80 / 84

第80話 修行へ

最近…特に感じるのは… 何者かの…陰… 守ってくれる陰は…昔からあった それを邪魔する…存在を… 康太は無視するには… 大きくなりすぎて… 動かざるを得ないと…感じていた 何人にも…オレの邪魔はさせねぇ… 康太は、しっくり来ない日々に覚悟を決めた 康太は一人、源右衛門の部屋へ向かった 源右衛門の部屋に入るなり 「じぃちゃん、オレ修行に行くわ!」と唐突に告げた 源右衛門は「その手で修行か…笑わせる」と一蹴した 「それでも! オレは行かねばならねぇんだよ 今がその時だと…時が告げてる」 「何故そう思う?」 「最近…誰かがオレの妨害してるのか… しっくりいかねぇ事ばかりだ…。 オレは飛鳥井の菩提寺から裏に回り、陰陽師、紫雲龍騎にオレは逢いに行く。」 「伊織は、どうする?」 「連れて行く」 「ならば、行け!」 「オレは消える…行き先は新婚旅行 それで頼む」 「そんな簡単には騙されてはくれんぞ?」 「それでも逝かねぇとならねぇんだよ!じぃちゃん」 「ならば押し通そう! お前は何も心配する事なく修行に参れ 伊織が菩提寺に行く成れば伴侶の儀式をする様に菩提寺に連絡を入れておこうぞ!」 「頼むじぃちゃん」 「お主は三通夜の儀式をするがよい! 真贋としてお主が三通夜の儀式を、伊織が伴侶の儀式を、して参れ!」 「んじゃ!行ってくる!」 康太はそう告げ…源右衛門の部屋を後にした そして自室に戻ると 「今すぐ菩提寺へ向かう!」と告げた 「何日程行くのですか?」 「3日、でも着替えは1日分で良い」 「解りました!」 榊原は少し大きめのバックに二人分の着替えを詰めた 支度が終わると榊原はタクシーを呼んだ タクシーに乗り込むと康太は榊原に説明を始めた 「伊織…4日位…行方不明になる… オレは飛鳥井の菩提寺から裏に回り、陰陽師紫雲龍騎に逢う…。」 「怪我が治ってからじゃダメなのですか?」 「ダメだな オレは何かの妨害を感じている… ひょっとしたら…オレは狙われているかもしれねぇ。飛鳥井家真贋だからな」 携帯、スマホ類は家に置いて来た 位置を特定されると困るから… 「考えても見ろよ伊織…。 オレは最近…妨害ばかり受けて…しっくり来ない。 そればかりか…四悪童は最近…同じ家の中に居ても、全員がバラバラだ…。 そしてオレは…この手を折った時、死にたい気分から抜け出せれなかった だから床を殴った… 瑛兄にしてもそうだ オレを追い詰める事はしない兄がオレを追い詰めた…。 総てが探られて操られてる… しかも…オレの気が弱っている今…狙って来た」 榊原は不安そうに 「狙われてるなら…この様にタクシーに乗ってたら付けられる心配は?」と問い掛けた 「それはない。オレは今神器を持っている だから、オレの位置さえ掴めはしねぇ 伊織、お前は姫巫女の手により伴侶の儀式をやってもらえ。 どの道今も2年後も変わりはしねぇからな!」 榊原は、静かに頷いた タクシーは、飛鳥井の菩提寺に止まった 支払いを済ませると、康太と榊原は菩提寺の門をくぐった 門の中へ入ると、住職が待ち構えていた 「源右衛門から連絡は受けております そろそろ御見えになると御待ちしておりました」 「なぁ住職、此処最近の飛鳥井の気の悪さを、住職の目には映っていなかったのか? オレが妨害を受けているのを察知しておらなんだのか?」 「我等にはそんな力はありません 唯、最近の気は良くはないとは想っておりました 貴方様の黄泉の目の威力を…快く思っていない輩もおります故…危惧しておりました そしたら昨夜…紫雲の方から…明日には来る…と連絡が入りました その矢先に源右衛門の連絡でしからな ならば我等は真贋の想いに報いるしかない! 本殿に治癒が出来る人間をご用意致しました その手を…治して…山へ御上がり下さい。 そして貴方の弱った気を…戻してさせあげます でないと、あの山は登れません。 貴方の伴侶は…本殿儀式の間で伴侶の儀式を執り行います。では此方へ」 住職が康太を招くと門が締まった 「儀式が終わるまで…邪魔はさせません 何人たりとも通る訳にはまいりません 急いで下さい!」 