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第73話 歪んだ想い

康太は母に最近の心配を口にした 「母ちゃん…瑛兄が何かを感ずいて…精神が不安定になってる…」 康太は、不安がる瑛太が心配だった 「だから申したではないか…あやつは勘の良い男だと…」 「オレが会社にいると…匂いで解るか…湧いてくるし…」 康太がボヤくと…玲香は「そう言うでない…」と言った その時…ドアがノックされた 玲香と康太は目を見合わせた そして玲香は「まさかな…」と呟き…ドアを開けた すると…瑛太がドアの前に立っていた 玲香は康太の方へ向いた 「康太…まさかが現実になったぞよ…」と、嘘みたいな現実を目にしていた 「父さん…やはり此処でサボってましたか…」 どうやら社長の清隆を探して来たみたいだった 「康太…伊織…どうしたのだ?」 瑛太が近付いてくる 「学校の寮を引き払ったから…報告に来たよ」 康太が言うと、そうか…もう寮へは戻れぬからな…と呟いた だから制服なのか…と、瑛太は納得した 「父さん、康太を見つけ…着いて来ましたね…現場に行く予定だったんじゃないんですか…電話がかかってきて探しましたよ! まさか社内アナウンスかけれないし…」 と、瑛太は怒っていた 「父ちゃん…オレがいたからか…」 康太の悲しげな顔で…瑛太は怒るのを止めた 「父ちゃん、何処の現場に行く予定だったのか?」 「戸浪の新社屋に行かねばならなかった…」 父が言うと康太は「ならオレも着いて行く事にする!」と、父に告げた 父は目尻を下げ「なら、行こうか」と、上機嫌で立ち上がった そして瑛太に「直帰で帰る」と告げた 「力哉も行くもんよー 車は置いといて朝は母ちゃんに乗せてもらえば良いかんな」 と、康太は榊原と力哉を立ち上がらせた 「瑛兄、帰るかんな」 瑛太は頷いた 頷いておきながら…康太の腕を掴み 「何故…最近、兄の所は素通りなんだ…」 と、康太に問い詰めていた 玲香は…これ程…精神が不安定になってるとは…と、驚いた 「オレは瑛兄を避けてはいない… だが、オレを束縛するな! 動けぬ真贋など…飛鳥井には要らぬ!」 瑛太は康太の手を握り締めた 父が瑛太に近付き、瑛太の手を外させた 「瑛太、過保護もいい加減にしなさい」 離した康太の腕が…赤くなる程…瑛太は握り締めていた 父は、康太を庇って抱くと… 榊原と力哉を連れて部屋を出て行った 瑛太は…ソファーに崩れ落ち座った 「瑛太、康太が寮を出て戻って来たから… 独占欲が再燃したか…? 康太を突き放し…結婚式を挙げたお前の姿を見て…康太は泣いていた…。 その康太と距離を置き離れたのはお前だ 私は欲しいなら覚悟を決めろ…と言った筈だ! だがお前は兄として生きる道を選んだ… なのに… 離婚した今、康太を欲するか… それは…余りにも身勝手ではないのか… 康太に執着して…伊織から奪うか? 真贋の伴侶は、生涯一人…違える事は出来ぬ…」 身勝手…玲香の言葉が瑛太の心を貫く… 「母さん…飛鳥井の家は何が起こっているのですか…私はそれが不安でならない…」 「その様な不安など…皆が感じておるわ! 康太はまた18じゃ! なのに飛鳥井の運命は康太の手の中にある… 一番不安で辛いのは康太じゃ! そして誰より瑛太、お前の幸せを願っておるのも康太じゃ! 何故解らぬのじゃ… 康太は…命懸けの儀式をやってのけた… 百年やられなかった儀式をじゃ…下手したら取り込まれて…康太は死ぬ…。 それでも伴侶の伊織は康太を行かせる… 愛しているから…あやつは康太を行かせる。 そして覚悟は後を追うことじゃ…。」 玲香は泣いていた… 泣きながら… それでも我が子を出さねばならぬ… 無念を嘆いていた 「飛鳥井は終焉を迎えているそうじゃ… 康太の願いは飛鳥井の存続…… その為に康太は動いておる… 邪魔をするなら…康太を外で住まわせる… 康太の邪魔は…母が許さん! 