81 / 84

第81話 三通夜の儀式

紫雲龍騎は、百年…菩提寺に伝わる秘伝の巻物を手に取ると、呪文を唱えつつ巻物を開き、康太へ投げ付けた すると巻物は康太の前で…広がり…一枚の紙になった 「此れを修得しなければ…山から下ろさぬ 今頃はそちの伴侶も、伴侶の儀式をやっている。 百年振りの男の伴侶だからな…彼方も命をかけておるわ。 お前等は互いを信じて乗りきらねば…明日はないと思え」 「絶対に、オレも伊織も…目の前の試練をクリアして…家へ帰る。 そしたら再び高校生として過ごし遺りの時間を楽しむつもりだ!」 「ならば逝け!」 巻物の文字が、紫雲の掛け声と共に康太の中へ吸い込まれて消えて逝った 康太は本殿横にある、洞窟に向かった 此れからは…自分との戦い… そして榊原を信じて乗りきらねば…命のない戦いへと突入する 康太が洞窟へ入ると、時を同じくして榊原の伴侶の儀式も始まっていた 儀式の間奥の開かずの間に榊原は通されていた 姫巫女は「自分を信じて、康太の愛を信じて、この部屋から脱け出しなさい。 康太の愛を信じ抜けば、道は自ずと見えてくる。さぁ行きなさい!」 榊原は決意を秘めた瞳で頷き、開かずの間の扉を開き中へ入った 康太の入った洞窟の中は…真っ暗だった 榊原の入った開かずの間は…真っ暗だった 康太は 榊原は 暗闇に目が馴れるまで動かなかった 気持ちは1つ 思いは1つ その気持ちが強ければ 強い程…心は重なる… 康太は気合いを入れる為に、叫んだ 「オレは伊織と共に家へ帰る!」 康太は未だ高校生なのだ…学園生活を楽しみたかった 榊原は、康太の声を感じていた‥… 榊原も、康太と共に帰る! 気持ちは1つだった 洞窟の中に足を踏み出す 一歩先はこの世には非ず… 暗闇に紛れて魑魅魍魎がおそいかかって来た 康太は念じた… 「コイツらを斬れる刃を出せ!」と。 すると、掌に頭身の長い刀が掌に限界した 康太は鞘を抜くと、刀は焔を上げてメラメラと燃えていた 「悪くはねぇな!」 康太はほくえみ魑魅魍魎をバサバサ斬り着けた 目の前を立ち塞ぐモノは総て斬った 「オレの道を塞ぐんじゃねぇ!」 康太が刀で切ると…魑魅魍魎はパラパラと崩れて…消えた 暗闇に足を取られて転ぶ… その体を取り込もうと腕が掴まれ… ふらつき壁に凭れると…壁から腕が出て…首を閉められた もう何時間…そうやって…戦ったのか解らない 一分かも… 何時間なのかも… 時間と言う感覚がなくなっていた 康太は立ち上がると、足に力を込めて踏ん張った 「イチイチ面倒くせぇな」 そう言うと刀を地面に着けたまま…走り出した 紅蓮の焔が一筋の道を作りが…照らした… 焔の光に近付けぬ魑魅魍魎は蠢き‥‥悔しがっていた 康太は目の前に現れた人間の姿をした… モノを躊躇う事なく斬った 斬って進むと…目の前に…飛鳥井瑛太が姿を現した 「康太…探しましたよ…さぁ一緒に帰りましょう…」 と、手を差し出す…兄を…康太は躊躇う事なく…袈裟斬りにした 目の前の瑛太が… 『何故…』と、驚愕の瞳で康太を見て……消えた 斬っても…直ぐに…康太の家族が現れる 康太は、兄達を弟を…そして父母祖父を躊躇う事なく切った 榊原の家の家族も現れ…それさえも康太は斬った その先へ刃先を着けて走る… 紅蓮の焔を散らし走った… すると、四宮が現れた 「康太…我ら四悪童、絆は絶対なのに何故君は一人で何処へでも逝ってしまうのですか?」 四宮は悲しそうに呟いた 康太は「んとに‥趣味が悪りぃんだよ!」 と叫び斬った 一条が「こーた、淋しいのだ」と訴える だが康太はその声に耳も貸さず現れ…斬った 家族を手にかけ…兄を斬り…兄弟を消し去り… 友を…葬り去った… 目の前に緑川一生が現れ… 『お前は俺も斬るのか? 一緒に生きて来たのに…』 と、涙を流し…康太を見た 康太は、息を飲み…その姿を斬った 絶対に惑わされねぇ! 