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第55話 騎士

「眠ってるよ」 「え?」 「オレの冬多は眠ってる。……ここで」  シゼンはそう言うと、自分の心臓の辺りに両手を重ねた。  その瞬間、シゼンの表情が優しく穏やかなものに変わる。  ……でも、それは進一郎の知っている冬多の表情ではない。  そう、それは大切な、大切な人を自分の中に守っている騎士の顔だった。  シゼンは本気で冬多のことを愛しているようだった。  けれど、そんな、そんなことがありえるのだろうか?  戸惑いを隠せない進一郎に、シゼンが再び険しい顔を向けた。 「オレは冬多と一緒に育ち、いつも冬多を守ってきたんだ。他の誰にもオレたちの邪魔はさせない」 「冬多……」 「オレはシゼンだって言ってるだろ。それに冬多のことを気安く呼ぶんじゃねーよ。あんたなんか冬多のこと、なにも知らないくせに……!」  切って捨てるように言ったかと思うと、彼は突然、着ているバスローブの右側を乱暴にはだけさせた。  あらわになる肩から胸元、脇腹へのライン。  その白い肌には、さっき愛し合ったときに進一郎がつけたキスの跡があちこちに残っている。  愛し合った印を、シゼンは不快そうに一瞥すると、おもむろに右手を上げて、進一郎へ見せつけるようにした。 「ここに火傷の跡があるだろう?」  彼はそう言うと、腕の付け根の裏側、柔らかな部分にある跡を、左手の人差し指で示した。  その火傷の跡は先ほど、進一郎も見たものだ。  冬多はあのとき、火傷のことは憶えていないと言っていたけれど……。  シゼンは進一郎の心の中を見透かしたように、口を開いた。 「あんたは知らないだろ、これがどうやってできた跡か」 「…………」 「これは冬多の父親がつけたんだ」

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