康太の伴侶は榊原伊織…お前ではない!」 「母さん…解っております」 「ならば頭を冷やせ…! お前が頭を冷やすまで…康太に逢わさない方が良いなら…康太を移す」 「いえ…もう大丈夫です…」 「もう大丈夫です…って言って、康太を掴むなら…母は…康太をお前の見えぬ所へ隠すぞ!」 瑛太は…母を見る… 母は…瑛太を一歩も引かぬ瞳で睨み付けた 「不安だっただけです… 私は妻も娘も…手離す事しか出来なかった… その無念さが…康太に執着してしまいました 康太を無くしたくなかったのです… 康太を無くしたら……私は死ぬ… そんな想いだけが強くなってしまいました…」 「総ては…お前の選んだ道 母は何も言わなかった でも度を越すのなら康太を隠す 康太は榊原伊織を伴侶に迎えた 伊織を蔑ろにするのは、榊原の両親に申し訳が立たぬ! 息子を養子に出すような申し出を快く快諾して下さった… 榊原の御両親に顔向け出来ぬ事は…我が許さん」 瑛太は…深々と母親に頭を下げた… 「心配の度を越えておりました… 申し訳ありませんでした…」 「昨夜…康太は倒れたそうじゃ… 当たり前だわな 一晩中禊をやって、朝から百年やられなかった儀式をやってのけた 凄い集中力を使い…成功させた それも総て飛鳥井の為…家の為 康太はまだ18じゃ… なのに真贋の自分を受け入れ、真贋の努めを果たしておる… 邪魔をするな 康太が動きやすいように見守れ そして、来年再婚しろ それが母からの言葉じゃ もうお前に向けさせないにしろ。 解ったな瑛太」 瑛太は…母の言葉を胸に刻んだ 「解りました…もう二度と…貴女に…その台詞を吐かせたりはしません」 「康太しか愛せないのなら…今までの溺愛の兄で良い 急に変える必要はない だが束縛はするな…」 「ついつい心配性になるのは…許されませすか?母さん…」 瑛太の顔は穏やかに…憑き物が取れたような顔をしていた 「それは許す。 お前は康太の唯一無二の兄 溺愛しまくしりの心配性は直さんで良い」 瑛太は…微笑み…そして静かに…言った 「母さん…琴音は逝きましたね…」……と 玲香は瑛太の顔を見た 「琴音は私の子供です…。 昨日…康太が百年やられなかった儀式をやっている頃… 琴音は別れを言いに来ました きっと…康太が飛ばしてくれたんですね」 「康太は、お前を愛している… だから、お前の幸せを願っているのじゃ」 瑛太は…静かに涙を流した… 「母さん…もう大丈夫です 私は飛鳥井の家の総代です 康太を総てのモノから守る防波堤になる その気持ちは失ってはおりません」 玲香は……そうか…ならば良い と、呟いたきり…黙った 瑛太は、母に深々とお辞儀をして…部屋を出て行った 康太は車の中で掴まれた腕を見ていた 赤く…手の痕が着く程…握られた… 榊原はその手を取り…優しく撫でた 「康太…今頃、瑛太は、母に絞られてる… 許してやりなさい 瑛太の不安は度を越した… だが玲香が窘める…だから許してやりなさい」 父の言葉に康太は顔を上げた 「父ちゃん、瑛兄がこうなるのは解っていたから、別に良い‥‥ 親が子を亡くして平気でいられる訳ねぇからな… 昨日…転生の義を唱えている最中…瑛兄の所へ…琴音の魂を飛ばした そして…琴音に別れを告げさせた… 琴音の未練は…父親に最期の別れを告げる事 聞いてやる為に飛ばした… 琴音は瑛兄に別れを告げ…転生の道へ入って行った… 我が子を亡くした瑛兄が過保護になるのは… 仕方がない事… 酷い事をするオレは殺されても…仕方がねぇと思っている…」 父、清隆には言葉はなかった… 「康太…お前には修羅の道を歩ませた… 飛鳥井の家の為…そう言いながら… お前に辛い荷物ばかり背負わせる…」 父の言葉に…苦悩が滲む 父は寡黙で岩の如く動かない… 動かない岩なれど…… 苦悩がない筈などないのだ… 「父ちゃん、オレはもう先を見ている 過去を見る目はねぇんだよ 」 父はそうか…と言い、康太の頭を撫でた 回り始めた歯車は… もう………誰にも止められは しないのだから……… トナミ海運に着くと、駐車場に車を停め新社屋の建設現場に向かう 康太は颯爽と歩き、棟梁の所へ近付いた 「棟梁、魂込めてやってるか?」 