71 / 84

第71話 転生の儀 その後

康太は車に中で…榊原の膝で丸くなって寝ていた 相当疲れている様子を眼にする どれ程の精神力で…あの儀式を完遂させたのか… 榊原は康太を休ませてやりたかった だが康太は夏休み中に顔を出すと約束した以上は牧場に顔を出したいのだろう‥‥ 榊原は康太の想いを汲んだ 飛鳥井の菩提寺から、かなり走った所に…一生の牧場はあった 車は一生の牧場に向けて軽やかに走る 一生の牧場に着いた時、康太はむくっと起き上がった 車から降りると、一生が康太に駆け寄ってきた 榊原も車から降りると、康太の側に近付く 康太は一歩も歩を進める事なく…倒れた 榊原は崩れる康太の体を支え…抱き締めた 「力哉…康太には無理です…帰りましょう」 榊原が康太を抱き上げた 一生は力なくダランと手を伸ばしたままの康太の姿に…駆け寄った 「旦那…康太はどうしたんだよ!」 榊原は、康太の許可なく…喋る訳にはいかなかった 「一生…康太は君に逢いに来ました 夏休み中に顔を出すと謂う約束だったので、何としても来たかったみたいですが、限界を越える儀式の後だったので…無理だったみたいです …連れて帰ります また日を改めて出直す事にします…」 「待て!部屋の中で寝かせろ…」 「何時目醒めるか…解らない…それではご迷惑がかかる…」 「伊織!……康太を連れていくなら俺も行く」 一生が引き下がらないと見て、榊原は 「なら康太を寝かす場所を貸して下さい…」と、言った 榊原は、一生の家の客間に布団を敷いてもらい、康太を寝かせた 白いチノパンを脱がし、ブラウスの釦を外した 力哉に車からアロハとカーゴの短パンを持ってこさせ、起きたら着替えさせる用意をした 康太の顔は…青白く…憔悴しきっていた 一生は、榊原に「何か有ったんだ?」と問い掛けた 「僕が勝手に言える話ではないので詳しくは話せません、それでも良ければ僕が話せる範囲の事は話します」 榊原は、前置きをすると、一生は、解ってる…と、納得してくれた 「康太は昨夜は禊に入り…眠る事なく、儀式をしたんです。 物凄い精神力を使う…一族の者も驚く様な儀式をしました その後直ぐに、此方へ向かい倒れた… それでも康太は、君に逢いたかったんでしょうね…」 「康太…無理したんだな…」 「昨日は…静岡にいました… そして一晩中禊に入り… 朝早くから…儀式をしてました。 禊に入る前は…僕と寝て…無理させましたからね…」 榊原の話を聞いて…一生は青褪めた 昨日は静岡で夜中まで榊原とセックスして… その体で一晩中禊に入り… 朝から儀式…ハード過ぎる一日に…倒れねぇ方がおかしいわい…と噛みついた 康太が…それをこなしたと言う事は…榊原もそれをこなして来た訳なのだ… 「伊織…お前も寝るか…?」 「僕は康太の横でうたた寝します。」 榊原は、優しく微笑んだ 一生は、夕飯になったら呼びに来る…と言って立ち上がろうとした すると榊原は、康太と榊原の携帯を一生に渡した 面倒な電話はお前が出て対処しろ…と言う事なのだ… 一生は、お手上げをして、携帯を預かり、部屋を出て行った 一生が部屋を出て行くと榊原は康太の横に寝そべり康太を抱き締めた 康太の髪を掻き上げ…弄ぶうちに榊原も眠りに落ちた… 康太を腕に抱き…榊原は至極幸せな顔をして…眠りに落ちた… 夕飯の時間になり呼びに来た一生は、抱きあって眠る二人を見詰め…起こすのを諦めた 無理矢理起こす無粋な奴になりたくない… 夕飯を食べる一生の目の前の携帯が…二人分…鳴る… 榊原の携帯を四宮に放り 康太の携帯に出ると…案の定…瑛太からの電話だった 一生が電話に出ると…誰だ?と低い声で唸られた… 緑川一生です…と、告げると瑛太の声のトーンは上がった 「康太は?康太と一緒なんですか?」 質問攻めの瑛太の言葉に…一生は、 「康太は榊原と、牧場に来てくれてます 飛鳥井のお母さんに許可をもらって此処に着ているのです また夏休み中に顔を出すと飛鳥井で謂ってませんでしたか? だから康太は遊びに来てくれただけです!」 