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第56話 攻撃

「なっ……!?」 「冬多のクソ親父が煙草の火を何度も何度も、冬多のここに押し付けやがったんだよ」 「――――」  衝撃的な事実を告げられ、進一郎は言葉を失った。 「オレと冬多は同じ痛みを共有してきた。あんたなんかに入り込む権利はないんだよ。それなのに……冬多に、オレの冬多に手を出しやがって……!」  キリ、とシゼンが歯を噛みしめる。  冬多の衝撃的な過去と、すさまじいまでの憎悪の波をぶつけられて、進一郎は血の気が引いた。  ついさっきまで、冬多は進一郎の腕の中にいて、とろけそうな愛らしい顔を見せてくれていたというのに。  打ちひしがれた進一郎に、刹那、隙ができた、そのとき、 「ぶっ殺してやる……!」  いつの間にか彼が右手に果物ナイフを持ち、襲い掛かって来た。  ――間一髪だった。  一瞬の差で、進一郎はシゼンのナイフをかわした。  シゼンは振り返ると、舌打ちをして、再びナイフを構えなおす。  進一郎が、なんとか彼の体を傷つけずにナイフを取り上げる運びを考えていると、不意にシゼンの瞳から激しい憎悪の色が消えた。  視線は焦点を失い、ゆっくりと瞼が閉じられていくのと同時に、手から果物ナイフが滑り落ちる。  彼の体がグラリと傾き、その場に崩れ落ちそうになった。 「冬多っ!!」  進一郎は慌てて腕を伸ばすと、冬多の体を抱きとめる。  どうやらシゼンの人格は引っ込んだみたいで、唇からスースーと穏やかで規則正しい寝息が聞こえていた。

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