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第68話 愛のかたまり
この出逢いは……神様からの…
たった1つの………贈り物だと…
……………………想うんだ
君こそが…………
僕の……愛のかたまり…なのだから…
僕は………君と………離れる気は…ありません
君は僕の…総てなのだから…
何故…オレは…この家に生まれて来てしまったんだろう…
それが飛鳥井康太の想いだった
飛鳥井康太で産まれてしまった運命を呪った日もある…
何故なら…日々の修行は辛く…
親に抱かれ育てられた…記憶がないからだ…
康太は物心着いた時から…親とは寝食は共に出来なかった
真贋の子供が産まれたら、真贋の者が育てる…それが飛鳥井の掟だった
だから、康太の側には何時も…厳しい祖父、飛鳥井源右衛門がいた
飛鳥井の真贋に産まれてきた者は…先代から教育を受け…持って産まれた真贋の技を日々磨き鍛える
祖父、源右衛門の教えは…日々厳しく…
何故自分だけが…と、言う想いが強かった
言葉と手が飛ぶ…生傷の耐えない日々
何故自分だけが…こんなに厳しくされるのか…康太には解らなかった
源右衛門は何者も教えない癖に…
康太に見えぬ先を見ろと教えた
見果てぬ先を…見ろ!……と。
見えないと言うと……祖父は康太を殴った
厳しい言葉と暴力を投げ掛けられて…
投げ槍になりそうな康太を支えたのは兄、瑛太だった
兄瑛太の存在は大きく…何時しか…瑛太は康太の総てになっていた
瑛太の無償の愛捧げてくれる優しい腕に、縋り着き…甘えた
祖父に出来なくて怒られた日も…
出来ても誉めてもらえぬ日も…
総て、瑛太が…康太の支えになった
手を伸ばすと…抱き上げてくれる大きい瑛太が…康太の総てだった
そして康太を支えたのは、蒼太の母性にも似た愛情だった
祖父は何時も厳しく…食事を抜かれるのは日常だった
物心着くか着かぬ頃から…祖父は目は使うな!と迫った
『康太…目で見るな!
見えぬ先を見ろ!
お前には見える筈だ!
見ろ!果てを見るのだ』
祖父、源右衛門の口癖だった
見えない…と泣くと……夕飯を抜かれた
お腹が空いて泣いていると…兄、蒼太が隠れてご飯を食べさせてくれた
『康太…辛いか…辛くても、じぃちゃんを恨むんじゃないぞ
じぃちゃんは心を鬼にしてお前を教える使命があるのだからな…』
と、何時も暖かいご飯を食べさせてくれた
『康太!心・技・体だ。
心を鍛えてこそ、己に打ち勝つ技を得る!
お前は弱い!泣くな!』
瞑想で心を鍛え…
武道で体を鍛えた…
幼少の頃から…毒に慣れさせ…
飛鳥井の真贋になる為に…毎日が修行だった
雪の降る中、瞑想させられ…
死にそうに凍えた康太を暖めてくれた瑛太
暖かな瑛太の腕だけが…康太をこの世に繋げる…ぬくもりだった
寒い布団に入るのは辛くて…兄瑛太の部屋のドアをノックすると…
『康太、どうした?
