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第32話 見えない真相
冬多の宝石のような瞳は、進一郎がたじろぐほどの敵対心を浮かべていた。
「冬多……、いったい――」
進一郎が言いかけた言葉を冬多が遮った。
「オレは冬多じゃない。シゼン、だ」
「え……?」
意味が分からず、ただ立ち尽くすだけの進一郎に構うことなく、冬多は教室を出て行き、廊下を足早に歩いていく。
廊下にいる生徒たちのざわめく声が聞こえてくる。
冬多がいなくなった教室はようやく凍り付いていた空気が溶けだして、一人の女子生徒がポツリと呟いた。
「……今の、本当にトロ多?」
彼女の声によって、パニックのあまり完全に思考停止に陥っていた進一郎が、弾かれたように教室を飛び出し、冬多のあとを追った。
「冬多!」
階段の手前の踊り場で彼に追いつき、手をつかまえ自分のほうを向かせて冬多を問い詰めた。
「冬多? どうしたんだよ……? おまえ、いったい……」
困惑しきった進一郎に、冬多は敵を見るような視線を寄越してくる。
「オレは冬多じゃない、シゼンだって、言ってんだろ」
「冬多……」
「気安く呼ぶんじゃねーよ、冬多のことを」
「…………」
進一郎はもうなにがなんだかわけが分からす、どうすればいいのかも分からなかった。
……これは演技? 冬多が演技をしてるのか? でも、なんのために?
ミヤチたちから逃げるため? ……いや。オレにまで演技をしなければいけない理由がない……。じゃあ、いったい……。
進一郎の混乱と狼狽に追い打ちをかけるように『冬多』は言った。
「冬多はオレのものだ。あんたには渡さない」
――――?
惑乱を極めた進一郎に、『冬多』はしばらく憎悪と言っていいくらいの激しい敵意を向けていたが、唐突にフッと瞳から鋭さが消えた。
同時に冬多の体がグラリと大きく傾く。
「冬多っ!」
進一郎が腕を伸ばして体を支えてやると、力なく腕の中へ落ちてきた。
「冬多? 冬多……!」
腕の中で冬多は気を失っていた。
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