笑顔で棟梁に気安く話し掛ける 父は気難しい棟梁が、康太に笑いかける姿を唖然と見ていた 「康太、当ったり前ぇだ!見ろよ! この出来映えを…これ以上のものは作れねぇ」 康太は新社屋を、見上げた 「遼一とは認めあってやってるな?」 康太は棟梁を、見詰め…言った 「アイツはすげぇ お前の意図が解ったよ 組めば解る力量を、わしは危うく見過ごす所だった…ありがとな」 「棟梁、お前はまた先に行ける 悠太が書くビルを建てるまで、くたばんな」 康太の言葉を受け…棟梁は頷いた そして康太は九頭竜遼一の所へ向かった 「遼一! 」 名前を呼ぶと…遼一はビクッと康太を振り向いた 「食っちまったか…… あ~ぁ、お前の鞘が…収まる所へ収まってる もう浮気は出来ねぇな…」 康太は笑った 「…浮気なんてしたら、真人に殺される…」 遼一は観念して、総てを受け入れている様だった 「巡り会えた伴侶だ大切にしろ! そして良い仕事をしろ」 「康太、悠太のビルを建てるまで、修行をする 何時か木瀬真人と悠太のビルを建てる 後世に残るビルを…俺は建てるんだろ?」 康太は笑い「だな」と、答えた 康太は現場に出向き…その人の性質を見る そしてその人間の…向き不向きも見抜き配置する… 飛鳥井の現場にトラブルが少ないのは… 康太が出向きガス抜きと…適材適所配置をしているからなのだろう… 康太は…新社屋を見上げ…微笑んだ 「海神(わだつみ)さえ昇れる社屋 海運に相応しい面構え、想像通りだ」 康太が呟くと、背後から 「海神が昇りますか?それは凄い」 と、声がかかり康太は振り向いた すると背後に戸浪海里が優しい顔をしていた立っていた 「飛鳥井家真贋は、百年唱えられなかった儀式をやってのけた… と巷では騒がれてます その力…現世をも覆す力(驚異)なり…と。」 戸浪が言うと、康太はふん…と鼻で笑った 「蠱毒で呪い殺す訳でもないのに…驚異に感じるな…捨てておくさ」 戸浪は何も言わず笑った 「その制服を着ていると…君がまだ高校生なのだと想い知らされます…。 君の伴侶殿も然り…時々忘れてしまいそうですが…ね」 戸浪は目の前の何処にでもいそうな高校生に目をやる だが目の前の人間が飛鳥井康太ならば別だ… 敵に回したら驚異になる人間に変わりはない 「軽くランチでも如何ですか?」 戸浪は康太に前回叶わなかった約束を口にする 「制服で入れる所ならば、ご一緒する」 康太はあどけなく笑った 「父ちゃん、伊織、力哉、若旦那と軽いランチをするかんな!」 康太が駆け寄り手を取る榊原の腕には…飛鳥井清隆と同じ様なROLEXが光っていた 戸浪海里は、力哉に微笑んだ もう戸浪海里の面影はなく…色艶も良く… 飛鳥井康太の秘書として手腕を奮っている噂を聞くと  嬉しく…そして戸浪で生かせなかった無念に胸は痛んだ だが、力哉が飛鳥井家真贋との強いパイプになってくれてる今…力哉の存在が…救いになっていた 戸浪海里と、軽いランチをしていると康太の携帯が鳴った 榊原は胸ポケットから康太の携帯を取り出すと、康太へ渡した 康太は携帯の発信者を見て、北叟笑んだ 「貴史、借りを返す気になったか?」 康太の揶揄する言葉に 「返してやるから明日、正装して待っていやがれ!」と答えた 「ならば明日楽しみに待つ事にする 同行者として伊織と戸浪海里と共に行って良いか?」 「おぉっ、戸浪の若旦那と来たか! 