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第79話 疑心暗鬼

今が…幸せすぎると… 不安になるのは… 何故なんだろ… これは………夢? 現実………? 解らなくて… 怖くて…堪らないんだ… 明け方…目が醒めると、康太は榊原に抱かれ眠っていた 榊原の顔を見る… 寝ている顔は…穏やかで、長い睫毛が確認できた 康太は榊原にキスをした 何でこんなに好きなんだろう… 好きすぎて…壊れてしまいそう… 康太は机の引き出しから拘束様のベルトを取ると榊原の腕に巻いた…そしてそれをベットの柵に嵌めた そして榊原の服を脱がせ… その体に愛撫を施す 榊原の上に乗って…鎖骨を舐めると…ピクンと体が反応した 舌は胸の乳輪を舐め…ヘソへと下がる 榊原のヘソのピアスが月夜に照らされ光る そしてヘソに舌を入れピアスごと舐めた 榊原の股間を見ると勃起していた 皮を捲り…亀頭を舐めると…榊原は目を醒ました そして体を起こそうとして…動けぬ現実に…気が付いた 「康太…君はまた寝込みを襲いましたね… しかも今度は拘束までして…僕は動けません…どうする気ですか?」 「伊織…たまには総て…人任せ…ってどうだ?」 「嫌です…」 康太は榊原の性器を舐めた… 舌と…歯を使い…甘噛みした そして袋の裏の筋を舐めた… 「ぁっ…康太…外して!」 もどかしさが榊原を動かす… 康太は止まらなかった  「康太…今すぐ外しなさい!」 榊原が激しく怒鳴った 怒りを露にした榊原は怖かった 康太は……榊原の拘束を外した 榊原が腕を擦る その時…康太の視界の前を榊原の腕が掠って行った 康太は…咄嗟に…頭を庇って丸くなった… 榊原が殴ったりしないのに… 殴られて…育った習性… 康太は…顔色をなくした そして頭を抱えて…震えていた… 「僕が殴ると思いましたか?」 康太は…首をふる 「伊織は殴らない…絶対にオレに手を出さない…」 「ならば何故…?」 「オレが殴られて…育ちすぎたからた…」 康太は苦笑した 「ごめん…伊織…」 「康太?」 康太は膝を抱え、頭を押さえ…震えていた… ずっと…殴られた後…康太はこうして震えていた…? そんな康太の救いが…瑛太だったと謂うのか? 榊原は、康太に触れた 康太の体がビクンと怯えた 「もう…しないから…許して…」 康太は魘された様に謂い震えていた 「嫌いにならないでぇ……お願いします」 康太は…榊原を見る事なく、哀願の言葉を述べた 冷たい瞳を見たなら…死にたくなる… 元々…榊原に好かれたのも奇跡に近い… 誰とも経験のない自分が…榊原を喜ばせれているか…不安だった もう…要らない…って台詞を言われたら死んでしまう… こんな痩せこけた…体… 魅力もない……自分 康太は毎日不安だった… 榊原は康太を抱き起こし…膝の上に乗せた 抱き締めても…康太の震えは止まらない… 「怖がらせましたか?」 子供の頃の康太の写真は…何時も怪我していた わんぱく小僧な康太だから…と思っていたが違った? そう言えば…榊原は康太に声を荒げた事はない…目の前で手も上げた事はなかった 「康太…僕を見て…」 康太は怯えた瞳で…榊原を見た 本当は…見たくなかった… 嫌われたかも知れないから… 「伊織…ごめん…」 「康太…」 榊原は康太を強く抱き締めた 「僕が怖い?」 「怖くない…でも無くしたら…と考えると…怖い…嫌われたら…と思うと…怖くて堪らない…」 「僕が君を嫌う筈など……」 康太は、不安だったのだろう… 恋人になる前は…辛辣な言葉をなげかけた… 「何が不安なんですか?」 「伊織に不安はない…。 唯…オレが…不安なんだ…」 康太の言ってる意味が解らなかった… 「康太は何が不安なんですか?」 「オレは…伊織を満足させれないかも…って思うと…不安。 