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第77話 ネズミの国へ

夜が明ける前に… 悠太は、家を出た… でないと…命が幾つ有っても 足らないから…… 「ごめん…康兄…」 玄関に出て靴を履き 慌てて外へ行く 康太に見付かったら… 半殺しの目に遭う… 家を出て少ししたら… 悠太の携帯が鳴った メールが一通入っていた 開くと… 「逃げやがったな!!悠太!!覚えとけよ!!」 怖すぎる… でも…悠太は走って…飛鳥井から姿を消した 目が醒めた康太は、一条との約束のネズミの国へ行く為に支度をする事にした その前に康太は力哉を連れて、飛鳥井の家の誰も知らない…入れない、地下の隠し金庫へ来ていた 源右衛門を継いだ今、康太がその鍵を受け継いでいた 康太は秘書の力哉にその鍵を管理しろ…と渡した そして真贋で見た金はそこへプールして、馬の運営に当てる それが決まりだった 力哉は金庫の番号を一回聞くと、鍵を解錠してお金を中へ入れた 「力哉、馬には金がかかる。 それを維持して支えて行くには…あぁ言う金も必要と言う事だと…お前が管理しろ。良いな?」 「はい。解りました! でもこんな内情を僕に見せて…不安ではないのですか?」 力哉はついつい…聞いてしまう 康太が力哉を信用していると言っても… 人は裏切る生き物なのだから… 「力哉…この中の金を持って逃げるか?」 康太は尋ねた 「恐れ多いですが…僕は貴方の絶対の信用を受けるには…日が浅いのに…何故? そう感じただけです…」 康太は力哉の頬に手を当てた 「お前を戸浪で見付けた日から、オレはお前を秘書にすると決めていた。 これは運命なんだよ力哉 お前はオレの側で生きる そんな人間がこの金を持って逃げるか… もし逃げたとしても…警察には届けない 日の当たる場所には出せねぇ金だ。 そしたらオレの目が確かじゃなかった事だと。お前の所為じゃない」 そんな事言われたら嬉しすぎて…泣いてしまう… 誰にも見向きもされなかった日々に… 人を信じるのを止めた… だけどトナミ海運で康太を見た日…何の疑問も抱かず…康太の手を取った そして……絶対の愛情と…絶対の信頼を…くれる人… 「僕は貴方の総てを担う秘書になれますか?」 力哉の瞳から…涙が一筋流れた 康太はその涙に接吻を落とし… 「もうなっている。 力哉はオレの懐刀 無くしたらオレは確実に…殺せる力を持っている オレはお前に命を預けている お前はオレの秘書だ。当たり前だろ?」 「康太…」 「お前はもう与えられた仕事をしている枠を越えた 自分で進んでオレのサポートをしてくれている 立派なオレの秘書だ、力哉」 康太は地下室の鍵と金庫の鍵を、力哉の手の中に入れ握らせた 「動く時は、この金庫は空になる 貯まる時は、この金庫は満タンになる それも総て真贋の力量 お前はそれを管理して動かせ 動かす時はガードを応接間に待機させとけ狙われたら…お前を危険にさせる…それだけは…胆に命じておいてくれ」 力哉は、はい。と康太を見た また一段と康太の信頼を得て、秘書らしい顔になった 地下室から出ると、康太は力哉に私服に着替えて来い…と、言った 「その鍵をお前の覚えでしまったら、ネズミの国に行く 力哉も遊べ。隼人が待ってる 一緒スペースマウンテンに乗ってやってくれ」 「ネズミの国…ですか?」 「行ったことあるか?」 力哉は首をふった 「力哉、オレもねぇんだよ オレは日々修行に明け暮れて…遊べなかった 一生と、四宮は中等部から寮に入っていて…親とそう言う場所に行く機会もなかった 隼人は早くから仕事をしていて…遊ばなかった。