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第66話 桜林祭までの道程
学校へ行くと夏休み中だけあって生徒はいなかった
車を降りると、一生が出迎えに来ていた
「旦那と良いところを悪かったな
力哉に渡したのは役立ったか?」
一生の揶揄を「一生…ゴムを持ち歩くな…
そんなにお前に需要はねぇだろ」と受け流し、一緒に歩く
「失礼な!男の身嗜みなんだぜ」
一生が、笑いながらポケットのゴムを見せる
「見栄はらんでもええがな…」
「康太は俺がモテるのを知らねぇんだよ」
「知らん!」
康太は切り捨て歩いて行く
一生は、仕方なく後に続いた
「所で何でオレを呼び出したんだ?」
「兵藤が、お手上げ…だそうだ
口を割らない…黙んまりで、埒があかない…そうだ」
「なら、吐き出させよう!」
生徒会室に捕まえてある…と一生が言った
康太は生徒会室に向かうとドアをノックもなしに開けた
生徒会室に役員に睨まれ座るのは2人の男だった
桜林学園の3年生だった
確か、3年A組…兵藤達のクラスメートだ
橋本克也、 久遠将司の2人だった
康太は楽しげに久遠将司の前に座ると足を組んだ
「貴史、コイツ等、吐いたのか?
何で桜林祭の妨害をしてたのか…を。」
兵藤は、首をふった
「全く何も言わない…」
兵藤は、お手上げのポーズをとった
康太は橋本と滝沢の容姿を観察した
二人とも今風の容姿をしていた
ヒョロと背の高い橋本と、ガタいのデカい滝沢
二人は対照的だった
康太は滝沢の顔を見て皮肉に鼻を鳴らした
「あの程度で、逃げおおせると思ったか?」
と、康太はテーブルに肘を着き嗤った
滝沢は、康太の顔を見て睨み付けた
「お前が尻尾を掴んだのか?」
滝沢将司が康太に問い掛ける
その瞳を射抜き
「あの程度の尻尾なら…一分かからない」
康太は滝沢を馬鹿にした
「お前…四悪童だろ?
そんなC組の奴に、俺の尻尾を掴まえられる訳などない!笑わせるな!」
滝沢は、吐き捨てた
「オレ等は、確かに四悪童だが、お前程度の腕なら赤子の手を捻るより簡単だ
ならば、何故お前は尻尾を掴まえられた?
腕を過信し過ぎた馬鹿だな…」
なっ!
滝沢は激怒した
「面倒な事を避けたい学校側から、志望大学に口添えしてやるから
お前の腕でデマを拡散して欲しい…辺りの事を頼まれたか?」
康太は核心を着いて話をすると、橋本と滝沢は顔色をなくした
「今、副校長に依頼して学長を連れて越させている
学長が辞任する位では済まされない問題を起こした!お前達も…だ。」
橋本と滝沢は、ガクン…と項垂れた
「と、言う事だ、貴史」
兵藤は、お前知ってたら教えろよ!…と怒った
「オレもそこまで見てなかったんだよ
わざわざ来てやったんだから、チャラにしろ」
と、康太は笑った
「貴史、橋本は滝沢に引っ張られて来ただけだ…
殆んどの仕事をやったのは滝沢将司、そいつだ」
そう言うと康太は立ち上がった
「んじゃぁオレは帰るわ」
と、兵藤に告げる
が、兵藤は康太の手を掴んで離さなかった
「副校長が来るんだろ?なら居ろよ!」
と、兵藤はごねた
お前がいねぇと、説明は誰がすんだよ…と
不貞腐れて…ガキの様な顔をした兵藤貴史を
…役員は全員目にする事となった
「だってオレ…滝沢の器嫌いだもんよー
人を馬鹿にして順位をつける輩が一番虫酸が走るんだかんな!」
と、康太は言い捨てた
兵藤貴史の額に怒りマークが刻まれ…噛みついた
「好き嫌いで決めんな!
