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第41話 二重人格 

 進一郎は自宅へ帰り着くと、自室へと直行し、パソコンで〈二重人格〉と打ち込み、調べた。  ――二重人格・多重人格の診断名は解離性同一性障害。二つの別個の人格が現れるときが二重人格。三つ以上の人格が現れるときが多重人格。  それぞれの人格は、独自の名前、記憶、行動様式、性格を持っており、刺激に応じて突然交代するのが特徴的で……――。  進一郎は何度も説明を読み、考え込んだ。  冬多の昨日の豹変は、この解離性同一性障害、いわゆる二重人格の症状だったのだろうか?  確かに当てはまる部分は多い。  いつもの冬多とはまったくの別人のようだったし、自分のことをシゼンと名乗った。  だが、冬多本人には、『シゼン』になっていた時の記憶はまったくない。  でも……。  シゼンと名乗ったほうは冬多のことを知っているようだったけれど、そういうこともありえるのだろうか? 「うー……」  進一郎はパソコンの画面を前に、思わずうなってしまった。  どう考えても、昨日の冬多の変化は普通じゃなかった。  けれども、二重人格とか多重人格とか、そういったことが、自分の近しい人に起きるなんて信じられないという気持ちも一方ではあって。  ウツやパニック障害、強迫神経症……そういった聞きなれた心の病は、ストレスが多い世の中だから、悲しいことだが珍しくはないと思う。  でも、二重人格と言われれば、どうしても小説やテレビドラマの中だけのもののような気がしてしまうのだ。現実に、冬多の豹変を目の当たりにしているのに。  世の中には、この病で苦しんでいる人たちが確かにいることも分かっているのだが、心のどこかに、『自分が乗る飛行機は落ちない』といった類の、根拠のない思い込みのようなものがあって。  どうしたらいいんだろう……。  医者へ行くように言うべきなんだろうな。でも、なんて言って? 「二重人格かもしれないから、一度診てもらおう」とでも言うのか? 冬多に過剰な不安をあたえずに、言えるだろうか?  進一郎は頭を抱えて、すっかり途方に暮れてしまった……。

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