と、告げた 「康太は…電話に出られないの?」 「康太は榊原と寝てます…幾らオレでも部屋に踏み込めません…。 後、康太を迎えに来るのは…飛鳥井のお母さんが許しませんよ…」 一生が言うと、瑛太は「康太からの電話を待つと伝えて下さい…」と告げ電話を切った 一生は損な役回りに…電源を落とした 一方の四宮は、電話に出るなり兵藤と清家からの嫌味の嵐だった 退院したら顔を出す筈なのに…音信不通に… 堪忍袋の緒が切れたみたいで… 絶対に電話しろ!と迫られ…四宮も電源を落とした お腹が空き目を醒ますと、辺りは真っ暗だった 康太は榊原を起こした 「なぁ伊織…なぁって伊織…腹減った…」 榊原の体を揺すると、榊原は目を醒ました 「康太…真っ暗なんですが…」 「伊織、電気つけて…」 「康太…此処は一生ん家です…電気のスイッチは…流石に解りません…」 康太は立ち上がり、壁づたいに手探りで探すと…スイッチがあり、スイッチを入れた すると、辺りが眩しい位に光り…電気がついた 電気がつくと一生が起きたのに気が付き、襖を開けた 「起きたか?飯食うんだろ? 来いよ…康太服着てからな…」 一生はそう言い部屋を出て行った 康太は自分を見ると…トランクス一枚だった… 「服着て眠れないですからね…脱がしました」 榊原の言葉を…康太は「手間をかけた」と、榊原に謝った 康太のお気に入りのアロハとカーゴの短パンを着せると、榊原は部屋を出た 廊下に出ると…一生は待っていた もう康太は自分の足で歩いていた 「康太…瑛大さんが引かない…電話を入れろ 旦那…兵藤と清家からダブルパンチで電話が入って…四宮がキレた…電話を入れろ」 康太は「飯食ってからで良いかんな」と、言い 榊原は「食後に…電話します…」と告げた 康太が緑川家のキッチンに行くと、康太と榊原の分の食事が用意されていた 康太の前には大好きな沢庵! 康太はいただきます…と言うとガツガツ食べ始めた そしてテーブルの上の自分の携帯を取ると、電源を入れた 着信履歴の殆どが瑛太で…その中に一条隼人の名前があった 康太は一条に電話を入れた 電話に出た一条は泣いていた… 「隼人…一生の牧場にいる 小鳥遊か神野に乗せてきてもらえるなら乗せてもらって、ダメならハイヤーに乗って来い」 康太が言うと、神野に頼む…と言った 康太は場所が解らないなら…連絡をくれ…と電話を切った それから瑛太の所へ電話を入れた 電話に出るなり…康太か…と叫ばれ… 康太は「瑛兄…何がそんなに不安なんだよ…」と、やり過ぎな行為に釘を刺した 「オレは遊んでいる訳ではない 飛鳥井の明日の礎を築く為に動いている… その合間に友の所へ来た…それだけだ…」 瑛太は「兄の心配は迷惑か…?」と康太に聞いた 「迷惑とかの話じゃねぇ… 瑛兄は無理してでも迎えに来るだろ… オレはそうはして欲しくねぇんだよ。 そのうち倒れるのは見たくはない…。 オレには力哉と言う秘書もいる…」 「康太…」 「真贋の仕事を始めた今…瑛兄に言えぬ仕事も増えて来る… 守秘義務を守れねぇ奴は信用すら無くす… 解ってるよな瑛兄…」 「康太…そんな事は…解っている…」 「なら良い。瑛兄、オレは一生の牧場にいる…明日帰る。」 「………今朝の康太の姿が気になった… すまない康太…やり過ぎなのは解っている…」 「それが瑛兄だから…解ってんよ。 じゃおやすみ」 ……康太は電話を切った後溜め息をついた 勘の良すぎる男を何時まで騙せるのか‥‥ 「どうしました?康太…」 康太が溜め息をつくと榊原が心配した顔を向けた 「勘の良すぎる男を何時まで騙せるのか… 本当なら永遠に騙し通したいが… オレには無理そうだ…母ちゃんの言う通りだな…」 康太の呟きに…榊原は「瑛太さんなら…真実を感ずいても…黙ってくれますよ…」と呟いた 康太はその言葉を受け、嬉しそうに笑った だが榊原にも少し小言を言う 「伊織、執行部の仕事を疎かにしたな…」 榊原は苦笑した 「退院してから…濃厚な時間を送っている間に…執行部の仕事を忘れました…」 …と榊原は、しれっと言った 榊原は携帯を取ると清家に電話した 「お前は新婚旅行にでも行ったのか! 