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第25話 誰よりも大切な人
「……佐藤くん……、本当に……、本当に、僕なんかで、いいの……?」
冬多は縋りつくような声で聞いてきた。
「冬多……」
進一郎の胸が切なさと、彼に対する愛しさでいっぱいになる。
進一郎は腕を伸ばして、冬多の震える体を抱き寄せると、自分の腕の中へそっと包み込んだ。
「冬多が好きだよ……、冬多じゃなきゃダメなんだ……」
「佐藤くん……」
冬多の体の震えはとまらない。
進一郎は心の奥深くから込み上げてくる恋慕の赴くままに、彼を抱きしめる腕に力を込めた。
冬多の体が、怯えたように強張ったのを感じて、進一郎は彼の耳元で優しく囁いた。
「怖がらないで……、冬多。おまえが嫌がることは絶対にしないから。大切にするよ……、冬多……、だから……」
傍にいさせて。
「……佐藤くん……」
やがて、冬多の体から強張りが解け、進一郎の胸に小さな頭をもたせかけてきた。
「……僕も……好き……。佐藤くん……」
消え入りそうな小さな声で、でも冬多もまた進一郎が好きだと言ってくれた。
「……冬多」
進一郎の胸に甘い疼き。
こんなにも誰かを大切に思ったのは初めてのことだった。
「好きだよ……、冬多……好きだ……」
夏が終わり、風に秋の香りを感じた夜、進一郎と冬多は恋人同士となった……。
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