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第70話 転生の儀

康太は源右衛門の部屋のドアをノックした すると中から…入れ!の声がかかり、康太はドアを開けて部屋に入った 「康太か。何かあったか?」 源右衛門は笑顔で康太を迎えた 「じぃちゃん、転生の義を唱える。」 飛鳥井源右衛門は、驚いて顔をして…康太を見た 「飛鳥井に転生の義を唱えれる人間はおらんぞ…どうやって唱える…? 我も知らぬぞ…転生は…」 「オレの体の中の血が…導き出してくれる 飛鳥井の血が…オレに教えてくれている」 源右衛門は…そうか…と重々しく呟いた 「で、誰を転生させるのだ? もう我には見えぬ。 お前の力にはなれそうもないぞ」 「京香の親父が自分の寿命を縮めて…琴音の魂を救ってくれ…と、飛んで来た。 迎えに行ったら京香はあの病院の娘婿に口説かれていた… だから…今後…見るのは断って来た…それも知らせとかねぇとな」 「真贋は、世代交代したのだ。 お前の好きにすれば良い。」 「琴音の魂を転生させる。 転生させて一条隼人の子供として現世に落とす。」 「自分に還すのか…ならば見届けよう…」 「これより禊に入る… 明日、京香の親父の葬儀が終わったら… 飛鳥井の菩提寺に向かう…そこで転生の義を唱える」 「ならば、我は菩提寺に向かい…準備に入る」 飛鳥井源右衛門は、立ち上がり準備を始めた 「オレはこれより道場に籠り禊をする。 伊織は…道場には入れない。 部屋に戻ってオレの正装の白の袴と、帰りの私服を用意していてくれ」 康太が言うと榊原は、御意…と、答え源右衛門の部屋を出て行った。 康太も源右衛門の部屋を出て、道場に向かう そこで朝まで水を被り…精神統一して雑念を断つ… 長い夜の… 長い一日の…始まりだった 夜が明けるまで雑念を断ち…精神統一していた 雑念が入ると水を被り…精神統一して『 無 』になる 自分の中の総てを…『 無 』にせねば…転生の魂は掴めない 座禅を組み…精神統一をし… 雑念が入ると…水を被る… 自分の中に…清らかな心を取り入れ… 自分は…宇宙の一部になる… 夜が開ける頃には…康太は…無心になり… 自然と同化する…空気のごとく…無になった 康太は目を瞑っていても…総てが見えた 夜明けと共に…康太は部屋へ戻った 「伊織、真贋の着物を着る」 「着せてあげましょうか?」 「オレに触るな…総てが無駄になる…」 康太は全裸になると白い着物に袖を通した そして帯で止め、裾を上げ、袴を履いた 袴の腰紐を閉め、結び、紋付きを着た 榊原は、その神聖な儀式を静かに見守った 「伊織、オレはこれより言葉は発しない 伊織は、力哉に飛鳥井の菩提寺に連れて来てもらってくれ。 その時、オレの服を持って来てくれ。 後の指示はじぃちゃんがしてくれてる… オレはこれよりハイヤーに乗り…菩提寺に向かう。伊織、ハイヤーを呼んでくれ」 「解りました」 榊原は携帯を取ると、ハイヤーを一台手配した 康太はベットの上に座ると…目を閉じ精神統一を持続させていた ハイヤーが到着すると、悠太が呼びに来た ドアから出て来た康太の……真贋の正装姿に悠太は、息を飲んだ 透き通る様に美しく…普段の兄と違っていた ハイヤーに乗ろうと廊下に出ると、出勤に出る瑛太と出会った 瑛太は康太の姿を見ると…触れようとした… ……が、悠太が「康兄に触るな!」と、止めた 「康兄は昨夜、禊に入った。 触れたら総てが無駄になる。」 悠太は言い切った 康太は瑛太に一瞥もせず、玄関に向かい、ハイヤーに乗った 康太がハイヤーに乗ると、悠太は慌ただしく動いた 祖父、源右衛門に康太が家を無事出たと知らせ 母、玲香と、京香に、葬儀が終わったら菩提寺に来るように告げ… 菩提寺に来たら不浄な気を払ってから儀式に参加しろ…との伝言を伝えた 瑛太は悠太に何が有るんだ? と問い掛けたが…… 悠太は詳しくは聞かされてなくて、伝言を伝える連絡係りをしているだけどと告げ… 慌ただしく走って行った 瑛太は先程見た康太の姿を思い浮かべた 飛鳥井の真贋の正装をしていた… 康太は動いているのだ…飛鳥井の終焉を阻止する為に… 願わくば…君が傷付かない様に… 瑛太は祈った… ハイヤーは、既に行き先を告げてあった… そして絶対に話しかけるな…と注意をしてあるから、話し掛けられる事なく…飛鳥井の菩提寺に到着した 康太がハイヤーを降りると、寺の住職が出迎えに出ていた 「飛鳥井家真贋 飛鳥井康太様、御待ちしておりました。」 