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第28話 不穏な前触れ
バン! と冬多の横のロッカーへミヤチの蹴りが入った。
冬多の体がビクッと震える。
前方からクスクスと女子生徒たちの忍び笑いが聞こえた。
ミヤチが続けて冬多に凄んだ。
「おい、なんとか言えよ。どうやって進一郎に取り入ったか聞いてんだよ、トロ多」
ミヤチの舎弟的男子が口をはさむ。
「オレ、なんか聞いたことあるわ、ミヤチ。確かトロ多の親父ってすっげーでかい会社の社長でちょー金持ちだって」
それを聞いて、ミヤチがなるほどと薄笑いを浮かべた。
「はーん、金で進一郎を釣って仲良くしてもらってるわけか。それだったら、オレらだって金さえくれれば、いっくらでも仲良くしてやるぜ。トロ多くん」
この言葉にはさすがに冬多も腹が立った。
自分が馬鹿にされたり、軽蔑されたりするのはもう慣れっこだし、腹も立たない。
だが、進一郎のことを悪く言われるのだけは我慢ができなかった。
冬多はうつむいていた顔をあげると、眼鏡と前髪越しにミヤチを睨みつけた。
「佐藤くんはそんな人なんかじゃない!」
ミヤチはよもや冬多が反発するとは思っていなかったのだろう、一瞬戸惑い、そして戸惑いはすぐに怒りへと変わったようだった。
「むかつく。トロ多のくせになに言い返してんだよっ!」
ドン、と冬多の肩を力任せに突くと、ミヤチは制服のポケットからカッターナイフを取り出した。
カチカチカチ……と、鋭く光る刃を伸ばして、冬多の目の前にかざしたかと思うと、シュッと風を切るような音がして、冬多の制服のブレザーが十センチほど切られた。
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