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第68話 自分の存在価値

 この日の朝ごはんのメインはオムレツに挑戦することにした。  卵をよくかき混ぜ、解凍したミックスベジタブルを入れて、またよくかき混ぜてから、小さなサイコロ型に切ったチーズを加える。  今、冬多は料理を作るのがとても楽しかった。  数カ月前は食事なんて、ろくに味わうこともせずに済ませていたというのに。  なにもかも進一郎のおかげだった。  彼が、「おいしい」って言ってくれ、たくさん食べてくれたとき、すごくうれしくて、胸が弾んだ。  今では自分でも驚くほどレパートリーも増えた。  料理だけではない。  進一郎とともに過ごす時間が増え、彼が楽しそうに笑ってくれているのを見る度、冬多は自分にも存在価値があるんだと思えるようになって来た。  不安でたまらないことでさえ……例えば、自分が二重人格かもしれないとか、まったくの別人格がこの体の中に存在しているとか……そんなことでさえ、進一郎が傍にいてくれれば、乗り越えられる気がするのだ。  僕はもう佐藤くんなしでは生きていけないよ……。  それが男としては情けないことであったとしても。同性愛という、世間ではマイノリティーな愛の形であったとしても。  冬多が作ったオムレツをとてもおいしそうに食べている進一郎を見つめながら、冬多はそんなふうに思っていた。

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