オレは…そう言う事は…伊織が初めてだかんな… でも伊織は…経験豊富…  何時か…オレの体に飽きたら…オレは…」 経験値が違いすぎて… 不安は募るのだ… 手慣れた男を満足させれる自信は…ない 「康太…」 嬉しすぎる… 康太は…まだ震えていた… 「康太…僕は…君を何時も抱き締めていたい だから…さっきは少し声を荒げました 君が目の前にいるのに…抱き締められないのは…僕も嫌なんです…」 「伊織…」 康太は榊原に抱き着いた 「伊織が怖い訳じゃない… オレは殴られて育った… 目の前に手が被ると…パニックになる… だから一生達は…オレの前に手は出さない位置にいる…」 榊原は唖然となった… 康太の心の闇は深い…それでも…康太は自分の足で…風を切って歩いていた 「オレは…伊織を満足させられてる? オレの体は…貧相だから…時々…凄く不安になる…」 「不安に思わないで…僕は満足してます 康太の体に溺れて…骨抜きにしておいて… 君の体は…男を愛し抜く為にある…一級品です… こんな体を手にして…不満なんてある訳ない…。 康太は自分に自信を持って良いんです」 榊原は康太の顔を上げ…焦らすような接吻をした 「僕はもう、康太の中でしか、イケない、って、言いましたよね?」 榊原は、康太に解るように、はっきりと言った 康太は頷いた 「康太の中は…凄い…蠢き出すと、絡み付いて…僕のカタチを覚えていて…締め付け…促す… そしてカリを刺激して…イカせてしまう… 康太の体を手にしたら…他は抱けません… だから経験値が…とか言って、僕を苛めないで下さい…」 「違っ…そんなんじゃない… 伊織を見てると、好きすぎて、ついつい寝込みを襲う 縛ったのは…伊織を…楽しませようと…思った… でも楽しめないなら…もうやらない… もう……寝込みも襲わない…我慢する…だから嫌わないでぇ…」 榊原は康太の背中を撫でた 「縛られるのは…好きじゃないので…止めて下さい 寝込みを襲うのは止めなくて良いですよ 嫌いになんてなれませんから 康太が好きで好きで…好きすぎて…止まらないのは…僕も一緒です もう康太の目の前で…手は振り上げません だから機嫌を直して…ねっ」 「伊織…」 康太は榊原の頬に手を当てた 「時々…不安になるのは…片想いが長かったから…仕方がねぇかんな 片想いより、長く伊織に抱かれてたら…その内…不安にならねぇのかな…それとも一生不安なんかなぁ…」 康太の悩みが余りにも可愛くて…榊原は康太を押し倒した 「不安な時は言って下さい その都度僕が不安になんてならなくても良い位抱いて上げますから…」 もう…後は、言葉は続かなかった… 康太に半端に愛撫を受けた体は火がつくのが早く…康太を欲していた 榊原は枕元からローションを取り出すと、康太の穴目掛けて流し込んだ そして一気に康太の中へ挿入した 中を掻き回されたら…康太の思考回路は働かず…快感に身を任せるしかなかった 榊原は強く康太を抱き締めれるように、繋がったまま体を起こし、ベットに凭れた そして康太の体を隙間もなく抱き締め、息も着かない接吻を送り、腰を動かした 康太の仰け反る首に…噛み付く様な愛撫を降らせた 「ねっ…康太…僕は君を抱き締めていたい…君の中へ挿れて息も着かない位に抱き締めていたいんです…」 「オレも…伊織に…抱き付きたい…ぁ…深い…」 「も…止まりません…」 熱い濁流に飲まれた様に求め合い…中を擦った 康太はイク瞬間…伊織にごめん…と謝った 疲れ果て……求め合い……二人は意識を手放した 目が醒めると…榊原と繋がったまま…ベットに倒れ込んでいた 榊原の肉棒は抜けかかっていた…が、穴を掻き分け…入って来ようとしていた 康太は、榊原の体から逃げようとした……が、太い腕が康太に絡まり…体を捉えられた その瞬間…榊原の性器で貫かれた 「ぁぁっ…伊織…ずっと…ぁん…」 ヒクヒクと太くなる榊原の肉棒に…康太は身震いをした 「康太の中は…気持ち良すぎて…出なくない…って…僕の愚息は言ってますよ」 下から突き上げられ…康太は仰け反った 「伊織…奥を…擦ってぇ…ねっ…ねっ…伊織…」 康太は榊原にねだる すると肉棒は、康太のイイ部分を擦りながらカリで引っ掻き…動いた… 「ぁぁっ…ぁん…そこ…イイ…」 経験値…云々より…康太は凄かった… こんな男泣かせの体を…誰も抱いてなくて良かったと…榊原は思って感謝した位なのだ 康太の最初で最後の男になる…それを康太に告げなければ… 「僕は…君の最初で最後の…男です… 誰にも触らせません…君は僕のです…っ… 康太…緩めて…僕を食いちぎる気ですか?」 