良いぞ、お前の好きな奴を連れてこい 明日の夜7時に車を回す、それに乗って来い」 「了解!車の来るのを待っててやる」 康太はそう言い携帯を切った そして戸浪に向き直り、ニャッと嗤った 「明日の夜7時。若旦那は暇か?」 「はい。君の誘いなら会議をぶち切っても駆け付けます」 「ならば、明日の夜7時前に飛鳥井に来られよ! 多分…生涯、見られる機会のない人間に逢えるぞ」 康太の言葉に…戸浪海里は姿勢を正した 飛鳥井康太のもたらす奇跡は… 会社に莫大な利益をもたらしてくれる 敵に回せば驚異で… 飛鳥井康太の懐に入っていれば… 生涯…味わえぬ体験をさせてもらえる… 「ならば明日は是非伺わさせて戴きます」 戸浪海里は深々と頭を下げた 家に帰ると、瑛太が待っていた 何時もの穏やかな顔で…駐車場まで出迎えてくれた 康太は瑛太に甘えて抱き着いた 「康太…少し話をしないか?」 康太は頷いて「何処で話す?」と、尋ねた 「外で…話したい…」 「ならばオレを連れて行け」 瑛太は康太を抱き上げ、ベンツに乗せた そして榊原に「伊織…康太を借りる…良いか?」と、榊原に問い掛けた 榊原が頷くのを確認して、瑛太はベンツに乗った 海沿いの道をベイブリッチに向けて走る ホテルニューグランドの正面玄関前に車を停めると、瑛太は車を降りた そして康太を車から下ろし、肩を抱き締めニューグランドの中に入って行った 予め部屋を予約しておいた瑛太は名前を告げると…キーをもらった そしてベルボーイに部屋に案内され部屋の中へ入ると、康太はソファーに座った そしてその前に、瑛太は座った 「瑛兄…何が聞きたい?」 康太は、瑛太に聞いた 「総て…と、言ったらお前は総てを話すのか?」 瑛太が聞くと…康太は傷付いた瞳をして…… 「聞きたいなら…総てを話す… そして瑛兄は……………オレを憎めば良い」 瑛太は、康太の決意を…感じ取っていた 「オレの言葉は飛鳥井家真贋の言葉… そして飛鳥井瑛太…お前の弟であるオレの非情な言葉… 総て知りたいなら受け取るが良い…」 「総て受け取る所存です…だから話して下さい…」 「オレの目に…飛鳥井の終焉が写ったのは…瑛兄の結婚式の日だった…。」 えっ…瑛太は、驚愕の瞳をした 「じぃちゃんは…まだ早いと反対しなかったか? 瑛兄の結婚の年は来年 それをねじ曲げたのが切っ掛けだ… ねじ曲げた未来は…形を成さない… だから離婚するしか選択肢がなくなったんだよ…」 瑛太は…言葉を失った… 「その日からオレは飛鳥井の終焉が見えるようになった 此のままでは終わる… それを食い止める為にオレは百年の時を越えて転生した 飛鳥井の終焉を食い止める為に、オレは子供の悠太を貰った 先の飛鳥井の為に育てた… オレの真贋としの動きはそこから始まってんだよ」 「そんな昔から‥‥ならば何故源右衛門は‥‥」 強行して結婚式を止めなかったのか‥‥ 「どの道、瑛兄の結婚が引き金だったとしても、もう止められねぇ所まで来ているのを感じていたから源右衛門は動くのを止めた それでもな源右衛門は瑛兄が男の子を誕生させてくれれば‥‥と一縷の望みを掛けていた だが‥‥飛鳥井の家には男の子供が産まれない… 女ばっかしだ 一族の者もそうだ 飛鳥井からは男の子が産まれなくなっている 飛鳥井の終焉は近付いてる 此処で新しい風を入れなければ… 飛鳥井は終わる… その始めに緑川一生の子供をもらい受ける事にした この子はトナミ海運と結びつける強固な絆が結べる」 康太は、覚悟を決めたように深呼吸した 「8月4日、瑛兄にホテルニューグランドのディナーを頼んだよな?」 