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第72話 走り出す桜林

康太は朝食を平らげると、自室に戻ってシャワーを浴びた 榊原の腕が後ろから伸び…康太を抱き締めた 「伊織、学校に行かねぇと清家が怒るぞ…」 「解ってはいるんですが…ね。 康太に触りたくて仕方がない…」 「今夜まで待て…」 「なら、好きにさせてくれる?」 「何時も好き勝手してるじゃねぇかよ?」 「足りません…」 榊原は言うと噛みつく様な接吻を交わした 「伊織、時間…」 と、急かすとやっと体を離し…汗を流した そしてバスルームを出ると何時ものように、康太の髪をドライヤーで乾かし…その後自分の髪をドライヤーで乾かす 康太の服を着せて、自分の支度をした 今日は久々に桜林の制服姿の榊原で、康太は白のワイシャツにブルーのラインの入った制服姿の榊原に抱き着いた 「康太…?」 この制服をストイックに着る瑛太に憧れた… そして今…その制服をストイックに着る榊原の姿を目にして… 触りたくて仕方がなくなった 「オレ…ずっと…この制服を着ている伊織に触りたかった…。 制服の裾を掴みたかった… 伊織の………側に行きたかった………」 榊原は耐えきれなくなり…康太を抱き締めた 「そんな事言われたら…学校に行けなくなります…。僕は康太のモノです…」 榊原は康太の手に自分の手を重ねると…自分の顔に触らせた 「僕の総ては…康太のだよ…」 「ごめん…伊織…。 久し振りの制服姿に…憧れて触りたかった頃を想い出した…」 「そんな時は僕に触れば良いんですよ。 僕は君のモノですから 君も僕のモノですよ」 康太の手が榊原の首にするりと回される 「伊織…学校に行こうな…。」 行こうな…と言いながら抱き着く康太に… 榊原は笑いながら…このまま抱っこして登校しますか?と聞いた 流石にそれは刺激が強いから…却下した 応接間に行くと…一生、四宮、一条が制服姿で待っていた 康太の姿を見ると…さぁ行くべ…と立ち上がった 力哉が「送っていきます。車が納車されてますので、6人までなら乗れます さぁ行きますよ」と、言われ車に押し込まれた 力哉は、帰りも迎えに来ます…と、言い置いて 康太達を学校の正門の前で下ろした 車から降りると、康太は力哉に片手を上げた すると力哉は、クラクション1つ鳴らして会社へと行った 車から降りた一生は、榊原の腕の時計を見て 「それを着けて登校とは…怖くないのか?」 と、思わず聞いた 榊原は何も言わず微笑んだ 康太達は生徒会室に向かって歩く 擦れ違う生徒が振り返る… 四悪童の姿に… 一際可愛くなったのに…既に人のモノになった康太の姿に… 康太は生徒会室のドアをノックもせずに開けようとして、後ろに立つ榊原に止められた 榊原がノックをしてドアを開けた 一斉に役員がドアを見る ドアにを開けたそこには…康太と康太の後ろに立つ榊原の姿があった 榊原の腕はごく自然に康太の体に回され立っていた そしてその後ろには3人が控えていた 清家も一瞬…言葉を失った 康太と榊原の…絆は更に深まった 榊原は当たり前の様に、康太の背中に収まり…前にいる康太に腕を巻き付けていた そしてその2人を守るかのように…3人は…側に控えているのだから… 堂々と部屋の中へ入る康太の後ろには榊原が控え…まるで一対の存在になっていた 兵藤は、そんな康太に微笑み…毒図いた 「待たせ過ぎだ康太…メールが来て何日過ぎてんだよ」 拗ねた兵藤の顔は幼く見える 康太は兵藤の横の椅子に座った そして机に肘を付き、足を組んだ 「許せ貴史。オレも遊んでいた訳でも、新婚旅行に行ってた訳でもねぇ。」 康太の横に榊原は座り…康太の後ろに3人は座った 「んなの解ってる!」 兵藤がイジケて言う 康太は不敵に笑って兵藤の望む言葉を吐いた 「貴史、桜林、中高合同祭の邪魔をする奴は排除した だが条件が付いた…それが出来なければ… オレはこの命をくれてやる!と約束して来た」 康太の言葉に兵藤や皆は…言葉をなくした 「書記、この忌日は代々伝えろ! 絶対に途中で途絶えさせるんじゃねぇぞ!」 康太は生徒会役員の書記に声をかけた 書記の役員は責任重大な大役に、頷いた 「昔、中高合同祭は確かに有った。 