「違っ…伊織…体が暴走するぅ…ねっ…突いてぇ…」 榊原は腰を揺すった…このままでは…食いちぎらん勢いの康太の中を掻き回した 体は汗で濡れていた… 上にいる榊原の汗が…康太の上に…垂れる… はぁ…はぁ…荒い息が響き渡る 榊原は、康太が意識を手放すまで…抱き続けた 榊原は康太を抱き上げるとバスルームに向かった 康太の体躯を綺麗に洗い白濁を掻き出し、シャワーで流した バスタオルで包みバスルームを出ると…康太の髪を乾かしソファーに寝かせた まずは凄い事になってるベットのシーツを替えないと康太を寝かせられないからだ‥‥ 綺麗なシーツに交換したベッドに康太を寝かせすと、クーラーをつけると榊原は部屋を出た 客間の一生を訪ねると、まだ朝も早く一生は寝ていた 榊原は一生を、起こした 「ん…?旦那?どうしたんだ?」 寝惚けた一生は、榊原に起こされ…何が何だか解らなかった 「一生、少し話がしたい、良いか?」 榊原が言うと、一生は、あぁと頷き起きた 「旦那、外に出ようぜ」 一生が言うと、榊原はそれに従い部屋を出た 飛鳥井の家の外の駐車場に出ると、一生は口を開いた 「旦那、話は何だ? 康太はどうしたんだよ?」 一生が聞くと榊原は、バツの悪そうな顔をして 「康太は抱き潰した…」と答えた 榊原が言うと、一生は…なっ!…言葉を失った 「今朝方…康太は僕を拘束して抱こうとしました… 眠りから覚めやらぬうちだったので 怒ってしまったんですよ……… 康太は直ぐに拘束を解いてくれたんですけど、腕が痛くて、拘束を解かれて直ぐ腕を回そうとしたんです 康太の目の前を腕が掠めてしまったみたいで…康太はパニックになり、震えていました だから…気絶するまで…抱き潰しました」 榊原の言葉を一生は、静かに聞き…重い口を開いた 「康太は物心つく頃から修行三昧の日々を送っていた… 俺等の想像を遥かに越えた…修行だったみたいだ 俺等も全部は知らねぇが… 冬の雪の中で座禅を組まされたり… 忍者さながらの訓練をされ 生傷が絶えねぇ姿が痛々しかった…。 だけど康太は弱音を吐かねぇ 最初俺は、康太がやんちゃだから怪我してんのかと思ったが…違ったんだよ…。 辛い修行を支えたのは瑛太さんだ… 康太は飄々としているが…心の闇は大きい… だから俺等は康太の目の前には絶対に出ねぇ… 康太の道を遮るものがいたら倒す! 絶対に…康太の前を塞ぐ奴は倒す!」 榊原は言葉をなくした… 「一生…どうして康太はあんなにも自信がないんですか?」 愛されてても康太は不安がる… 「高一の時に…お前は康太に辛辣な言葉を投げ掛けた 瑛太さんが迎えに来た日に、お前は康太に 『君なんて相手にして危篤な人もいるもんですね』って捨て台詞吐いたろ? 康太は瑛太さんに抱き着いて…泣いて…泣いて…泣き付かれて眠った… それからも…お前は康太に…辛く当たった 康太はお前を見ていた時に…目が合い… 『喧嘩でも売ってる気ですか?』なんて言ったろ? 康太はお前を見ているだけで良かったんだ… そしてそれさえもお前は奪った… 康太は…信じられねぇんだろ… 夢だったら…って思うと……死にたくなる位… 不安で…… 手にしてる幸せに疑心暗鬼になってんだろ? 仕方ねぇよ その都度…康太に解らせるしかねぇんだよ…」 榊原は、一生の言葉に胸を鷲掴みされたような痛みを感じていた 寮に入った翌朝康太に… 『君じゃぁ勃ちません…』って言葉を投げ掛けた時に…康太は傷付いた瞳をしていた それからも…康太に投げ掛けた言葉が…康太を傷付けていた… 「康太は逃げたりしねぇ! 康太の伴侶なんだろ! だったら、捕まえて不安がらせてんじゃねぇよ 不安にならねぇ位…愛してやれよ 康太にはお前しかいねぇんだ。愛してやれよ」 「何時も悪いな…一生」 「お前が弱気になると、康太が動けねぇんだよ。 康太の動きを止めるな!旦那 康太の弱点はお前だ 昔も今も…康太のアキレス腱はお前なんだよ!」 一生は、榊原の胸を人差し指で突っつき言った 「康太の所へ行けよ…そして走らせてやれ お前の腕の中で、康太を送り出してやれ! 決して康太の動きを止めるな」 榊原は、あぁ解った…と、一生の肩を叩き家の中へ帰っていった 康太が目を醒ますと…榊原はいなかった 康太はベットから下り…部屋の中を探した そして……何処にも姿を見付けられず…床に崩れ落ちた 今までの幸せは…夢だったのか? 