お前が帰るなら俺も帰る
なんなら早期で会長を上がってやる!」
こうなると兵藤は引かないから…康太は折れた
「解った……居るから、そんなガキみたいな顔すんなよ」
「誰がさせてんだよ!」
いじける兵藤を落ち着かせ、気を取り直し
「貴史、オレの秘書と初対面だっけ?」
と、聞く
そして康太は力哉を呼んで、兵藤に紹介する
「あぁ、お前に秘書が出来たのも初耳で、驚きだったな 」
兵藤が力哉に向き直り、兵藤貴史です!と、力哉に挨拶した
力哉は「安西力哉ですれ」と、名刺を渡した
「力哉は、東大、経済学部を首席で卒業したんだぜ」
康太が言うと兵藤は、ほほう…と感心した
兵藤と、話をしていると、副校長がやって来て
学長は更迭された…と、伝えた
解雇でなく更迭…康太は腑に落ちなかった
理事長に伝えた所…不問に伏せろ…との事で公に処分はしない…との事だった
学長が更迭された今…自分達を擁護をしてもらえない事態に…やっと二人は気が付いた
「滝沢、お前…大学はどこ志望だったんだよ?」
「早稲田…政経学部…」と、滝沢は答えた
「って事は、将来は政治家か?」
康太が聞くと滝沢は首をふった
「俺は議員の秘書になりたいんだ」
滝沢が言うと、康太は ほほう…と感心した
「滝沢、大学に入学したら、飛鳥井建設にバイトに来いよ
大学の4年間、みっちり仕込んだら、少しは使える様になる
そしたら兵藤貴史の第一秘書に収まれ
情報を探り情報を操り…お前は政治家の生命を守れ……まぁ覚えていたら…だけどな」
康太は滝沢の肩を叩いた
そして兵藤に向き直り
「滝沢と、橋本は被害者だ
学長が責任をおって…幕を引け
後の噂の操作は聡一郎がやる
お前は手を出すな
そしたら、お前が国勢に出る時の秘書を育ててやんよ
オレの最大の祝儀だ!待ってろ」と、兵藤の胸を軽く叩いた
兵藤は、笑顔で「ならば、待っていよう!
総てはお前の思いのままに」と、頭を下げた
「ならば、帰るとするか…
力哉、伊織が待ってるから、帰るもんよー」
と、出口に歩いて行った
その後に一生と四宮が着いて行く
康太達は、生徒会室を後にした
康太の去った生徒会室で、兵藤は役員に橋本と滝沢を離せ…と、指示した
「学長が責任取って幕引きだ
副校長もそれで了承したんですよね?」
兵藤は、副校長に問い質した
副校長は、ああ。理事長がお決めになった事ですから…
後は兵藤に任せるよ…と生徒会室を後にした
「橋本、滝沢、飛鳥井康太は真贋の目の持ち主だ
アイツの目は俺等の見ている先を捉える
不問に付す…だから、自分達の始末は自分で取れ
これはお前達に与えられたチャンスだ
生かすも殺すもお前逹次第だ。解散!」
兵藤は役員に言い放った
役員の誰一人、疑問も質問も出ない…
それだけ飛鳥井康太の威力はあるのだと…滝沢は思った
ならば、飛鳥井康太の見る果ての通りにして見よう…と、滝沢は心に決めた
さっさと兵藤は、生徒会室を後にした
康太は帰りの車の中で、何故デマまで流して中止にしょうとしたのか…
腑に落ちなかった
「どうしたよ?康太
何か腑に落ちねぇのかよ」
一生が、押し黙った康太に話し掛ける
「何故デマまで流して中止にしょうとしたのか…そこだけ…不可解なんだな…気持ち悪い」
「誰が絵図を書いた…か?
学長は踊らされただけか…なら気持ち悪いわな」
一生は、納得する
「中高合同…で、何かあるのか?」
やはり……問題はそこへ行く
病院の駐車場に着き…車を降りても…康太は考えに耽っていた
思案して歩く体が…持ち上げられ、康太は慌てた
慌てて見ると、瑛太が康太を抱き上げ歩いていた
「お前が伊織の側を離れて何処へ行ってるかと思えば…考え事で兄も見えぬとは…」
「瑛兄…気持ち悪い…」
瑛太は何処が痛いんだ…何か拾い食いでもしたのか…と、慌てた
康太は、考えがしっくり来ないのが気持ち悪いんだもんよー…と、怒った
「何がしっくり来ないのだ?
