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第43話 恋人のもとへ
「冬多……」
《こういうのって、ホラー小説とかでもあるよね……。二重人格とか言って……。僕の中に知らない誰かがいるんじゃないかって、そんなふうに考えてしまって……》
ああ……、冬多もそこにたどり着いてしまったか。
進一郎は自分の力のなさに、臍を噬む思いだった。
《佐藤くん……、僕、こわい……》
冬多が消え入りそうな声で呟いた。
《こわいよ……》
進一郎はスマートホンを顎と肩で挟みながら、急いで立ち上がると、椅子の背にかけてあるハーフコートをつかむ。
「冬多、オレ、今からおまえのところへ行くから。大丈夫。怖くないよ、オレがいるだろ……? 冬多」
進一郎はそう言うと、ハーフコートを羽織り、家を飛び出した。
不安なのは進一郎も同じだったけれど、でもせめて彼の傍にいてあげたいと思った。
マンションに着くと、オートロックのエントランスを開けてもらい、エレベーターで十階に着くと、冬多の部屋の前でもう一度インターホンを鳴らす。
部屋の扉が開くのと同時に、冬多の細い体が進一郎の胸にぶつかるように飛び込んできた。
「佐藤くんっ……」
カタカタと小さく震える体をしっかり受け止める。
「冬多……、もう大丈夫……、オレがずっと傍にいるから……」
「うん……、佐藤くん……」
進一郎は幼子をあやすように、冬多の背中を優しく撫でながら言った。
「冬多、とりあえず、中に入ろう。ここはとても寒い……」
二人は彼の部屋の前で抱き合っていた。
まだ真夜中と言うほどの時間ではないが、それでも静まり返った空間では、話し声と言うのは思いのほか響く。
それに冬多はお風呂から出たばかりなのか、髪は濡れていて、室外の冷たい空気にさらされていると、風邪を引いてしまう。
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