全部……夢だよ…ってオチなのか… 榊原の名前を当たり前の様に口にしていたのは…夢だよ…って言われたら… 生きて…行けない… 「やっぱ…世の中…そんなには上手くは行かねぇか…」 好きで… 好きで… 壊れてしまう位…好きなのだ 愛していて 愛しくて… 恋しくて… 世界で唯一無二の…愛する男 どうせ…長い片想いをして来たんだ… この先も…こっそり見られれば… 嫌だ… それは嫌だ… 抱いて欲しい… 伊織…と、呼ばさせて欲しい… 康太は……そんな想いを振り切る為に‥‥ 思い切り強く床を殴った ボキッと謂う音が部屋に響く位‥‥強く床を殴り着けた 指が折れたかも… 「痛いから…夢じゃねぇな…これは‥」 ならば…オレは一人でこの先生きて行かねばならぬのか…… 絶望の淵に陥れられ…康太は…項垂れた 遥か昔から‥‥この想いさえあれば生きて行けると想っていたのに‥‥情けねぇ‥‥ 榊原が部屋のドアを開けると…康太は… 驚愕の瞳で…榊原を見た そして唇が…伊織…と呟いた ずっと榊原と呼び続けた康太に名前を呼んで…と、迫ったのは自分だ 康太は…床に崩れ落ち、手からは血を流していた 榊原は駆け寄り康太を抱き締めた 「康太…どうしたの?転んだの?怪我したの…」 榊原は、康太を抱き上げソファーに座り傷口を見た… 中指の骨が歪に折れて肉を突き破って血が流れていた 「どうしたの…この指…転んだの?」 「床を思いっきり殴った…」 榊原の息を飲んだ… 「どうして…」 「気にしなくて良い…自分でやった事だ…」 康太は…榊原を見ずに、言葉を吐き出した 榊原は康太の顔を上げ、瞳を捉えた 康太の瞳に…榊原が映る… 「目が醒めた時に…いなかったから… 総て夢なのかと思った… そしたら堪らなくなって…床を殴った 夢と現実が…解らなくなっていたんだ…」 康太は伊織…と呼ばない… 「僕が君の側からいなくなってしまったと…思ったんですか?」 康太は何も答えなかった… 「君の伴侶は僕だけでしょ?」 康太は…榊原を見詰めていた 「君の伴侶の名前は?答えなさい」 「榊原…伊織…」 言うなり…康太の瞳から涙が溢れ流れた 「そう、君の伴侶は未来永劫、僕一人! 僕しかいません!」 康太は榊原の首に腕を回した 「伊織…夢と現実が…交差してて…伊織と暮らした日々こそが夢だなんて… 信じたくなかったから…床を殴った…」 「こんな痛い…」 「伊織がいないからいけない…」 榊原は苦笑した 「康太、病院に行きましょう」 「嫌だ…伊織といる」 「僕も一緒に行きます…」 「嫌だ…伊織と離れたくない」 「康太、傷を治そう?」 「……伊織…ごめん…」 「側に居なかった僕の所為です 君は気にしなくて良いです。」 「伊織…伊織…。」 榊原に抱き着く腕は…刹那くて、榊原は康太に接吻した 「康太の体には…僕に所有権があるんですよ! 夢かな…と思ったら自分の体を触りなさい… そしたら僕のモノって解りますから」 康太は…あっ…と、した顔をした 「考えもしなかった…」 「君は僕のモノです 例え自分でやったにしても傷付けたりしたら許しません…」 「伊織、ごめん…もうしない…」 「病院に行きましょう。支度しますよ」 康太を膝に乗せたまま立ち上がると榊原は、康太をベットの上に乗せた 「先に僕が着替えます。少し待ってて下さい」 病院に連れていくのに普段着は不味い 榊原は簡単に着替えると、康太に服を着せた 暑がりの康太の為に、白いブラウスにズボンを履かせ、傷は綺麗なタオルを出して巻き付けた そして机の引き出しから康太の保険証を取り出すと 榊原は鞄を康太に持たせると、康太を抱き上げ部屋を出た 部屋を出ると力哉が歩いて来た 「どうかしましたか?」 訝る力哉に康太が怪我をしました、と告げると 「解りました!直ぐに行きますよ!」慌てて榊原を促した 力哉は前に康太と榊原が入院していた総合病院に向かった 総合病院の救急外来は24時間受け付けてくれているのをしっていたからだ 救急外来に行き受付を済ませ、外科の診察室の前に行くと、久遠と謂う医者がちょうどいて康太を診てくれる事になった 久遠はレントゲンを先に撮らせに行かせた 映像が久遠のPCに送られて来ると、久遠は爆笑した 「おっ!