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第37話 気弱な恋人のお願い
あらわになる宝石のような瞳。
進一郎が長い前髪をかき上げるようにして、彼の綺麗な瞳を覗き込むと、冬多はおどおどと視線を彷徨わせる。
さっき教室で見たときと同じ、圧倒されるような美貌。
けれども、今、目の前にいるのは、確かに進一郎が恋をしている冬多だ。
こんなに愛らしい顔立ちをしているというのに、自信無げに視線を泳がせている。
優しくて、攻撃的な雰囲気はまったくない、誰よりも大切な恋人。
シゼンと名乗った、あのときとの決定的な違い。シゼンは声も瞳も雰囲気さえも、凍てつく氷のようで、そのまなざしのきつさで人を傷つけてしまいそうなほど……。
……本当にまったくの別人のようだった。いや、体は一つなんだから、別人格と言ったほうが正しいのか。
……別人格……?
「……佐藤くん……?」
物思いに沈んでいた進一郎を冬多が遠慮がちに呼んだ。
「あ、うん。なに? 冬多」
進一郎はいったん考え事を頭の隅に追いやった。
冬多は目を伏せて、オズオズといったふうに口を開いた。
「あの、あの、ね。佐藤くん……、あの、今夜、一緒にいてくれないかな……? なんか、僕……、こわくて……、自分が……」
精一杯の勇気を振り絞ったかのような冬多の願いだった。
「うん。いいよ。冬多……」
とても不安なんだろうな、と進一郎は胸を痛めた。
一時間近くものあいだ、完全に記憶が飛んでしまっているのだから。こわくて、不安でたまらないはずだ。
進一郎が恋人の憂い顔を心配していると、不安に怯えていた冬多が不意になにかに気づいたように、真っ赤になって慌てだした。
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