何故電話に出ぬのだ! 何故捕まらないのだ!」 小言の嵐が降る… 康太は電話を奪うと…清家に 「清家、我が伴侶を苛めるな…。 用はオレにあるんだろ? ならば明日の朝10時に生徒会室に向かうそれで手を打て。」 と、清家の欲しがっている答えを与える 「飛鳥井、そちの伴侶は最近仕事が手抜きじゃ!」 と自分に降りかかる仕事量を減らしたい清家はボヤく 「ならば、オレが尻を叩いて働かせる…」 「かかあ天下だな」 清家がくすりと笑う 「古来よりかかあ天下は上手く行く秘訣と謂うかんな、目を瞑られよ」 「ならば目を瞑ってやる。では明日」 御機嫌で清家は電話を切った 康太は榊原の電話をテーブルに置くと… 「…と、言う訳だ。帰るしかねぇな」と告げた 残りのご飯をガツガツ食べ、ご馳走様をすると、一生に帰宅を告げた 「済まない一生、もう夏休みも終わる もうオレは此処へは来れない また連絡するかんな… 聡一郎もすまなかったな…んじゃ、伊織帰るとするか!」 榊原はさっきの部屋に荷物を取りに行くと 力哉はその荷物を持ち玄関に向かった 康太と榊原も玄関に向かう。 「じゃ待たな…」と片手を上げて康太は一生に背を向けた 一生は帰ろうとする康太の手を掴んだ 「俺も帰る!少し待て! 聡一郎、支度しろ行くぞ」 一生は、慌てて家の中へ入っていった 榊原は、一条に今…何処ですか?と電話を入れた するとまだ都内で…渋滞している…と告げた 「なら、飛鳥井の家に送ってもらいなさい これから帰ります。 待ってますから飛鳥井の家に帰ってらっしゃい…」と、告げた 一条は、解った…と嬉しそうだった 康太と榊原は、車に乗り込み一生と四宮を待った 一生と四宮は、走ってきて車に飛び込んだ 道路が空いていて午後11時には家に帰って来た 飛鳥井の家の駐車場を見ると…黒のベンツは停まっていなかった 「伊織、オレは小言を言う 一生達と客間に行っててくれ 雑魚寝するかんな!」 「解りました。 では一生、聡一郎行きますよ。 康太…お手柔らかにしてあげなさい」 榊原は、一生と四宮を連れ力哉と共に客間に消えていった 康太は携帯を取り出すと電話を入れた 電話を出ると…「瑛兄…今…どこ?」と聞いた 瑛太は「もうじき家に着く…」と言った 「なら家の前で待ってるとするもんよー!」 瑛太は…えっ…と慌てた 「牧場から帰って来たのか…? 角を曲がると着く…」 と、言い瑛太は電話を切った 角を黒いベンツが曲がって来ると、飛鳥井の駐車場に走って来て止まった 車から降りると…康太を抱き締めた 「私は…不安なんだ…お前が…消えてしまいそうで…」 多分…朝の康太の姿を見て、言っているのだろう… 「瑛兄、心配しなくてもオレは消えねぇ。 伊織を残して…オレが消える筈などねぇ!」 「考え過ぎなのは解っている…だが… 何かが回り始めているのが解る… お前を失ってしまうんじゃないかって…不安なんだ」 「オレの存在理由は飛鳥井の存続の為 オレが消えるなら、飛鳥井の存続はないと言う現実しかない…」 「康太…」 「瑛兄は……まだ京香が好きか?」 瑛太は…驚いた顔をして…康太を見た 瑛太は答えなかった… 来年早々…康太の決めた女性と結婚する身だから… 「今だけ…答えろ瑛兄…」 「私の一番愛しているのは…お前だ…」 「でも…兄として生きる道を選んだ… オレはもう…瑛兄のモノにはならねぇ…」 「……解ってるよ…康太…」 「もう…京香には想いはねぇのかよ」 「……想いは…ある。 