見事に折れてるぞ!」 榊原は「先生、早急に処置を御願いします」と頼んだ 「んとによぉ、怪我の耐えねぇカップルだな」 久遠は「一応説明しとかねぇと後で怒られるゆだよ!俺も!」と言い 「中指がボキッと折れてるので…緊急でオペをする事になる ほれ、これはオペの同意書だ、後で書いとけ!」 「解りました、後で康太の両親に頼んでおきます で、入院になるのですか?」 「入院はしなくて良いが…右手の中指は当分…使えねぇ事は頭に入れておけ! それと毎日消毒に通え!」 説明を終えた久遠は「此よりオペに入る」と言いオペ室に向かった 力哉は飛鳥井の家にまで行き、玲香に手術の同意書のサインを貰って病院へととんぼ返りしていた 康太は中指にプレートを入れ固定され、包帯でグルグル巻きにされていた オペの同意書を貰った久遠は 「折れた骨が肉を突き破って出てたから、かなりの出欠量たんだが……骨はもうプレートを入れて固定した 若いし治りはどうせ早いと想うが、無茶はさせるんじゃねぇぞ!」 と注意して釘を刺した 車イスに乗せられた康太が戻って来た時、右手には包帯だらけだった その姿は…痛々しくて見ていられなかった 飛鳥井の家に帰ると…康太の姿に…家族や…一生達は…唖然となった この場に瑛太がいなくて…本当に良かった…と榊原は胸を撫で下ろした 包帯だらけの康太の姿を目にして…一生は 「どうしたんだよ…康太… 何があったんだよ…」 と、問い掛けた 「気にするな一生…自分でやった事だ 」 「康太…そんなに不安だったのか?」 「一生…もう終わった…オレはもう動き出してる…」 康太はそう言うと…少し眠る…と部屋に行ってしまった 榊原は、一生達に…後で…と言い、康太の後を追った… 廊下で康太に追い付き…康太の側に行く 康太は、何も言わず榊原と部屋に入っていった 康太は部屋に入ると、ベットに寝そべった 榊原は、康太の横に寝そべり、静かに目を瞑る康太の目蓋に…キスした 「僕が側にいますから眠りなさい」 榊原が言うと、康太は嬉しそうに微笑んだ そして嗅ぎ慣れた榊原の胸に顔を埋め、臭いを嗅いだ 榊原伊織の匂いに包まれ…康太は幸せそうにゆめの中へ落ちて行った 少し熱が出てて、榊原は康太を冷した 康太の部屋の冷蔵庫の中から、アイスノンを取り出し冷した 離れている間に目を醒ましたら……と、考えると、側を離れる訳にもいかなかった 冷やすと…康太は目を開けた そしてその瞳に榊原伊織を、写し出していた 「伊織…」 名前を呼ぶと心配そうな榊原の顔があった 「やはり熱が出ましたね… 薬を飲みますか? ……あ、でも朝から何も食べてません 一緒にキッチンに行きますか?」 康太は、何が起こったのか…解らないみたいに首を傾げた 「康太…?僕が解りますよね?」 榊原は不安になり尋ねた すると康太は「榊原伊織、オレの伴侶だ」と、何時もの様に答えた 「指…折ったの知ってます?」 「人を記憶喪失みたいに扱うなよ 知ってんよ。オレが床を思いっきり殴ったんだからな…」 「何故そんな事を…?」 「疑心暗鬼を生ず……って言うだろ? オレの心は疑心暗鬼に囚われてた… そして目が見えなくなってた… 無くしたくない…そんな想いばかり強くなってな… 特に、果てを見た後は…心のバランスを取るのが難しい……。 そして一度堕ちると…何が現実が…解らねぇ時があんだよ」 そう言った康太はもう……普通だった 「時々…やんだよオレは。 高一の時、足の骨折ったろ? あれは…お前に辛辣な言葉を投げ掛けられた時に…やった…そうだよ。 オレなんて…相手にするのは危篤な奴しかいない…って自棄起こして…二階から飛び降りた… じぃちゃん曰く…オレの心は弱すぎんだって。まさにその通り…オレは強くねぇ…」 康太は自嘲気味に笑った 「康太の目の前を僕の手が掠めたから…?」 「オレは…子供の頃から修行三昧の日々を送っていた… じぃちゃんは口で教えるより体に叩き込む…遣り方だから…仕方がねぇって思うんだけどな… 殴られ過ぎた心が…傷になってて…時々パニックになる…。 伊織のせいじゃねぇ…お前を縛ったオレが総て悪い。許せ。」 康太は頭を下げた 榊原は康太を膝の上に乗せ、優しく抱き締めた 「何故…縛ろうなんて?」 