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第69話 退行催眠
朝食後、身支度を整え、冬多と進一郎は予約した時間に間に合うように、『越智こころのクリニック』に向かった。
今日は日曜日なので、本当なら休診なのだが、越智が特別に時間をとってくれたのだ。
電車で二つ行った駅前のビルの二階にクリニックはあった。
昨日に続いてまだ二回目だが、このクリニックは、いかにもお医者さん、といった感じがしないので、冬多はとても落ち着けた。
特に今日は受付カウンターに看護師や事務の人がいないので、余計にお医者さんに来ているという気持ちが希薄になる。
越智が診察室から出てきて、二人と挨拶を交わす。
昨日と同じく、まず冬多が一人で診察室へ入るように促された。
どうしても少し心細くなってしまう冬多の頭を、進一郎が優しく撫でてくれ、いつもの優しい微笑みで見送ってくれた。
「昨日も話したけど、今日は退行催眠を行ってみようと思う」
越智は冬多と向き合うとそう言った。
「はい……」
「君に暗示をかけて、君自身も気づいていない、心の傷や、トラウマといったものを探し出すんだ」
「僕自身も気づいていない、心の傷……」
「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫。これでも一応プロだからね」
越智が穏やかに笑う。
「あ、い、いえ。そ、そんなこと、ごめんなさい……」
「……それじゃ冬多くん、椅子にゆったりと持たれて、目を閉じて、楽にして……」
冬多は言われた通りに、椅子の背もたれに体を預け、前髪と眼鏡の下の目をゆっくりと閉じていった……。
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