鬼気迫る声に康太と榊原は、早足で本殿に向かった 本殿儀式の間には白拍子の姿の巫女が待ち構えていた そして康太を白拍子の巫女は取り囲み… 真ん中にいた姫みたいな格好をした姫巫女が康太の腕を取った 姫巫女は、康太の指の包帯を取ると…念じるように触った 骨を治癒で治す…巫女達は…一心不乱に鈴を鳴らし祈り…姫巫女は…康太の指を…治癒した 手には金属プレートが握られ…康太の指は… 完全に…折る前の姿になっていた 榊原は信じられぬ顔で康太を見ていた 康太は榊原に「飛鳥井は朝廷の彼方から生き抜いてきた力があんだよ」と、微笑んだ 姫巫女は…康太へ気を…入れる為に近付いた そして榊原に「目を瞑りなさい…」と告げた 榊原は目を閉じた すると姫巫女は…康太の唇にキスをした 姫巫女の胎内の波動を康太へ送り込む 姫巫女の総ての気を…康太の中へ送り込む… 唇を離した時、姫巫女は…立ってはいられない位…疲れきっていた その場に崩れ…榊原の頬に手をあて 「よくぞ堪えてくれました 貴方は心底康太の伴侶に相応しい…」 と、慈愛に満ちた笑みを湛えた 榊原の目の前に現れた康太は…生気に満ち… 光輝いていた そしてニカッと笑う顔は…元気に満ち溢れた、何時もの康太だった 「伊織、オレは此れより山を登る お前は伴侶の儀式を此処で受けろ まぁ伴侶の儀式って言っても…オレの伴侶は男だからな…どんなのかは解らねぇ… 堪えてくれ伊織…」 榊原は、クスッと笑いながらも頷いた 「君の伴侶として…正式に認められるように頑張ります」 と、言い…お辞儀をした 康太はそれを振り切るかの様に榊原に背を向け 「んじゃあ、伊織、終わったら逢おう」と告げ歩いていった 本殿儀式の間に残った伊織は、姫巫女に此方へ と、案内され…歩き出した 康太は菩提寺の裏に聳える山を登る為に、本堂の裏へ回った これから先が孤独で険しい…道なき道を通って…頂上の紫雲龍騎の元へ行くのだ 剥き出しの険しい岩場を掴み、崖を腕の力だけで登り 獣道を…草を薙ぎ倒し通る 道なき道を…康太は必死で登った 休んでいては…歩けなくなるから… とにかく進む… だけどロッククライミング…の様な絶壁は、気を抜いたら…奈落へ堕ちる 指を骨折してたら登れはしない…だからこそ姫巫女は手を治してくれたのだった 一心不乱に岩場をを登る 絶壁を登り、道なき道を進み… また上を目指して絶壁を登る 日が沈む前に登らねば…夜を此処で越さねばならない 狼も獣も…この世のモノでないモノも…うようよ蠢く…この山で…夜を迎えるのは死に価する そして中腹を越えた頃から…体が楽に動く様になっていた 紫雲龍騎が力を送り込み…康太を導いているみたいに… 康太は残り半分を一気に上がった 顔は汚れと日焼けで真っ黒で、着ている服は雑巾みたいで、爪は割れ傷をおいながらも 康太は頂上まで…登りきった 登りきって、山頂の神殿に走って行った 神殿の扉を開けると…時代が朝廷の時代へタイムスリップしたかの様な空気が研ぎ清まされた…場所に出た 神殿の奥の、御簾に人影を見付け康太は膝を着いた 「飛鳥井康太…只今参りました」 康太は御簾の人影に到着を告げた すると御簾が上がり…平安の世にいるような高貴な人間が立っていた 「久方ぶりだな、康太」 「はい。山を降りて以来で御座います」 康太の前に現れたのは、紫雲龍騎 現世最高の陰陽師だった 「鈍ったな康太…。亭主と愛欲の日々に鈍りが出たか…」 紫雲は康太へ熾烈な言葉を投げ掛けた 「言い訳はしません 愛する伴侶故求められれば足は開くのは当然。目を瞑られよ。」 「まぁ新婚故見過ごしてやろうぞ…」 紫雲は苦笑して、奥へ上がるように促した そして胡座をかいても良いと許可が出て、康太は紫雲龍騎の前で胡座をかいた 「お前は飛鳥井の稀代の真贋…良く思わない輩はウヨウヨおるであろうて! 邪魔に惑わされないように…せねばななるまいな」 「だから、貴方の所へ修行に来ました」 「ならば三通夜の修行に入るか…眠れると思うなよ」 紫雲の瞳が光った… 康太はその瞳を見返し、覚悟を見せた

ともだちにシェアしよう!