アイツはひねくれてたからな…」 康太は笑った だか…康太とその友達も…幸せな幼少時代を送ってはいない事を伺い知った だけど、今は、康太がいるから…救われた そしてこの人と共に有ろうと…傍に居るのだ 「僕も隼人と子供に戻って楽しみます… でも…怖い時は一生に抱き着いて良いですか?」 「力哉、それは構わない。 お前の好きにしろ。 オレが心配してたのは…一生を好きになるには…総てを…背負わねばならないからだ… お前に辛い想いはさせたくなかった…許せ力哉」 「解ってます康太…。」 康太は着替えて来い、と力哉の肩を叩いた そして榊原の待つ、自室へ向かった 部屋に入ると、榊原の腕が康太に絡まった 「ネズミの国へ行くんでしょ?」 榊原は康太の額に接吻を落とした 「伊織は行ったことあるのか?」 「ないです。康太は?」 「オレもねぇ。一生も聡一郎も隼人も…力哉も行った事ねぇ奴ばかりが…集まって 頼りは伊織だったのにな…」 「僕に…ネズミの国は…見るからに合いませんよ…」 「経験豊富そうだが…ベッドへ直行だったか…」 「康太…僕を苛めてます?」 「少し…。恋する男は嫉妬深いのだ…許せ」 榊原は、もう…苛めないで下さい……と、康太の顎を持ち上げ、接吻した 「伊織…ネズミの国…」 危うく火が付きそうになる前に、榊原は康太を離した そして今日の康太の服は…榊原の中学の頃の服を着ていた 清四郎が、成城の家を売り払い康太の所へ来るのが正式に決まり、家の中を整頓していて、榊原の服を見つけた 妻の真矢は…伊織の為に…着る事のない服を買ってきては、タンスに入れていたのだ それを康太に着てくれと持って来たのを、康太は着ていた ネズミの国へ行くのを清四郎も誘った スケジュールが合わない笙は来れないが、清四郎は一緒に行くと、楽しそうに答えた 朝早く清四郎は飛鳥井の家にやって来て、一緒に朝食を取った 沢庵をポリポリ食べてた康太は、ポリ……と食べるのを止め、榊原を見た 半分涙目…の、康太に苦笑して 「好きなだけ食べて良いと言ったでしょ?」 と、笑った すると康太は嬉しそうに沢庵をポリポリ食べていた 「清四郎さん、ネズミの国って言った事ある?」 康太が聞くと…清四郎は箸を止め…悲しそうな顔をした 康太はタラーと背筋に嫌な汗が流れるのを感じていた 「一度もないんですよ…」 と、悲しげな清四郎に康太は 「全員、初めてだ! 迷子にならねぇようにしなきゃな」 と清四郎を励ました 清四郎は嬉しそうに「皆も初めてですか。ならば楽しまなきゃ…ですね」と、答えた 迷子になったら、ここで待ってろ!とネズミの国の案内地図に丸をして各自に渡す 「飯食ったら行くもんよー!」 康太は楽しげに叫んだ 「午前中に三大マウンテンを制覇して、後は空いてる所を回る…のが定番だと書いてあったかんな。 それでは行くとするか! 清四郎さんは…ジェットコースターとか乗れるかな?」 康太が心配して聞くと…清四郎は 「私は先月ロケで富士急ハイランド『ええじゃないか』『ドドンパ』『FUJIYAMA』を乗りに行きました。楽しいロケでした」 とケロッと言った 世界絶叫マシーンにランキングされてたよな…と四宮が呟く 康太は青褪めた… ワイワイガヤガヤやってると、キッチンに瑛太が現れた 皆に、おはよう…と挨拶すると、康太に何処か行くのか?と尋ねた 康太は瑛太に腕を伸ばし、抱き上げられると 「ネズミの国へ行くんだよ!」と話した 瑛太はネズミの国…楽しんでらっしゃい。と康太の頬にキスをした そして椅子に戻し、食卓に着いた もう何時もの瑛太だった 「瑛兄、ネズミのデカイぬいぐるみを買ってくるかんな!」 ……それはちょっと……要らない…とは言えなかった 「瑛兄…悠太が逃げやがった…」 そりゃー逃げたくもなるでしょう…とも言えない 「じゃ行ってくるかんな!」 