だが中等部の生徒を高等部の奴が何人も束になり…………レイプした…… その生徒は自殺した。 自ら命を断ったんだよ‥‥その生徒は…。 中高合同祭を開くなら、二度とこの様な生徒を出さないと…約束しろと…迫られた オレは命をかけて守ると約束して来た。 オレを殺すも生かすも、兵藤貴史、お前の手腕だ。」 兵藤の顔が引き締まり…変わった 「お前が死んだら飛鳥井は幾つの葬儀を出す事になるんだよ? そして俺は永遠に飛鳥井の人間に恨まれる…そんなんは御免だ!」 兵藤は、ふん…と鼻で笑い立ち上がった 「会議の趣旨は変わった。 中等部の生徒会と直ちに協議に入り、中等部の生徒の身の安全を計る術を導き出さねばならない…。」 兵藤は、何時もの恐持ての生徒会長になり、陣頭指揮を取った 「康太、中等部の生徒会の役員がいるか、調べろ」 兵藤は、中等部に太いパイプを持つ康太へ指示を出した 康太は榊原に手を出しスマホを要求すると、榊原が胸ポケットから康太の携帯を取り出し…渡した 今朝、家を出る時に2台纏めてポケットに入れたのだ 榊原から携帯をもらうと、康太は電話を入れた 「彦ちゃん、中等部の生徒会役員って生徒会室にいる?」 単刀直入に康太が聞くと…佐野春彦は 「今ならいるぞ。橋を渡って来るなら、足止めしとく」と、答えた 康太は、ならば今から橋を渡るから頼む…と、言い電話を切った 「貴史、橋を渡るぞ!」 康太が言うと兵藤は、立ち上がった そして康太に並んで歩き始めた 「貴史、オレは何も心配しちゃいねぇ お前の力量を一番解ってるのはオレだ!」 康太はニカッと笑った 「当たり前ぇだ! まだ餞別も貰ってねぇのに死なれたら困る! それに俺を見続けるお前がいなくて…日本一の議員にはなりたくねぇ」 康太の果てに写る兵藤貴史は…兵藤丈一郎の上を行き… 日本を変える礎になり…足跡を残す議院になる… 「貴史、1つ貸しな!」 康太が言うと、兵藤は何時お前に貸しを作ったよ!と、怒った 「お前の生徒会の為に動いてやってる… この労力をお前は踏み倒すのか… オレが動いてやってるのにタダの訳ねぇやん」 康太が噛みつく 「わぁったよ! そのうち熨し着けて返してやるよ! 覚えときやがれ!」 緊張感0で漫才みたいな会話をする康太と兵藤を、生徒会役員は…微笑ましく見詰めた 康太と連絡がつかない日に…兵藤は荒れていた 怖くて近付けれない程に… 中等部の橋を渡ると、佐野春彦は待っていた 「康太、ちゃんと足止めしといたからな!」 と、何だか楽しそうだ 中等部生徒会の部屋に行くと… 柔道部の恐持てが…部室を閉鎖していた 「彦ちゃん…やり過ぎ…」 康太が呟くと…佐野は高笑いした 「目の前にいたのがコイツ等なんだから仕方がない」 …………あんた、何処にいたんですか? とは言えなかった…仮にも教師だから 佐野は、生徒会の柔道部の恐持てをシッシと、払うと「ほれ、入れ!」と、促した 中等部の役員は…部室から出ようとしたら… こんな奴等に睨まれて押し込まれて… 生きた着心地しなかったろうな…と、康太は部室のドアを開けた 急に開いたドアに…中等部の役員は一斉に振り向いた そして柔道部の恐持てでないのを確かめると…息を吐いた 悠太は康太の側に駆け寄った 「康兄、どうしたんだよ 」 駆け寄る顔は…子供の様に幼く…誰も見たことのない…顔だった 康太を押し退けて、兵藤貴史が悠太の前に出て 悠太は…顔を引き締めた 「中高合同桜林祭の話しに来た!」 兵藤がそう言うと、新しく会長になった葛西茂樹が出て来 「席に着きませんか?兵藤会長?」と謂った 迫力な面構えで聳えたっていられたら怖さも倍増するもんだから‥‥ 兵藤はさっさと生徒会の中央に座った 康太はその横に座り…その横に榊原は座った 「中等部の生徒会の忌日にも書いとけ」 と、康太が先程述べた事を兵藤は言った そして……………………………… 「この話を着けて来たのは四悪童、飛鳥井康太 彼は同じ様な不祥事が起きたら命を落とすと約束して来た… 俺は友を亡くす事はしたくない 防げる事で康太の命を守れるなら…徹底して…防ぎたい 力を合わせるしかねぇんだよ! 俺は自分の命に換えてでも飛鳥井康太は死なせない! 