話してみなさい」
と、瑛太が康太を促し…康太は今あった出来事を話した
瑛太は…中高合同祭…と、表情を曇らせた
「彦ちゃんは、何も知らないみたいだった…
瑛兄は、何か知ってるみたいだな…
この差は何なんだ?」
康太は一生を見た…一生は、俺に解るかよ…と呟いた
「瑛兄、知ってるなら話せ…
話せぬのなら…黙っていろ」
康太は瑛太の腕からするりと降りた
「病室に戻ったら知ってる事は話そう」
瑛太は、康太の肩を抱き歩き始めた
病室のドアをノックして、開けると康太は榊原の側に駆け寄り抱き着いた
「ただいま伊織」
甘えて榊原の首に腕を伸ばした
瑛太は、榊原の顔色が良くなって来ているのが伺えれて…一安心した
康太は榊原に学校での出来事を話した
そして…スッキリしなくて気持ち悪い…と、康太の抱いている疑問を投げ掛けた
「瑛兄は、何か知ってるみたいだな?」
瑛太は康太の言葉に頷いた
「直接関係あるかは解りませんが…
私が入学する何年か前に合同祭は、あったそうです
ですが…中等部の子が高等部の生徒にレイプされ…自殺したと問題になって以降は…
合同祭は、闇に葬られた
以来…合同祭をやる話は出ても立ち消えになる…と、聞いた事はある
これが私の知っている話です」
「ならば!何で彦ちゃんは知らなかったんだ?」
康太が瑛太に問い掛ける
佐野春彦…と生徒会の役員だった筈
「この噂は…生徒会長と執行部部長の一握りのみしか知れない…
禁止事項だから、佐野は知る訳にはいかない」
瑛太の言葉に康太は榊原を見る
「僕は聞いていません!
僕の入学した年に、生徒会長と執行部部長が、駆け落ちしてしまったんで生徒会も執行部も運営出来ず停止してました…
だから…生徒会も執行部も…新入生で作られた…その所為ですかね…」
榊原は、知らない…
ならば、知っている人間を探せば…この不可解な気持ち悪さは…なくなるのか…
一生は、探ってみると言い
四宮は、信憑性があるなら…何処かでヒットするか探ってみます…と、言った
何でこうも…ケチがつくのか…
康太はスマホを取り出すと、兵藤貴史にメールをした
『生徒会、執行部、精鋭だけ集めて榊原伊織が退院したら会議を開け…多分妨害の原因が掴めないうちは…このままでは終わらない
その会議には極秘で四悪童も出る
召集する人間以外には教えるな…漏れてたら…そいつ等も切るしかねぇからな』……と。
やっぱ……理事長辺りが……?
「なぁ一生、桜林の理事長って誰よ?」
「……理事長…解らねぇ…。そう言えば理事長って誰だよ?」
一生も首を傾げた
康太は瑛太を見詰めた
「理事長はあまり表には出ないので…解らないし…気にもしなかったな…」
瑛太はごちた
理事長を知ってそうなのは…一条隼人…
所属事務所の社長、神野晟雅…辺りか…
康太は神野に電話をかけた
電話に出た神野に唐突に「桜林の理事長って誰よ?」って切り出した
おおっ唐突に何だよ…と、神野は唸った
「中高合同桜林祭が妨害にあってんだよ
校長を自在に操り…噂を操る人間は…限られて来るかんな…。
隼人は理事長に逢ってんだよな?
なら解るな…理事長を?」
康太は神野に事情を話した
神野は隼人を送るついでに、病院に寄る…と、言い電話を切った
暫くすると、神野が一条を乗せてやって来た
神野は開口一番、理事長の所へ連れてってやるから来い…と康太に告げた
来るまでに連絡を取る辺り…遣り手の社長たったりする
「伊織、オレは行く
力哉を着けるから寝てろ」
と、榊原に告げた
「康太、僕は待ってます
だから行ってらっしゃい」
榊原は康太を送り出す
「さぁ神野、オレを理事長の所へ連れて行け」
康太が言うと、一生や四宮、一条も立ち上がり康太と行動を共にする
康太達が神野の車に乗り込むのを待って、神野は口を開いた
「俺も桜林の理事長の事は良く知っている訳じゃねぇ‥‥
理事長の名前は神楽四季、年の頃なら瑛太より少し上位だ。」
「詳しいんだな?学友か?」
康太が聞くと神野は首をふった
「隼人の面接を行ったのは彼だ
学園側は反対したのに…鶴の一声で、入学を決めさせた
公家の血を引くみたいで高貴な顔立ちをしていた…」
神野は思い浮かべて言った
康太は少しムッとなる
「神野、オレも朝廷の時代なら皇子だぜ
どうだ?高貴な顏『かんばせ』をなさってるだろ?」
と神野に、どうだ!すげぇだろ…とドヤ顔をした
すると、神野のみならず全員が大爆笑となり、康太は拗ねた