康太は目を見開き…真実を…自分を…そして榊原を信じた だが心が…挫けそうになる 目の前の愛する人を殺さねばならないのだから… あれは違うと解っていても… その姿を斬るのは…物凄い想いと決断が要る… だが康太には確証があった もしも…康太が刃を向けたなら… 飛鳥井瑛太は両手を開き死を受け入れてくれるだろう 緑川一生は瞳を綴じ…静かにそれを受け入れるだろう 四宮に至っては笑顔で斬られるだろう‥‥ 一条隼人も然り そして榊原伊織は……… 榊原を想っていると目の前に …愛する榊原伊織が現れた 康太に腕を差し出し近付く 『愛してます…僕の康太』 目の前の榊原伊織は、康太の愛する榊原伊織と寸分違わぬ姿をしていた ひょっとして…これは本物と躊躇しそうになる心を奮い立たせて 康太は「オレの前に出るんじゃねぇ!」 と、榊原を紅蓮の焔で焼き払った 「オレの愛する家族や友は… オレが刃を向けたなら… 総てを受け入れて黙って斬られる オレの愛する伊織も然り! 幻影などには惑わされはしない」 闇に向かって康太は吠えた 「最後は本物だと申したらお前はどうする? 愛する男をその手で斬り捨てたのだぞ?」 「それがどうした! オレの伊織なら、オレの為に喜んで命を投げ出してくれる!」 康太は魂を絞り出すかの様に叫んだ すると辺りが明るくなり、目の前には紫雲龍騎が立っていた 「合格です! 2晩で成し遂げるとは流石。 君の伴侶も、時を同じくして君を斬りつけ開かずの間を出ている頃です」 紫雲は優しい顔をして微笑んだ 「約束は三通夜…後一晩書物を読んで過ごされよ。 そしたら伴侶の元へ返してやろう」 紫雲は康太の目の前から消えた… 式神を飛ばして来たのだ… 康太は明かりの灯った洞窟を外へと出て、本殿に戻った 手には…洞窟で出した真剣が握られたままだった 紫雲は真剣を康太から受け取ると 「総てを引き継がれたら持ち歩かずとも刃は限界致しましょう ですが今は無理なので、持ち運べるサイズにパレスを合わせましょう」 そう言い刃の頭身を縮めて、康太の手に返した 「その刃はお主が出した刀だ、持っていろ 鞄にも入るサイズにておいた ならば湯を使われて体躯を清められたら、神殿横の書物庫で後一日過ごされよ」 康太は紫雲に御辞儀をして、浴室に足を運んだ 着ているもの総て脱いで、浴室の水を被った そして手早く汚れも穢れも落とすと、犬の様にブルブルふって、体を拭いた 着替えが藤の篭に入っていて…白い着物に袖を通した その頃榊原も真っ暗の開かずの間の中で 戦う刃を出し、戦っていた 愛する家族を斬り 飛鳥井の家族を斬り 一生や四宮…そして一条を斬り捨て 最後に愛する…康太を手にかけた 「伊織…愛してる…」 と言う康太を見れば榊原は、躊躇しそうになった 怯みそうになった時…榊原の頭の中に康太の声が響いた 「オレを斬れ伊織… ソイツはオレであってオレではない! 伊織の手で斬れ!」 と、康太の声に導かれ榊原は愛する康太を斬り捨てた 愛する康太は目の前で…粉の様に崩れて消えた その時…開かずの間に光が灯り…辺りが明るくなった 「合格です。 康太の伴侶は男…少しレベルを上げた試練に見事打ち勝ちましたね。 その刃は貴方が限界した貴方の刀ですので護身用に持っていると良いでしょう ですが、このサイズでは持ち運びは難しいので、パレスを縮めて差し上げるので出掛ける時は持って行きなさい」 榊原の目の前には姫巫女が姿を現した 姫巫女は榊原の手の中の刀を手にすると、呪文を唱えてパレスを縮めた その刃を榊原に渡した 「康太とは正反対の蒼い氷の様な刃に魅入られそうでした 誠、見事に伴侶の儀を終えられた事を嬉しく想います」 姫巫女は榊原に深々と頭を下げた 顔を上げると優しい菩薩の様な笑みを浮かべ 「最後は康太とシンクロしましたね 絆が深い分…多目に見ましょう 康太も時を同じくして修行を終わらせました 浴室で清められたら、書物庫でそなたも一日過ごされよ」 姫巫女の手が襖に差し出されると扉は開いた 榊原は部屋の外に出ると、巫女に案内され浴室で体を清め、脱衣所に出されていた着替えの白い着物を着た その後書物庫に通され、莫大な書物の中から…一冊の本を取り出し榊原に渡された 「これは伴侶の貴方へ、差し上げます。 