康太が聞くと瑛太は、あぁチケットを取ったのは私だ…と答えた 「オレはあの日、京香に逢いに行ったんだ 京香は、家の為に好きでもない男と寝る所だった 寝た後に京香は、理由が出来たから死ぬ気だった… オレは京香を助けた 京香の腹の中に次代の真贋が入っていたからだ! でなければ…助ける気はなかった… そしてペナルティーと称してオレは腹の子を取り上げる算段をした 京香は、迷っていた… 産むかどうかを…だからオレは産ませるように手筈を整えた そして子を産んだ後、京香を来年瑛兄に与える 瑛兄の分身を産む為だ 瑛兄は京香以外の人間では子供は作れない… ならば京香の存在を一度リセットして、瑛兄に与える… そして瑛兄の分身を…京香は産む 飛鳥井の家の為になるなら… オレは慣例も曲げる 使えないのなら…切る」 瑛太は驚愕の瞳で康太を見詰めた… 「年末に京香は子供を産む オレより弱いが、源右衛門位の真贋になれる オレを継ぐ者だ、オレが貰う そして、来年京香を瑛兄に与える… そして歪んだ婚姻の果てに産まれた琴音は………… 一条隼人の子として転生させた それが飛鳥井家真贋が行った… 百年行われなかった転生の義を唱える儀式だ 琴音は最期に父に別れが言いたいと言った… だからオレは飛ばしてやった 琴音の魂は…転生の軌道に乗った… 一条隼人の子としてオレの元に還らせる オレは瑛兄には、親とは名乗らせない 永遠に…親と名乗らせない… それがオレが…嫌、現 飛鳥井家真贋の下した 飛鳥井瑛太への罪だ…京香と共に受け取れ」 康太は息を吐き出し… 「そして…それが総てだ 悠太は高校を卒業したら海外に留学させる 帰ってきたら飛鳥井建設の看板 設計士にさせる もう母に話しは着けた… 総て飲んで、飛鳥井の家の為に…納得した 他に聞きたい事は?」 康太は総てを…瑛太に話した 瑛太は総てを…康太に聞いた 康太は感情の1つもない…冷たい瞳をしいた 「康太…お前は…苦しんでいたのだな… 京香の家の事は、本来なら亭主の私の努めだった… だが私はアレを出してやる事しか出来なかった……。 飛鳥井と自分の両親との板挟みで苦しんでる京香に私は何もしてやれなかった 京香の家の事を片付け… 強固なまでに飛鳥井の女、飛鳥井玲香を納得させるには… その命を懸けたのだろう? 母を納得させたから… 一緒に動いていたのだろ? どれだけ…お前は傷付いて… 悲しんで…自分を責めて来たんだ…」 康太は倒れて…傷ついて…それでも動いていたのだ… 「オレは飛鳥井に不要なら、笑って兄を斬れる…切り捨てれる だから…オレを恨んで生きてくれ…」 そう言いながらも…康太は苦しんだ… 夏の夜に…康太は泣いていた… 泣いて…瑛太の胸でごめん…と呟いていた あれは総て…兄を思って…流した涙だと言うのか… 『康太は誰よりも瑛太、お前を愛している そして誰よりもお前の幸せを願っているのじゃ』 ……と、母、玲香は言った… こんな小さな体で…飛鳥井の為に生きている… 「康太…お前を恨める筈などないだろ… 私が…どれ程お前を愛しているか解らないのか? お前の総てを守る防波堤になる為に… 私は飛鳥井の総代になっている… 忘れた訳じゃないだろ…」 康太の瞳から涙が溢れ出していた 「オレは瑛兄に許される人間じゃない…」 瑛太は、康太の横に座ると康太を抱き上げ… 膝の上に乗せて抱き締めた 「私は…お前を無くしそうで不安だった…」 康太の瞳には…瑛太は映らない 頑なな意志が…垣間見えた 兄に罪を下す…どんな想いで…それをやってのけた? どれだけ…心を痛めた…? どれだけ…苦しんで…その小さな胸に飲み込んで来たと言うのか… 「康太…お前から逃げた兄を許せ… 総ては…お前から逃げた…兄の罪… お前は苦しまなくて良い… 決められた定めを歪めた……私の罪だ… 私には…お前がいれば…生きていける… 私からお前を奪わないでくれ… 父と名乗れぬ…それは罪にはならない… お前は愛してくれるのだろ? 