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第57話 傷心
進一郎は冬多を抱き上げて寝室へ戻り、ベッドに彼を寝かせた。
そしてもう一度、脱衣所に行き、落ちている果物ナイフを拾い、キッチンの引き出しに戻しておく。
進一郎は激しく狼狽していた。
……さっきのシゼンの人格からは敵対心しか感じられなかった。
ナイフでオレを刺そうとした……本気で。
シゼンという別人格の行動とはいえ、容姿は冬多だ。事実になかなか感情がついていけない。
寝室に戻り、なにもなかったように眠る冬多の隣に体を滑り込ませて、彼の寝顔を見つめた。
長いまつ毛、形のいい鼻、愛らしい唇。穏やかで優しい、愛する人の寝顔。
進一郎は布団をかけ直してやりながら、ふと冬多の右腕の付け根に視線が行く。
今は陰になって見えないけれども、そこには火傷の跡がある。
シゼンが言った言葉を思い出す。
『これは冬多の父親がつけたんだ』
『冬多のクソ親父が煙草の火を何度も、何度も冬多のここに押しつけやがったんだよ』
それが本当なら、冬多は子供の頃、父親から虐待を受けていたということになる。
なにかで読んだことがあるが、二重人格や多重人格の人たちは、幼いころに虐待を受けたケースが多いという。
確か、繰り返し虐待を受け続けているうちに、「こんなひどい目に遭っているのは自分ではない。別の誰かなんだ」と、思い、そう思うことで自分の心を守り、結果、別人格を作り上げる……そういった経緯だったと思う。
もしかして、と進一郎は思った。
今まで全然関連付けていなかったことが、全部一つに繋がっているのだとしたら、と。
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