「あぁ…この本に書いてあった。一生にもらった」 康太は、ベットの横に落ちていた本を取り榊原に渡した 『彼に愛想つかされない為の3ヶ条』 榊原は、中をペラペラ見てみた 『3ヶ条、その1 彼の、大切な部分を愛撫して上げましょう 3ヶ条、その2 刺激が足りない時は縛って刺激を高めるのも手かも 3ヶ条、その3 環境も部屋も変えて、開放的に彼を楽しませてあげましょう 以上の事は大切だからね、やってみて』 なんて書いてあった… 榊原は目眩に襲われた 「康太は、僕を縛って…刺激を高める様としたんですか? 総ては僕の為に……」 榊原は感動で胸が張り裂けんばかりだった 「そう。そうしたら、伊織は喜ぶかな…って思ったら、怒られた。 それでトラウマ刺激され…パニックになってたら世話がねぇや。 慣れねぇもんはすんじゃねぇな…オレには無理だって解った…」 榊原は康太を抱き締めた 「僕はそんな本なんか参考にしなくても康太を愛してます」 「でもな…オレはつまんねぇ奴だから… そのうち飽きられたら…とか思ったんだよ サービスしょうにも…オレは何も知らねぇから…伊織を楽しませてやれねぇし…」 「僕の愛する康太を、例え君でもつまらない奴だなんて言わないで下さい! 僕の康太は最高に愛する人なんです 例え君でも卑下するのは許しません! 僕の愛する康太を、例え君でも傷付けるのは許しません! もうしませんね?絶対にしませんね!」 「もうしない…縛らないし…寝込みも襲わない…。」 「寝込みは襲って良いと言ったでしょ?」 康太は首をふる 「伊織の瞳…冷たくて怖かった…もうやらない…絶対に朝まで我慢する… 伊織が嫌なら…気が向く時で良いから…オレは我慢する」 康太は頑なに…引け目を感じていた 「じゃぁ僕が誰かを抱いても…君は我慢するんですか?」 康太の瞳が…見開かれ…涙が溢れ出した 「それは嫌だ…それは…我慢出来ねぇ…オレは死ぬ…」 榊原は康太を抱き締め、言い聞かせた この先…不安になっても…この愛だけは否定しないように… 「康太のしたのは、僕を…僕の愛を信じなかった事になるんだよ」 榊原を信じていれば…何でもない事だった 「そう…オレは…疑う心ばかりで…お前の愛が見えてなかった…」 「康太にペナルティ…1つ。」 「えっ…」 「2人で御揃いのスーツを着た写真を取りに行きましょう 父さんが言ってくれました。 そして部屋を2人の写真で埋め尽くす位… 写真立てに2人の写真を一杯飾りましょう」 「伊織…」 「嫌ですか?」 「撮る…伊織と沢山写真を飾る…」 「もう、自分を傷付けたりしませんね…」 康太は頷いた 榊原は康太を抱き締め…誓いのキスをした 「僕の君を傷付けないで… 今度やったら…僕は君の前で同じ事をやります。 これは脅しではないですよ。解りますね?」 「解る…もうやらない 今度から果てを見た時は伊織にしがみついてる。」 「約束ですよ。」 榊原は、康太の小指を取って指切りをした 康太は何度でも頷いた 「じゃあ、ご飯を食べに行きますか?」 「プリンが欲しい…」 「ならファミレスに行きますか?」 康太は頷いた 康太と榊原が部屋を出ると、そこには悠太と一生と四宮と一条…そして瑛太が廊下に座っていた 廊下に出た康太は、廊下に座る面々に驚いて、榊原に抱き着いた 「ドアをノックすれば良いのに…」 と、榊原が言うと、瑛太が「どうしてもノックは出来なかった…」と呟いた 康太は今が何時頃なのか解らなかったから 「伊織…もう瑛兄の帰ってくる時間なのか?」と問い掛けた 「まだ午後4時にもなってません…佐伯に明日絞られるのが…見えてますね」 と、榊原は辛辣な言葉を投げ掛けた 瑛太は必死に「康太が怪我したって言ったから…帰って…来てしまった…」と言い訳をした 瑛太の言葉に、康太は誰が言ったのか…気になり 「誰が言ったんだよ瑛兄?」 と、問い質した 「母さんが…珍しく遅刻したから聞いたら…康太が怪我したって言ったから…」 ど呟いた… そして、今日は仕事にならなかったから佐伯に帰れって言われたんだよ…と言い訳がましく言った 「康太が昨日ネズミの国で買ったぬいぐるみが、今日送られたんですよ。 