私の子供を愛して育ててくれるのだろう? ならば良い…その分私はお前を精一杯愛す やがて我が子に還るように…私はお前を兄として精一杯愛させてくれ…」 瑛兄………と、康太は言葉にならない言葉を発した 「京香には逢わせるのは来年… それまでは…逢わせない」 「ならば…私は待とう」 「その前に…子供が来る…」 「飛鳥井の真贋は、先代の真贋が育てる掟だ…それはお前の罪ではない」 「琴音は、ちゃんとお別れが言えたのか…」 「あぁ…お前が儀式をやってる時間に…琴音は来て…バイバイと頬にキスして消えた…ありがとう…康太…最後に逢わせてくれて…ありがとう」 「来年、京香を……峰岸京香を瑛兄の嫁に迎える 一緒に暮らして…半年後に京香は瑛兄の分身を妊娠する… 瑛兄の子供はそれで最後だ…もう望めない…」 「私は…子供よりお前を愛している… だから…それならそれで…構わない…」 「飛鳥井の看板設計士は、悠太を据える… そして悠太のポジションに…京香を据える」 「お前の決めた事なら…総てを受け入れる それが飛鳥井の決め事…お前は悩まなくて良い」 「本当は……話すつもりはなかった…」 「私が聞き出したのだ…お前は悩まなくて良い」 康太は瑛太の首に腕を回し縋り着いた… 「オレは…酷い事をしている… 一生にも父親と名乗らせず…永遠に…側で我が子を見させる…。 そして瑛兄と京香にも…同じ苦しみを与える…」 「一生は、それでもお前の側にいると決めたのだ…。 自分の意思で…お前の側にいると決めた 私もそうだ。 お前の側にいたい 少し過保護な兄として…お前を愛し続けたい…許されるなら…お前の兄でいさせてくれ…」 康太は泣き続けた… 重い胸の支えを…溜飲させた… 康太の決意を…無理矢理聞き出した… 酷い人間は…自分の方だ… 「康太…お前の苦しみは…総て…兄が背負う… だから、お前は悩まなくて良い… 苦しまなくて…良い…だから泣き止みなさい」 瑛太は康太の涙を舐めた 「瑛兄…オレは業が深い…」 「榊原伊織は、そんな事もひっくるめて引っくるめて…お前を愛してくれている お前は伊織から愛されているの…」 「オレも伊織を愛している 髪の毛一本でも…他人に触らせてやるつもりはない…オレは伊織のモノだ もし…伊織が死んだら…オレは後を追う… アレはオレのモノだ。そしてオレは…伊織のモノだ。もう兄のモノにはなれない。 所有権を決めたなら…オレはその人間しか愛さない…オレは伊織しか愛さない」 「それで良い…兄はお前の兄でいられれば… それで満足だ…だから、溺愛の兄でいさせてくれ…」 「瑛兄…オレを許すのか…?」 「お前を恨める筈などない… 総ては…私の罪…私を許せ…康太…」 総てを許して…受け入れてくれる兄を… 地獄に道ずれにした… 康太は…泣いて… 泣いて…泣き付かれて そして…眠りに落ちた… 眠りに落ちた康太を、ベットで寝かせると 瑛太は榊原へ電話を入れた ワンコールで電話に出た榊原の苦悩を…瑛太は感じていた 「伊織…すまない 康太を泣かせた…… 泣かせて…疲れて…眠りに落ちるまで… 問い詰めて…話をさせた… 来てくれないか伊織… 目が醒めた時に、お前が側にいてやって欲しい……」 瑛太の言葉を榊原は静かに聞き、 「解りました。これから伺います」 「フロントに伊織の名前を告げれは、部屋へ案内してもらえるようにしておく… だからホテルニューグランドに来てくれないか?」 榊原は、直ぐ向かいます…と言い電話を切った 電話を切った榊原は、康太が制服姿なのを思いだし、着替えをバックに詰めた そしてバックを持って部屋を出た 駐車場まで行くと、力哉が車の前にいた 「康太の所へ行くんでしょ? 乗せて行きます 帰りは午後5時までに電話を下さい 迎えにいきます 兵藤の迎えが午後7時に来ますから。良いですね?」 榊原が、頷くと、力哉は車に乗り込んだ そしてエンジンをかけると、アクセルを踏み込んだ 「何処へ行けば?」 