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第66話 涙のわけ

 恥ずかしがって、小さく抵抗する冬多を、進一郎は難なく押さえ込むと、バスルームで一度目の情交をした。  そのあとベッドでもう一度深く愛し合い、冬多は快感の大きさに、ほとんど気を失うようにして眠りについた。  進一郎は自分の腕の中で眠る冬多の柔らかな髪を、優しく撫でた。  ……冬多がずっと家族から孤立してきたというのなら、その分まで自分が彼を愛し、大切にしてあげたい。  恋人の華奢な体を腕の中に抱きしめて、自分もまた眠りに落ちていきながら、  どうか、シゼンの人格には変わらないで、冬多のままでいてくれ……。  進一郎は強くそう願っていた。  次に進一郎が目を覚ましたときには、もう朝だった。  冬多は腕の中でまだ眠っている。  昨夜はシゼンの人格は現れなかったみたいだ。  そのことに安堵を覚えながら、しばらくのあいだ、恋人のかわいい寝顔を鑑賞させてもらう。  あどけない、まさに天使のような寝顔。  進一郎が口元をほころばせて、冬多の寝顔に魅入られていると、彼の閉じられた目尻から、ツゥ……と涙が伝った。  ……え? 「冬多?」  涙は次から次へと彼の目尻を伝い、枕を濡らしていく。 「冬多? ……おい、冬多、どうしたんだ?」  進一郎が声をかけながら、彼の頬にそっと触れると、 「……さい」 「え?」 「……ごめんなさい……」  そんな言葉とともに冬多の瞼がゆっくりと開かれていった。

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