住職は深々とお辞儀をした 「転生の義を唱える儀式は数百年前より行われておらぬ…是非とも見守らせて戴きます」 「好きにしろ!」 康太は、住職に促され本殿まで向かい… 本尊の前に座禅を組んだ 「康太、準備は万端 さぁこれに着替えられよ…」 飛鳥井源右衛門は、康太に純白の狩衣(かりぎぬ)を康太へ渡した 時代を経るに従って公服としての色彩を増し、直垂に継ぐ四位の武家の礼服ともなった。ただし、狩衣姿での参内は一切認められなかった。明治時代以降には、神職の常装となったと謂うのは平安の世で貴族と達が普段着として着ていた衣で、時代を経るに従って公服としての色彩を増し、直垂に継ぐ四位の武家の礼服ともなった (ただし、狩衣姿での参内は一切認められなかった) 明治時代以降には、神職の常装となった 一言でどんな出で立ちかと申せば安倍晴明が着ている衣と申せば想像し易いだろう 正装に着替えて転生の義を唱える儀式をする 「着替えて参れ…」 源右衛門が言うと、住職は…こちらへ…と、着替える部屋へ案内した スーッと、襖が閉まると…康太は、飛鳥井の正装を脱ぎ捨て狩衣に着替える 康太は着方を知っているかのように躊躇する事なく着替えてみせた 着替えて暫くすると、力哉が榊原を連れてやって来た 「康太、伊織を連れて参りました。 その正装は、畳んでクリーニングに出します そのまま本殿、儀式の間に向かわれて結構です」 康太は、言われ部屋を出た 榊原に一瞥する事なく歩く そんな康太を、榊原は見守っていた 本堂、儀式の間では、儀式の準備が着実に出来ていた。 後は葬儀を終えた京香が不浄を浄めて来るだけだった 康太は、神殿の中央に位置する場所に立っていた 純白の狩衣を身に纏い…その時を待っていた 「住職、サポートは頼めるか?」 康太に声をかけられた住職は「準備万端。何時でも同調させられる者を円陣の中に配備して御座います」と述べた 目には見えぬが、術者によって神殿には五芒星の結界が張ってあった 玲香が京香を連れて、飛鳥井の菩提寺に来た 玲香は、京香と共に源右衛門から、清めの儀式を受けていた 死人に接触した人間を浄める為に…欠かせぬ儀式だった 浄めが終わると源右衛門は京香に骨壷を持たせた 「京香、お前は願え 子の転生を願い続けろ お前の想いが強ければ…子は転生の道を早く見付けられる…だから願い続けろ。良いな」 源右衛門の言葉に京香は、決意を秘めた瞳で 「はい。解っております。」と、答えた そして源右衛門は玲香に 「飛鳥井玲香、お前は総てを見届ける… 見届け人として、総てを見届けろ」と、告げた 玲香は「解っております。義父様」と、答え… 「我が子、康太の成長も…この目に焼き付けさせて戴きます」 飛鳥井の女として生きて来た…決意の言葉だった 「此より本殿儀式の間へ通る!」 飛鳥井源右衛門は、声を宝かに時を告げた 神殿の控え室で、京香と玲香は、純白の着物に着せ替えられ、再び不浄を祓われた そして本殿儀式の間へ続く長い廊下を…歩いた 長い廊下の突き当たりには…狩衣を着た康太が立っていた その姿は…平安の世なら…皇子と言われた…を冗談でなくした姿があった 京香は、結界の中へ入るように指示された 康太の前に骨壷を抱き座れ…と。 京香は結界の中へ入り康太の前に正座して骨壷を胸に抱いた 康太の手には神器の弓が握られていた 「願え京香、祈れ! そしたらオレの子供に還す」 京香は骨壷を強く抱き、目を閉じ祈った 一心不乱に…願いは一つ 康太はその想いを弓に受け止め… その時を待つ 誰にも知らぬ呪文を唱えていた康太の声が神殿に響く その声であって康太ではないような‥‥威厳を感じていた まるで先祖が乗り移ったかの様に…神々しく美しかった 呪文を唱え…覇道を詠み…躍る 天女の如き柔らかな…動きに狩衣が揺れる 玲香はそれを総て見届ける為に…瞬き一つせずに見詰めた 源右衛門は、百年の歴史が再び巡り…… 康太に乗り移ったのを確かに感じていた 榊原は…目の前の…康太であって…康太でない存在を見詰めていた 飛鳥井康太の伴侶として…康太と共にある事を願い…見詰めていた 京香の想いは…無になり…体から離れた… その瞬間…康太は弓を引き矢を放った 弓は高々と昇り… 視界から消えた そして次の瞬間… 骨壷目掛けて… 矢は堕ちてきて… 骨壷を貫いた 康太は総てを終えて…神々しく微笑んだ 「琴音は転生の気道に乗った… これで琴音は再び再生の準備を始める… そして一条隼人の子として誕生する… その後…オレの子供になる」 京香は、康太に頭を下げた 「住職、琴音の遺骨を観音像に入れて奉ってくれ。 