「ホテルニューグランド」 「直ぐですね。走ります」 軽快に車は走り、程なくしてホテルニューグランドに到着した 伊織を車を降りると、力哉は車を出した ホテルの中へ入り、榊原伊織ですが…と告げると総支配人が出て来て、榊原を康太のいる部屋へ案内した 「こちらです」と言い、総支配人はドアをノックした そしてドアを開けた瑛太に 「榊原伊織さんをお連れしまた」と、告げると 瑛太は総支配人に、ありがとう…と礼を述べた 軽いお辞儀をして総支配人は、役目を終えて戻って行った 瑛太は榊原を部屋に入れた 「すまない伊織…」 榊原は、部屋の中へ入り…ベットで丸くなって眠る康太に目を止めた すんすん…と、泣きながら…今も涙を流している… 「伊織…少し話しませんか?」 瑛太が言うと、榊原はソファーに座った 瑛太は「伊織は、総て…知っていたんですね…」と榊原に聞いた 榊原は頷いた 寡黙な男は…康太の愛の為だけに生きている… 「京香は……康太を愛している… 妬ける位に…康太一筋で…妬けただろ?」 「初めて見た時は…驚きました…」 「伊織…私と京香の子供を育てるのですね?」 「はい。康太の子供は全部で四人 僕は康太とその子供を愛して育てます…」 「ありがとう…」 瑛太は榊原に頭を下げた 「私は…康太を弟として愛している 行き過ぎてしまう溺愛は…多分京香も同じだ… 康太の為なら…京香は地球の裏まで行けれる…。 過保護で溺愛の兄だけど許して欲しい」 「瑛太さんは康太の拠り所です… たまに妬けますが…康太の伴侶は僕一人 ですから、僕はそれを引っくるめて愛して行けます」 真摯な瞳で瑛太を見詰める 瑛太は立ち上がり、榊原の肩に手をやった 「明日の夜まで…部屋を取ってある 私は帰ります どうか康太を慰めて下さい 目が醒めたときに私では余りに可哀想… お願い出来るかい…伊織…」 「はい。康太の側にいます!」 瑛太はありがとう…と、榊原を抱き締めた… 離した後……振り返らず部屋を出て行った 榊原も桜林の制服のままだった 康太の事を考えたら…手がつかなかった 榊原は康太の体を起こすと、膝の上に乗せ…抱き締めた すんすん泣く康太の鼻に…榊原の匂いがした 康太は大きく目を開き…顔を上げた 目の前には…愛する男…榊原伊織がいた 「伊織…」言うなり康太の目から涙が溢れる 「オレは伊織しか愛せない… オレの愛しているのは…お前だけ… オレを抱いて良いのは…伊織だけ… 愛してるから…誰にもやらない…」 目が醒めた康太は…熱烈な文句を吐き出した 「康太…僕は君のです そして君は…僕のです だから…泣いている理由を聞かせて下さい。」 「瑛兄に総てを話した… あの世まで持って行くつもりだった…。 話してはならないと…思ってた…だけど話した。総てを話した」 榊原は、康太の頭を優しく撫でた… 康太は…嗚咽を漏らしながら…話をした 「総て…話して…恨まれよう…って… 全部…話して……憎まれよう…って… そう思って…全部話した…」 「あの人に…康太を恨むなんて…無理ですよ あの人は総て…受け止めて…君を愛するんです… 憎まれようなんて…考えるだけ…無駄です」 「でも……オレ…酷い事を……」 「あの人は…酷いなんて思わなかったでしょ?」 「いっそ憎まれた方が…楽だ 殴られた方が…気が楽だった!」 「康太…忘れさせてあげます… 抱いてあげますから…忘れなさい」 榊原は康太を押し倒すと…息も着かない接吻を、された… 「伊織…」 「僕を愛してるでしょ?」 康太の服を脱がし…露になった乳首をなめた 「ぁぁっ…愛してる…伊織だけを…」 康太の腰骨を甘噛みしながら…内腿を吸い上げた 「僕も愛してますよ…康太…」 康太も手を伸ばし…榊原を求めた

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