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第58話 不安と安堵と

 自分の顔が嫌いだと言う冬多。  人並み以上に優れた美貌を持ちながら、眼鏡と前髪で頑なに顔を隠して。  それに、高校生の一人暮らしにしては贅沢な、でも、生活感がしない寂しい部屋。  父親がつけたという火傷の跡。  シゼンという別人格。  冬多にはすごく辛く悲しい過去があるんじゃないか。そしてそれは、現在進行形で続いているのかもしれない。  進一郎は、腕の中で眠る恋人のあどけない寝顔を見ながら、どうしようない胸の痛みを覚えていた……。  次の日、進一郎が目を覚ましたとき、すでに冬多はベッドにいなかった。  サイドテーブルに置かれている目覚まし時計を見ると、朝というより、もう昼に近い時間だった。  それも仕方ないと言えた。  昨夜はいろいろ考えてしまい、なかなか寝付かれず、結局カーテンの隙間からのぞく空が明るくなり始めた頃にようやく眠りにつけたのだから。  冬多が眠っていたところのシーツを手でそっと触れているうちに、進一郎の心にざわざわとした不安が這い上がってきた。  もしも、また冬多が、シゼンの人格になっていたら……。  そんなふうに考えると、たえられないくらいの不安と恐怖が襲ってくる。  進一郎はベッドから降り、服を着ると、不安で騒ぐ胸を抑えながら寝室を出た。  広いリビングを横切っていると、ダイニングキッチンへ続く扉が開き、冬多がヒョコッと顔を出した。  進一郎と目が合うと、冬多は頬をピンクに染め、 「あ……、おはよう……、佐藤くん……」  はにかんだ微笑みとともに、小さく消え入りそうな声で挨拶をしてきた。

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