 「オレのモノだ伊織は……離れたら…殺したくなる…位…自分を押さえれなくなる…位…」 愛しているのだ… 言葉にすれば陳腐になる だけど言葉にしなければ…相手には伝わらない… 「愛してる…愛してる伊織…伊織だけを愛してる… 伊織しか要らない…伊織だけ欲しい…」 熱烈な求愛の言葉が…康太の口から溢れる… 「伊織になら…殺されても良い… 伊織にトドメを刺されるなら…オレは本望だ 愛してる… 止まらない位…愛してる」 ……見せれるなら…切って中を見せてみたい 榊原で詰まった証拠になるなら…見せたい こんなにも榊原しか愛せない自分を…… 見せれるなら…命と引き換えに見せたい位…愛してる 「伊織…お墓は一緒に入ろうな… 例えお墓の中でも…伊織と別々は嫌だ…」 康太の想いは深い… 「生まれ変わっても…一緒にいて 他の人を見付けたりしないで…オレを見付けて…」 康太は榊原の口に…接吻を落とした… 康太の口内に榊原の舌が挿し込まれ…絡み付く… 康太は慌てて体を離そうとするが…その体を押さえて…深い…接吻が贈られた 唇を離すと…榊原は康太を見詰めていた 「そんな熱烈な告白を受けて眠れる訳がないじゃないですか… 体が自由になるなら…押し倒してます」 康太は…伊織…と、名を呼び… その瞳に涙を溢れさせた 「だって…伊織が抱いててくれなきゃ… もう…眠れないんだもん…」 すんすん…康太が鼻を啜りながら…言う 「伊織の匂いに包まれてしか眠れない」 涙を流して…すんすん鼻を啜る姿は… 殴り倒された位の衝撃を食らう位の可愛さだった 「康太…もう退院します…」 我慢出来なくなった榊原は、体を起こそうとする ……康太は慌てて榊原をベットに寝かせた 「もう言わない…だから無理すんな…」 泣き出した康太は、俯いた 榊原は、康太の顔に手をやると…涙で手が濡れた 両手で顔を引き上げると…そこには涙を溢れさせた康太がいた… 「もう…伊織が退院するまで言わない…」 榊原は、降参する… 「寝てますから…泣かないで…ねっ、康太…」 「伊織こそ…無茶ばかりする…」 朝の…報復を受けるとは…榊原は康太の頬にキスした 「無茶じゃないですよ…今回のは鬼の撹乱…清家辺りならそう言いかねないですよ」 「一生が牧場から戻って来てしまった…オレの所為だ…」 「なら外にいますね。」 「オレは…帰るように言った…」 「それで帰る一生達ですか……。 瑛太さんも…居ますよ…見てらっしゃい」 う~っと康太が唸る 「唸らないの… 康太を置いて帰れる筈などないでしょう… 況してや僕が死んだら…死ぬなんて言われて…」 康太が恨みがましい目をする 「その目は…逆効果だと…言ってるのに…」 榊原は康太の頭を撫でた 「見てくる…」 康太が言うと「連れてらっしゃい」と榊原が言った 康太は頷き…病室の外に出た 帰れと言った人間がまだいた… 「中に入るもんよー…」 康太はドアを開き…言った 康太の側に瑛太が駆け寄る… 一生も四宮も一条も駆け寄り… 康太を抱き締めた 「悠太…何で帰らねぇんだよ…」 康太が弟に声をかける 「伊織君に何かあったら…康兄は死ぬ… だから…帰れない…帰ったら…気になって眠れない」 悠太は、刹那い胸のうちを吐き出した 「さぁ、皆、入ってくれ」 康太が皆を病室に迎え入れると… 朝まで眠る分の睡眠薬を投与された… 榊原が目を開けていた 「ほら、居たでしょう?」 榊原は、康太に声をかける 康太は頷いて、皆を睨んだ 「瑛兄…家に帰る約束はどうした? 一生も…聡一郎も、隼人も…それになんで悠太もいんだよ」 康太の言葉に…瑛太は静かに口を開いた 「伊織は、康太の伴侶 即ち飛鳥井の家族だ… 家族の心配をするのは当然…違うか?