こんなに冷たくなって…』
と暖かな腕で抱き締められ…眠った
部屋に行くのを躊躇う日には…
瑛太は康太を迎えに来て…抱き締めてくれた
康太が腕を伸ばせば…瑛太はその手を取り抱き締めてくれる
康太は、瑛太に抱き上げられるのが大好きだった
何時しか…兄しか目に入らなくなり…
康太の羨望の眼差しは常に…瑛太に向けられ…
瑛太しか…愛せなくなった
だが…康太が小学生を卒業した3月…
康太が12…瑛太が23の時…
瑛太は伴侶を得た…早すぎる結婚だった
康太は裏切られた想いで…死のうかと…想った…
だが…京香の…『瑛太を康太から盗ってすまぬ。命を懸けて瑛太を愛す
命を懸けて瑛太と、康太を愛すから…許してくれ…康太…』と、言う京香の言葉と
…結婚しても変わらぬ愛を注いでくれた…瑛太の愛で…
死ぬのは…止めた
飛鳥井の真贋を守る為だと解っていても…嬉しく…
そして…愛しい兄への想いと決別をした
瑛太との別れは…
康太の榊原との出逢いに繋がり……
長い片想いの始まりとなった…
飛鳥井清隆と玲香は…真贋が産まれた日から、我が子に必要以上に接するのを止めた
康太が産まれる日までは、何処にでもいる親子だった
甘えて来る我が子を…愛しく抱きしめる…
当たり前の家族だった
だが…玲香は妊娠中に義父、源右衛門から
『お前の腹の子は我が貰う。
その器は真贋の器。
我の力より強い希少の真贋。
お前の手では育てられぬ…
それが飛鳥井の掟。……許せ玲香…』
と、告げられた日から、子供に区別は付けられぬ…
ならば…どの子も…私は見守るに徹しようぞ
と、決意を胸に…子供から距離を置いた
瑛太と蒼太と恵太は可愛がって…康太は違う
…そんな区別は出来なかったから……
一度も抱けぬ我が子を…玲香は見守っていた
だから……些細な変化にも気が付いた
瑛太の兄と言う立場を逸脱した想いも…直ぐに見抜いた
瑛太の狂気は日を追う毎に強くなり…何時暴走してもおかしくない程だった……
玲香の恐れていた日が…来るのは…そんなに遠くはなかった
康太が6才、瑛太が17才の時の夜…
玲香は、常識を逸脱した瑛太の行動を目にして怒った…
康太が無条件で瑛太を求める事を良いことに…
瑛太は…康太を…抱こうとした…
胸騒ぎを覚え…開いた扉の向こうで…瑛太は康太に接吻して……服をぬがしていた
玲香は瑛太に告げた
『康太が欲しければ…それでも良い
半端な想いでないのなら…お前のモノにしろ母は見なかった事にしょう…』
と、去っていく母親の姿に…瑛太は瞠目した
康太が欲しかった…
康太を自分のにしたかった…
康太しか愛せない自分を自覚していた…
康太は辛い日々を抱き締めてくれる手を欲していた
瑛太が抱かせろ…と、言えば…康太は抱かせてくれる…
だが…そこに康太の想いは…あるのか……
自問自答した
苦しみ…考え…
色んな事を考えた
もし…康太を手にしたなら…と、仮想する
そして…自分の欲深さに…絶望を覚えた
もし…康太を抱いたなら…
自分はもう…康太を離せない…
誰の目にも見せずに閉じ込める
閉じ込めて鎖で繋いで…
自分しか知らない体を…
自分の色に染める…
そしたら…その瞳に…もう誰も写させたくはなくなる…
誰かを見る…目を潰し…
誰かと話す…声奪う…
逃げるのなら…その足を折り…
飛び立つのなら…その翼を毟り取る…
そして…何時か…
康太の息の根を止めてしまうのだ…
そんな狂気を抱く自分に嫌悪した
そんな事をしてしまう…核心が怖かった…
苦しみ…悩み…
出した結論は…
康太を弟として…命を懸けて守ろう…
その為なら…何者も犠牲にしても良い…
覚悟を決めた
自分の戒めに…大学を出ると…直ぐに結婚をした
泣いて…見詰める…康太の目の前で…
瑛太は……結婚式を挙げた
それが瑛太のケジメだった……
康太が中学に上がり…恋をしたのは…
瑛太の器に酷似した…榊原伊織…だった
想い合っているのは…一目瞭然…
だが…榊原伊織は…康太を汚すのを躊躇っていた…
このまま…康太を誰の手にも触れさせないでいたい…想いと