プレゼントされたネズミは、康太位の大きさで、剥き出しでプレートを首にぶら下げただけで運ばれたから…会社は騒然となりました。 社員が見せてくれって、副社長室に押し掛けて来て、本当に仕事にならなかったんですよ。 だから…佐伯が帰れって怒って言ったんです!」 と、言い訳をした 榊原は、廊下に座ってる瑛太の膝の上に康太を乗せると 「康太は朝から何も食べてないんで薬が飲めません ファミレスに連れて行ってください」と瑛太に頼んだ 康太は瑛太の膝の上に座り…腹減った…と呟いた 「じゃあ、皆でファミレスに行きますか?」 と、瑛太は康太を持ったまま立ち上がった 瑛太の車に一生と康太と榊原が乗り込み 力哉の車に四宮と一条が乗り込んだ 「康太…手は…どうしたんだ?」 と、瑛太は…問い掛けた 康太は「自分で床を思いっきり殴った…」と答えた 瑛太は「何故!そんな事を……」と呟いた 「転生の義を唱えたの時にかなりの力を使ったからな… その後…オレの心は弱ってしまった。 そして瑛兄に問い詰められ、兵藤に呼び出されて果てを見て、心のバランスを取るのが難しくなってしまっていた。 そうなると、オレはマイナスへ進んで行く 朝…目が醒めて…伊織が居なかった事に… 現実か…過去か…今か…解らなくなり…パニックになったんだよ…。 夢か現実か解らないから…床を思いっきり正気に戻そうと殴ったら骨が折れた…それだけだ…」 瑛太も一生も言葉を失う 「それと…オレの目の前を伊織の手が掠めたから…トラウマも出た… 伊織を、困らせて心配させてしまって、嫌われたら…死のう…なんてずっと思ってた…」 瑛太も一生も…ギョッとなった 「でも大丈夫だ。伊織が軌道修正してくれた もうオレは大丈夫だ… だけど…この手…不便だな… トイレは出来るかなぁ?」 「大丈夫ですよ康太 総てして上げますから」 榊原は、さらっと際どい事を言った 瑛太は苦笑して 一生は、お前はそう言う奴だよ…なんてボヤき 康太は顔を赤らめた その時…康太の携帯が鳴り響き… 榊原はブチ切って電源を落とした そして胸ポケットに戻した 恐るべし…榊原伊織… ファミレスに到着し、康太は榊原の腕にしがみついて歩いた 榊原はステーキを頼み、康太はオムライスと、豪華版プリンを頼み、皆それぞれ好きなのを頼んだ 康太は、榊原が食べてればステーキを羨ましそうに見る すると榊原は、少しずつ小さく切って、康太の口の中へ放り込んだ それを美味しそうにモグモグ食べる姿は… 餌付けされる…ハムスターの様だ 康太が殆どステーキとプリンを食べ、オムライスは榊原が食べた なら最初からそれを注文しろよ!……なんて野暮は誰も口にしなかった お肉ばかりだとバランスが悪いから、サラダもオーダーして榊原はレタスを康太の口に入れた 餌付けされるウサギの様な康太の姿に、瑛太は幸せな気分で二人を見ていた 榊原は鞄の中から薬を出すと、康太に飲ませた 化膿止めと痛み止めを飲まされ、車に乗る頃は…眠りに着いていた 家の駐車場へ着くと、瑛太は部屋まで運んでやろう…と康太を抱き抱えた 榊原と一生が車を降りると、鍵のボタンを押しロックをかけた 力哉が玄関のドアを開けると、瑛太はズンズン康太の部屋へ行き、榊原に渡す時 「康太の事、宜しくお願いします…」 と、榊原に頭を下げた 榊原は瑛太から康太を受け取り 「はい!」と返事した 翌朝、早く康太は起きていた 榊原が起きると康太は榊原の胸の中にいなくて、榊原は慌てて飛び起きた 康太はズボンのファスナーに悪戦苦闘していた 「康太…どうしたの?」 「ズボンが脱げねぇ」 榊原は、手を伸ばし 「やってあげるよ」 って言うと、康太は断った 「触んな…自分でやる」 そう言いなんとか外そうと暴れた 榊原は、何故…なのか解らず康太を振り向かせた 「僕が外して上げます それとも…嫌なんですか?」 「違う…漏れる…」 康太はトイレに行きたかったのだ 昨夜は家に帰ってきて時には康太は寝ていて 榊原は添い寝していて…着替えさせず寝てしまったのだ 榊原は慌てて康太のズボンを脱がし下着も下ろした 「伊織…」 情けなく呟く康太をトイレに持って行き、仕方ないので便座の上に座らせた 立って出来ないのだから…仕方ない… 康太が凄い勢いで用を足していても榊原は、側にいて…康太は顔を赤らめ 「伊織のエッチ!」