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第70話 主治医から電話
進一郎のスマートホンへ、越智から電話が来たのは、午後九時少し過ぎだった。
今朝、越智のクリニックで、冬多が退行催眠を受けるため、診察室へ入っていき、出てきたのは二時間近く経ってからだった。
てっきり続いて進一郎が診察室へ呼ばれると思っていたのだが、結局呼ばれることはなく、越智は次の診察日の予約の確認をしただけだった。
クリニックの外に出てから、冬多に、「どんな感じだった?」と、はやる気持ちで問いかけたら、彼はなんだかきょとんとした顔で、
「うん……。なんかね、目を閉じて先生の質問に答えているうちに眠っちゃったみたいで、目を覚ましたときには二時間近くも経っているんだもん……。びっくりしちゃった……」
そう答えただけだった。
「ごめんね……、二時間近くも待ってるの疲れたでしょ? 佐藤くん」
「いや、そんなことは別にいいんだけど……」
進一郎はなんとなく釈然としない気持ちを抱えながらも、それ以上はなにも言えなかった。
それから遅めの昼食を外で済ませ、冬多のマンションへ戻り、二日連続で悪いと思いつつも、誘惑に勝てず、彼の手作りの夕食を食べ、二人で後片付けをしてから、進一郎は冬多のマンションをあとにした。
そして、自宅へ帰る途中で越智からの電話を受けたのだった。
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