この子供の転生に邪魔が入らぬ様に祈願してくれ」 康太が言うと、住職は 「私の時代に…飛鳥井真贋の転生の義を唱える姿を見られた事に…感服いたす所存で御座います。 御立派になられて…飛鳥井源右衛門を遥かに越える器…この目で確認させて戴きました」 と、深々とお辞儀をした 住職は、乱世の世に生まれる真贋の忌日を知っていた 能力のある分…体は小さく…痩せているが…その力…現世をも変える…驚異なり…と。 康太は手にした弓を大きく瓜を書き振り回すと…一瞬に結界を裂いた 辺り一面に…紅蓮の焔が走り…バチバチと音を立てて…消えた 「さてと、総ては終わった。 オレは着替えて帰る。 後は頼むな母ちゃん、じぃちゃん。」 康太が言うと玲香と源右衛門は頷いた 「伊織、着替え持って来たか?」 康太は早く堅苦しい衣装を脱ぎたかったのだ 「持って来てますよ」 「ならば、着替える。 力哉、一生の牧場に寄ってくれ。」 榊原の横で控えていた力哉が「はい!」と、答えた 康太は後は振り返らず…榊原目掛けた抱き着いた 「疲れた…抱っこして連れてくもんよー」 康太は甘えた 榊原は、康太を抱き上げ…その場にいる人にお辞儀をして、その場を後にした 住職は源右衛門に「彼が真贋の伴侶か?」と問い掛けた 源右衛門は「そうじゃ。彼が康太の伴侶じゃ」と、答えた 「誠しやかに…一対の器…そうですか… 彼が伴侶ですか。」 榊原は、康太を抱き上げたまま長い廊下を歩いた 康太は榊原の首に腕を回し…すりすり甘えた 控え室に行くと、榊原は康太の狩衣を脱がせた 脱がせても…脱がせても…着物が重ね着してあり…これを一人で良く着たな…と、思った 「康太…何か筍の皮を剥いてる気分です…」 榊原が言うと、康太は爆笑した 「後少しだ…後少しで…オレは出てくる」 「全裸の康太…鼻血吹きそうです…」 康太は笑い…榊原に狩衣を脱がせてもらう 最後の一枚を脱がすと…美味しそうな全裸の康太が現れた 康太は榊原に抱き着き…キスをねだった 神殿…で、そんな不埒な事は気が引けた 軽く唇を合わせると「やはり不埒な事は…家に帰ってからにしましょう…」と、弱音を吐いた 榊原に下着を履かせてもらい、白いブラウスに白いチノパンを、履かせてもらった 「アロハと短パンじゃねぇんだな…」 康太は、少しだけ…文句を言った 「菩提寺から帰るのに…その服装は刺激が強すぎますよ」 礼節を弁えている榊原は厳しかった 着替えが済むと力哉を呼んだ 力哉は狩衣を素早く畳み、返却出来るように整え… 「少し待ってて下さい。 これを返却したら、一生の牧場に連れてきいます」と、言い踵を返した 康太は、疲れたのか…畳の上で…寝そべっていた 榊原の指が…康太の髪を掻き上げた 「狩衣に身を包んでいた康太は別人の様でした…」 「まぁアレは、オレでいてオレでなかったからな…」 康太が言うと…榊原は首を傾げた 「オレの中に…少し‥‥他の力を宿した でねぇいと百年やらない儀式を唱える事は…オレには無理だった」 「やはり…あの時の康太は、僕の康太ではなかったんですね」 冷たい瞳は榊原を、一瞥する事なく素通りした 「今はお前のオレだ。 今後…この様な事態は来ねぇ…だからずっと伊織のオレだ」 殺し文句をさらっと吐き出す…康太に榊原は心臓を握られた様な痛みを抱く 榊原は、康太の髪を弄んだ… 暫くすると力哉襖を開け入ってきた 「玲香さんに言ってきました。 行きましょうか。」 康太と榊原は立ち上がった 榊原の荷物を力哉が持つと、力哉は 「京香さんは、此より玲香さんの知り合いの病院に移動させます。」 と、告げた 康太は、そうか…と呟き…歩き出した 本殿の門の所に、僧侶が頭を下げ…康太を見送った その前を通り…康太は歩いて行った

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