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第61話 心の病

 その次の週の土曜日の午後。  進一郎と冬多は、姉の玲奈の彼氏、忠志(ただし)の紹介で、心療内科の医師に会うことになった。 『越智(おち)こころの健康クリニック』の院長、越智(まこと)は玲奈の彼氏の母形の親戚で、過去のトラウマを探る退行催眠などにも通じているという。  クリニックは完全予約制で、土曜日の午後は初診の患者に限られている。  症状の説明やいろいろな心理テストを受けるため、時間がかかるという。  事前に忠志のほうから連絡が行っていたのだろう、待合室で緊張している二人の前に診察室から越智が出てきて、にっこりと笑った。 「はじめまして。忠志くんの彼女の弟さんと、そのお友だちだね?」  越智は四十代半ばだと聞いていたが、実際の年齢よりもかなり若く見える。  リムレスの眼鏡の奥の瞳はとてもやさしくて、安心感をあたえてくれる人物だった。 「それで、冬多くんは君だね?」  進一郎と冬多の特徴も事前に聞いていたのだろう、越智は迷うことなく冬多を見て、そう話しかけた。 「あ……はい……」  消え入りそうな小さな声で冬多が応える。  部屋で進一郎と二人のときは完全な素顔を見せているが、一歩外に出ると、まだ眼鏡と長い前髪は彼の必需品だった。 「それじゃまず冬多くんのほうだけ、診察室へ入ってくれるかな」  越智が冬多を診察室へ促す。 「はい……」  冬多が不安そうに進一郎を振り返る。  進一郎が安心させるように、微笑んでうなずいてみせると、ようやく少し口元をほころばせ、越智に続いて診察室へ入って行った。

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