神野は、笑い過ぎて苦しそうに息を吐き
「平安の世なら、皇子だろうが…高貴なかんばせは…厳しいな…」と揶揄した
康太はひでぇ…とプンプン怒った
車は…林の中に進み…平成の世の今とは時代が違うかのような武家屋敷ばりの高く聳える塀が屋敷を取り囲んでいた
タイムワープした感覚に陥る
車は屋敷の正面玄関へと向かう
威厳ある格式高い門塀に【神楽】と謂う表札が掲げられていた
家の前の駐車場に車を停めると
神野は「此処だ。降りろ」と言い車から下りた
後部座席のドアを開けると康太逹は車から下りた
玄関の脇の呼び鈴を押すと…
執事さながらのじぃやがお出迎えしてくれ…家の中へと案内された
洋間の応接室に通されると、ソファーに腰掛けて御待ち下さい…と、言い部屋を出て行った
暫くすると、応接室に入って来たのは
若くて高貴な顏(かんばせ)をした貴賓を兼ね備えていて時代劇をやったら間違いなしの役者ばりの顔をした男だった
「久し振りだね康太!」
部屋に入って来た男は、他の人間に挨拶するより…康太に話し掛けた
康太は眉を顰めた
「あんたが理事長なんかよ?」
康太は単刀直入に口を開いた
「そう。私は理事長の神楽四季だ
中高合同桜林祭の話でもしに来たか…康太」
「来るのが解ってんなら…何で妨害なんてすんだよ」
慇懃無礼に問い掛ける康太に、一生は知り合いなのかよ…と聞いた
「四季は、オレの茶飲み友達だ」
康太が言うと神楽は、違うでしょ?と訂正した
「オレは伴侶を得た!
その想いには応えられない」
神楽は、笑い…諦めてませんが…と告げた
「そんな事より、何故オレの邪魔をする」
康太が言葉を放つ
「中高合同桜林祭は、諦めなさい」
神楽も応戦する
「問おう!その訳を!」
「私は今年で31になります。」
神楽が、言うと瑛兄より歳上かよ…とボヤいた
神楽は嬉しそうに、幾つに見えます?と聞く
「瑛兄位…それより若く…」
「飛鳥井瑛太は今年で29、ほほう…私もまだまだ若く見られますか」
…と、嬉しそうだが…瞬時に顔は変わった
「合同桜林祭で…不祥事は有ったんですよ
だから以来…合同桜林祭は開かれなくなった
開いてはいけないんです」
「お前の想い人の様に死んでしまうからか?」
神楽は顔色を変えた
「何故…調べても出ない…
形跡は総て消してあるのに…」
「これでやっと繋がった…そうか
だからか……これで総てが一本の道になった」
康太は納得し、不敵に嗤った
「オレは四季の果てしのない闇を見た…
昼間に逢うお前は素のままだからな
お前の果てを見ると…何時も物悲しい
それは愛する人を亡くし… 以来…時を止めて、思いを引き摺っているからだ…
お前は時を止めたまま…
それでいてオレを本心から欲しい訳でもないのに…求愛していた
オレは似てるか?お前の想い人に?
オレは身代わりは御免だ!」
「……ひょっとして…お前は飛鳥井の真贋か?
………お前だったのか…そうか。」
神楽は、納得して…表情を崩した
「お前は見たのか…私の果てを。」
康太は……あぁ見た。と答えた
「だがそろそろ、想いを断たねぇと、お前の果ては狂って逝くぜ
想いを断て神楽四季
お前の果てはそこでは止まらねぇ…
先があんだよ
なのに時を止めたまま先へ進まねぇと、歪みが出来て来んだよ」
「私は歩かねばならぬのか?」
「あぁ、歩く先には光がある
合同祭をお前の目で確かめろ
オレは合同祭を何がなんでもやる
もう絵図は軌道に乗せた
妨害しても無駄だ…四季
もう動いてんだよ」
「ならば、この目で見よう
必ず、同じ過ちを起こさせないと誓え!」
「最新の注意を払う
同じ悲しみは繰り返させない…
オレの命に変えても…だ」
神楽四季は、目を閉じ…何も言わず康太の話を聞いた
目を開いた時…神楽は笑っていた
「やはり欲しいな…お前を
私の求愛を蹴り倒して…本当に愛しい我が想い人」
「茶飲み友達で許せ…暇を見付けたら…大学に行っても寄るからな」
「茶飲み友達で我慢しますよ
たまにはカフェに付き合ってくれるなら」
神楽は康太を愛しげに見詰めていた
「それならお安いご用だ
じゃ絶対に邪魔すんなよ」
「私は歩を進めてませんか?」
「進んでんな、ならば良い!
じゃぁ帰るまたな四季」
康太は立ち上がると片手を上げた
神楽はそれを見詰め…あぁ…と頷いた
康太は神楽の家を後にした
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