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第63話 恋人の家族

 進一郎は、自分がシゼンと接したときのことをすべて越智に話した。  冬多には言っていない、果物ナイフで襲われかかったということも。  ただ、医師とはいえ、さすがに初対面の相手に冬多との関係までは言えなかったけれども。  進一郎の話を一通り聞き終えると、越智は額に人差し指を当てて、少しのあいだなにか考え込んでいたが、やがて進一郎のほうを見て、聞いてきた。 「そのシゼンと名乗る人格は、冬多くんの火傷の跡を、『父親が煙草の火を何度も何度も押し付けた』って言ったんだね? 君はその火傷の跡を見たことあるのかい?」 「はい。直径二センチほどの円形で、そこだけ皮膚が引きつれたみたいになっていて、相当ひどい火傷だったんだなって思ったんですけど。冬多は憶えてないみたいで。……あの先生?」 「なんだい?」 「実の父親が煙草の火を押し付けるなんて、そんなひどいこと、できるものなんでしょうか……」  進一郎の質問は、答が分かっていてしたものだった。……できることなら、そんなことはない、と言って欲しかったのだ。空しい願いだと知っていながらも。  そして越智の答は進一郎が予想していた通りのものだった。 「世の中、いろいろな親がいるからね。ちゃんとした親だったら、うちへも親がついてきているのが本当だろ? 実の父親は勿論、再婚したという母親も、冬多くんのことには興味がないみたいだね。ネグレクトっていう虐待だよ」 「冬多、オレには家族のことあまり話したがらなくて。辛いのは分かるんですけど。オレも彼の辛さをたとえ半分でも背負ってあげたいのに……」 「……冬多くんは、君に話して聞かせるほど家族との交流はなかったんじゃないかな」  越智の言葉に、進一郎は眉をひそめた。 「それは、どういう意味ですか?」

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