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第18話 思い人の悪口への怒り
進一郎が、冬多に放課後の約束を取り付けたとき、
「よー、おはよー。進一郎」
クラスメートの男子たちが声をかけてきた。
途端に、冬多は体を強張らせた。
「あ、佐藤くん……、じゃ、じゃあ、僕、先行くね……」
消え入りそうな声で言うと、逃げるようにその場から走っていってしまった。
男子生徒たちは、その後ろ姿を一瞥してから、進一郎へ訊ねた。
「なに? 進一郎、トロ多なんかとなに話してたんだ?」
「別に」
進一郎の声に不機嫌さが混ざる。
もっと冬多と話していたかったのに……。
「トロ多のバカ、おまえのモテオーラにあやかろうとでもしてるんじゃないか?」
「それは愚かってやつじゃね? 進一郎とトロ多では、もう土台が全然違うんだからよー。だいたいさ、トロ多のせいでうちのクラスの顔面偏差値、低くなってそう」
「言えてる。あの眼鏡と前髪、ありえねー。ちょーキモ。アニメの美少女見て、マスかいてるね、あれは」
「やめろ!」
進一郎の激しい怒気を含んだ声が、彼らの悪口を一瞬にしてとめた。
「な、なんだよ? 進一郎。オレたちは、トロ多なんかと仲良くしてたら、おまえの人気にまで障りが出ると思って、言ってやってんのによー」
切れ長の瞳に鋭く睨みつけられ、男子生徒たちが臆しながらも、不満そうな口ぶりで言う。
「そうだよ。きっとトロ多のやつ、進一郎のおこぼれの女の子にでもありつこうとしてるんだって」
進一郎はクラスメートたちを睨む瞳をより鋭くとがらせた。
端整な美貌は、怒るとかなり迫力があり、その怒りのオーラのすさまじさにたじろぐクラスメートたちへ、
「あいつを……冬多を悪く言うな……!」
言葉を吐き捨てると、進一郎は、足早に歩き出した。
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