我が友の命を守るのに…協力して欲しい!頼む」 兵藤貴史は、中等部の役員に頭を下げた 所謂…兵藤貴史マジック…引き込まれて… 知らないうちに先導されて動き出す 兵藤貴史の独壇場だった 「我等も…飛鳥井康太先輩を守ります。 個人的には我が友の兄を見殺しには出来ない… 飛鳥井悠太の兄、飛鳥井康太先輩の為に中等部も命を懸けて守り抜く…それに依存はありません」 生徒会長の葛西茂樹が、兵藤に賛同した 後は、どうやって中等部の生徒を守るか…の話しに及び… 中々話が決まらないで…時間だけ過ぎて行った 康太はその間も…タブレットを触り何やらやっていた そして手がピタッと、止まった瞬間、康太は口を開いた 「貴史、中高合同桜林祭専用のゼッケンを作らせろ 中等部も高等部も、それを着けさせる 着けない奴は参加の資格を剥奪 そのゼッケンを一人千円くらい搾取して買わせろ その中にICチップを埋め込み管理する そして連れ込めれそうな場所には、オレが結界を張る それで手を打たねぇか?」 康太は兵藤の顔を見詰め言った 「ICチップの管理は、お前も管理するんだろうな?」 兵藤が中々の案に子供みたいに笑う 「勿論。で、肝心なのは此処からだ! ICチップは作る為の業者のデーターを、生徒会のPCにを送っておくから、そこで作らせろ 早く注文しないと間に合わねぇぜ ICチップには個人情報が入るから、前もって個人情報を使う許可も取れ 拒否する奴は不参加。学校にも入れるな!」 「その説明は…お前がお得意の呼び掛けで…やってくれ…」 「2つ貸しならやってやる」 康太は、どうする?と言う顔をして兵藤を挑発する 「くそっ!2つ貸しで良い。お前がやれ!」 「なら動け!休む暇なんぞねぇぞ」 康太にうりうり…とされ、兵藤は「よし!動くぞ!」と号令をかけた そして康太の方を見て 「康太、俺は希代の生徒会長に向かってるか?」 と、問い質した 康太は笑って… 「すまん…貴史 オレの目にはもうその先しか写らねぇんだよ…」 と、此処で賛辞を受けてる場合ではねぇだろ…と案に意味を含ませた 昼を大幅に遅らせ会議は終了した お腹が空いた康太は会議の終了と同時に部屋を出た 「一生…腹減って…倒れそう…」 康太が泣き付くと、一生は 「なら、食堂行ったら食えるようにしとく」 と、走って行った そんな康太をひょいっと小脇に抱えて、榊原は歩き出した 「伊織…学校…」 康太の言葉を無視して、ずんずん歩く 「空腹で倒れられたら…心配過ぎる…我慢しなさい」 榊原は、気にする風もなく…康太を小脇に抱えて歩いた もう隠す気は更々ないのだ…… 食堂に着くと、何時もの席に康太を下ろした 席の前には康太の大好きな鯵フライ定食があった 榊原は、サラダと珈琲をトレーに乗せ康太の横に座った 康太は鯵にかぶり付き…想い出した事を口にした 「そう言えば、力哉がオレと伊織の退寮の手続きをして来たと、言ってたから…。」 榊原は、そうですか…と静かに言った 「この後オレは会社に行かなきゃなんねぇんだよ。一生達はどうする?」 「じゃぁお前が会社に行く前に、飛鳥井の家に下ろしてもらう。応接間で待ってんよ」 康太は頷いて残りのご飯を駆け込んだ スマホで力哉に連絡を入れ、頃合いを見て正面玄関に行くと…力哉が迎えに来てくれた 「力哉、まず飛鳥井の家で一生と聡一郎と隼人を下ろして、オレと伊織は会社の母ちゃんを訪ねる」 力哉は頷きアクセルを踏み込んだ 一生達を下ろして、飛鳥井建設に向かう 地下の駐車場に車を止めると、康太は車から降りた 榊原も力哉も下り、エレベーターの前で立つ エレベーターが、地下に到着してドアが開くと エレベーターの中には父、清隆が乗っていた 「父ちゃん、何処か行くのか?」 父に甘え擦り寄る姿に…父は康太を抱き上げた 「康太、仕事か?」 予定より早く源右衛門を継いでしまった息子に父は…最大限の愛を与えたかった… 「違う、母ちゃんに話があるかんな。来た」 「なら父が連れて行ってやろう。伊織、良いか?」 父は榊原に気を使い…尋ねた 榊原は、はい。と頷き了承をした 父、清隆は、戻ってエレベーターに乗った 「何処か行く予定だったんじゃねぇのか?父ちゃん。」 