康太の初恋を叶えてあげたい想いで…
瑛太は狂いそうだった
だが康太の総てを引き受けて…見守る決意をした
康太を寮に入れさせたのは瑛太だった
榊原と同室に…と目論んでいたら、榊原の方から康太と同室になってくれ…
後は…康太の想いを成就させるだけだった…
愛しい…命より愛しい…康太…
願ってその体が手にはいるなら…手に入れていた
だが…康太の真贋の目で…見られたなら…
その果てに…兄はいない…と否定される恐怖で…躊躇したのかも…知れない…
想いは…康太一人を想う
康太のいない世界では生きる気はない…
総ては…飛鳥井康太…我が弟と
共にあれ…
榊原伊織は、恋をした
それはそれは…一際目立つ…少年に…
榊原伊織は、恋をした
生まれて初めての…恋だった
役者の家族の家に産まれた榊原は、父親が大嫌いだった
横柄で…傍若無人で…希代の役者
父を越える役者にはなれないから…
役者になるのは諦めた
夢破れてからは家族と距離を取った
一緒に生活するのは辛くて…中等部の寮に入った
父には内緒で…母親に無理矢理手続きさせ…家を出た
後は…休みにも帰らず…
解き放たれた想いと…淋しさと…
そんな時に…康太に恋をした…
瞳を輝かせて話し掛けてくる…康太を…
榊原は、自分の欲望で汚してしまいそうで…
『 榊原伊織 って時代劇の…』と、康太が嬉しそうに笑ったのを切っ掛けに……離れた
でないと…押し倒して…自分のモノにしてしまいそうだったから…
彼は…汚して良い生き物ではない……
白くて…輝いていて…
風を切って歩く…その姿は…軽やかで…
穢れてなくて…神聖な…
そして誰よりも…愛らしく…清らかな存在
榊原は、逃げたのだ…
怪我したくない想いと…
確実に…汚してしまう想いとで…
悩み…苦しみ…逃げた
だが、時々…黒いベンツの男が、康太を迎えに来るのを見掛けた
康太はその車を見付けると…駆けて行く…
そして車から降りて来た人間に飛び付き…
甘える…
ベンツの男は…康太が愛しくて仕方がないのか…大きな腕で…康太を…抱き締めていた
その光景を…榊原は…憎しみをこめて見ていた
駆け寄り…引き離し…
犯してしまいたい衝動に駆り立てられる
康太が誰かのモノになるのを…見るなら…
殺してしまいたかった…
逃げても地獄…
進んでも地獄なら…行くしかなかった
でも…康太との間は…開いて…声さえかけられなかった
康太へのラブレターを破り捨て…
虫が着かないように…姑息に動いた
日に日に康太への想いが募り…
康太に似ていれば…抱いた…
康太に似ている場所が、あるだけで…
堪らなくなり…抱いた…
だが…本物を目にして…紛い物は…色褪せた
そんな事を…繰り返していたら…
康太が寮に入ると…学園側から話があった…
康太が…他の誰かと暮らす…
想像するだけで…狂う…
強引に…職権乱用して……
康太の同室者になった…
寝ている康太の髪に…初めて触れた日…
榊原は泣いた…
起きないでくれ…と、祈る気持ちで…
その髪に…接吻した…
君こそが…我が想い人…
欲しかった…本物の飛鳥井康太が…
そして…手にしたなら…
二度と離す気は…なかった…
そんな康太を…手にして…
愛しさが募りすぎて…愛しすぎて…
君こそが…僕の愛のかたまり…なのだと想った
飛鳥井康太と………共にいたい…
それだけが…昔も…今も…榊原の願いだった
飛鳥井家の…皆は…元気で…
瑛太は色んな想いを抱き…酒を飲んでいた
康太は…瑛太への想いを…断ち切った日の…
想いが有るからこそ…
今の幸せが有るのだと…
榊原の膝の上で丸くなり眠っていた
榊原は…膝の上で…眠ってしまった
康太へ…想いを馳せていた…
康太の髪を掻き上げる…
すると寝ぼけ眼の…康太が…榊原を見上げ…
……………笑った…
そして手を伸ばし…榊原の頬に手をあてた
榊原も…静かに笑い…その手を取り…
口付けた…
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