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第53話 胸騒ぎ
「佐藤くん、どうかした?」
「あ、いや。……なあ、冬多、体洗ってやるよ」
「えっ? そ、そんな……、じ、自分で洗う……」
「冬多くん、冷たいー」
恋人同士の他愛ない会話を楽しみながら、二人は仔猫のようにじゃれ合ってシャワーを浴びた。
そうして、ベッドで寄り添い合って眠りについた……。
パタン、と寝室のドアが閉まる音で、進一郎は目を覚ました。
気づくと腕の中の温もりがなかった。傍で眠っているはずの冬多がいない。
「……冬多?」
さっきの音は彼が寝室を出て行ったときのものだったようだ。
トイレにでも行ったのかな……?
そんなふうに思いながらも、進一郎は嫌な胸騒ぎがしてならなかった。
ベッドの下に脱ぎ散らかしたジーンズを穿くと、進一郎は寝室を出た。
広いリビングはナイトライトが灯されていて、闇の中から家具たちをぼんやりと浮かび上がらせている。
「冬多?」
返事はない。
リビングを抜け、ダイニングキッチンへ入ると、バスルームやトイレに通じる廊下から明かりが漏れていた。
どうやら突き当りにあるバスルームのほうの明かりのようだ。
この部屋はバスルームとトイレは別になっている。
バスルームにしても、まずゆったりとした脱衣所兼洗面所があり、その奥に広いバスタブが置かれた、いわゆるお風呂場がある。贅沢な造りだ。
明かりが灯っているのは、手前の脱衣所のようだった。
「冬多?」
今一度、名前を呼びながら、ゆっくりと扉を開けると、そこにバスローブ姿の冬多が立っていた。
眼鏡はかけていないが、うつむいているため、前髪に隠されて、表情は分からない。
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