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第35話 頑なな自己否定
「無理しないほうがいいよ。とにかくちょっと休んで」
ベッドに半身を起こしたままの冬多を横になるように促す。
「うん……、でも……、あ、あれ? 僕、眼鏡は!?」
額に手を当てたときに、自分が眼鏡をしていないことに気づいた冬多は、ひどく狼狽し、慌てて長い前髪と両手で、顔を隠してしまった。
こんなに綺麗なのに、どうしてここまで自分の顔を見られるのを厭うのかと、進一郎は不思議だった。
「……さっき自分で外して教室に投げてたよ? オレもあのときは眼鏡どころじゃなかったからな。壊れてなければいいんだけど。眼鏡なかったら不便だろ? なんならオレ学校戻ってとってこようか?」
「あ、ううん……。ありがとう。でも予備の眼鏡があるから……」
冬多はそういうと、サイドテーブルについている小さな引き出しを開け、中から眼鏡を取り出した。
予備の眼鏡は、フレームの色が黒から濃い茶色に変わっただけのまったく同じ形のものだった。
冬多はそれをかけると、ようやく落ち着いたようで、進一郎のほうを見て、謝った。
「ごめんね……、佐藤くん。なんか……いろいろ迷惑かけちゃったみたいで……」
「いや、そんなことはいいんだけど……、なあ、冬多、聞いていい?」
「……うん」
「どうして、そんなに自分の顔を見られるのが嫌なんだ?」
途端に冬多はビクッと体を強張らせて、消え入りそうな声で言った。
「……それは……、自分の顔が嫌いだから……」
「自分の顔が嫌い? じゃもしかしてその前髪……」
冬多は小さくうなずいてから、なにかを逡巡していたが、やがて決心したように口を開いた。
「眼鏡もね、そうなんだ……。僕、本当はそこまで目は悪くないんだけど……。どうしても、眼鏡がなければ、不安で……」
「不安……?」
「そう……。だって、眼鏡と前髪がなければ、みんなが僕を見て、不愉快になるから……」
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