康太は瑛太に挨拶すると、榊原の背中によじのぼり榊原を困らせていた 清四郎が小型バスを運転手ごとチャーターして、バスがやって来ると乗り込んだ 康太はバスの後部座席を陣取り榊原と座った 清四郎は息子の前の席に一条と座った 一生、四宮、力哉、は一人で座り寛いでいた 「ネズミの国へ行くもんよー!」 康太が叫ぶと運転手はエンジンをかけた ネズミの国は、開園前から行列が出来ていた そこに並び、開園を待つ 行列に並ぶと人がざわつき皆が後ろを振り返っていた それもその筈…榊清四郎に一条隼人が居るのだから… どうしても目立ってしまって…並んでる人間チラチラと振り返る そしてあからさまに写真を撮ろうとするカメラを見付けると… 「御遠慮下さい、彼等はプライベートで来ているのですから!」と声をかけた 康太は胸ポケットに入れたサングラスを一条にはめた 「こーた、オレ様は大丈夫だ!」 「でもお前は気にする オレに迷惑をかけたくなくて気にする…だから掛けときなさい」 一条は頷いた スプラッシュマウンテンFP発券 ビッグサンダーSB しばらく待ってスペースマウンテンF P発券 スプラッシュマウンテンFP乗車 …スペースマウンテンFP乗車 と、定番に三大マウンテンを楽しむつもりだ だが……スプラッシュマウンテンで康太は……リタイヤ… ゲーゲー吐いてしまい… ベンチに榊原に膝枕してもらい横になっていた 「伊織、お前も乗ってこい…」 康太が言うが…榊原は、君を置いてったら持ってかれます…なんて変な理由をつけて側にいた そして……うぉぉぉ…と雄叫びを上げ…乗る一生と、一生に抱き着く力哉の姿を…見ていた そして清四郎は楽しそうに一条と四宮と乗っていた 「アイツ等…人間じゃねぇ…」 あんな乗り物に楽しそうに乗れるなんて… 信じられない… 信じたくなかった… そして康太は瑛太にメールを打った スプラッシュマウンテンの写真を入れて… 『瑛兄…ネズミの国にオレの乗れる乗り物はなかった…。ちくしょう!吐いた…」 と、送った 飛鳥井建設の副社長室に…大爆笑の声が響いたのは… 言うまでもない 三大マウンテンを制覇して、一生はウキウキ気分で帰ってきた そしてベンチでダウンしている康太に… 「康太、爽快だったぜ!」とウインクした 榊原は飛んでくるウインクを、跳ね返し 「僕の康太は繊細なんです! 苛めると僕が許しません…」 と文句を言った 一生は、えっ洗剤…と茶化した 榊原は立ち上がると一生にラリアートを食らわせ、飲み物を買うから着いてきなさい と、一生と四宮と一条を連れて行った 清四郎は康太の横に座った 「清四郎さん、役作りに息詰まってる?」 康太が問い掛けると、清四郎は…君には何でもお見通しなんですね…と、苦笑した 「私は、時代劇畑の出ですから…現代劇は…難しいです。 ですが最近…時代劇はないに等しい…。 現代劇もやらないと…忘れられてしまう… 人に忘れられたら…役者は終わりです」 「オレからしたら時代劇の方が、難しそうだけどな…」 康太は苦笑した 「体験した役柄や…想像がつく役柄ならば…何とか演じる事が出来るのですがね…」 清四郎が…康太に悩みを打ち明ける 「どんな職業が知りたいんだ?」 「戦後の激動の日本を支えた議員の秘書を…やるんですが…しっくり来ないんですよ…」 「総理大臣…かと思った…」 「……その話も有りましたが…出来ないので…保留にしてあります…」 「戦後の総理は無理だが今の総理なら逢わしてやんよ。アイツに貸しがある。 間近で体感させてやれるかも知れねぇな…」 清四郎は驚いた顔をしていた 康太は「これも何かの導き…決め事なのかも知れねぇ …勝機は手中にある…ならば、これは必然な流れなんだろうな‥‥」と呟いた そして携帯を取り出すと兵藤に電話を入れた 電話に出るなり康太は兵藤に貸しを返せ…と迫った 『俺も返してぇが返せる材料がねぇ…』 と兵藤は珍しく弱気だった 康太は違う…と、兵藤に言った 「榊清四郎を総理に逢わせて欲しい 国会議事堂とか、見られる範囲で見せてくれ 後、議員の秘書の仕事とか、見せて欲しい それで貸しはチャラで良い 」 『榊清四郎…って役者の?』 