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第26話 笑顔を守りたい
進一郎と付き合いだしてから、冬多はよく笑顔を見せてくれるようになった。
眼鏡を外した顔はまだ見せてはもらっていないけれども、二人きりのときは、進一郎が新しくプレゼントしたブルーのヘアクリップで長めの前髪をまとめ、綺麗な額をあらわにしている。
ホラー小説の話をしているときは時間を忘れて夢中になれるし、ホラーdvdを二人で観るのは一人で観るより、何倍何十倍と楽しい。早い話が、好きな人といると、どんなひとときだって夢のように楽しい時間となるわけだ。
冬多は笑うと真っ白な歯が綺麗で、前歯の真ん中の二本だけが少し大きくて、それが小動物を思い起こさせて愛らしい。
いつも、どんなときでも、彼には笑顔でいて欲しいと思う。
学校では相変わらず、おどおどと、なにかに怯えているような感じの冬多。
進一郎は、すべての不安や苦しみから、彼を守ってあげたいと思っていた。
純愛を貫いているな、と、進一郎は自分でも感じている。
付き合っているといっても、二人はまだ完全なプラトニックだった。
冬多の柔らかな髪を撫でたり、額にやさしいキスをしたり、そっと、繊細な硝子細工に触れるように抱きしめたり……。二人の恋人同士としてのスキンシップはそこまででとまっている。
冬多のほうは、その手のことにはまったくの奥手だからともかく、進一郎は高校二年生として人並みの欲望は持っている。
ときには冬多のすべてを手に入れたいと思ったり、もっと深くお互いを感じ合いたいと、雄としての心が疼くこともあって。
けれど、それこそ性急にはしたくない。
心を開いてくれている冬多を傷つけることだけは、したくなかった。
進一郎は自分でも信じられないくらい、冬多に対しては紳士然としていた。
それに、と進一郎は思う。
なによりまずは、眼鏡を外した本当の素顔を見せてもらわなきゃな……。
……しかし、進一郎のその願いは、意外な形で現実となってしまうのであるーー。
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