康太 それに一生や聡一郎、隼人はお前の家族も同然 お前等の繋がりは…そうじゃないのか? 一生は、私に康太の所まで連れて行ってくれ…と電話があった… お前を心配すればこそ…一生は、牧場を離れた、解るな康太?」 康太は頷いた…頷いたが… 「オレの所為で…誰かが倒れるのは…見たくねぇんだ…オレは大丈夫だ 伊織が、生きてれば…オレは生きていける…」 康太の想いの深さを…告げる… 瑛太は康太をそっと抱き締めた 「ならば…兄も生きていけるな…」 瑛太の言葉に康太は…瑛太にしがみついた ごめん…瑛兄…と康太が謝る 瑛太はそんな康太の肩を叩き、榊原の方へ向かった 「君に何もなくて…良かった…」 瑛太は榊原の側まで来て……呟いた 瑛太の姿は…憔悴していた 「瑛太さん…ご迷惑を御掛けしてすみませんでした…」 榊原は、瑛太に心配させたと…痛感した 康太が言うことを聞かないから… 周りの人間は何も出来ない分歯痒い想いを強いられる 「本当に…何もなくて良かった… 君に何かあったら…君の御両親に顔向け出来ない… 康太も生きてはいまい… 体調が悪いのなら…無理をするな…解ってるね伊織…?」 瑛太は榊原に近寄り、頭を撫でた 「瑛太さん…」 「明日…榊原の御家族が御見舞いに来られる… 心配されていたよ 飛鳥井の家族も心配している 君はもう飛鳥井の家族だ…」 そう言う瑛太が一番憔悴している… どれだけの心配をして…どれだけの想いでいたのかを伺えれた 一生は、康太を抱き締めた 抱き締めて…泣いていた 康太は一生に……ごめん…と、謝った 一生は、何も言わず…康太を抱き締めた 「清家が…鬼の撹乱…と笑っていた… なんつう恐ろしい男なんだ…あの人は…」 一生が立ち直り、康太へ話す 康太は榊原を見た…榊原は苦笑した 「一生…伊織が退院するとごねてたんだ…」 康太が言うと……全員絶句した 瑛太は榊原に「…めっ…」と怒った 榊原は、しゅん…と身を縮めた 「君が退院したら…うちの母は…鬼になる 止めときなさい!解ったね伊織…」 瑛太は榊原が帰ったら… 母親の怒りを考えるだけで…背筋が寒くなる…と告げた 榊原は、個室に入っていたから…今回もソファーで瑛太は休む事にした 一条は康太の横に座り…泣いていた… 一生は、反対側の椅子に座った 四宮は、悠太を膝で寝かせ…仮眠を取っていた… 榊原が朝、目が醒めると、康太がベットに突っ伏して寝ていた その横には一条が…寝て、ベットの反対側には一生が手と足を組みながら寝ていた ソファーには瑛太、四宮、悠太が寝ていた 皆…心配して病室にいた 榊原は、皆の想いが嬉しかった… こんなに心配されるとは…思ってもいなかったから…… 榊原は、少し体を起こし…康太の髪を撫でた そんな榊原の様子を、瑛太は目を醒まして見ていた… 優しい…総てを包み込むような瞳で…康太と榊原を見守っていた 「目が醒めたかい…? 伊織は疲れている… 少し休みなさい 休める時に体を休めなさい…解ったね」 榊原は「ご心配かけました…」と謝った 瑛太はソファーから起き上がると、榊原に「何か欲しいのはあるかい?」と聞いた 康太にそうして来たように、榊原にも同じ様に、欲しいものを聞く 「あの…プリンとかジュースとか、康太が起きて欲しがると思うのでお願いします」 ……と、康太のお腹事情を瑛太に頼んだ 瑛太は苦笑して、買ってくるよ… でも伊織の欲しいのはないのかい?と尋ねた 榊原は、首をふった……が思い付いて瑛太に頼む事にした 「あっ…1つだけ甘えて良いですか?」 「何でも!