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第45話 家族の不在
「……はっきりそうだと、言えることは、なかったかな……。でも、前から、ときどきだけど、宿題をするのを忘れたはずなのに、次の朝になったら、できていたり……。全然勉強した覚えがないテストが、すごくよく分かったり……とか、そういうことならあったけど……。でもずっと気にしていなかったし、勘違いかなとしか思わなくて……」
「うん……」
確かにそれくらいのことだったら、勘違いで片づけてしまって当たり前だ。
ヘアクリップのことは、当の本人がこれだけ怯えているのだから、本当に記憶のないうちに壊されてしまっていたのだろう。
そしてなによりも、シゼンと名乗った少年……。進一郎は目の前で冬多が別人みたいになった瞬間を見てしまった。
もはや勘違いなどとは言えなかった。
二重人格や多重人格は、ホラーやミステリーの題材に使われることがけっこう多い。
だから漠然となら、どんなものかは分かる。
けれども所詮は素人だ。自分たちだけで対処するのは危険だろう。
なにより冬多がこんなに不安や怯えを感じてしまっている。もう迷っている場合ではなかった。
進一郎は体勢を変えると、冬多と正面から向き合った。
彼の小さな顔を両手で包み込み、大きな瞳を覗き込んだ。
「冬多、あのさ、ちゃんとした知識のないオレたちが不安がってても、らちが明かないと思うんだ。それでね、冬多、おまえの御両親とは、すぐに連絡が取れるのかな?」
しかし、進一郎がそう言った瞬間、冬多は激しい狼狽を見せた。
「冬多?」
「ダメ……」
「冬多? どうしたんだ?」
「……両親には知らせないで」
「でも……」
「お願い……、せっかく僕がいなくて平和に暮らしているんだから……」
冬多の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「冬多……?」
冬多に泣かれて、今度は進一郎が狼狽えてしまう。
「ごめんなさい……。……佐藤くんだから、言うけれど、僕、父親は実の父だけど、母とは血が繋がっていないんだ……」
「……え?」
進一郎は初めて聞かされる事実に驚きを隠せなかった。
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