「気にしないの」 父はどうあっても康太と行くつもりだった 康太を抱き上げたまま最上階の妻、玲香の部屋のドアをノックした ドアを開けると…そこには、康太を抱き上げた亭主と、榊原と力哉が立っていた 玲香は微笑みながら亭主に 「康太を、抱き上げた姿は瑛太にソックリ…瑛太が来たかと驚いたわ…」と、呟いた 父は苦笑して康太をソファーの上に置いた 康太は足を組み、身を乗り出して母へ告げる態勢を取った 「今日は、飛鳥井の決め事を覆す為に来た」 康太は母、玲香に一歩も引けを取らない視線を向けた 「現飛鳥井家真贋として、今までの決め事を覆す 誰が何を言おうと、もう遅い オレを止めるなら…永遠に…飛鳥井はオレを失う位の気持ちで聞いてくれ」 にこやかに笑っているが…… 瞳は果てを見据えて…総てを手中に納めている…そんな顔をしていた 「前置きは良い!本題に入れ…」 玲香は予想もつかなかった… 「悠太の未来の絵図を変えた…もう軌道に乗った… 事後承諾だ……許せ…」 玲香は…悠太…?と、呟いた 「悠太は、飛鳥井の看板の設計士にする 力量は恵太を遥かに凌ぐ…故飛鳥井隆彦を彷彿する図面を書く オレは適材適所見極めて配分する為に飛鳥井にいる。悠太は設計士にさせる。」 康太は断言した 玲香は「飛鳥井には恵太が図面を引く…そうなっている…」と、反論した 「恵太はもともと個人の家の図面が得意。 無理をさせれば…書かなくなるぞ? それでも無理をさせ真実をねじ曲げるか?」 康太はもう決めていた だから一歩も引かぬ態度で…母玲香を見た 「どの道、世代交代した今オレの言葉が飛鳥井の明日を決める! オレは歪めた明日を認めない。 それが、オレが飛鳥井にいる証なのだから…」 母は…諦めて溜め息をついた 「ならば、我の仕事は誰に継がせる?」 玲香が聞くと康太の瞳が輝いた 「京香に継がせろ アレは母と同じ器 瑛兄は、自分の伴侶に母と同じな器を選んだ 京香が継ぐのは必然で飛鳥井の未来に組み込まれたシナリオなんだよ 今、悠太を育てねば…飛鳥井の未来はない。 」 玲香は…驚愕の瞳で康太を見た そして父は静かに…悠太の事を聞いた 「悠太は…隆彦を凌ぐのか…楽しみだな お前の目には…悠太はどう見えてるのだ?康太…」 「オレは悠太が生まれた日…この子をくれと申し出たな?」 康太が父に問うと…父は、あぁ言ったな…と答えた 「悠太の権利の全権を、オレがもらい受けたのは… 手綱を緩めて育てる必要が有ったからだ。悠太はこれから化ける 今、背中を押して動かさないと…使い物にならなくなる だから海外に出す 元々悠太の全権はオレのものだ 文句は言わさねぇ だがそうしたら悠太の椅子が空いちまう… だから来たんだよ」 玲香と清隆は、悠太の全権を手中に収めた裏に…そんな訳が有るとは知らなかった 「悠太は5年で大学まで卒業して帰ってくる… そしたら恵太を個人向けの設計に回せ 個人の家をやらせたら恵太は水を得た魚になる そして悠太にビルを作らせろ アイツは、後世まで残る建物を創る…飛鳥井隆彦の様に… それが新しい飛鳥井の最初の布石になる」 玲香は「総て飲まさせて戴きます…」と、頭を下げた 康太は、母に「すまねぇ…母ちゃん…」と、謝った 無理を通して…折れさせ認めさせる… 一番酷い遣り方なのは…解っていた 「康太…謝らんで良い お前の目に見えてる果てを違えれば、明日はないのだ…お前の所為ではないわ」 玲香は康太を優しい瞳で見詰めた 「そうか…京香は、私と同じ器か… あやつはマザコンか…何だか笑えるわ」 玲香がクスクス笑う 父は…瑛太を気の毒に思い…マザコンかぁ…と、笑った 「ならば京香に教え込まないとな…」 玲香が言うと康太は大丈夫だ…と答えた 「母ちゃんの仕事を楽に引き継げれる様に…玲香には教育してある。今も勉強中だ」 と、しれっと答えた 総ては事後承諾なのだ… 「まぁ京香が母ちゃんの仕事を継いだとしても、母ちゃんはまだ飛鳥井の顔として楽隠居は出来ねぇけどな」 ‥‥‥次代は用意するのに楽はさせない‥‥とは何とも、何処までもこき使おうと謂う気が満々だった

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