「あぁ、そうだ。」 『すげぇタイミング…流石だわ 貸しはチャラじゃなく4つで良いから、使わせてくれないか?』 「やはり理に組み込まれてたか…」 『自分で詠んだ勝機だろ?』 「だからオレは神じゃねぇ…! 榊清四郎は、我が伴侶、榊原伊織の父親だ 失礼な扱いをしたら…呪い殺してやるかんな」 兵藤は、え~嘘! 親子ぉ~と驚いていた 『決して失礼な扱いはしない 頑固な議員がお前と一緒でコアな時代劇のファンで一番、榊清四郎が好きなんで… 逢ってくれたら話を持っていきやすい そしたら、普段は見られない議員や総理や、総理官邸もみせてやる』 康太はニャッと笑った 「ならば、今夜、お前の家を訪ねる」 兵藤は待ってんぞ~と言い電話を切った ジュースを買いに行ってた榊原達は、康太が電話を切るまで静かに少し離れた所で立っていた 電話が終わると榊原は康太と清四郎にジュースを渡しベンチの横に座った 康太は榊原が横に座ると一生や聡一郎、隼人にも聞かせる様に今後の話をした 「オレは夜に用が出来たから早目に還らねぇとならなくなった 早目に昼食って、一生達はまだ乗るんだろ? オレは瑛兄にぬいぐるみを買いに行く事にするかんな!」 康太が言うと、一条は「こーた。オレ様も買い物に行くのだ」と言い 四宮も「僕も買い物に行きます」と言い 清四郎も「なら私も買い物に行きます! 康太、欲しいのは何でも買ってあげますよ」とデレデレで言った 康太は一生に「一生、力哉と乗り物乗り放題で楽しんで来い。 オレはダメだわ…吐く…。 オレに付き合うのは…力哉は可哀想だ…頼めるか?」と、力哉を頼んだ 一生は「任せとけ!」とノリノリだった 早目にレストランに入ったら空いていて、康太はたらふく食べた 支払いを力哉に行かせようとすると、清四郎は力哉を止め、自分で支払いに行ってしまった 食後、一生と力哉と別れて…康太は買い物に向かった そんな一生の姿を…康太は…姿が見えなくなるまで見ていた… そして、振り切るように榊原の腕に捕まった 康太は、自分の身長位のネズミを買うと…写真を撮り、瑛太に『プレゼント』とメールを送った 『宅配で明日、副社長室に届くかんな!』……と。 瑛太は青褪めたのは言うまでもない 副社長室に…ネズミを置け…と? まぁ良いか 康太が座っていると思えば… そんなに大きくないだろうし… と、瑛太は思った だが翌日…飛鳥井建設の副社長室に、康太の大きさ位のネズミのぬいぐるみが届けられ… 社員が、見せて下さい!と訪ねて来て その日は…仕事にもならなかった… 結局…ネズミのぬいぐるみをソファーに座らせた 康太の何時も座るソファーに座らせ…微笑んだのは…社員は知らない… なんて…瑛太の苦悩を知ることもなく… 康太はむき出しのぬいぐるみにプレートを着けると、宅配に出した 康太は榊原と清四郎に、土産をたんまり買って貰い 一条と四宮からも貰い なんだか部屋が凄い事になるな…なんて思っていた 陽が暮れると、パレードを見る為一生と力哉と合流して… 夏休みも後1週間で終わるって事で花火が打ち上がるのを眺め…帰路に着いた 康太はまた沢山写真を撮った 近くにいた人に頼み全員で撮った写真は…宝物になるだろう… 疲れた一生は帰りのバスに乗るなり爆睡で 康太は榊原の膝で目を閉じていた 四宮は、清四郎の膝の上で寝て 一条は榊原の肩で眠っていた 家に到着すると、康太は着替えに行った 清四郎も自分の車からスーツを持って来て、応接間で着替えさせてもらった

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