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第22話 思い人の部屋

 冬多のマンションのエントランスは番号入力で開くタイプものだ。  細い指で八ケタの数字を入力する冬多に、ドキドキと胸を突き破りそうな鼓動を抱えながら、進一郎は聞いた。 「八ケタの番号って長いから、忘れちゃわないか?」 「語呂合わせで覚えているから……」  そしてその語呂合わせを教えてくれた。  なるほど。  確かに忘れないですむ方法だ。  冬多の部屋は十階にあった。 「どうぞ……、佐藤くん……」 「お邪魔します……」  好きな人の家へ上がれるうれしさと、彼の家族と対面するかもしれない緊張で、進一郎はまさしく心臓が口から飛び出そうな心地を味わっていた。  広々とした部屋はなんだかガランとしていて、生活感があまり感じられなくて、どうやら冬多の家族はまだ帰って来ていないようだった。  進一郎が腕時計に視線を落とすと、もう二十時前である。 「ご家族、まだ仕事なのか?」 「……僕、一人暮らしだから……」  冬多が、広いリビングのソファへ座るよう勧めてくれながら、答える。 「え? 一人暮らし?」  部屋はどう見ても2LDKはある。今いるリビングだけでもかなりゆったりした広さだ。  単身者向け……それも高校生の一人暮らし用のそれではなく、夫婦か家族向けの部屋にしか思えない。 「うん。……両親と妹は隣の町に住んでる……」  そう言って、目を伏せた冬多は、とても哀しそうで……。  進一郎は彼を抱きしめたい衝動に駆られたが、それをなんとか抑えた。  冬多がよく冷えたミネラルウオーターのペットボトルとコップを進一郎の前のテーブルに置き、自分はテレビの下にあるラックを探り始めた。

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