君の頼みなら、地球の裏側だって行って願いを果たしてあげます」 瑛太は声を出して笑った 「僕が倒れた時に、康太が僕の鞄を踏んだので…バキッって音がしました… 帰らないと解らないけど…使えるPCを用意して下さい」 PCがないと仕事が出来ない… 榊原は、瑛太に頼んだ 「じゃあ、帰りに持って来よう データーが気になるなら、力哉に言って部屋からPCを持って越させよう 昼に様子を見に来るから、その時に渡せるようにしとく。君は良い子で寝てなさい」 瑛太は榊原の額にキスを落として、出社して行った 一生は、目を醒まして榊原を見ていた 「旦那…盲腸の痛みなかったのかよ? 後数時間遅かったら、破裂してたって医者が言ってたぞ 何でそんな無理するかなぁ…」 無理……と、言われても…無理をしている自覚はない。 横っ腹が痛い…と、言っても… 「調子は悪くなかったんですよ…一生 朝から康太とエッチしまくって… 調子が良い位で…止まりませんでした。 も少し時間が有れば…抜かずに4回は…」 榊原が言い続けるのを…口を押さえて止める 過労と熱中症と盲腸炎併発しときながら… 朝は抜かずの3回なんて話は聞きたくもない! 「旦那…その前から痛みはあった筈だ」 「たまに…ね でも康太に誘惑されたら…痛みなんて…飛んでったから…」 榊原は自嘲気味に笑った 「体調悪い時は…誘われても断れ」 一生は怒っていた 「一生…心配させた…」 榊原は、一生に手を伸ばし…一生の頭を撫でた 「心配してんのは、飛鳥井の家族全員とお前の親兄弟も同じ…! お前に何かあったら… 飛鳥井の家は葬儀を2つ出さねばならねぇんだぞ… 下手したら3つ…… 瑛太さんは確実に康太を追うからな… 俺等も…康太と人生を共にする…お前は…かなりの人間を殺す現実を思い知れ!」 榊原は解ってますよ…と、一生の頬に手を当てた 「一生…解ってます 」 一生は………ならば良い…と、黙った 康太が目を醒ますと…全員起きていて、瑛太は出社した後だった 朝、回診に来た医者は…康太の主治医だった久遠だった… 康太の顔を見るなり…大爆笑した 「今度は坊主の伴侶が過労と熱中症と盲腸炎で入院か いゃあ…入院したがりなカップルだわ」と、受けまくり笑いまくりだった 久遠は傷口を消毒して 「2、3日は入院してろ! 過労だからな 無理はさせられない なんせ10日で退院した奴の恋人だからな… 今朝には退院させろ…って言わないか、ハラハラしたぜ!」なんて言った 康太は「嫌…昨夜退院するって…聞かなかった…」と、答えると大爆笑だった 「3日間は入院してもらう 4日目の朝に帰してやるから…静養しろ でないとベットに縛り付けるぞ!」 と、医者は脅して回診を終えた 康太は甲斐甲斐しく榊原の看護をした ただ…ご飯は自分で食べれるのに… 食べさせようとするのには…困った あ~んして なんて言われたら…愚息が大変な事になる… トイレに一緒に入って世話を焼こうとするのも…困った 康太の手で…出るのは違う色のモノになりそうで… 榊原がベットを起こすと…康太はベットに腰掛け榊原に抱き着いて離れなかった 明らかに…康太の精神状態が不安定になっていた… 昼休みになると、瑛太は病室に現れた 新品の箱に入ったままのPCを、瑛太は榊原に渡した そして使っていたPCを榊原に見せた 「バキッと行っていたから、同じ種類の新製品を用意させた これを使うと良い… データーは、力哉が移しておいたから、直ぐに使えると思う 古いのは…どうする?処分しとこうか?」 瑛太が聞くと榊原は「お願いします」と頼んだ 榊原と話している時の康太の様子がおかしくて、瑛太は康太を凝視して見た 明らかに精神状態が不安定になっていた… 「康太…どうした?」 