と叫びトイレから追い出した 榊原は笑いながらトイレから出た ついでだからバスタブの湯をため、トイレから出た康太を浴槽に押し込めた 包帯の手に袋をかけて、洗ってやる 康太は気持ち良さそうに榊原の腕に擦り寄った 「泡が着きますよ?」 「伊織に洗われるの気持ち良い…」 怪我人に無理は出来ず、榊原は我慢して康太を洗う そしてバスルームから出ると、髪を乾かし ゴムの短パンを履かせ、服の釦をかってやった そして二人でキッチンに向かう 素足の康太はシャランシャランと鎖の音をさせて歩く 悠太はキッチンに現れた康太と榊原に驚きながらも、朝食の準備をしてやった 「康兄…指大丈夫?何だか不便そうだね…」 悠太がスプーンで食べる康太を見て言う 「何が不便って…トイレに入れねぇ… この年でチビるかと思った…危なかった…」 「伊織君にしてもらえば良いのに…」 悠太は爆弾発言を投下して…しれっとしていた 「悠太、ネズミの国…逃げた罪は重いぞ ネズミの国に行っとけば、良かったのにな…」 康太の瞳は悠太を通して果てを見ていた 果てを見る時の康太の瞳は…キラキラ美しい 「康兄、俺の所有権は康兄が握ってっから、絶対に康兄をガッカリさせたりしないよ」 康太は曖昧に笑い…目を閉じた 康太は食事を終えると、榊原に抱き着き、抱っこして持ってけと甘えた 食洗機に食器を入れると、康太を抱き上げキッチンを後にした 「康太、今日は用事は有るんですか?」 「有っても…使い物にならねぇもんよー」 「昨日、電話有りましたよ」 「伊織が出れば良かったのに…」 「僕に兵藤と喋れと仰るんですか?」 「………無理だな。すまん…」 「解ってるなら言わないで下さい…」 「伊織…オレ…アホすぎて呆れてない?」 「まさか…僕は康太を愛してますよ」 康太は榊原に擦り擦り擦り…と甘えた 榊原は笑って康太の好きにさせていた 部屋に戻ると、康太は自分の携帯を見て…唖然となった 「何…この着信…」 軽く50件は有った… 榊原も覗いて…げっ…となった 康太は仕方なく、兵藤に電話を入れた 『何で電話に出ねぇんだよ!』 兵藤は噛み付いた 「貴史…すまん…右手中指を骨折したわ…昨日…」 と、康太が言うと兵藤は唖然とした 『何で骨折なんて…』 「目が醒めて伊織がいなかったから… 夢か現実か解らなくて…床を殴ったら…折れた」 絶句って…こう言う事を言うんだと…兵藤は思った 『一応、総てお前の詠みの通り…軌道に乗った事を報告しとく』 「清四郎さんをちゃんともてなしてくれたんだろうな?」 『あの人の…役者魂はすげぇわ… 帰る頃には総て吸収して…総理顔負けの風格を醸し出してた お前の義父だからな、ちゃんと、うちの母がもてなした。それだけだ。早く直せ』 「あぁ、近いうちにお礼に行くわ。じゃあな」 簡単な話をして、康太は電話を切った そして榊原に向き直り 「清四郎さん、役に入れたみてぇだな」 と笑った 康太は自室に入らず「一生ん所へ行ってくる」と、言った 「一緒に行く?」 康太は首をふった 「なら僕は仕事してますね。 待ってるので行ってらっしゃい」 榊原は、ドアを開け部屋へ入っていった 康太は客間に…一生に逢いに行った 客間に…一生の姿は…なかった… 「聡一郎、一生は?」 康太が聞く四宮は、「昼には居ませんでしたよ?」と、告げた 四宮はPCを見て仕事をしていた 「隼人は?」 「隼人?昼には居ませんでしたよ?」 康太は…そうか…と、客間を後にした そして携帯を出し…一生の所へ電話を入れた 電波の届かない場所…で、康太は電話を切った そして力哉の所へ電話を入れた ワンコールで力哉は電話に出た 「力哉…一生と一緒か…?」 力哉は答えなかった 康太は…電話を切った それより…一条…だ。 康太は一条に電話を入れた… 「こーた。」 一条は電話に出た 「隼人?お前、何処にいんだよ」 「オレ様は…今、仕事だ。切るな…」 と、言い電話を切った 何だろ?しっくり来ない 最近…何かにつけてしっくり来ない 何だか気持ち悪い【気】が飛鳥井を包み込んでいた‥‥ 胸騒ぎがする 何か嫌な予感がしていた

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