女で…愛せるのは京香のみ… アレはお前を愛する私ごと愛してくれた… でも私は…手放す事しか…してやれなかった… 今更だ…康太…飛鳥井を、出た人間は…二度と再び敷居は跨げない…」 康太は瑛太を抱き締めた 「瑛兄…オレが瑛兄の幸せを呼び込んでやる だから…瑛兄は幸せになれ…」 「お前がいれば…私は…生きて行ける それだけで…私は…多くは望みはしない…」 康太は、瑛兄ただいま…と、言い腕を伸ばした 瑛太が康太を抱き上げると、クラクションが鳴った 赤のフェラリーの窓が開けられた 「こんな家の前で抱き合ってるなよ…暑苦しい…」 神野晟雅が顔を出して…文句を言う 康太は瑛太の腕から降りた 車が駐車場に止まると一条が飛び出して来て康太に抱き着いた 「神野、独身になった瑛兄は、淋しいみたいだ付き合って酒でも飲んでいけ」 康太が神野に、言うと  「女房に逃げられた瑛太と酒でも飲んでやるよ」と偉そうに答えた 康太は笑いながら…一条と家の中へ入って行った 客間に行くと、雑魚寝の布団が敷いてあった 客間はリフォームの為に雑然としていたが寝れない程ではなかった だが‥‥むわっと暑かった 榊原は、康太の姿を見付けると腕を伸ばし引き寄せた 「何な‥‥暑ちぃーな、ここ‥‥」 康太が呟くと一生が「リフォーム中でクーラーが取り外されてるからな‥‥」と現状を説明した 康太は一生達が牧場に行ったのはこの暑さが原因かよ‥‥と想った 「しかし窓を開けても暑ちぃな‥‥ こんなに暑くちゃ雑魚寝も地獄かもな」 一生がボヤいた 「熱帯夜に雑魚寝は…あの世に一歩近付きますね…」 四宮も懸念を抱いた 「ならば応接間に行って、神野と瑛兄にデリバリさせて涼むしかねぇな!」 康太が言うと一生は、おっそれ良いな!と一番に乗って客間を出て行った 「力哉、お前はどうする?」 康太が聞くと、ご一緒します…と、康太に着いて応接間に向かった 瑛太は応接間にゾロゾロ湧いてきた輩に… 驚きながらも…デリバリを取ってやり 朝まで神野と飲みまくり…食べまくり…で 結局…応接間で雑魚寝する羽目になった… 酒豪の瑛太とザルの神野は…応接間に飾ってある酒を総て飲みまくり…朝を迎えた 朝…応接間に来た悠太は、ソファーや床に眠る輩を見て…何事が起きたのか理解出来なかった ムクッと起きた康太は、悠太に手招きをした 悠太は康太の座っているソファーの前に座った 「悠太、お前は母ちゃんの後を継ぐより… 設計の仕事がしてぇんだよな? 昔からお前は建物が好きだった 飛鳥井の亡き叔父、飛鳥井隆彦に似て… センスも技量もある やりたいか?設計の仕事を?」 康太が聞くと、悠太は躊躇して口を開かなかった 「答えろ悠太…。」 悠太は観念して…口を開いた 「幾ら説計をやりたくても、設計の仕事は恵兄の仕事……出来る筈などない…」 「悠太、オレが出来もしねぇ仮説の話をしてると思ってんのかよ! オレはやりたいかやりたくないのかを聞いている!答えろ悠太」 「設計の仕事をやりたい ビルを建てる仕事がしたい……」 「ならばお前は好きな道を行け お前は独自の感性で恵太と違うビルを建てる 恵太は個人の家向き ビルは悠太が図面を敷け オレがお前の道を軌道に乗せる…。 良いな?悠太」 悠太は康兄…と呟いた 「オレが知らねぇと思ったか?悠太 お前が望めば…オレは絵図を敷いて軌道に乗せてやるのに…自分を偽るな悠太…」 悠太は康太に抱き着いた 「悠太、進むなら…とことん進め…決して惑うな… 外国に知りたい技法が有るのなら…そこに行け…悠太」 「でも…それじゃ飛鳥井の家に帰れない…」 「バカだな悠太、留学は飛鳥井の家を出て戻れぬ理由にはなりはしねぇよ 進むなら絶対に迷うな! 突き進め。解ったな悠太」 悠太は何度も頷いた 「さてと、朝飯を食いに行くもんよー 悠太、全員起こし、キッチンに連れて来い」 康太は榊原の腕を取ると、応接間を出て行った キッチンに行くと、飛鳥井玲香が朝食を作っていた 「母ちゃん、話があんから夕方に会社に訪ねるわ」と、皆が来る前に…康太はボソッと言った 玲香は、何も言わず頷いた

ともだちにシェアしよう!