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第33話 彼になにが起こったか

 マンションの冬多の部屋。  進一郎は冬多をベッドへ寝かせた。まだ彼は意識を取り戻さないが、呼吸は穏やかだ。  学校での信じられない出来事のあと、進一郎は気を失った冬多を背負い、彼のマンションへと戻ってきた。  エントランスのオートロックは以前彼に語呂合わせで教えてもらっていたし、ドアの鍵は鞄の内ポケットに入っていた。  進一郎はベッドの傍に座り、冬多の綺麗な顔を見つめていた。  いまだ心の中の惑乱はおさまってはいなかった。  いったい冬多になにが起こったというのか。 「冬多……」  ぽつんと呟き、なめらかな肌にそっと触れる。  姉の玲奈が言っていた通り、眼鏡と前髪に邪魔されない冬多はとても綺麗だ。  でも……。  さっきの別人のような彼を思いだすと、進一郎の胸はえぐられるように痛む。  冷たい声と瞳、憎しみのこもったまなざし。  どんなに綺麗でも、嫌だ。あんなのは冬多じゃない。オレの知ってる冬多じゃ……。  不意に進一郎は激しい不安に襲われた。  オレの知っている冬多はいったいどこへ行ってしまったんだろう?  目の前のベッドで眠る彼が目を覚ましたとき、冬多はもとに戻ってくれてるのだろうか?  もし、冬多がオレの知っている冬多に戻ってくれなかったら……。  恐怖と不安で進一郎の体がカタカタと震える。  どれくらいそうして不安な心を抱えて震えていただろうか。  ふと彼が小さく身じろぎしたかと思うと、瞼がゆっくりと開かれていく。 「冬多……!」  進一郎は祈る気持ちで、大きな瞳が開かれていくのを見守っていた。  宝石のような瞳が焦点を結び、やがて進一郎のほうへ向けられた。

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