43 / 94

第43話 恋人のもとへ

「冬多……」 《こういうのって、ホラー小説とかでもあるよね……。二重人格とか言って……。僕の中に知らない誰かがいるんじゃないかって、そんなふうに考えてしまって……》  ああ……、冬多もそこにたどり着いてしまったか。  進一郎は自分の力のなさに、臍を噬む思いだった。 《佐藤くん……、僕、こわい……》  冬多が消え入りそうな声で呟いた。 《こわいよ……》  進一郎はスマートホンを顎と肩で挟みながら、急いで立ち上がると、椅子の背にかけてあるハーフコートをつかむ。 「冬多、オレ、今からおまえのところへ行くから。大丈夫。怖くないよ、オレがいるだろ……? 冬多」  進一郎はそう言うと、ハーフコートを羽織り、家を飛び出した。  不安なのは進一郎も同じだったけれど、でもせめて彼の傍にいてあげたいと思った。  マンションに着くと、オートロックのエントランスを開けてもらい、エレベーターで十階に着くと、冬多の部屋の前でもう一度インターホンを鳴らす。  部屋の扉が開くのと同時に、冬多の細い体が進一郎の胸にぶつかるように飛び込んできた。 「佐藤くんっ……」  カタカタと小さく震える体をしっかり受け止める。 「冬多……、もう大丈夫……、オレがずっと傍にいるから……」 「うん……、佐藤くん……」  進一郎は幼子をあやすように、冬多の背中を優しく撫でながら言った。 「冬多、とりあえず、中に入ろう。ここはとても寒い……」  二人は彼の部屋の前で抱き合っていた。  まだ真夜中と言うほどの時間ではないが、それでも静まり返った空間では、話し声と言うのは思いのほか響く。  それに冬多はお風呂から出たばかりなのか、髪は濡れていて、室外の冷たい空気にさらされていると、風邪を引いてしまう。

ともだちにシェアしよう!