瑛太が声をかけても、康太は榊原から離れなかった… かと、思えば…榊原のPCを開くと、セキュリティーを入れる…と PCに集中したり、明らかに精神状態は、良くなかった 「康太…」 瑛太が康太を抱き上げてソファーに連れて行く 瑛太は康太を膝に乗せると 「どうしたんだ?何が康太を不安にさせてる?」と、問い掛けた 康太は何も言わなかった… 「お前がそんなんだと…伊織の病気は治らなくなる…それで良いのか?」 康太は下を向いたまま…それは嫌だ…と、答えた 「なら、どうした?」 「オレは伊織の看病も出来ない…」 瑛太は意味が解らなかった… 「康太…詳しく話して…兄は何時もお前の言葉を聞いてやる だから、詳しく話しなさい」 「オレはちぃさいから…伊織を支えてやる事も出来ない…。 トイレに連れて行こうにも…オレはちぃさいから助けてやる事も出来ない…。 ご飯だって…伊織にあ~んしてって言ってるのに…さっさと食事を済ませる… オレは伴侶を支えてもやれない…オレが支えたら…伊織は歩けない… オレがちぃさいからいけないんだ…」 まさか…身長がちぃさいから…と来るとは思いもしなかった 「康太…お前は…」 瑛太は言葉に詰まった お前は…小さくさい…とは言えないし… そのうち伸びる…なんて有り得ないだろうし… 榊原を支えるのは無理だろう… 康太は榊原の胸より下なんだから… 「康太は康太しか出来ない看病をすれば良い… 伊織は康太が横にいれば…それだけで生きていける… 側にいれば…それが看病になっている…だから元気を出せ…伊織が心配する…」 康太は瑛太を…じぃぃぃーっと見詰めた 「伸びる…って言わないんだな。 瑛兄の意地悪… 兄弟でオレだけちぃさいもんな… 子供の頃…瑛兄に拾って来たからって苛められた…」 瑛太は冷や汗をかいた そう言えば…小学生の頃の康太に…何でオレだけ背が低いんだよ…って泣かれ… 瑛太は康太を笑わせようと…拾って来たからって軽い気持ちで言って… 大泣きされて熱を出された… 以来…身長ネタは…避けて来たのだ 「康太…兄を困らせるな…」 榊原は笑いを堪えるのに…必死で、でも笑うと…脇腹が痛んだ 一生と四宮は背中を向けて…肩が震えていた 一条は、仕事で悠太は、家に帰っている 「何でオレは家族で一番ちぃさいんだ? 母ちゃんも高いし… まぢでオレは拾われて来たのか?」 瑛太は康太の頭を撫でた 「そんな事を母の前で言ったら…間違いなく殴られるぞ…。」 だぁってぇ…と、康太の唇が尖る 瑛太は康太を抱き上げて榊原の側へ連れて行った 「伊織、私は会社に戻らねばならない… 康太を頼めるか? ………それと、あ~んで一口食べてやってくれ…頼む」 と、瑛太は病人に頼んで出て行った 康太は榊原のベットに上ると…首に手を巻き付け…抱き着いた 一生と四宮は、食事をして来るから…と部屋を後にした 榊原は、康太を抱き締めた 「康太…機嫌を直して…ねっ…… 僕は康太がちぃさいなんて気にしないよ あまりデカいと膝に乗せられないし… 抱っこするのキツいでしょ?」 「オレで良い…?」 