お読みになって過ごされよ」 と、言い姫巫女は去って逝った 一人にされ、榊原は静かに読書をして過ごした その頃…飛鳥井の家は騒然としていた 飛鳥井の家から…康太と榊原が消えたのだ… 飛鳥井の家に康太と榊原の姿がない事に違和感を感じていた そして夜まで還らぬ事態に、家族は家中探していた 何処にも姿がないと思案に暮れ康太と榊原の携帯に電話を入れた すると康太の部屋で電話は鳴り響き… 携帯を置いて行った事を知った 家族や一生達はあ然となり‥‥言葉を失った そこへ源右衛門が出て来て 「康太と伊織は新婚旅行に行ったわ 決して探すな…詮索するな… 康太の総てが無になるわ…黙って過ごせ」 と出て来て、騒ぐ家族を怒鳴り付けた そうなったら…もう家族は何も言えなかった 源右衛門が動いて 康太と榊原が消えた… 新婚旅行に行ったわ…と、言われても そんな甘い場所には行く筈がないと全員わかっていた 解っていたが…何も言う事すら出来なかった 「康太と伊織は…4日もすれば帰ってくる 騒ぐでないぞ!」 源右衛門は、4日もすれば帰ってくる…と謂った 何処で…何をしているか知っていて、康太の居所を言わないのには訳があるのだ 四日目の朝、書物庫のドアが開き康太は外へ出た 外へ出た康太を出迎えたのは、紫雲龍騎 「誠に…飛鳥井の家の中で終わらせるのは惜しい…。 どうだ?私の後を継がぬか?」 10年前に山を降りる時も、紫雲はそう言った 「オレは飛鳥井康太だから、それ以外にはなれねぇ」 康太がそう言うと、紫雲は笑って指差した 「帰りは一本道で楽じゃ さぁ伴侶の元へ還るがよい!」 康太は紫雲に一礼すると、歩き出した 滑らかな一本道を歩いて行くと、飛鳥井の菩提寺が見える 康太は苦笑する 「最初からこの道で行けたら、すっげぇ楽なんだけどな…」って…。 すると頭上で『戯け、それでは修行にならんわ』と声がする 「龍騎…その調子で…時々オレと伊織のエッチを盗み見すんのは止めて欲しいんだけど…」 『お前等の結びは激しくてな… 刺激になるわ』と、高笑いが聞こえた 康太は菩提寺の中へ入り、本殿に向かった そして目の前に現れた榊原に飛び付いた 「伊織!」 胸の中に飛び込んで来た愛しい康太を榊原は強く抱き締めた 「康太…」 榊原は、その手に確りと康太の温もりを確かめていた 「康太…着替えたら、住職が逢いたいと仰ってます。着替えますよ」 康太は榊原に服を着替えさせてもらい、住職に逢いに本殿広間へと上がった 住職は康太の姿を見ると、深々と頭を下げた 「康太殿、無事下山おめでとう御座います 伊織殿、無事開かずの間の攻略おめでとう御座います 私から貴方達に、神器をプレゼント致します この鏡は魔を払います 是非身に付けて御過ごしください」 僧侶が手にした鏡は…鏡と名の付く… 青銅で出来てる硝子の入ってない鏡の神器だった 身に付けて‥‥と、謂うには無理な大きさの鏡だった 康太は「身に付けるには大きいやん」とボヤくと 住職は、手の中で指輪大の大きさにして、康太と榊原に渡した 「その首の指輪に重ねて付けられよ その様に巫女達に大きさを合わせて作らせました」 康太は榊原の首のネックレスを外すと神器を通し、また嵌めた 榊原も康太のネックレスを外すと神器を通し、また首に嵌めた 「お二人は素晴らしき伴侶なり 互いを信じて互いを乗りきった 此れからも飛鳥井の為家の為にどうかお二人で試練を乗り切って下され」 住職の言葉に康太は頷いた 「では、帰る!またな住職。」 住職は、頭を下げた 康太は立ち上がると迷う事なく歩き出した 一旦部屋に戻って着替えのバックを取りに行くと、菩提寺を後にした

ともだちにシェアしよう!