「康太が良い 僕の愛しているのは…飛鳥井康太…君だけだよ」 「でも…伊織を支えてやりたかったんだもん… あ~んしたかっただけだもん」 榊原は、康太の耳許で… トイレを手伝ったら…その気になってしまう… あ~んなんてされたら…押さえるのが大変なんですよ 触って…と、康太の手を…股間に導いた 「ねっ…康太の側にいるだけで…こんなんだよ トイレを手伝って貰うなら…個室に連れ込みます… あ~んなんてされたら、此処が病院でも… 康太と犯りたくなって…結構大変なんですよ…」 康太は…頬を紅く…染めた 榊原は息も着かない激しい接吻で康太の唇を塞いだ 貪る接吻は……深くなり…ドアがノックされても…気が付かなかった程…だった ノックをしても返答がないから…ドアを開けた… するとベットの上で…激しい接吻を交わしている…榊原と康太がいた 開けたドアを閉める訳にもいかず、榊清四郎と、妻の真矢と笙は、再びドアを大きくノックした 榊原は唇を離すと「知っています…中へどうぞ 」と、家族に言葉を掛けた 笙は、「お前は…倒れたんだよな…緊急オペされて…入院…の筈だよな…」と、嫌味を送った 榊原は康太を抱き締めたまま「みたいですね…」と、しれっと答えた 「父さん、母さん、兄さん、お見舞いに来てくれて…ありがとうございます。」 榊原は、頭を下げた 「僕が倒れたので…康太の精神状態が不安定になっているんです… 昨夜は…僕の後を追うと…泣きっぱなしで… 不安定になっているんです このままですみません…宜しいですか?」 と、榊原は、康太を抱き寄せた 清四郎と真矢と笙は、言葉を無くした… 何時も元気はつらつな康太が…榊原に抱き着いたまま…微動だにしないから…… 「伊織が倒れて…康太が平気でいられる筈などないと解ってたんですが… 間近でこんな姿を見ると…遣りきれませんね…」 清四郎は呟いた 「昨夜は…瑛太さんと一生達が着いていてくれました… 瑛太さんは僕に何かあったら…父さん達に顔向け出来ないと…凄く心配させてしまいました」 榊原は康太の頭を撫でて…言葉を続けた 「全員…僕に何かあったら康太が………と考えたら… 側を離れられなかったみたいです。 康太は…救急車で運ばれる時から…僕から離れなかった 病院に運ばれてからも…離れなくて、オペにも着いて入ったんです 一晩中泣いて…僕を壊す位なら離れて暮らす…とまで言っていたんです…」 今日はずっと…僕から離れません…と榊原は、家族にそう言った 康太は…目の前で失うかも知れない恐怖に囚われていた だから…榊原から離れられずにいた 離れたら…もう二度と手が届かないかも… なんて恐怖に囚われてしまっていた 看病をしてやりたい…伊織を支えてやりたい …自分に出来るのは…それだけだから… なんて思い…康太は榊原の側で…怯えていた 真矢は…そんな康太の姿に…胸が痛かった 精一杯の愛を貫こうとする康太の姿に…涙が溢れて…止まらなかった 清四郎は、康太に「康太…」と、声をかけたが、康太の背中がぴくっ…となるだけで 清四郎の方を見る事はなかった 榊原は「僕は…康太の目の前で倒れてしまいましたから… …離したら…無くす…と、思ってるんです」 と、言葉にした 真矢は立ち上がり…康太に近付いた 康太の背に手をやり…康太の体を子供みたい榊原から離すと… 「伊織は、康太を置いて…何処へも行きませんよ」と、康太を抱き締めた 「真矢さん…ごめん…」謝る康太の背を優しく撫でた 「もう怖くないからね…」真矢は囁いた 康太は…何度も頷いた そして顔を上げた時には…その思いが解る程 …憔悴しきっていた 笙も息を飲むほどに… 「伊織は、私が見てます 康太は少し寝なさい…」 真矢の言葉に康太は首をふった 「このままじゃ康太が倒れる… あなたお医者様を呼んで康太を眠らせる様にお願いして…」 真矢は清四郎に指示を出した 清四郎は、病室の外に出て…ナースステーションに行き、事情を話し医者に来てもらった

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